経済戦略と国際情勢

救国済民。来るべきこの国の大量経済難民を、どう救うか

サウジの核武装と米シェール潰し

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サウジは2014年4月に行った軍事パレードで、核兵器搭載可能な中距離弾道ミサイルDF-3(中国製)を誇示した。



【◆◆以下の記事は、有料メルマガ11月27日号の一部です】


    【1】 サウジの核武装と米シェール潰し


まず、以下は2013年11月の報道です。


 英BBC放送の報道番組「ニューズナイト」は(11月)8日までに、サウジアラビアがイランの核武装に備え、パキスタンから核兵器を入手する準備を進め、いつでも輸入できる状態にあると伝えた。

サウジ、パキスタン両政府は報道を否定しているが、現実となれば中東の軍事バランスを根底から揺るがす恐れがある。番組によると、北大西洋条約機構(NATO)幹部が情報機関の報告の存在を確認。

イスラエルの元軍情報責任者は「サウジは核爆弾の代金を支払い済みで、(必要になれば)1カ月もかからないだろう」と指摘した。(ロンドン、イスラマバード 共同)

「サウジ、パキスタンから核入手準備」(11/09-2013 共同通信)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/131109/mds13110914180005-n1.htm



これから1年後の今月11月24日、米英仏独中露の6か国とイランは、イラン核問題の包括解決を目指す交渉で最終合意を断念し、交渉を来年7月1日まで再延長することを決めました。包括解決への協議は今年2月から始まり、7月の期限が延長され、今回は再延長になります。

ワシントン中東政策研究所のサイモン・ヘンダーソン氏らによれば、この交渉の結果次第では、湾岸諸国とヨルダンで動いている核計画を加速させるだろう(may accelerate = 約50%)と警告しています。

Regional Nuclear Plans in the Aftermath of an Iran Deal (11/21-2014 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/regional-nuclear-plans-in-the-aftermath-of-an-iran-deal

ワシントン中東政策研究所は、米国の中東政策に影響を与えている(とくに保守派の中東政策に)と言われます。サイモン・ヘンダーソン氏は、以前から多くの貴重な論文があり著名な研究者です。

サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタール、ヨルダンなどは、原子力発電所の新設計画を進めており、特にサウジアラビアは導入に野心的だと言われています。

この中でもサウジアラビアは、明らかに原子力発電の核兵器への転用を目標にしています。

サイモン・ヘンダーソン氏らによれば、湾岸諸国の指導者たちが、イラン外交をどのように見ているのかを示す最も明確なシグナルの一つは、サウジが今年4月に行った軍事パレードで、核兵器搭載可能なミサイルを誇示したことでした。

One of the clearest signals of how Gulf leaders view Iran diplomacy was Saudi Arabia's decision to show off two of its nuclear-capable missiles at a military parade in April.

ヘンダーソン氏の今年4月29日の記事によれば、この2基の中国製のミサイルDF-3は、イランへの外交的シグナルであると同時に、おそらく米国へのシグナルでもあると言います。DF-3は核弾頭が搭載可能な中距離弾道ミサイルです。

Saudi Arabia's Missile Messaging (『サウジのミサイル・メッセージ』 4/29-2014 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/saudi-arabias-missile-messaging

これらのDF-3は1987年にサウジアラビアが中国から購入したものでしたが、リヤドの南方に保管されていました。

この軍事パレードの来賓にはパキスタンのシャリフ陸軍参謀長の姿がありました。昨年11月の報道で、サウジが契約した核兵器の入手先と見られる国の要人です。

『サウジのミサイル・メッセージ』と題したこの記事の中でヘンダーソン氏は、湾岸諸国にはイランがこのまま核兵器保有国になってしまうという懸念が支配的だと述べます。

ヘンダーソン氏はこの4月末の時点で、サウジによる核搭載可能なミサイルの誇示は、イランの増大する脅威への対抗の決意であるばかりでなく、<米国の意思に関係なく、独立して行動する準備ができている>ことを示すと指摘しています。

Amid the Persian Gulf's prevailing diplomatic atmosphere -- dominated by concern that ongoing international negotiations will leave Iran as a threshold nuclear weapon state -- the missile display signals Saudi Arabia's determination to counter Tehran's growing strength, as well as its readiness to act independently of the United States.


原油価格(WTI)が6月中旬から急落を始めています。

これはサウジアラビアが米国のシェールオイルに価格競争を挑み、シェール潰しの挙に出ているからだと推測する人が多いようです。これに対しては異論もあるようですが、サウジが自身を守ってもらわなければならないイラン核問題を抱えながら、米国と石油でケンカを始めた強気は、まさに核武装を具体的に決断し、準備を始めているところから出てきているのではないでしょうか。

コラム:サウジの価格戦略は米シェール革命を阻むか (11/13-2014 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKCN0IX0I220141113?rpc=188&sp=true

今年3月2日、ロシア軍はクリミア半島を掌握しました。
米ハドソン研究所の首席研究員である日高義樹氏は、この侵略を次のように説明しています。

「オバマ大統領は、1994年のブダペスト条約に基づいてウクライナの安全を保障するという覚書による約束を破った」(※注-1)

「約束を破った」とは、米国が軍事介入しなかったことを指します。
ハドソン研究所の学者によると、サウジはこの「ウクライナ攻撃に強い衝撃を受けた」そうです。

11月26日の産経によれば、ニューヨーク・タイムズ紙に「米・サウジとロシア・イランの間で石油戦争が起きているのではないか」という記事が掲載されたそうです。
しかし、<米国が安全保障の約束を破るのを見たサウジが>、巨大な損失覚悟で米国と組んで、ロシア・イランとの石油価格戦争などというオメデタイことをするでしょうか。

繰り返しますが、サウジをはじめ湾岸諸国には、イランがこのまま核兵器保有国になってしまうという懸念が支配的だと言います。

共同通信によれば、「米情報機関によると、イランは現在も、その気になればわずか2カ月で核兵器1個分の高濃縮ウランを製造できる」そうです。

※注-1:『「オバマの嘘」を知らない日本人』 (日高義樹著 2014.7.4刊 PHP研究所)



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米国 イランとのテロ戦争での協力は危険

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            イランの革命防衛隊


【◆◆以下の記事は有料メルマガ11月27日号の一部で、それに加筆したものです】


   【2】 米国 イランとのテロ戦争での協力は危険

イランは米国にとって長い間、宿敵でした。ところがいま、米国は、「イスラム国が拠点とするシリアのアサド政権の後ろ盾であるイランから一定の協力を引き出す」ことを模索しています(9月23日 共同通信)。

11月24日に再延長された7カ国によるイラン核問題の交渉では、「イラン側がイスラム国対応を絡ませて、譲歩を引き出そうとする」のではという観測がありました。現に9月21日、複数のイラン政府当局者がそのような交換条件を求める発言をしたとロイター通信は伝えています。

また共同通信は次のような説明をしています。


オバマ政権は、シリア領内への空爆拡大は「アサド政権ではなく、イスラム国との戦いだ」と強調する。しかし、イランの革命防衛隊の支援を受けるシリア政府軍が空爆に乗じて、イスラム国や反体制派の支配地域を取り戻そうとすれば、内戦の激化を招き、制御不能の状態に陥りかねない。

