経済戦略と国際情勢

救国済民。来るべきこの国の大量経済難民を、どう救うか

ロシアの中東におけるオフショア戦略

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【◆◆以下の記事は有料メルマガ5月14日号の一部です】


   【2】 ロシアの中東におけるオフショア戦略


中東におけるロシア、とくにロシアとイランの関係を考える時に重要なことを、戦略国際問題研究所(CSIS)のレポートが指摘しています。

The Great Powers in the New Middle East (3/06-2015 戦略国際問題研究所 PDF)
http://csis.org/publication/great-powers-new-middle-east

このレポートはジョン・マクラフリン氏が主筆し、7名の寄稿者から作成されています。ジョン・マクラフリン氏は元CIAの副長官(2000-2004)です。

マクラフリン氏は、「ロシア外交のなかで、イランとの関係ほど繊細で(精巧で)、難しく、複雑なものはない」と言います。そしてその例として、イランの核開発を取り上げて以下のように説明しています。

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1979年のイラン革命以降、ロシアはその国土の南部周辺―とくにアゼルバイジャン、タジキスタン、トルクメニスタンのようなイスラム系の中央アジア諸国―へのイランの影響を警戒してきた。

しかし、イランが核開発計画のなかでブーシェルでの原子炉建設のようないくつかの側面を実現するのを、ロシアは助けた。同時にロシアは、イランの核兵器の獲得を是認することをその一歩手前でやめておき(是認することまではせず)、イランへの制裁を支持する西側に加わった。

しかし、ロシアは米国が望むよりもより緩やかな(包括)制裁案を、常にいつでも(西側に)要求した。(PDF5ページ)

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このマクラフリン氏が挙げた例がよくロシアの中東政策を表していると思うのですが、ロシアの中東戦略というのは「オフショア・バランシング戦略」にとても近いものだと思うのです。

以下の抜粋は、海上自衛隊幹部学校の戦略研究室長の平山茂敏氏のオフショア・バランシング戦略についての解説記事ですが、文中の米国をロシアと置き換えてみると、イランを「バック・キャッチャー」にしたオフショア・バランシング戦略がロシアの行ってきた中東戦略と重なるのです。


オフショア・バランシング戦略において、米国が米州以外の他の地域で覇権的優位を追求することは、他の国々が連携して米国に対抗することを惹起するため否定される。

そして、米国の戦略的利益はユーラシアにおける覇権国の台頭をヘッジすることにあり、米国は大陸における闘争に直接関与することは極力回避し、これを同じ地域の他の大国によって抑止させるべきと主張する。

このため、優越(Primacy)戦略と異なり、オフショア・バランシング戦略は、米国が内部(EU、ドイツ、日本)や外部(中国、ロシア)に新たな大国が台頭することを許容する。許容しないのは、世界や地域でこれらの大国が覇権国家に成長することである。

2つのオフショア戦略 (2013/12/19 海上自衛隊幹部学校)
http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/col-049.html




■■ 中東とロシア:第2節関連記事

「イランと米国との共同統治」―米国の新しい中東包括戦略― (3/12-2015 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39335801.html

プーチンの地中海・中東戦略―中東から欧州へのシーレーン阻止を狙う―(2/12-2015 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39288711.html

プーチンは中東で戦争を仕掛けることができるか―盟友中国の存在― (5/14-2015 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39451557.html

ロシアとイスラエルの関係―ユダヤ系ロシア人・「S300」― (4/23-2015 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39428684.html


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プーチンは中東で戦争を仕掛けることができるか―盟友中国の存在―

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【◆◆以下の記事は有料メルマガ5月14日号の一部です】


   【1】 プーチンは中東で戦争を仕掛けることができるか

        ―盟友中国の存在―      


原油価格の大幅な下落状態が続き、低迷を続けるロシア経済を眺める時に、もし中東で大きな戦争があればロシアは経済を復活できる、プーチンは中東での戦争を待つだけでなく、その仕掛けをつくることを考えているはずだ―国際情勢に関心を持つ比較的多くの人がこのように考えているかもしれません。

しかしこの考え方―つまりプーチンは中東での戦争を仕掛ける―、それは果たして可能でしょうか。

オスロ国際平和研究所の教授でブルッキングス研究所の非常駐シニア・フェローのパベル・バエフ氏は、この問題について回答しています。バエフ氏はロシアの軍事や安全保障政策、ロシアのエネルギー問題の専門家です。

Russia needs a Middle East crisis: Will delivering S-300s to Iran help? (4/22-2015 ブルッキングス研究所)
http://www.brookings.edu/blogs/order-from-chaos/posts/2015/04/22-russia-s300s-to-iran-baev?rssid=Order+from+Chaos

この記事の題名は「ロシアは中東危機を必要とする」です。
その副題は「イランへのS300の譲渡(荷渡し)は役に立つか」とあるように、記事の後半はロシアによる「S300のイランへの売却の背後には何があるのか」と問いを立てています。

「イランが欧米との核協議で画期的な枠組み合意に至ったことを受け」、プーチン大統領は4月13日、イランに対する高性能地対空ミサイルシステム「S300」の禁輸措置を解除したのです(※ 有料メルマガ4月23日号で解説しました)。

ロシア、イランへのS300ミサイル禁輸を解除 (4/14-2015 AFP通信)
http://www.afpbb.com/articles/-/3045299

バエフ氏によれば、ロシアは、中東から生じる自国にとっての非常に重大かつ緊急の問題―安い石油価格―に対処するために、ロシアの中東での中心的な役割を望んでいると言います。

6月末に向けてイランに対する核交渉で制裁が解除されれば、イランの原油と天然ガスは徐々に市場へ流れ、「原油価格を現在の最悪の悪夢の停滞状態よりもさらに押し下げる恐れがある」とバエフ氏は言い、次のように論を進めます。

「ロシアがこの落とし穴から脱出するただ一つのチャンスは、ペルシャ湾からの石油の流れを縮小させることのできる破壊的な(混乱させる)危機である」

ところが、バエフ氏は「S300の禁輸解除の決定は、プーチンに多くの満足を与えそうもない」と言って、ロシアの同盟国に近い中国の存在を挙げます。

S300のイランへの譲渡に理解を示した中国も、さらにもう一段階、中東で軍事的緊張を高めるような行動をロシアがおこした場合は、中国の怒りを買う危険(risk)があることをプーチンは理解していると述べています。

そして「どのようなオイルショックも防ぐと固く決意している大国(中国)がいるという事をプーチンは非常によく知っており、ロシアは中国の国益を害するわけにはいかない」と分析しています。

(※注: S300の禁輸解除はイランがその支払いをめぐる訴訟でロシアを脅し、核交渉の最終合意を待たずに解除させたという見方があります。S300の禁輸解除と引き換えに、イランはその訴訟を取り下げたそうです;下記記事より)

Moscow Is Ready to Supply Iran With Powerful S-300 Missiles (4/16-2015 ジェームズタウン財団)
http://www.jamestown.org/regions/russia/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=43800&tx_ttnews%5BbackPid%5D=653&cHash=702970272bb7a60ed9f065afda0d8ddf#.VTB0PyG8PRY

また「ロシアは、中東で大きな危機と混乱を引き起こす、ぶち壊し役を演ずることが必要であり、それにより利益があると考えているが、それができない」。つまり、プーチンが中東で石油ショックを仕掛けられないのは中国を重視しているからだと言っているのです。

混乱し不安定な中東情勢は刻々と変化していきます。

ロシアの軍事や安全保障問題を専門とするバエフ氏によれば、ロシアには中東において大きな失敗を犯すリスクがあると言います。その理由の一つは、ロシアの野心の遂行に使用可能である資力(resources)は、その野心と比べはるかに劣っていること。そしてもう一つは、プーチンを取り巻く部下の「狭い集団」(人材の幅が狭い)には、中東情勢に対処する専門的能力がないことをその理由として挙げています。

Moscow risks committing a major blunder, both because its ambitions are far higher than the resources available for their execution, and because the expertise on Middle East in the narrow circle of Putin’s courtiers is non-existent.

ロシアの中東地域での戦略性については、様々なロシアや中東を専門とする専門家たちが分析や論評をしていますが、ここではパベル・バエフ氏の記事を取り上げてみました。




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サウジはパキスタンに核の梯子をはずされるか

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【◆◆以下の記事は有料メルマガ5月14日号の一部です】


   【3】 サウジはパキスタンに核の梯子をはずされるか


サウジアラビアへのパキスタンの核兵器での協力は、2014年11月のメルマガや今年3月12日号のメルマガでもお伝えしてきました。この両国の核兵器での協力は一般によく知られているのですが、4月21日にサウジがイエメンのシーア派武装組織フーシ派に対する空爆終了を宣言し、その直後もそれを続行させたという頃から、事態はどうもサウジにとって非常に不利な方向へと進み始めているようです。

1月下旬にアブドラ前国王が亡くなり、パキスタンからはナワズ・シャリフ首相や軍の首脳がリヤドを訪れ熱心な会談が行われていたようです。
前国王が亡くなった11日後の2月3日にはパキスタン軍統合参謀本部のラシッド・マフムード議長がサルマン国王と会談、3月4日にはナワズ・シャリフ首相が3日間の日程でリヤドを訪れ、サルマン国王と会談。

Nuclear Nuances of Saudi-Pakistan Meeting (2/03-2015 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/nuclear-nuances-of-saudi-pakistan-meeting

ブルッキング研究所の中東専門家であり、元CIAのアナリストであったブルース・リーデル氏は、この期間にサルマン国王がシャリフ首相から核兵器による協力の確約をとるための強い説得があったと推測していました。

As Bibi addresses Congress, the Saudis play a more subtle game on Iran (3/02-2015 アル・モニター)
http://www.brookings.edu/blogs/markaz/posts/2015/03/02-riedel-bibi-addresses-congress-saudi-king-salman-summoned-pakistan-nawaz-sharif-on-iran

サウジはイエメンでのパキスタンの援軍に非常に期待していたのですが、パキスタンは国内でのテロ組織との戦闘で手一杯で、サウジの申し出を断ってきました。これは3月の話です。

Pakistan declines to join Saudi Arabia's anti-Iran alliance (3/15-2015 アル-モニター)
http://www.al-monitor.com/pulse/originals/2015/03/saudi-pakistan-yemen-taliban-iran-sunni-salman.html

4月23日にナワズ・シャリフ首相とラヒール・シャリフ陸軍参謀長がサウジへ再度訪れ、パキスタンがイエメンでの戦争に参加できない理由を説明しに来ました。この時のサウジによるパキスタンの部隊への要請は激しいものであったそうです。

この4月23日のパキスタンの首脳のリヤド訪問は、サウジがフーシ派に対する空爆終了を宣言し、そのあとそれを続行させた翌日のことです。



      ◆     ◆


実は、パキスタンにはサウジに部隊を派遣できない大きな理由がありました。パキスタンの大部隊をサウジのためではなく、中国のために使う必要があったのです。



中国、パキスタンのインフラ開発に5.5兆円 「経済回廊」整備へ (4/21-2015 AFP通信)
http://www.afpbb.com/articles/-/3045953

中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は20日、パキスタンを公式訪問し、ナワズ・シャリフ(Nawaz Sharif)首相と会談。中国が推進する「一帯一路(陸と海のシルクロード経済圏)」構想の実現に向けて、総額460億ドル(約5兆5000億円)をパキスタンに投資する計画を発表した。

 両国は、中国の新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)のカシュガル(Kashgar)とパキスタンのアラビア海(Arabian Sea)沿岸にあるグワダル(Gwadar)港を結ぶ「中国・パキスタン経済回廊(China-Pakistan Economic Corridor、CPEC)」で道路や鉄道、パイプラインなどのインフラ整備を進め、中東からの原油輸送ルートを大幅に短縮することを目指している。CPECを通じてパキスタンを地域経済のハブ(中心拠点)とし、新疆ウイグル自治区の発展につなげたい考えだ。(以下省略)



シャリフ首相らは、このパキスタンの巨大なインフラ整備に対し、イスラム過激派集団から中国人労働者を守るために、新しい特別師団をつくることを習近平国家主席に約束したのです。それゆえサウジに派遣する部隊の余裕はないわけです(※ 前出“The Pakistani Pivot from Saudi Arabia to China” ブルース・リーデル, 4/23 の記事より)。

特別警備師団は総数1万人からなる部隊で、その半数は精鋭のコマンド部隊から配置されるだろうとリーデル氏は言っています。

そして4月23日のリーデル氏のブルッキングス研究所の記事では、次のように結んでいます。

『シャリフ首相が方向転換をしたのは明らかだ。
そして、米国のように、パキスタンは中東から離れて東アジアへ移動したい』

また、パキスタンにはイランから自国へ天然ガスを送るパイプラインの建設計画があります。

中国、イラン・パキスタン間のガスパイプライン建設へ (4/09-2015 ウォールストリート・ジャーナル日本語版)
http://jp.wsj.com/articles/SB11340384235203263823104580569641940772972

こうなってくると、パキスタンはイランを想定した核兵器をサウジに供与することは難しくなります。おそらく中国の戦略家たちがパキスタンにストップをかけるでしょう。
なぜなら第2節のロシアの中東戦略で述べましたが、中東地域での中国、米国、ロシアのオフショア・バランシング戦略では、イランを「バック・キャッチャー」にしていると考えるからです。

パキスタンがサウジに対して核兵器の供与を方向転換すれば、中東ではスンニ派がシーア派に屈することになり、イランが断然優位になることになりますが、ひとつ思うのは、ロシアのプーチンがサウジに対してどのような動きをするかということです。


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ロシアとイスラエルの関係―ユダヤ系ロシア人・「S300」―

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イスラエルのリーベルマン外相(左)とロシアのラブロフ外相が会談を終え、合同記者会見を行うところ(2015年1月26日 モスクワで)
(“Israel offers to mediate talks between Ukraine, Russia” ALMONITOR, February 1, 2015)


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    【2】 ロシアとイスラエルの関係

       ―「S-300」・ユダヤ系ロシア人―


4月13日、プーチン大統領はイランへの高性能地対空ミサイル・システム「S-300」の禁輸措置を解除しました。

ジェームズタウン財団のパベル・フェルゲンハウアー氏(ロシアの軍事・外交が専門)によると、この禁輸措置の解除に署名する前の週に、プーチンはイスラエルのネタニヤフ首相に電話をかけ、「S-300」をイランへ供給する理由を長時間にわたり詳しく説明したそうです。これはクレムリンの発表をインターファックス(通信社)が伝えました。

Moscow Is Ready to Supply Iran With Powerful S-300 Missiles (4/16-2015 ジェームズタウン財団)
http://www.jamestown.org/regions/russia/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=43800&tx_ttnews%5BbackPid%5D=653&cHash=702970272bb7a60ed9f065afda0d8ddf#.VTB0PyG8PRY