 オバマ政権はイランと軍事面で調整を図る可能性は明確に否定しているものの、せめてシリア領内への空爆を黙認し、アサド政権がおかしな動きを見せないようにらみを利かせてもらいたいというのが本音とみられる。

オバマ米政権、宿敵イランに秋波 対イスラム国で協調模索 (9/23-2014 共同通信)
http://www.47news.jp/47topics/e/257331.php


イランは上記のような、米国のオバマ政権の思うような、都合のよい方ばかりには動きません。

オバマ政権のこの方向での外交姿勢に対しては、米国の保守派から批判が多く出ています。
ヘリテージ財団の中東専門家であるジェームズ・フィリップス氏は、「イランは中東地域でのテロ戦争に対して「放火犯のように行動してきたので、火消しをするのを信用して任せられない」と言っています。

Why the US Can’t Trust Iran to Help Defeat ISIS (10/30-2014 ヘリテージ財団)
http://dailysignal.com/2014/10/30/us-cant-trust-iran-help-defeat-isis/

フィリップス氏によれば、2001年以降だけを見ても、イランは計画的にスンニ派とシーア派の宗派戦争を煽って、中東情勢を非常に混乱させてきたと言います。そしてそれがイスラム国の台頭に必要な状況を作ったとも言っています。

Iran is a major part of the problem in both Iraq and Syria. It has fueled sectarian hostilities between Sunnis and Shiites that created the conditions for the rise of the Islamic State.

以下は、ジェームズ・フィリップス氏の記事の、最初の部分の抄訳です。


(抄訳開始)

イスラム国は、近隣の国家の政府すべてを転覆させようとしている。イランと米国の戦略的協力を支持する者たちは、イスラム国の増大を防ぐなかで、一定の共通の国益をイランと米国は共有していると主張する。

しかし、この当然のように聞こえる両国の国益に基づいた考えは、テヘランの政権がしばしば、イランがより広い国益を退けて、偏狭なイデオロギーの利益を追求してきたという事実を無視している。

イランのイスラム革命の論理は、再三にわたりイランの国益の論理に優ってきた。

イラクに対しても、イランと米国では全く違う目標を持っている。
米国がイラクに安定した民主主義を作ろうとしているのに対して、イランはイラクを自分達の<衛星国にする>ことを目標にしている。

(抄訳終了)


イランのイラクに対する企てと同様、フィリップス氏が、イランを米国は信用してはいけないというのは、シリア政府軍をイランの革命防衛隊などが支援しているからです。

イランの国家的な目標は、アジアでの中国の野望と同じで、中東地域から米国を追い出し、地域の覇権を獲得することです。


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「玉砕ノミクス」:ゴールドマン・サックスと年金積立金

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11月5日の田中宇さんの、ゴールドマンがアベノミクスを批判しているという記事に「バンザイノミクス」という言葉が出ていました。それを日刊ゲンダイが、「ゴールドマンも『バンザイノミクス』と評している」とカン違いしていますが、ゴールドマンは『バンザイノミクス』という言葉は使っていません。

アベノミクスのことを、『ゼロヘッジ』など海外のネットが侮蔑をこめて「バンザイノミクス」(Banzainomics)と呼んでいるのを、より彼らの受け取り方に即して訳せば、『玉砕ノミクス』です。とくに『ゼロヘッジ』は黒田日銀の発足当初から、毎週アベノミクスを攻撃・批判しています。


【◆◆以下の記事は、有料メルマガ11月13日号の一部です】


    【4】 ゴールドマン・サックスと年金積立金

日銀は10月31日、ついに追加金融緩和を決定しました。
その日の米国金融ニュース・サイト『ゼロヘッジ』では、この決定を受けたゴールドマン・サックスの馬場直彦氏のニュースレターの全文を公開しています。

馬場氏は、「日本銀行の金融機構局で金融システムの調査・分析を統括して」いましたが、2011年1月にゴールドマンに日本担当のチーフ・エコノミストとして移籍しました。

ゴールドマン:日銀から馬場氏をチーフ・エコノミストに起用 (2011/01/05 ブルームバーグ)
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LEJ85M07SXKX01.html

『ゼロヘッジ』によると、最初、日銀の量的緩和の熱心な支援者であったゴールドマン・サックスが、アベノミクスとJカーブ効果に幻滅を感じるようになり、その立場を否定的へと変えたのは数か月前であったと言います。(Jカーブ効果:円高から円安進行への切り換わり時の短期間において、輸出が減少し(または伸び悩み)、その後上昇し始めること。)

そしてゴールドマンは、「アベノミクスにとって不幸な結末が、ほぼ間違いなく起こり得る」と言っているそうです。

ここまではゴールドマンの馬場氏のニュースレターからではなく、『ゼロヘッジ』サイトの調査ですが、『ゼロヘッジ』は海外ヘッジファンドや著名投資家などのレポートやニュースレターをよく読み込んでいるサイトです。

It was about several months ago when Goldman, which initially was an enthusiastic supporter of BOJ's QE, turned sour on both Abenomics and the J-Curve (perhaps after relentless mocking on these pages), changed its tune, saying an unhappy ending for Abenomics is almost certainly in the cards.

Goldman On BOJ's Banzainomics: "We Highlight The Potential For Harsh Criticism Of Further Cost-Push Inflation" (10/31-2014 ゼロヘッジ)
http://www.zerohedge.com/news/2014-10-31/goldman-bojs-banzainomics-we-highlight-potential-harsh-criticism-further-cost-push-i

アベノミクスについては、2013年4月に行われた日銀の大規模緩和の半月後、モルガン・スタンレー・リサーチが、「成長戦略がうまく実行されなければ、日本はスタグフレーションに襲われる」とレポートしていました。

この時期ゴールドマンは、日経株価は19000円を狙えるなどと煽っていましたが、市場誘導が巧みで露骨なゴールドマンに翻弄された投資家も多かったのではないでしょうか。

またゴールドマンの馬場氏は、大幅な円安が続くことによって<来年の統一地方選挙>で、非製造業者や、中小企業の人たち、一般家庭のあいだから、さらに値上げが続くコスト・プッシュ・インフレへの厳しい非難が起こる可能性を強調しています。

そして最後に、「今回10月31日の追加緩和の動きに関わりなく、我々ゴールドマンは、日銀は非常に狭い道を歩んでいると確信している」と警告しています。

これは、「黒田も安倍も、追加緩和など、この先いくらやっても無駄だ、我々外資を喜ばせるだけだ」という意味でしょう。

Irrespective of the latest easing moves, we believe the BOJ is treading a very narrow path.

現に、ソロスは10月31日の日銀の追加緩和発表から、円を売って何億ドルもの荒稼ぎをしています(ウォールストリート・ジャーナルのグレッグ・ザッカーマンのレポートによる)。

Soros Fund Profits Yet Again From Yen Short (11/04-2014 バリューウォーク)
http://www.valuewalk.com/2014/11/soros-short-yen/

以下は今年4月2日の日経の報道ですが、「アベノミクスは不幸な結末となる」と数か月前に変節したゴールドマンは、私たちの年金積立金をどのように運用し、GPIFとの取引を通じ、私たちの年金積立金を、どのように料理していくのでしょうか。


年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、高収益の日本株を組み込んだファンドへの投資を始める。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントなど数社に運用を委託する。委託規模は1社あたり、2千億〜4千億円規模とみられる。

公的年金、高利回り投資へ ゴールドマンなどに委託 (4/02-2014 日経)
http://www.nikkei.com/article/DGKDASFS01045_R00C14A4PP8000/



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米中関係:アジア地域の切り分け論

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2014年7月8日に北京で行われた第4回戦略安保対話。米中戦略経済対話の部会にあたる(Photo: China-US Focus から)
http://www.chinausfocus.com/special-coverage/sixth-round-of-china-us-strategic-and-economic-dialogue/


【◆◆以下の記事は、有料メルマガ11月13日号の一部です】


    【2】 米中関係:アジア地域の切り分け論

11月11-12日の日程で、10時間にわたる米中首脳会談が北京で行われました。
この会談をめぐってマスコミで、習近平主席がさかんに使う「新しい形の大国関係」(※ 注1)という言葉がクローズアップされています。

12日のテレビ朝日の『報道ステーション』では、この「新しい形の大国関係」という言葉は、中国が考える意味として「中国と米国が太平洋を真っ二つに分けて治める」ということだと説明していました。

テレビ朝日のこの説明は非常に不正確だと思います。

これは6年以上も前に、中国軍の幹部が米国のキーティング太平洋軍司令官に「太平洋を米国と中国で2分割支配をしよう」と提案したのを、そのまま説明に当てています。確かに習近平は今度の会談でも「太平洋は米国と中国を受け入れるのに充分広い」とは言いました。

私が反論するのは、この事を扱った箇所が、戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書にあるからです。

Comparative Connections v.16 n.2 - US-China (9/15-2014 戦略国際問題研究所 PDFファイル)
http://csis.org/publication/comparative-connections-v16-n2-us-china

上記の報告書は、今年の夏、7月に北京で行われた第6回米中戦略経済対話(年1回)を総括した内容が書かれています。

その副題は「いまだに足踏みしている第6回戦略経済対話」とあります。

第6回米中戦略経済対話では席上で楊潔チ(よう・けつち)国務委員が米国側に繰り返し、次のように中国のポジションを説明したそうです。

『アジア地域と太平洋は米国と中国にとって充分広い。北京はこの地域での建設的な米国の関与を歓迎するが、米国を排除しようとするものではない』

楊潔チ(ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%8A%E6%BD%94%E3%83%81

これに対してケリー国務長官は次のように米国の立場を主張しました。

『米中関係の新しいモデルは、それぞれの勢力範囲があるとして、これらの(アジア太平洋)地域を米国と中国で<切り分けよう>として規定されるものではない。新しい関係のモデルは、世界的な行動・活動の規範についての相互の承認によって規定されるものであり、その行動規範は我々が長い間、国際的な行動の基準によって管理してきた価値と利益を守るものである。』(PDF3ページ)

The new model of relations is “not going to be defined by us carving up areas and suggesting there are spheres of influence, it’s going to be defined by our mutual embrace of standards of global behavior and activity that protect the values and interests that we have long worked by the norms of international behavior,” Kerry said.

ここでは中国の考える「新しい形の大国関係」が、アジア地域と太平洋を米国と中国で“carve up”((肉などを) 切り分ける)する考え方であることに注目したいと思います。

米中関係の新しいモデルについて、楊潔チ国務委員たちの要求する<切り分け論>に対してケリー国務長官の米国側は、国際法に則った新しい関係のモデル(“The new model of relations”)を主張し、両者の考え方には大きな隔たりがあります。

中国側は、アジア地域と太平洋に米中それぞれの勢力範囲を設け、地域や問題の性質・種類によって<切り分け>をした支配を国家の目標にしているのです。

(※ 少なくとも今の段階では。米国側が警戒しているように、アジア地域からの米国の排除が真の狙いかもしれません。)

中国が米国に対して要求しているアジア地域の<切り分け>とは、例えば大きな皿にのっているアジアという肉の塊を、尖閣諸島、台湾、南シナ海などは中国がいただき、残りは米国がというように切り分けて勢力・支配権を設定しようという中国の戦略構想を指すわけです。

今回の首脳会談でオバマ大統領は「新しい形の大国関係」(“New Type Great Power Relations”)という言葉を使わなかったそうですが、第6回の戦略経済対話をレポートしたこの米国の報告書でも、習近平が「新しい形の大国関係」という言葉を使ったとして記載されているだけです。 


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ポスト冷戦秩序の解体が始まっている

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       Richard N. Haass(外交問題評議会会長)


【◆◆以下の記事は、有料メルマガ11月13日号の一部です】


   【1】 ポスト冷戦秩序の解体が始まっている

アメリカの対外政策決定に対して著しい影響力を持つと言われている外交問題評議会の会長で、コーリン・パウエル元国務長官のアドバイザーでもあったリチャード・ハース氏が、「解体」(“The Unraveling”)という記事を『フォーリン・アフェアーズ』誌の11-12月号に寄稿しています。

The Unraveling (解体)フォーリン・アフェアーズ11-12月号
http://www.foreignaffairs.com/articles/142202/richard-n-haass/the-unraveling

同誌の日本語版は、ごく短い要約のみ無料掲載しているので参考にしてみてください。

解体する秩序―リーダーなき世界の漂流
http://www.foreignaffairsj.co.jp/essay/201411/Haass.htm

この記事のタイトルは“The Unraveling”と進行形で表現されているように、現在の世界秩序は崩れ始めている、解体が始まっているとリチャード・ハース会長は主張しています。この世界秩序とは「ポスト冷戦秩序」のことです。

ハース会長は繰り返してこう言います。

「要するに、ポスト冷戦秩序は解体しつつある。そして秩序が理想的でない間は、秩序は失われるだろう(秩序が失われた世界になるだろう)。」

In short, the post–Cold War order is unraveling, and while not perfect, it will be missed.