イランはイスラエルの宿敵です。ネタニヤフ首相にプーチンが実際にどう説明したかわかりませんが、「S-300」は防御用だけでなく攻撃兵器としても使え、核弾頭ミサイルも発射可能です(「S-300」の性能などについて上記記事に解説があります)。

「目には目を、歯には歯を」というわけでしょうか、イスラエルはウクライナへ殺傷兵器を与える計画を発表しました。

Vladimir Putin Raises Concerns Over Israel's Plans To Give Weapons To Ukraine (4/18-2015 International Business Times)
http://www.ibtimes.com/vladimir-putin-raises-concerns-over-israels-plans-give-weapons-ukraine-1887635

前出記事のフェルゲンハウアー氏は、ここで「ロシアの大統領はイスラエルを重要であると考えているようだ」と言い、ウクライナ問題でイスラエルがロシアにどのような制裁も課さなかったこと、また武器の供与をウクライナに行わなかったことを挙げています。

この点については、ロシアの戦略問題研究所(Institute for Strategic Studies)のマキシム A. スチコフ氏が興味深い指摘をしています。

Israel offers to mediate talks between Ukraine, Russia (2/01-2015 アル・モニター)
http://www.al-monitor.com/pulse/originals/2015/02/russia-reaction-israel-mediation-ukraine-proposal.html

今年1月26日、イスラエルのリーベルマン外相はモスクワを訪問し、ラブロフ外相と会談していますが、その時にリーベルマン外相は、必要があればイスラエルはロシアとウクライナの調停をする準備ができていると申し入れています(上記記事より)。

スチコフ氏によれば、ロシアとウクライナの両国では、ユダヤ人の移民の比率がほかの国々よりも多く、政財界では多くのユダヤ系が上層部の職にあり、政財界での大きな影響力を持ってきたということです。

近年、ロシアが中東で協力関係の「網」をイスラエルや、「以前は敵意を抱いたサウジのような国々へも」広げようとしてきていることは、戦略国際問題研究所(CSIS)のレポートでも指摘されています。

The Great Powers in the New Middle East (3/06-2015 戦略国際問題研究所 PDF)
http://csis.org/publication/great-powers-new-middle-east


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イエメン情勢 イラン5つの戦術

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   【1】 イエメン情勢はどうなるのか
       ―イランの5つの戦術―

サウジアラビアは終了すると言ったイエメンでの空爆を、翌日また続行しています。
サウジ軍主導の連合軍は4月22日、隣国イエメンのシーア派武装組織フーシ派に対する空爆を<続行>しました(4月23日 ロイター)。

サウジの報道官は4月21日、記者会見し、フーシ派とサレハ前大統領支持派への空爆作戦を終了すると発表していました。

イエメン:空爆「終了」…連合軍、軍事行動継続も (4/22-2015 毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/news/20150422k0000e030169000c.html

この空爆の終了は<一応の終了>で、フーシ派の軍事行動のいかんによっては、「必要に応じて軍事行動を再開する」とサウジの報道官は言っていました。

3月26日にサウジが連合を組んでフーシ派を空爆したのを受けて、マスコミなどが、サウジとイランの代理戦争かなどと伝えました。サウジ主導の連合軍は空爆を一応終了しましたが、「地上戦準備の構えも崩していない」(前出記事)ようです。

22日のAFP通信によれば、「連合軍はこれまでに2000回以上空爆を実施し、イエメンの制空権を確保するとともの、フーシ派のインフラを壊滅させた」と発表したそうです。

しかし、サウジが支援するハディ暫定大統領はリヤドに逃れたままで、イエメン国内は依然としてシーア派のフーシが優勢です。このような状態でサウジは自らの空爆作戦を(苦し紛れに)自画自賛して、いったんは終了すると言ったのです。

ところがこの約4週間の間、イラン軍がなかなか一向に表立って出てきませんでした。また、いまも表立って出てきません。イランによる武器の供給などの情報はありますが、ウクライナでの親ロ派武装勢力に対するロシアの非常に強い支援のようなものは、イランの行動として特段報道されませんでした。

イランにとってのイエメンは、とくに優先順位の高いものではないのでしょうか。それとも、イランはイエメンに対する戦略を持っており、すでにその戦略を実行している過程にあるのでしょうか。

米共和党系シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ研究所に、J・マシュー・マキニスというイランの軍事問題の専門家がいます。
マキニス氏は中東の軍事問題の専門家で(イラン、イラクなど)、とくにイランの軍事問題を専門にしています。米国防総省の上席分析官(1998–2013)として、米中央軍の上席イラン分析官(2010–13)を務めた経歴をもつ人です。

マキニス氏はイエメンにおけるイランの戦略として<5つの重要な項目>を挙げています。

What does Iran really want in Yemen? (4/13-2015 アメリカン・エンタープライズ研究所)
http://www.aei.org/publication/what-does-iran-really-want-in-yemen/

その5つの重要な戦略とは次のようです。

スンニ派の連合を解体(分解)させる。
直接的な軍事的激化を避ける。
サウジの失敗を誘う(促進する)。
イランをより信頼できる大国のように演じる(表現する)。
交渉での解決を要求する。

スンニ派の連合を解体(分解)させる。

サウジを除くスンニ派連合11カ国の内、最もサウジが当てにし期待していたパキスタン、そしてトルコの2つの強軍は言葉だけの支援に終わりました。サウジは地上戦の準備もしているようですが、イランのザリフ外相は4月8日、パキスタンのアジズ首相顧問(国家安全保障・外交担当)と会談し、政治解決への賛同を求めています(4月9日 毎日)。また、イランのロウハニ大統領は4月7日、トルコのエルドアン大統領とテヘランで会談し、IS打倒で双方意見の一致をし、「中東安定のため、協力関係を深めることを確認しています(4月8日 朝日)。

とくに、パキスタンはイランから自国へ天然ガスを送るパイプラインの建設計画があります。

中国、イラン・パキスタン間のガスパイプライン建設へ (4/09-2015 ウォールストリート・ジャーナル日本語版)
http://jp.wsj.com/articles/SB11340384235203263823104580569641940772972

いわば、イランによる、パキスタンとトルコの二強への外交によって、スンニ派連合は完全に切り崩された格好になっています。

直接的な軍事的激化を避ける。
 
マキニス氏によれば、イランにはサウジと武力戦争を始める意思(欲望)はないと言います。そして、「戦争の激化は(今は後方支援をしている)米国の直接の関与をもたらし、この地域をイランに対して対立させる」だろうと言います。

サウジの失敗を誘う(促進する)。

4月21日の記者会見で報道官は、「適切な計画と正確な攻撃で目標は達成された」と述べましたが、アメリカン・エンタープライズ研究所の毎月のイラン情勢のレポート(“IranTracker”)に掲載されたマキニス氏のこの記事では、「軍事標的を支援し、民間人の犠牲者を防ぐ正確なインテリジェンスがサウジにはない」としています。
冒頭の毎日新聞(4/22)では、「空爆による被害拡大や人道支援の遅延を巡っては、国際社会からサウジへの風当たりも強まっていた」と、空爆による被害拡大に対する国際的な非難も伝えています。

マキニス氏は、「イエメンでのイランの関与の全範囲はまだ不明である」としながらも、「サウジ主導の地上作戦がなければ、イランは隠れた活動を目立たなく続け、サウジが墓穴を掘るのを望むだろう」と述べています。

イランをより信頼できる大国のように演じる(表現する)。
この説明は省略します。

交渉での解決を要求する。
5番目の戦略的観点については以下に翻訳します。


イラクとシリアですでに忙しいイランは、イエメンの崩壊はイランの優先順位からすると優位ではない。それによるサウジへのダメージがどうであろうとも。
1月の反乱軍のクーデターを受けたフーシ派への直接の賞賛がイラン政府からなかったことは注目に値する。

交渉での解決はイランの望ましい選択肢のままである。
この地域での(イエメンとは)ほかのシリアやリビアで機先を制する行動をとることの方が(訳注:ISなど)、イエメンでのフーシ派の支配よりも、イランにとってより重要かもしれない。



この点に関して言うと、中東の軍事と政治が専門のブルッキングス研究所のケニス・ポラック氏が、「イエメンの内戦が何よりもまず何であるのかを説明する時に、イエメンでのイランの役割は非常に誇張されてきた」と3月の記事で指摘しています。

Moreover, the Iranian role has been greatly exaggerated in what is first and foremost a Yemeni civil war.

The dangers of the Arab intervention in Yemen (3/26-2015 ブルッキングス研究所)
http://www.brookings.edu/blogs/markaz/posts/2015/03/26-pollack-saudi-air-strikes-yemen

前出の4月13日のマキニス氏の記事の9日後、サウジの空爆終了宣言を受けてイランのザリフ外相はこれを歓迎、「問題解決には、人道支援と政治対話が緊急に必要だとの見解を示し」、サウジの今後は政治解決を重視する姿勢を評価しました。

対イエメン軍事作戦終了を歓迎、政治解決が必要=イラン外相 (4/22-2015 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jp_mideast/idJPKBN0ND12420150422



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イラン核合意後、サウジはイランにどう対抗するか

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           【イランの勢力範囲】


【◆◆この記事の第4節「サウジはイランにどう対抗するか」について】

以下に有料メルマガ4月9日号の『イラン核合意後、サウジはイランにどう対抗するか』を公開しました。

この記事の第4節「サウジはイランにどう対抗するか」の中での1つ目の予測に、「サウジは自らの核プログラムを開始し、イランが核合意で許容されるのとすべて同じだけのレベルへ核技術を構築する」というケニス・ポラック氏の予測があります。ところが、この予測がかなり揺らいできているようです。

これは4月後半に入ってから、サウジ-パキスタン関係がおかしくなってきたことがわかったためです。このサウジ-パキスタン関係の変化については、有料メルマガ5月14日号の中の『サウジはパキスタンに核の梯子をはずされるか』にまとめてあります。この記事のブログでの公開はもうしばらく後になります。


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    イラン核合意後、サウジはイランにどう対抗するか

【目次】
【1】 核合意後のサウジとイラン
【2】 ハメネイ師が核開発より優先させたもの
【3】 核合意後のイランの行動は
【4】 サウジはイランにどう対抗するか
【結語】 中東での米国の限界


【※ 第2節から第4節まではケニス・ポラック氏の論文の解説になります】


    【1】 核合意後のサウジとイラン


欧米など6カ国とイランは4月2日に、イラン核問題の包括解決に向けた枠組みに合意しました。最終合意は6月末を目指します。オバマ大統領は今回、イランの核兵器保有を阻止する「歴史的な」合意だと強調しています。

イスラエルはこの枠組み合意を非難し、サウジのサルマン国王は「地域と世界の安全保障を強化するような(6月末の)最終合意を望む」と声明を出しました(4月3日 ロイター)。

枠組み合意の問題点や最終合意までの更なる困難さが、マスコミによって報道されていますが、この枠組みの最終合意は、中東、とくにスンニ派諸国に大きく影響を与える可能性があります。その中でもサウジアラビアが、この核合意にどのように対抗してくるのかを、本稿では見てみたいと思います。

ブルッキングス研究所の上席研究員であるケニス・ポラック氏は、この枠組み合意の1か月前に、合意後として予想されるイランとサウジの行動を予測しています。


ポラック氏は中東の政治と軍事の情勢の専門家で、とくにイラク、イラン、サウジとそのほかの湾岸諸国を重点的に研究しており、現在、ブルッキングス研究所の中東政策センターの上席研究員です。

米国の保守派などは、6月末の最終合意の履行確認後、経済制裁が解除された後のことを警戒しています。それは経済制裁が解除され、その資金力が回復すれば、イランは、中東地域でのテロ組織やスンニ派諸国での反政府活動を支援し、湾岸地域の政府を転覆させるといった行動を活発化させるという懸念です。また、サウジなどのライバル国を直接的に脅かすようになるということを言う保守派の意見もあるようです。

ポラック氏は、そのように核合意のあとのイランの攻撃性を危惧する右派の見方に対して、むしろサウジの出方の方が、中東地域の混乱と不安定化に及ぼす影響が強いと見ています。このことは今回の記事の後半の方で述べます。


    【2】 ハメネイ師が核開発より優先させたもの


今回の枠組み合意では、イランの最高指導者ハメネイ師がそれへの沈黙を守っていることが報道されています。
4月6日付のフィナンシャル・タイムズ紙は、ハメネイ師について、「自身の核開発計画の大半を放棄し、核協議で大幅に譲歩した」、「核抑止力の達成を最優先事項としていたイスラム政権の大幅な譲歩を隠すことはできない」、「6月の最終合意で、ハメネイ師はこれまでで最大の試練を迎える」と伝えています。

イラン核合意で最高指導者ハメネイ師に厳しい試練 (4/06-2015 フィナンシャル・タイムズ邦訳版)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43443

このハメネイ師の思惑については専門家たちも注目しています。
ポラック氏が推測するハメネイ師、そしてイラン強硬派などの上層部の戦略上の考えは、フィナンシャル・タイムズの記者が報道した内容とは、全く違った次元に立ったものでした。

ポラック氏によれば、ハメネイ師と強硬派が(ロウハニ大統領とザリフ外相も)核開発計画よりも最重視し、最優先させたのは、中東地域におけるイランの現状でのプレゼンスの維持であると言います。(ポラック氏は「プレゼンス」という言葉は使っていませんが、stake、positionを使って説明しています)
※ プレゼンス:軍事的、経済的に影響力をもつ存在であること

イランは中東地域のなかで、現在、イラク、シリア、レバノン、イエメンを影響力の下に置いていますが、このまま欧米と国連による経済制裁と原油の大幅下落で、経済の悪化と衰退が進めば、当然、イラク、シリア、レバノン、イエメンなどへのプレゼンスは低下し、それらの国々への「ポジション」は悪くなっていきます。

ハメネイ師とロウハニ政権はこれを恐れ、核開発計画よりも最優先させたというわけです。先ほど挙げたフィナンシャル・タイムズ紙の記者は、「イランは核開発を<最優先事項>としていたが大幅に譲歩した」と描写しましたが、長引く経済制裁の下でハメネイ師は、中東地域での覇権の獲得プロセスの方を<最優先させた>のです。そもそも核兵器はそのための手段でした。

Moreover, while I can’t prove it, I think there is strong circumstantial evidence that Khamene’i and the Iranian establishment believes it has far more at stake in Iraq and possibly Lebanon than it does in a nuclear deal. … Because of Syria’s relationship to both Iraq and Lebanon, it too might be more important to Tehran than a nuclear deal if the Iranian leadership were ever forced to choose between the two.