ハース会長は現在の世界情勢のリスク要因として、「イスラム国」が影響を及ぼす中東情勢とウクライナ・ロシア情勢のほかに、北朝鮮とパキスタンを挙げています。

金正恩第1書記の脆弱な体制が国家崩壊するリスクの高まりと、「世界で最も危険なテロリストたちが荒れ狂う」パキスタン。この2つは日本のテレビなどではほとんど取り上げられません。北朝鮮とパキスタンの問題は、両方とも核兵器の危機を伴った問題であり、世界的な危機の原因にもなりえるとハース会長は言っています。

米国のシンクタンクではパキスタンとアフガニスタンの情勢がよく扱われ、北朝鮮の金正恩体制の崩壊のリスクや朝鮮半島の今後を考える記事なども、よく研究者たちによって公開されています。


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中央アジアでの中国とロシアの覇権競争

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中国の陸上の「新シルクロード構想」と海上シルクロード
http://thediplomat.com/2014/05/chinas-new-silk-road-vision-revealed/


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   【3】 中央アジアでの中国とロシアの覇権競争

中国の主張する、「大国同士が勢力範囲を設け、地域や問題の性質・種類によって切り分けを行う」という考え方は、米国よりも、今やむしろ盟友と目されているロシアとの間で活用できる考え方です。

最近ではブログなどでもだいぶ、中ロの接近を取り上げる記事が出てきましたが、中ロの協力体制は言わば、「片目をあけて寝床を共にする政略結婚」(バジニア・マランティドウ氏, CSIS)です。

戦略国際問題研究所(CSIS)が9月30日に公開した記事では、急接近を見せている中国とロシアの間に、中央アジアでの石油や経済覇権などをめぐって競争関係が進行していることを報告しています。

The great game in Central Asia (9/29-2014 戦略国際問題研究所)
http://csis.org/publication/pacnet-73-great-game-central-asia

ウクライナがロシアの前庭なら中央アジアはロシアの裏庭です(同氏)。

共著者の一人、バジニア・マランティドウ氏は「表面の真下で進行する競争は協力関係の基盤を侵食するだろう」とまで言っています。

マランティドウ氏らによれば、「東アジアでの米国との大きな競争に直面しているので、中国は中央アジアへまだ活用されていないものを求めて、<西方へ>向かって関心を移している」と言います。

Facing greater competition from the US in East Asia, Beijing is shifting attention westward to take advantage of what it perceives as a vacuum in Central Asia.

そして、「習近平によって明言されている『新シルクロード経済ベルト』での西方への戦略は、中国の経済とその発展にとって中央アジアの重要性を強調するものである」と指摘しています(※ 冒頭地図参照)。

中国の「シルクロード構想」、周辺地域への影響力を強める狙い (11/11-2014 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPKCN0IV03Z20141111


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プーチンは停戦を遵守するかー「ノヴォロシア」の復興ー

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■ 薄紅色に着色されている地域がウクライナ国内の「ノヴォロシア」と呼ばれている地域。


※ 10月9日の記事の第2節『プーチンは停戦を遵守するか』の記事の一部に、上の地図を添えてみました。参考になればと思います。

ロシア極東での大軍事演習―米国を想定した軍事演習「ボストーク2014」―
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39065595.html


====================================


ウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力の戦闘は、米国とロシアの代理戦争です。
プーチンはこの先、どのように動くのでしょうか。

戦略国際問題研究所のアンドリュー・クチンス氏ら(ロシアが専門)は、それが不透明であるとした上で、次のように述べています。


(抄訳開始)
ロシア政府はこの紛争で、ドネツク州とルガンスク州の特定地域に付与された「特別の地位」以上のものを目的にしている。ロシアはウクライナがNATOメンバーにならないという保証がほしい。

ロシアのより大きなプロジェクトは、「ノヴォロシア」と呼ばれる帝政時代の領土を再現することだ(※訳注-ノヴォロシア:18世紀末にロシア帝国が征服した黒海北岸部地域を差す地域名)。

「ノヴォロシア」にはドネツク州とルガンスク州ばかりでなく、ロシアが占領したクリミアやウクライナ南部や東部のほかの地域、係争中のモルドバ共和国のドニエストル地域などが含まれる。

プーチンは数多くの場で「ノヴォロシア」の復興をほのめかしてきた。「ノヴォロシア」の復興はまだ中途半端である。

プーチンは、国民に国家主義的な感情をかき立て、ウクライナへの介入の国内支持を集めるために「ノヴォロシア」のビジョン(構想)を使ってきたので、簡単には「ノヴォロシア」プロジェクトを降ろすことはできないだろう。

とくに、もしウクライナが欧州との統合をより深める方向へ進むとしたら、それはより難しくなる。
(抄訳終了)




■ 地図参照(※ 冒頭):「ノヴォロシア」と呼ばれる地域(ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%B4%E3%82%A9%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2

9月25日、ウクライナのポロシェンコ大統領は記者会見で、「親ロシア派武装勢力との衝突は『最も危険な』山場を越えたという認識を示し、2020年に欧州連合(EU)へ加盟申請する」意欲を示しました。

ウクライナ大統領、2020年までのEU加盟申請に意欲 (9/26-2014 AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3027086

クチンス氏が指摘するように、EU加盟もプーチンが最も嫌がることであり、これは「ノヴォロシア」のプロジェクトや扇動に火をつけることになります。  
        (了)


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ロシアの戦略概観―パトルシェフ書記の見解―

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国家安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記(書記局トップ)。国家安全保障会議はロシア大統領の直属機関。



◆◆以下の記事は有料メルマガ10月23日号の一部を修正したものです。

欧米の経済制裁がロシア国民に与えている心理的影響や、世論調査の結果などまで書くことができませんでしたが、それらは他稿で補足していくつもりです。
ルーブルとロシア株価が急落しているから、プーチン政権の求心力が下がっているなどということは、10月下旬時点ではほとんどないようです。




     ロシアの戦略概観

      ―パトルシェフ書記の見解―

      ―ロシアはどこへ向かって進もうとしているのか―


【目次】
【1】 ロシアの戦略概観
    ―安全保障会議書記の見解―
【2】 ロシアのアキレス腱(私見)


    【1】 ロシアの戦略概観
        ―安全保障会議書記の見解―

ウクライナ東部のドネツクでは、ウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力の戦闘によりここ数週間で数十人の民間人が死亡しているそうです。10月21日、負傷者の治療に当たっている医師らは、政府軍がクラスター爆弾を使用していると証言しました(10月22日 AFP)。

ドネツクの医師ら、ウクライナ軍がクラスター爆弾を使用と証言 (10/22-2014 AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3029542

有料メルマガ9月11日号以降お伝えしているように、ロシアのプーチンとロシア政府は、世界スケールで反米秩序の構築や西側諸国への対抗策を進めています。これらは私たち欧米など西側諸国から見ることのできる概観です。

しかし、ロシア政府(クレムリン)はいったい、いまの情勢をどのように考え、どのような戦略観をもって、どこへ向かって進もうとしているのでしょうか。

これらについて説明してくれている記事が、ジェームズタウン財団のHPにありました。それはパベル・フェルゲンハウアー氏による記事です。この人はロシア極東での大軍事演習「ボストーク2014」についての解説記事を書いた人で、それは有料メルマガの前号で取り上げました。この人はロシアの軍事・外交に詳しい人です。

Preparing for War Against the US on All Fronts—A Net Assessment of Russia’s Defense and Foreign Policy Since the Start of 2014
(10/16-2014 ジェームズタウン財団)
http://www.jamestown.org/regions/russia/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=42962&tx_ttnews%5BbackPid%5D=653&cHash=f45956f6e83db53aebfcbd29c406b25f#.VENN7PmsUxM

プーチン大統領、メドベージェフ首相、そして国家安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記(書記局トップ)の3人は、いずれも10月15日にマスコミのインタビューで、ウクライナ危機後の、ロシア政府の<世界戦略の構想>の概要を述べています。以下はフェルゲンハウアー氏によるそれらについての解説の一部を抄訳したものです。

=========================================
(抄訳開始)
ロシア政府の見解は不快なものである。ロシア政府はいま、西側諸国との新しい冷戦が形成されつつあると見ている。ロシアは現在、西側諸国からの攻撃を受けていると考えており(訳注:経済制裁など)、ロシア政府はその反撃のために核兵器オプションを含む、自在に使えるすべての手段を使うつもりである。

The view from Moscow is uninviting—A new cold war with the West is in the making; Russia is under attack and will use all means at its disposal to resist, including the nuclear option.