ポラック氏は、この数年ハメネイ師のいろいろな発言をもとに、「ハメネイ師の見方・態度は、核開発を完全に取引の道具としてみなしていると思われる」と指摘しています。これはハメネイ師やイラン強硬派が、何が何でも核開発を最優先目標として固執していると見る見方とは異なるものです。


    【3】 核合意後のイランの行動は


イラン核協議の枠組み合意の10日前にロイターの外人記者が書いたもので、次のような記事があります。

焦点:中東で「帝国」拡大を目論むイラン、核交渉を憂慮する周辺国 (3/23-2015 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0MK0DS20150324?sp=true

この記事の中では、「アラブ諸国の専門家や指導者が、イランが、イラク、レバノン、シリア、イエメンに至る中東地域で支配力を強めようとしていると懸念している」と伝え、邦題では「中東で「帝国」拡大を目論むイラン」とあります。

しかし、ポラック氏によれば、イランはこれらイラク、レバノン、シリア、イエメンへのイランの影響力の大きさの現状にかなり満足しており、その影響力が非常に自国のイランに有利なものであると見ています。イラク、レバノン、イエメンではシーア派の勢力が優勢です。それゆえ、核合意のあとに、格段、中東地域のどこかで攻撃的な行動をおこすとはないだろうと言います。

ポラック氏は、2、3の例外としてハメネイ師とイラン強硬派が現状打破のための攻撃的な行動をとることがあるかもしれないということは言っています。それは、イスラエル、バーレーン、イエメンに対するものです。
イエメンについては、3月2日にポラック氏の記事が掲載されて以後、フーシ派が政権転覆の混乱を起こしたので、事態の推移を注視していく必要があります。


    【4】 サウジはイランにどう対抗するか

このようなイランに対して、核合意後(最終合意後)のサウジは何らかの形で強い対抗手段をとってくると思われます。ポラック氏によれば、このようなイランよりも、むしろイラン核合意後の、これに対抗するサウジの行動の方が、中東地域の不安定化と混乱を高めると言います。

ポラック氏が、イラン核合意後に起きるであろうと予測するサウジの行動は2つあります。
一つは、サウジは(当然)自らの核プログラムを開始し、イランが核合意で許容されるのとすべて同じだけのレベルへ核技術を構築することを発表するという予測です。

つまり、『もし、イランが6500基の第一世代の遠心分離機の設置と純度3.5%の濃縮ウラン150キロの備蓄量を許されるのならば、サウジもそれとぴったりと合わせて全く同じことをすると決定する』のではないかという予想です。

この場合、西側諸国がイランに合意の履行を守らせることができないと、中東地域での更なる核兵器の拡散という事態を招くだろうポラック氏は警告します。

もう一つの、イラン核合意後にとられるとされるサウジの対抗的行動は、イランと同調する国と組織やイランの代理をなすものと戦っている、様々なスンニ派組織への支援を増大させるかもしれないという事態です。

イランの核協議の合意後は、米国がそのような事態へ介入する可能性が少なくなってくると思われるので、そうなると核合意が及ぼす最も大きい危険な状態になってくると言います。

『スンニ派の湾岸諸国は彼ら単独ではイランとの戦争で劣るため、もし、湾岸諸国がイランに対して挑発的な行動に出た場合(たとえそれがイランの攻撃を阻止しようとするものであったとしても)、容易にイランからの攻撃を引き起こしてしまう。』

The Gulf states are not strong enough to take on Iran alone, and if they act provocatively toward Iran, even if intended to deter Iranian aggression, they could easily provoke just such aggression.

最後にポラック氏は、そのような事態で、米国がスンニ派湾岸諸国を安心させてイランの行動を阻止しないようであれば、事態は非常に厄介で物騒なものになってくると警告しています。


    【結語】 中東での米国の限界


イエメン情勢を見てもサウジなど湾岸産油諸国に対しても、今年に入ってから、従来の中東への米国の関与が同盟国に対してだいぶ弱いものになってきているのがわかります。

以前、米国務省の政策立案スタッフのメンバーで、北アフリカとレバント(地中海東沿岸の地域)の政策を国務長官へ助言していたジェレミー・シャピロ氏(現在ブルッキングス研究所)は、次のように言っています。

『今日、シリア、イラク、リビア、イエメン、レバノン、そしてたぶん余り遠い未来ではないチュニジア、もしくは不安定さの中へと渦を巻いているサウジアラビア・・・。もしかすると、中東での米国の「重大な利益」という概念は、それらの国々を守る能力の限界を越えたところまで来てしまっているのではないかどうか。このことを考慮する時に、いま来ているかもしれない。』



■■ 関連リンク

「イランと米国との共同統治」―米国の新しい中東包括戦略― (2015/03/12 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39335801.html

サウジは国内秩序動乱の入り口にいる―シェール革命の影響と米国の中東政策― (2014/12/25 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39207813.html

バグダディの呼びかけとサウジアラビア (2015/03/26 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39359046.html



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ブレジンスキー:ロシアの「最大の目的」と経済危機

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本記事と関連してくるかもしれませんが、ロシアによる、世界中でウランを買い占めようという組織的な動きが最近明らかになったそうです(4月30日 ロイター)。

コラム:原発外交でロシアが広げる「核の傘」
http://jp.reuters.com/article/jpRussia/idJPKBN0NM34R20150501?sp=true


【◆◆以下の記事は有料メルマガ3月26日号の一部です】


【目次】
【1】 ロシア各地の『突然の軍事演習』
【2】 ブレジンスキー:ロシアの「最大の目的」と経済危機

   (以下目次省略)


  【1】 ロシア各地の『突然の軍事演習』

ロシアでは、3月16日から21日の日程でロシアの広範囲に及ぶ各地で「突然の軍事演習」を行うことが発表され、そのさなかの18日にはクリミア半島に核兵器の搭載が可能な戦略爆撃機TU22M3(ツポレフ)10機が配備されると報じられました。核搭載の有無や配備の時期は不明です。

この「突然の軍事演習」は、北方艦隊を中心としたものでしたが、ロシアの国土のほとんどをカバーするもので、バルト地域、黒海とクリミア半島、極東地方、中央ロシアに及びました。

Putin Mobilizes Forces Preparing to Fight With NATO and US (3/19-2015 ジェームズタウン財団)
http://www.jamestown.org/regions/russia/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=43670&tx_ttnews%5BbackPid%5D=48&cHash=334a8f347daae94f44a249570251b860#.VQuRL46sUxM

この広範囲に及ぶ「突然の軍事演習」は、海外の多くの軍事系サイトが驚きをもって伝えています。これは対ロシア制裁を協議する、19日のブリュッセルでのEU首脳会議を強く牽制したもので、その前日に、核兵器が搭載可能なツポレフをクリミアに配備とロシア通信に報道させ、広範囲に及ぶ「突然の軍事演習」をEU首脳会議の直前に行うというやり方は、何とも露骨で派手なものだと思います。

前出のジェームズタウン財団の記事によれば、ロシアのメディアはロシア国防省筋の話として、次のように伝えたと言います。

『これらの『突然の軍事演習』は、ロシアは戦争の準備ができており、バルト地域、ルーマニア、ポーランド、ブルガリアへの米国やほかのNATOの戦力の配備に、ロシアが武力で対抗できるというメッセージをNATOに送ることを目的にしている』

ロシアの各メディアは西側を牽制するために、頻繁にこのような情報戦をおこないますが、一体、プーチンはますますロシア経済が危機へと悪化するなかで、何を最大の戦略目標として考え、行動しているのでしょうか。