プーチンは米国を非難したが、それは米国が首都キエフで過激な国家主義者を支援することによって、意図的にウクライナ危機を引き起こし、内戦へと火をつけたからだ―とプーチンは非難している。

ロシア軍は再武装し、大規模軍事演習を実施し、起こりうる世界規模の戦争にも準備している。

The Russian military is also rearming and conducting massive exercises, preparing for a possible global war.

モスクワの政界、軍、諜報機関の大多数の一致した見解は、米国との関係は修復不可能であり、メドヴェージェフ首相の言葉を引用すれば、「米ロ関係にはどのような新しい『リセット』の可能性もない」というのが一致した考えだ。

クレムリンは、米国との本物のデタント(緊張緩和)の可能性は、早くても2020年まではないと考えるようになっている。
(抄訳終了)
=========================================

この記事では、このあと紹介する国家安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記の意見や説明を、ロシア政府の公式な政策意見のように思われると述べています。国家安全保障会議はロシア大統領の直属機関であり、ロシア大統領府の構成下に入るからです。

パトルシェフ書記へのインタビューを載せた公式な政府機関紙の記事には、『第二次冷戦』(“Second Cold War”)と題名が付けられていますが、パトルシェフ書記の米国に対する考え方は次のようです。


米国は今日も、ロシアを世界の中心から排斥し、破壊するような戦略的意図(計画)を実行している。これは1970年代にズビグネフ・ブレジンスキー(カーター米大統領の国家安全保障担当補佐官)により開始された戦略である。

ソ連崩壊後、それまで支配していた旧共和国で、米国はロシアからいかなる影響力をも奪い、ロシア政府をそれらの旧共和国から完全に孤立させようとしてきた。その数十年に及ぶ計画は非難すべきもので、米国は永遠の敵である。


      ◆    ◆

パトルシェフ書記はインタビューの中で、ロシアの戦略立案者たちが、「ますます天然資源(石油、ガス、食糧、水)が貴重になっていく『分割された多極化世界』のなかで、ロシアは資源の貧しい欧州を支配できるだろう」と考えていると述べています(10月9日)。

この天然ガスと石油による支配の考え方は、すでにユーラシア大陸のあちこちで明らかになりつつあるように、欧州以外でも中国、インド、北朝鮮、日本、韓国、パキスタンなどアジア圏で、ロシアの戦略の基本的ラインとなっています。

『プーチンのアジア-太平洋への「旋回」はロシアの壮大な戦略の一環であり、その大戦略は、ロシアをユーラシア大陸(アジア+欧州)での強大なパワー(支配力)にするための、経済と軍事戦略の領域から構成される』

これは中国人の研究者などとのパイプを持つ、ヴィッテンベルク大学(オハイオ州)のユー・ビン教授が、2013年1月に戦略国際問題研究所のレポートで指摘したことですが、このことは6月のメルマガでお知らせしました。

Tales of Different “Pivots” (2013-1/14 戦略国際問題研究所 )
http://csis.org/publication/comparative-connections-v14-n3-china-russia

パトルシェフ書記は、ロシアの外交世界戦略として次のような主張をします。

『欧州を米国の支配から切り離すために、大西洋を挟んだ米欧の協力関係を弱体化させながら、欧州以外の中国のような新興国の国々(“emerging powers”)と同盟を次々と結んでいかなければいけない。』

As Patrushev argues, Russia, in turn, must build alliances with non-European emerging powers like China, while working to undermine the Transatlantic link to liberate Europeans from US domination.

ここで興味深いのは、ロシアは欧州と米国の分離を狙っており、欧州を支配・統合しようとしているのですが、そのためのプロセスでの選択肢としてNATOに対する核兵器の使用も考え、かつ準備も進めている事です。


    【2】 ロシアのアキレス腱 (私見)  

米国のオバマ政権は、11月の米中間選挙の選挙対策として「イスラム国」に大掛かりな空爆を行ったようです。「イスラム国」対策では、敵対しているはずのロシアやイランと協力関係を模索しており、外交的にも軍事的にも「戦略」に全体としての統一性がなくバラバラとなっている状態です。

これでは米国の持っている軍事的抑止力の効果は減殺されてしまうばかりです。しかも「イスラム国」の封じ込めに何の成果も上がっていません。

米国の外交政策が複雑化しているなどという説明をする人がいますが、私には米国の外交政策は「8の字」に蛇行飛行するダッチロール状態にしか見えません。

9月9日に日本で講演した元国防次官補のジム・ウェッブ氏が、オバマ政権の国家戦略について「今の米国は構造的な戦略がない。その場、その場での場当たり的な対応をしている」と言ったそうです。まさにその通りだと思います。

ジェームズタウン財団のフェルゲンハウアー氏の記事、そしてその中に書かれている国家安全保障会議のパトルシェフ書記の考え方、それらを読むとロシアの国家戦略には大きなアキレス腱があることが見えてきます。

それは今まで欧州に相互依存していたものを、いまロシアは中国に大きく依存しているという事です。ロシアの戦略のアキレス腱は中国です。つまりロシアの動きを封じ込めることができるのは米中関係次第であり、それには中国とロシアを切り離すという難易度の高い戦略が必要であるということです。

それなのにオバマ政権は今述べたようなあり様です。
次の米国の大統領選挙に果たして期待ができるのかわかりませんが、まだあと2年もあり、国際情勢は悪化すると思います。


■ 関連リンク

ロシアの核兵器戦力の準備とウクライナ―NATOを背後に― (9/11-2014 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39024587.html

ロシア・中ロ関係・中央アジア (拙稿集)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/folder/1119307.html

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ロシア極東での大軍事演習―米国を想定した軍事演習「ボストーク2014」―

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【◆◆以下の記事は、有料メルマガ10月9日号の一部を修正したものです】

    ロシア極東での大軍事演習と日本をとり巻く情勢

     ―アメリカを想定した軍事演習「ボストーク2014」―


【目次】
【序】 アベノミクスの岐路
【1】 ロシア極東での大軍事演習
    ―米国を想定―
【2】 プーチンは停戦を遵守するか
【3】 米国とロシアと中国のはざまで


    【序】 アベノミクスの岐路

今後の円安の進み具合がマスコミで心配されています。
日米の金融政策の違いを利用して円売りで大儲けをしようという動きは2013年に海外ヘッジファンドの間で何度もありました。今回は米国の利上げに現実味が非常に出てきたことから急テンポで円売り圧力が高まってきました。