 【2】 ブレジンスキー:ロシアの「最大の目的」と経済危機


国家安全保障会議のパトルシェフ書記(書記局トップ)は、ブレジンスキー(カーター米大統領の国家安全保障担当補佐官)を、ロシアを弱体化させ、破壊する戦略を開始した人物として非難していますが(2014年10月のメルマガ-※注-1)、そのブレジンスキーが、プーチンの最大の戦略目標などについてスピーチをしています。

America’s Strategic Dilemma: A Revisionist Russia in a Complex World (3/18-2015 戦略国際問題研究所)
http://csis.org/publication/transcript-americas-strategic-dilemma-revisionist-russia-complex-world

私はブレジンスキーのスピーチの記録を読んで、プーチンという指導者は、ソビエト生き残りとして、いまも世界での権力闘争、とくに欧州全域での権力闘争に復讐心を燃やして、勝利に向かって行動しようとしていることを、改めて感じます。

ブレジンスキーによれば、ロシアの(プーチンの)勝利とは「体制としての決定的な勝利」(triumph for a regime)が不可欠なものとして含まれると言います。

『「その体制」は、西側諸国、とくに大西洋同盟を敵として考えることを明確に示している。もし、ロシアの激しく愛国主義的なものの<最大の目的>が達成されるならば、敵は弱体化させられ、同盟は分裂させられる。』

This is a regime which proclaims in effect that it views the Western world – and particularly the Atlantic Alliance – as an enemy. An enemy that is to be undermined, an alliance that is to be split, if the maximum objectives of that intensely chauvinistic definition of Russia are to be achieved.

つまり、そのプーチンにとっての<最大の目的>は、現存の西側諸国、大西洋同盟(米国と欧州)、NATO(軍事)体制を弱体化させ、分裂させ、これに勝利することであるとブレジンスキーは言っています。これについてはパトルシェフ書記も「欧州を米国の支配から切り離すために、大西洋を挟んだ米欧の協力関係を弱体化させる」と言っています(2014年10月のメルマガ-※注-1)。

※注-1:ロシアの戦略概観―パトルシェフ書記の見解― (2014/10/23 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39089075.html

ただ、ブレジンスキーはスピーチ後半で、ウクライナ問題の解決策として、欧米諸国はロシアに向かって、ウクライナはEUに加盟しても、NATOには加盟しないということを表明し伝えるべきであると言っています。ウクライナの世論も考慮した、ロシアへのこの申し入れは試す価値があると。

私は、この方法によってウクライナはともかく、プーチンの中東欧における拡張主義的な動きが止まるとは思いません。なぜなら、「現存の西側諸国、大西洋同盟(米国と欧州)、NATO(軍事)体制を弱体化させ、分裂させ、これに勝利する」ことが、ロシアの<最大の目的>であるとブレジンスキー自身がスピーチの前半で言っているからです。

スピーチ前半では、現に「ウクライナでその目標を達成したら、次はバルト三国だろう」とも言っているのです。さらに、

『プーチンのソビエト連邦と帝政ロシアの再現という論理では、いずれはアゼルバイジャンやグルジアといったほかの国々(旧ソ連構成国)にも、その手は伸びるだろう、そうなれば当然、大西洋同盟は崩壊を引き起こす。』

And that could lead to other countries – whether Azerbaijan or Georgia – and of course it would involve the collapse of the Atlantic Alliance.

しかしそれらとは反対に、ブレジンスキーのスピーチのなかで、ロシアの経済的側面について触れた点を挙げると、ロシアが進めている経済共同体の構想では、ユーラシア連合もユーラシア経済連合も、まるでうまくいっていないという事を指摘しています。

それらの中核となるカザフスタンやベラルーシはこの構想と計画に対して消極的であり、それらの国々は強引なロシアによって半ば強要されているということです。とくに中央アジアの旧ソ連共和国の国々は、中国との関係の方がますます密接になってきているとも、ブレジンスキーは指摘しています。

ロシア主導の経済連合、原油安で困難に直面=カザフスタン大統領 (3/20-2015 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jpRussia/idJPKBN0MG0X020150320

ブレジンスキーは、ロシアはこれから<数年間の経済危機>になることが確実だと言っていますが、私は、経済構造改革を放棄して今のようなことを続けていれば、遠からぬうちに経済危機に陥ると思っています。

プーチンは経済成長を捨てて侵略する選択を (12/11-2014 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39183999.html

株のセールスをしている朝倉慶氏が次のような指摘をしています。


『外貨準備の減少は著しく昨年の4900億ドルから今年は3600億ドルとなり3割弱減少しています。恐ろしいほどの速度での減少です。(中略)国家の破たん確率を示すCDSは480ポイントと破たん確率はおよそ25%の水準です。ロシアの先行きは暗澹としているとしかいいようがありません。』

ロシア 消費者は可処分所得の半分が食費に (3/23-2015)
http://www.asakurakei.com/newsDetail.cfm?newsID=1661



プーチンには軍略の才はあっても経済構造改革はまるで苦手なようで、経済改革をサポートする優秀なパートナーや部下がいなければ、西側諸国が解決のための時間を引き延ばしていくうちに、ロシアが自滅する可能性は高いと思います。

コラム:危険水域のロシア経済、プーチン政権の「無策」露呈 (3/20-2015 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jpUkraine/idJPKBN0MG0SQ20150320

ただし、プーチンにとって神風が吹く可能性があります。それは多くの専門家やブロガーが指摘するように、原油価格が上昇する時です。
原油価格を左右する中東情勢はいま混乱を極めていますが、内戦に向かって進んでいるかに見えるイエメン情勢に対して、サウジの動揺が高まっています。

そして2014年11月には、「イスラム国」の指導者アブ・バクル・アル・バグダディが、サウジアラビアへ戦線を拡大することを音声で流し表明していました。

◆◆第3節「バグダディの呼びかけとサウジアラビア」へ続く
 http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39359046.html


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バグダディの呼びかけとサウジアラビア

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「イスラム国」の最高指導者アブバクル・バグダディ(Abu Bakr al-Baghdadi)


4月20日、サウジアラビアからのテロに関する報道です。



サウジ、エネルギー施設など襲撃計画情報で警戒態勢 (4/20-2015 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jp_mideast/idJPKBN0NB0OG20150420

[リヤド 20日 ロイター] - サウジアラビア内務省報道官は20日、商業施設やエネルギー関連施設が武装集団の襲撃を受ける可能性があるとして、治安部隊に警戒態勢を取らせたことを明らかにした。

同報道官は、「商業施設あるいはサウジアラムコの施設を標的にした攻撃の可能性を示す情報を得た。これを治安部隊に伝え、警戒態勢をとらせた」と述べた。詳しい情報は得ていない、としたうえで「サウジアラビアは、テロリズムの標的になっている。(紛争が起こっているような)状況では、これに乗じてテロリスト集団が攻撃を仕掛けるのが普通だ」と述べた。

サウジは3月下旬から隣国イエメンの過激組織掃討で空爆を開始した。サウジ警察は今月、首都リヤドで起こった2件の襲撃事件の容疑者として、サウジ国籍の人物を拘束したと発表している。




【◆◆以下の記事は有料メルマガ3月26日号の一部です】


ジェームズタウン財団は3月6日付けで、『国王を倒すために:イスラム国はサウジアラビアに照準を合わせる』と題した記事を掲載しました。

To Topple the Throne: Islamic State Sets Its Sights on Saudi Arabia (3/06-2015 ジェームズタウン財団)
http://www.jamestown.org/regions/middleeast/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=43625&tx_ttnews%5BbackPid%5D=49&cHash=098b3acddb81989ddb35d68a79c478a0%20-%20.VQkwtI6sUxN#.VRPb9vmsWLU