このように心配される円売りの動きは充分に予想できたことで、アベノミクスに批判的な人達のなかでは、ほぼ共通した見方であったと思います。

今夏は外交・軍事系の米国誌サイト『ナショナル・インタレスト』や『ディプロマット』でも日本の財政と経済の悪化を取り上げていました。

「アベノミクスが岐路に立っている」このいま、今回の記事の<第3節>では極東アジアの中の日本の置かれた状況を、ロシア、米国、中国との関係から見てみました。


    【1】 ロシア極東での大軍事演習

ロシア軍は9月19〜25日の間、ロシア極東で今年最大規模の軍事演習「ボストーク2014」を実施しました。
「ロシアは最近、軍事演習を活発に行っている。極東では、北方領土と千島列島で8月中旬、千人以上が参加した演習を実施」(9月19日 朝日)。

このニュースはプーチン大統領の今秋の来日が取り沙汰されている最中であったので、北方領土を抱える私たちのなかにはロシアの目的について疑問を抱いた人も多かったのではないでしょうか。

「北極圏から極東ロシア沿岸地域に至る広大な地域」でのこの演習の詳細は、下記の防衛省のホームページにまとめられています。地理的な図や兵器の全容が参考になると思います。

大規模演習「ヴォストーク2014」について (防衛省)
http://www.mod.go.jp/j/approach/surround/pdf/rus_ex_boctok2014.pdf

この防衛省の資料では実施内容についての記載は詳細なのですが、この大規模演習の狙いや目的については書かれていません。強いてあげれば、「2014年に実施されてきた一連の演習・訓練の総決算的な位置づけ」とあるだけです。

この「今年最大規模の」ロシアの軍事演習については海外シンクタンクや軍事メディアが注目しています。

ジェームズタウン財団のパベル・フェルゲンハウアー氏は、「ボストーク2014」はもっぱら米国との戦争のために準備した軍事演習であったということです(「ほぼ間違いなく」と同氏は言っています)。

“Arguably, Vostok 2014 was exclusively a preparation for war with the US.”


高緯度地域にあるロシアに米国が攻撃をかける場合、ロシアの極東地域がその広い玄関口となるため、アナドゥイリ(アラスカ対岸)からカムチャッカ地方、サハリン州、ウラジオストクまでの沿岸と、東部軍管区内の地上・海上・空中の演習場20カ所以上が演習実施地域となるのです。

朝日新聞はこの軍事演習を「今年最大規模」としましたが、ロシアのショイグ国防相は、「ロシアの歴史の中で最も大きな軍事演習、冷戦時代の間のどの軍事演習よりも大規模である」と言ったそうです(ジェームズタウン財団前出記事)。

フェルゲンハウアー氏の記事によれば、「ボストーク2014」の作戦シナリオでは、千島列島をめぐる北方領土紛争のケースも想定し、日本の同盟軍であるアメリカ軍の攻撃と介入に備えています(報道によれば)。

この演習でロシア軍は、米国の空軍、海軍、そして北極からウラジオストックまでの沿岸からのアメリカ軍の上陸を想定しています。

9月17日に「ロシアの長距離爆撃機2機を含む軍用機6機がアラスカ付近の米国の防空識別圏(ADIZ)に入り、米国のF22戦闘機が発進していた」ことが明らかになり(9月20日の報道)、「18日にはロシアの長距離爆撃機2機がカナダの防空識別圏に入った」ことが北米航空宇宙防衛司令部から発表されています(軍用機は特に問題を起こすことなく同空域を出ています)。

ロシア軍機6機、米防空識別圏に入る カナダにも2機 (9/20-2014 AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3026515

AFPの記事では、この事件と「ボストーク2014」(9月19〜25日)との関係は不明としていますが、先ほど述べたように、フェルゲンハウアー氏は「ボストーク2014」はもっぱら米国との戦争のために準備した軍事演習であったと指摘しています。


    【2】 プーチンは停戦を遵守するか

「ボストーク2014」軍事演習の2週間ほど前、親ロシア派は9月5日にウクライナ政府と停戦に合意しています(この停戦は一時的なものでしょう)。

そして10月に入り、戦略上の要衝であるドネツクでは政府軍と親ロシア派の間で激しい砲撃戦などが起こり、「今後、戦闘が再び激化するのではないかという懸念が出ています」。

ウクライナ 停戦が事実上破綻 戦闘激化懸念 (10/03-2014 NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141003/k10015082121000.html

ウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力の戦闘は、米国とロシアの代理戦争です。
プーチンはこの先、どのように動くのでしょうか。

戦略国際問題研究所のアンドリュー・クチンス氏ら(ロシアが専門)は、それが不透明であるとした上で、次のように述べています。


(抄訳開始)
ロシア政府はこの紛争で、ドネツク州とルガンスク州の特定地域に付与された「特別の地位」以上のものを目的にしている。ロシアはウクライナがNATOメンバーにならないという保証がほしい。

ロシアのより大きなプロジェクトは、「ノヴォロシア」と呼ばれる帝政時代の領土を再現することだ(※訳注-ノヴォロシア:18世紀末にロシア帝国が征服した黒海北岸部地域を差す地域名)。

「ノヴォロシア」にはドネツク州とルガンスク州ばかりでなく、ロシアが占領したクリミアやウクライナ南部や東部のほかの地域、係争中のモルドバ共和国のドニエストル地域などが含まれる。

プーチンは数多くの場で「ノヴォロシア」の復興をほのめかしてきた。「ノヴォロシア」の復興はまだ中途半端である。

プーチンは、国民に国家主義的な感情をかき立て、ウクライナへの介入の国内支持を集めるために「ノヴォロシア」のビジョン(構想)を使ってきたので、簡単には「ノヴォロシア」プロジェクトを降ろすことはできないだろう。

とくに、もしウクライナが欧州との統合をより深める方向へ進むとしたら、それはより難しくなる。
(抄訳終了)



9月25日、ウクライナのポロシェンコ大統領は記者会見で、「親ロシア派武装勢力との衝突は『最も危険な』山場を越えたという認識を示し、2020年に欧州連合(EU)へ加盟申請する」意欲を示しました。

ウクライナ大統領、2020年までのEU加盟申請に意欲 (9/26-2014 AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3027086

クチンス氏が指摘するように、EU加盟もプーチンが最も嫌がることであり、これは「ノヴォロシア」のプロジェクトや扇動に火をつけることになります。


    【3】 米国とロシアと中国のはざまで

ここからは視点を極東アジアへ転じて、日本の置かれた状況をロシアを中心にして、米国と中国との関係からも見てみます。

米国の軍事サイト『スターズ&ストライプ』は、オバマ政権の外交・軍事政策にも関与するシンクタンクである新アメリカ安全保障センター(CNAS)のHPにも時々掲載されるウェブサイトです。

その『スターズ&ストライプ』に、最近のロシア軍の日本周辺での活動の活発化について考察した記事がありました。

Russia's Pacific activity: A show of force or something more? (9/09-2014 Stars and Stripes)
http://www.stripes.com/news/russia-s-pacific-activity-a-show-of-force-or-something-more-1.301797

この記事は最初に、今年4〜7月の間の、ロシア軍用機の200回以上の日本領空への異常接近と、8月中旬に千島列島で千人以上が参加したロシアの軍事演習を問題にするところから始まります。

この中で、慶応大学の神保謙准教授がこう言っています(神保氏はキヤノングローバル戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員などを兼職)。

『頻繁なロシア軍機へのスクランブル発進の必要性が高まると、自衛隊の戦略的シフトが非常に困難になる。
中国がロシアのこの動きを大いに歓迎することは間違いがない。なぜなら、この動きは日本の焦点を確実に北へ向かわせるからだ。』

そして、ランド研究所の東アジア情勢の専門家スコット・ハロルド氏は、この記事の中で次のように言っています。

『ロシアの頻繁な領空接近はアメリカの利益にもなる。なぜならロシアの頻繁な領空接近は日本とロシアの関係を必ず緊張させ、日本政府をアメリカの国益に合致する方向で緊密に米国の方へ動かすからである。』

The flights also benefit the U.S., Harold said, because they are sure to strain relations between Japan and Russia and move Tokyo closer in line with U.S. interests.

集団的自衛権の容認については、アーミテージ・レポートや安保法制懇の報告書を見ても<ロシアの脅威>については書かれていません。その多くが基本的に中国と北朝鮮を想定して構想が作られています。

日本に対するロシアの脅威は、中国との関わりのなかで下記の私の記事にまとめてあります。

北海道を狙うプーチンと中ロの秘密同盟 (7/28-2014 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/38890251.html

「ボストーク2014」の大軍事演習では、ロシアは米国を相手に派手で大掛かりな演習で米国を威嚇しました。ロシアは中国同様、核兵器超大国です。このようなプーチンの流儀を前に、米国は果たして日本を守ってくれるでしょうか。


      (了)

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中ロ印の三国によるアジアの地殻変動−米国パワーの衰退−

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※ ベトナムをめぐる中ロ印の関係、中央アジアでの中ロ関係など中ロ印の三国関係は必ずしも一枚岩ではないようです。


【◆◆以下は有料メルマガ9月25日号で記事にしたものです】


     中ロ印の三国によるアジアの地殻変動

      −米国パワーの衰退−


【目次】
【序】 マラッカ海峡と中印の協力体制
【1】 中国・インド=ロシアのエネルギー統合
【2】 中ロ印によるアジア統合
【3】 中ロ:同盟責任のない同盟パートナー


    【序】 マラッカ海峡と中印の協力体制

いま日本のマスコミや欧米のマスコミでは「イスラム国」(ISIS)の報道が半ば一色でされています。欧米で中東のイスラム国の報道が大きく取り上げられるのは、欧州圏と中東イスラム圏が隣接していること、イスラム・テロ組織と米国と欧州が敵対していること、NATO諸国と中東イスラム圏が隣接していることが背景にあります。

日本も中東には石油・ガス輸入を大きく輸入依存してるので、マスコミ報道がそこへ集中するのはそれはそれでいいのですが、欧米マスコミが追いかけている話題をさらに日本のマスコミが後追いしているだけで、アジア圏や東アジアから世界を見る視座に欠けているように思えます。

いま、アジアではこの記事の題名にあげたような「中ロ印の三国によるアジアの地殻変動」が起こっています。

オバマ大統領がイラクやシリアへの空爆を掲げ、米国の力をアピールしているのは、11月初めの中間選挙が間近に迫っているのがその半分の理由で、低迷する支持率で身内の民主党内からも圧力がかかっているのです。

そもそも専門家達も(マスコミでさえ)、米国のこの行動は戦略的に勝算がまるで立たないことを指摘しています。オバマ政権は予想を上回る大規模攻撃を開始しますが、その効果はマスコミでさえ非常に疑問視しています。中間選挙が間近に迫っているので、派手な爆竹を鳴らして米国民の気をそらしているようなものではないでしょうか。

イスラムテロ組織との戦争には、停戦合意も講和条約の締結もありません。永遠なる「モグラ叩き」ゲームのようなものです。

これは9.11テロが起こる以前からもう15年以上も前から言われている事ですが、イスラムテロ組織との非対称戦は、テロを生む政治的・社会的構造(土壌)が大きな原因となっており、そこの是正を政策的に行っていかななければ、撲滅しても撲滅してもテロ組織はゾンビのように大量発生を繰り返します。

そして、欧米の政治家と中東のその友好国が、このように中東で永遠なる「ゾンビ叩き」をしている間に、現在ユーラシア大陸のアジアでは中国、ロシアとインドの三国を中心とした協力体制が着々と築きあげられています。

中国とロシアの二国間の協力体制については6月の有料メルマガでお伝えしましたが、この中ロ勢力にインドが取り込まれる動きが出てきました。

インドと中ロの結びつきが強くなることは、私たち日本の中東石油や物資のシーレーン確保に対して安全保障上の大きな問題・支障が出てくるという事です。

「アメリカ国防総省がまとめた『2025年の世界』という予測の中では、米国軍が東シナ海、西太平洋、南シナ海、そしてインド洋から兵力を引きあげるため、大きな軍事的変動が起きると予測している。」(日高義樹著 『アメリカの大変化を知らない日本人』 2014年2月刊)

そしてこの国防総省の予測では、米国海軍の引きあげとともに、中東から東アジアへのびる「シーレーンの確保に中国とインドが重大な役割を果たす」ようになり、インドと中国の同盟体制が確立することになる」とされているそうです。

同予測では2016年以降、インドネシアのイスラム勢力が暴動を起こし、マラッカ海峡やロンボク海峡の閉鎖を行うと見ていますが、それに「中国とインドが積極的に介入し、インド海軍がマラッカ海峡までを制圧する」とされているそうです。


    【1】 中国・インド=ロシアのエネルギー統合

インドは9月12日、中国、ロシアが主導する上海協力機構への加盟を申請したと発表しました。


上海協力機構 インド加盟申請 中ロ、欧米対抗狙う (9/13-2014 日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM1201M_S4A910C1FF2000/

インド外務省は12日、中国、ロシアが主導する上海協力機構(SCO)への加盟を正式に申請したと発表した。近く、加盟国と具体的な交渉を始める。中ロはインドを取り込むことで、地域安全保障などでのSCOの発言力を高め、欧米への対抗軸をつくることを狙っている。一方、インドは日米を含めた「全方位外交」を進めており、中ロとは思惑の違いもある。



日経は、インドは「全方位外交」をとっていると言っています。ほかの記事でも日経は「等距離外交」の見方をしていますが、果たしてどうでしょうか。

8月12日のイタル・タス通信(ロシアの国営通信社)によれば、ロシアはウクライナ制裁のなかでインドとの貿易関係の強化と多様化を計画しており、両国は実行可能な多数の長期プロジェクトを持っているといいます。

その中でも両国関係を強化すると思われるのが、ロシアからインドへのガス・パイプラインの建設です(アルタイ・ガス・パイプラインの拡張)。これは今活発な交渉が行われていますが、6月24日のイタル・タス通信からすると、7月のBRICSサミット(ブラジル)ですでに話し合われていたようです。

このパイプラインはロシアから中国を経由してインドへ建設されますが、中国経由が可能になったのは、今年5月のロシア-中国間の30年間のガス供給の契約で、中国とロシアの協力関係が格段に高まったことが下地にあります。

またトルクメニスタンの天然ガスを、アフガニスタンを横断してパキスタンとインドへ運ぶガス・パイプライン・プロジェクトの交渉でも、ロシアとインドは関与しており話し合いが行われているそうです。

国連によればインドの人口は2028年までに中国を抜き、世界1位の15億人となり、その後も増え続けると言います。インドにすれば国家の存亡に影響する、非常に魅力的なエネルギー・プロジェクトです。


He said that the two countries were engaged in active negotiations about extending the Altai gas pipeline from Russia through China to the Indian border, and about building a pipeline to carry Turkmen natural gas across Afghanistan to Pakistan and India, known as the Turkmenistan-Afghanistan-Pakistan-India (TAPI) gas pipeline project.