その記事の中では、2014年11月13日に「イスラム国」の指導者アブ・バクル・アル・バグダディが、組織のメディアから“Even if the Disbelievers Despise Such”という題名の音声メッセージのなかで、サウジアラビアを含む戦線の拡大を激賞したというのです。

そしてこの「イスラム国」の活動の拡大の対象には、イエメン、エジプト、リビア、アルジェリアが含まれていましたが、サウジアラビアにあるイスラム教の二大聖地メッカとメディナを指す“al-Haramein”の語が含まれていたのです。そしてそのバグダディの音声メッセージでは“al-Haramein”の語が強調され、サウジアラビアの追随者たちに従うよう呼びかけていたそうです。

この記事の執筆者のクリス・ザムべリス氏は、「『イスラム国』の台頭は、アブドラ国王の死とサルマン新国王の継承を契機として、高まる国内と中東地域の両方の不安定さの真っ只中で起こる」と述べています。

2月12日の有料メルマガでお伝えしましたが、外交問題評議会のリチャード・ハース会長は、1月のフィナンシャル・タイムズで次のように警告していました。

『現代のカリフの支配をもたらそうとする「イスラム国」が、イスラム教の二大聖地のメッカとメディナのあるサウジの支配権を得ようとする可能性がある。』

Saudi Arabia: Threat from Isis will only grow (1/25-2015 フィナンシャル・
タイムズ)
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/868f3396-a319-11e4-9c06-00144feab7de.html?siteedition=intl#axzz3QB8uLHjZ

さらに「イスラム国」について、ハース氏は以下のようにも述べていました。

『サウジの大きな危険は、教育の不十分な、潜在失業の若者たちへ「イスラム国」の考えをうったえることから起こる。<爆弾>以上の威力をもつインターネットはサウジ政府の破滅の元となるだろう(could)。とくに、甘やかされたサウド王家の何千人もの王子たちの鬱積した恨みは、広くて深い。』

3月20日、イエメンの首都サヌアにあるシーア派のモスク2カ所での自爆テロ事件では、少なくとも142人が死亡しました。これに対して「イスラム国」系組織が犯行声明を出したそうですが、米国政府はイスラム国系の活動かどうかの確認はできていないと発表しています。

イエメン連続自爆テロで142人死亡 「イスラム国」犯行声明で宗派対立激化の恐れも (3/21-2015 産経)
http://www.sankei.com/world/news/150321/wor1503210047-n1.html

また、エジプトでは「イスラム国」に忠誠を誓うグループが爆弾テロを繰り返して起こしました。

仮に、このイエメンの142人が死亡したテロ事件が「イスラム国」の犯行であるとしたら、バグダディの音声メッセージで名指しされたイエメン、エジプト、リビアでは、2014年11月のバグダディの呼びかけに応じてテロ事件が発生していることになります。バグダディのメッセージのなかにあるサウジアラビアも危なくなってきていると思います。


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核兵器協力 サウジとパキスタンで間近に迫る

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【◆◆以下は有料メルマガ3月12日号の一部です】


    【3 間近に迫るサウジとパキスタンの核兵器協力

 
さて、2014年の有料メルマガ1225日号では、戦略国際問題研究所(CSIS)の11月の公開論文の中から、サウジなど湾岸アラブ諸国が米国の中東政策に対して、非常な不満、懐疑心、時に危険といった感情を持っているということを取り上げました。
 
サウジは国内秩序動乱の入り口にいる―シェール革命の影響と米国の中東政策―
 
この感情は、とくに米国のイラン政策に対して強烈に向けられています。1月下旬に王位に就いたサルマン新国王は、当初、亡きアブドラ国王の外交政策をそのまま引き継ぎ、サウジの外交政策に大きな変更はないと米国の専門家の間ですら言われていました。
 
しかし、2月に入り早くもサウジがイランの核の脅威に対して対抗措置をとるという観測が米国やイスラエルの専門家たちから出てきています。
 
外交問題評議会のリチャード•ハース会長は、サルマン国王79歳、ムクリン皇太子69歳という老齢体制では大したことはできないとフィナンシャル・タイムズで言っていましたが、サルマン国王はすでに注目すべき行動に出ています。
 
Saudi Arabia: Threat from Isis will onlygrow 1/25-2015 フィナンシャル・タイムズ)
 
まず、ワシントン中東政策研究所のサイモン・ヘンダーソン氏の記事によれば、2月3日にパキスタン軍統合参謀本部のラシッド・マフムード議長はサルマン新国王と会談しています。これはアブドラ前国王が亡くなった11日後です。
 
Nuclear Nuances of Saudi-Pakistan Meeting 2/03-2015 ワシントン中東政策研究所)
 
また、パキスタンのナワズ・シャリフ首相は3日間の日程でリヤドを訪れ、3月4日にサルマン国王と会談しています。
 
元CIAのアナリストで現在ブルッキングス研究所のブルース・リーデル氏は、この会談の2日前の記事と3月8日の記事で、イランの核交渉が「悪い取引き」か交渉が決裂した場合には、パキスタンが核兵器をも含めたサウジへの軍事的関与をとるだろうというイスラマバードの観測を取り上げています。
 
The speculation in Islamabad is the Kingwants assurances from Sharif now that, if the Iran negotiations produce eithera bad deal or no deal, Pakistan will live up to its longstanding commitment toSaudi security.
 
As Bibi addresses Congress, the Saudis playa more subtle game on Iran 3/02-2015 アル・モニター)
 
サウジの核武装にはパキスタンが関わっていることは有料メルマガ1127日号でもお伝えしました。
 
サウジの核武装と米シェール潰し 11/27-2014 拙稿
 
パキスタンの核兵器保有は世界で最も速く成し遂げられましたが、サウジは1970年代からその開発費用を援助し続けています。
また、サルマン国王は1年前に皇太子としてイスラマバードを訪れた際、サウジとパキスタンの戦略的協定を再確認するとして、シャリフ首相に15億ドルを供与しています。(下記記事より-ブルース・リーデル氏)
 
Saudi Arabia prepares for Iran nuclear deal3/08-2015 アル・モニター)
 
リーデル氏は「リヤドにとって最も決定的な同盟国はパキスタンだ」と言っています。
そして、「サウジはオバマをまだ見限ってはいない」とも言います。
 
米国のケリー国務長官は3月5日にサルマン国王と会談しています。
米国はもちろん、サウジとパキスタンの核兵器での協力の可能性に、非常に危機感を持っています。
リーデル氏は「ワシントンはこの問題が重大過ぎて、会話によって神経を刺激させることができない」と、この米サウジ会談後の記事で言っています。
 
サルマン国王は、シャリフ首相から今月の3月の終りまでに核兵器による協力の確約をほしいようですが、この3月末はイランとの核交渉の枠組み合意の期限にあたります。
 
リーデル氏は最後に、「サウジはより巧妙な方法を好む」と言っていますが、サウジの思うように米国をうまく動かして、イランを封じ込めることなどできるのでしょうか。

    
      (了)


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「イランと米国との共同統治」―米国の新しい中東包括戦略―

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 ("Rouhani writes Obama as Iran talks enter endgame", Al-Monitor, March 26, 2015)


4月2日にイラン核問題で枠組み合意がされて、イランの最高指導者ハメネイ師は9日、「米国が核協議で欺かなければ、ほかの問題でも話し合えるかもしれない」と述べました。
 
イラン最高指導者、米と対話に含み 「核協議で欺かなければ」 4/09-2015 日経)
 
今回紹介するマーティン・インダイク氏の戦略で、中東地域で米国とイランが「何を考えて」話し合いを進めているのか、今後、米国とイランはどのような方向でこの地域で行動していくのかが、大筋で見えてくると思います。
 
 
【◆◆以下の記事は、有料メルマガ3月12日号の一部で、それに加筆したものです】
 
 
==========================================================
 
 
   米国の新しい中東包括戦略とサウジの核武装
 
  ―「イランと米国との共同統治」をふくむ包括戦略―
 
 
【目次】
1 インダイク氏の中東戦略とオバマ政権
2】「イランと米国との共同統治」をふくむ包括戦略

(以下目次省略)
 

    【1 インダイク氏の中東戦略とオバマ政権
 

いま「中東崩壊」という言葉も出ているこの地域は、中東専門家からは“chaos”(混沌状態)と表現されています。
今まで私には、米国のオバマ政権がほとんど場当たり的に、注目するほどの基本戦略もなく、この中東の混沌状態を扱っているように見えていましたが、そうでもないようです。
 
今回の記事でははじめに、この収拾不可能かに見える中東で、米国がどのような戦略を立てて中東を再建設しようとしているのかを見てみたいと思います。
 
中東全体を見渡した包括的な戦略論はいくつもあると思いますが、この記事ではブルッキングス研究所の副社長であるマーティン・インダイク氏のものを取り上げます。
インダイク氏は米国の元駐イスラエル大使で、クリントン政権では国務次官補、大統領特別補佐官、国家安全保障会議(NSC)の上級スタッフを務めた経歴をもつ中東の専門家です。
 
現在、民主党オバマ政権を支えるブルッキングス研究所で副社長でもあり、その意見の影響力も大きいと思い、取り上げてみました。意見の影響力が大きいというのは私の判断ですが、実際にその戦略論を読んでみてオバマ政権の動きと照らし合わせてみると、場当たり的としか見えなかったオバマ政権の動きが、インダイク氏の戦略論と重なるのです。
 
そこで私はインダイク氏の戦略論を、民主党オバマ政権の中東戦略に近いものとして捉えました。
 
A return to the Middle Eastern great game(Part One) 2/17-2015 ブルッキングス研究所)
 
A return to the Middle Eastern great game(Part Two) 2/18-2015 ブルッキングス研究所)
 
ウェブページで2ページにわたりパート1と2の、2部から書かれています。題名は「中東のグレートゲームへの復帰」とありますが、これは中央アジアのそれを指すのではなく、米国が新たに「大いなるゲーム」を中東で始めるという意味です。
 
 
  【2】「イランと米国との共同統治」をふくむ包括戦略
 

米国自身の力には制約があるので、中東に再び秩序を回復させるには、中東地域での勢力のある国家との連合が必要です。
ブルッキングス研究所の副社長のインダイク氏は、いまの中東に対するそのような連合の形には、「2つしか」選択肢がないと言います。
 
そのうちの一つである今までとは全く違った新しい選択肢は、中東における「イランと米国との共同統治」であると言います。この戦略の核心は、<イランにペルシャ湾岸地域での(“in the Gulf”)優位性を与えようとするもの>で、その見返りのためにイランは次のようなことに同意しなければなりません。
 
それは、まず核開発の抑制。次に、レバノンでのヒズボラ、ガザでのハマスとパレスチナ・イスラム聖戦、イエメンでのフーシ派、シリアのアサド、これらへの支援をイランが減らすこと。そして<新しい米国とイランによる地域的秩序>の構築にイランが貢献することです。
 
1. Joint Condominium with Iran: The essenceof this approach is for the United States to concede Iran's dominance in theGulf in return for its agreement to curb its nuclear program, reduce itssupport for Hezbollah in Lebanon, Hamas and Palestine Islamic Jihad in Gaza,the Houthis in Yemen, and Basher al-Assad in Syria and contribute instead to theconstruction of a new regional American-Iranian order.
 
これに対してもう一つの「連合」の選択肢は、この地域での従来の同盟国であるサウジ、エジプト、イスラエル、トルコなどの連合をもとにして、イランを封じ込めるものです。インダイク氏はこの選択肢の事を「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(Back to the Future)と形容していますが、この選択肢は“chaos”(混沌・混乱)となった中東の未来をつくるために、旧来の「古い秩序」(“old order”)と枠組みにバックすることだ、「古い秩序」を修復することだという意味です。
 
この2つの選択肢(戦略)は共に非常に難点を抱えたもので、とくに前者のイランと米国との共同統治は考えが甘いと言われるかもしれないとインダイク氏自身が言っています。ところが、論文の後半パート2ではこの2つの選択肢の両方を合わせたものを米国の最終的な選択肢(戦略)として主張しているのです。
 
その最終的な選択肢の戦略は、まずイランが核開発の抑制にある程度のレベルで合意することが大前提になります。
 
そしてこの戦略では、中東での地域的安全保障の枠組みにイランとイスラエルも入れてつくるもので、その地域的安全保障の枠組みの基礎的な部分は、米国といまの同盟国との関係、イスラエル・エジプト・ヨルダンの間の良好な安全保障関係、イスラエルと湾岸アラブ諸国との隠れた安全保障関係などを活用してつくります。
 
この地域的安全保障の枠組みでは、各国間の「摩擦を減らしマネージしながら」やっていくのですが、そこでは各国間の「競争と抑制・束縛が組み合わされる必要があるだろう」とも言っています。
 
この構想は、イランをこの地域的安全保障の枠組みに入れ、イランとの協力関係をつくることで中東での多くの紛争問題が改善に向かうという考え方がもとになっています。これにはサウジやイスラエルなどの敵対国が「激怒するだろう」、その構想は実現可能性が欠如しているといった批判が出てくるだろうと、インダイク氏自身が言っています。
 
しかし、いまの中東の混乱と混沌を収拾する選択肢は非常に限られており、前述の2つの選択肢のうち「イランと米国との共同統治」(“a Joint Condominium with Iran”)の考えを盛り込んだ合併案を除外するというのなら、「それ以外の代替案にどれほどの実行可能性があるのか」とインダイク氏は主張しています。
 
そして、中東情勢は、「観客席から批評しているような、贅沢な余裕のある状況ではない」とも述べています。
 
2014年9月以降、米国とイランが接近しているという観測が出ており、核協議ではこの3月末の枠組み合意の期限を前に、イランのウラン濃縮を容認する米国をイスラエルのネタニヤフ首相が激しく非難しています。
 
その一方で、米国は欧州やスンニ派諸国主体の空爆作戦を展開するなど、中東での多国間主義政策を行っていますが、第1節で述べたように、場当たり的としか見えなかった米国の動きを、インダイク氏の将来へわたっての戦略論とビジョンに重ねると、米国の中東政策の方向性として納得がいき、理解がしやすいのです。
 
民主党オバマ政権を支えるブルッキングス研究所の副社長である、このインダイク氏の戦略は、「イランと米国との共同統治」を取り入れたこの戦略で「イスラム国」やアルカイダのほか、多くのイスラム武装組織やシリアのアサド政権などの問題を解決し、中東の混乱と混沌に新しい秩序をつくろうという戦略なのです。

要するに、中東に山積し収拾困難なこれらの問題の解決のために、イランの力を多く借りようという訳です。
 
そして、そこで大いに疑問になってくる「実現可能性」については、ほかに「実現可能性」をもった選択肢がないとインダイク氏が言うほど、中東は混乱と混沌を極めているということなのです。
 

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執筆予定 2019.8.20 記
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