Russia, India to bolster trade ties amid Western sanctions (8/12-2014 イタル・タス通信)
http://en.itar-tass.com/russia/744704


「ロシアの欧州と西側諸国に対する相対的に経済的な優位が、石油・天然ガスの供給を第一の理由としてきたのと全く同じように、<アジアにおける戦略的統合はエネルギーによって左右されている>。」

これはロシアとユーラシアが専門のアンドリュー・クチンス氏(戦略国際問題研究所:CSIS)の見解ですが、「ロシアのアジアへの旋回」は中国に加えて核大国でもあるインドへも重心を移してきました。


    【2】 中ロ印によるアジア統合

中国という国は、世界戦略的な長期的ビジョンに基づいて、黙々とプロジェクトを推進させていく国です。反欧米的な国際秩序建設のリーダー的存在でした。
ところが、ウクライナ危機以降は、反欧米的な国際秩序の建設でプーチンの非常に精力的な行動が目立ってきています。

これについては、戦略国際問題研究所(CSIS)の「比較と関係」シリーズから「中国-ロシア関係」のレポートが9月15日に出ており、そこでまとめて述べられています。
この著者は東アジアが専門のユー・ビン氏で、6月の有料メルマガでも紹介しましたが、2013年1月のレポートで、早くから「ロシアのアジア・シフト」を指摘していた人です。

Comparative Connections v.16 n.2 - China-Russia (9/15-2014 戦略国際問題研究所 PDFファイル)
http://csis.org/publication/comparative-connections-v16-n2-china-russia

このレポートによると、5月以降からのウクライナ騒乱とは別に、中国とロシアの関係はこの4か月間で急速な動きで進んでおり、5月下旬の30年間のガス契約に署名する一方で、5月20-26日の東シナ海での中ロ共同軍事演習、上海ではアジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)が開催されました。

さらにロシアと中国は、500億ドル(自己資本)のBRICSの開発銀行と1000億ドルの準備基金の設立を中心になって進めてきました。この設立の発表は7月のBRICSサミットでした。これはIMFと世界銀行が資金不足で融資を受けられない途上国の、不満や苛立ちを吸収する狙いもあります(ユー・ビン氏)。

前述の8月12日のイタル・タス通信の記事の中で、ロシア科学アカデミーのインド研究センター所長のタチアナ・シャウミャーン氏はこう言っています。

「欧州と米国が経済的圧力をロシアにかけてくる時に、BRICSを構成するブラジル、ロシア、インド、中国などの国の集まりのなかで、ロシアが協力協働することは著しく重要である」

またウクライナ騒乱後のロシアにとってみると、上海協力機構(SCO)の存在も今まで以上に重要になってきています。この数年SCOの軍事演習の規模は縮小傾向にありましたが、8月24-29日の共同軍事演習は過去最大規模で行われました。

8月28日の『ディプロマット』誌によれば、ロシアのマスコミは最近、上海協力機構への関心のなかにロシアの復活・再起を見い出すようになっており、国営通信社RIAノーボスチの8月の論説では、上海協力機構のことを「新しく西側(欧米)に代わるもの」(“A New Alternative To The West”)と呼んでいるそうです。

Russia and the SCO Military Exercises (8/28-2014 ディプロマット)
http://thediplomat.com/2014/08/russia-and-the-sco-military-exercises/

前述のユー・ビン氏のCSISのレポートを読むと、プーチンは私たちが想像する以上にロシアの現在と今後の経済的基盤の構築に力を入れ、経済戦略をめぐらしていることがわかります。

プーチンが5月下旬に上海で習近平と首脳会談した際には、上海協力機構の議題のほかにユーラシアの統合、ロシア-中国-インドの三者間対話、「新シルクロード経済ベルト」の構想なども話し合われました。

二人はこのほかに、東アジア共同体の創設を視野に入れた「東アジアサミットやASEAN地域フォーラム、APEC,CICAなどの多国間フォーラムでも協力し合うだろう」とユー・ビン氏は述べています。

Other projects either jointly or singly managed by Moscow and Beijing – such as the Shanghai Cooperation Organization (SCO), Eurasian integration, Russian-China-Indian trilateral dialogue, New Silk Road Economic Belt – were also discussed. The two also would work together in other multilateral forums such as the East Asian Summit, ASEAN Regional Forum, APEC, and CICA.

日本も、当てにもならないような米国のオバマ政権にぶらさがり、円安による輸出成長モデルが壊れた「アワ(泡)ノミクス」などをいつまでも頼りにしていると、いつのまにか東アジアのなかで、中国とロシアの属国になりかねないと私は危惧しています。

下記にウィキペディアからSCOとCICAのリンクを張っておきました。加盟国を色分けした勢力分布図(地図)が掲載されているので参考にしてください。




    【3】 中ロ:同盟責任のない同盟パートナー

このほかにユー・ビン氏のレポートでは、プーチンが4月と7月に、中国との関係について「軍事的にも政治的にもいかなるタイプの同盟も築く計画はない」と発言していることを挙げ、これはプーチンが、「そのような同盟(という概念)は時代遅れになった」と考えているからだと説明しています。

これと同じ意味を表わすものとして、ロシア大統領府長官のセルゲイ・イワノフが7月に北京で発言した言葉をあげ、「多大な中国との協力にもかかわらず、ロシアと中国は<同盟責任のない同盟パートナー>である」と取材記者に答えたことをあげています(PDF8〜9ページ:下記に引用)。

これは軍事的・政治的な同盟責任がない同盟パートナーであることを示し、ある意味、状況次第では非常に柔軟で自由、かつ強力な同盟関係になります。

In a press interview in late April, Putin said that Russia and China had no plan whatsoever to build any type of military and political alliance. This was because such an alliance had become outdated. He reiterated this in his talk to Russian diplomats at the seventh conference of Russian ambassadors on July 1. Ten days later, Ivanov told reporters in Beijing that despite fruitful cooperation with China, “I do not see any significance for a new military alliance with China, and China, too, also does not see any significance,” and “Russia and China “are alliance partners without alliance responsibilities.”


      (了)

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張 良

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執筆予定 2019.8.20 記
『国際情勢の英文サイトを 本業の片手間に読むテクニック』

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