『国債市場は先物から崩れる』ーヘッジファンドの「日本売り」はいつ来るかー

上:日本国債先物の推移(※ 週足(「W」)表示)
http://www.investing.com/rates-bonds/japan-govt.-bond-advanced-chart
下:ドル円チャート
http://finance.yahoo.com/q/bc?s=USDJPY=X&t=5y&l=on&z=l&q=l&c=

◆【この記事は、4月24日にメルマガで配信された以下の題名の記事を掲載しています】
http://www.mag2.com/m/0001627731.html

     
     円の動きは国債暴落の最初の兆候になる

      ―カイル・バスのインタビューから(米CNBC)―

【目次】    
【1】 円の動きは国債暴落の最初の兆候になる
【2】 国債市場は先物から崩れる(円と先物国債の値動き)

     【1】 円の動きは国債暴落の最初の兆候になる

日経平均株価の4月第2週の週間ベースの下げ幅は、リーマンショック後の2008年10月以来最大となり、1,103円下がりました。これは主にウクライナ情勢の緊迫化などが理由です。

この時の株価と国債利回りについて「日本国債売り」で知られるカイル・バスは、興味深いことを4月15日に米CNBC放送のサイトで述べています。

カイル・バスについてはネットで、「日本国債の金利は全然上昇していない、今までの予想は全部外れているぞ」などと揶揄するも人たちもいます。カイル・バスが日本国債のネガティブ・ベット(賭け)で2011年から2012年の間に巨額の損失を出し失敗していたのは、大きな円安トレンドがまだ来ていないのが原因でした。

カイル・バスたちが狙っている「大きな円安トレンド」は、まだ来ていません。

円安は、安倍政権を誕生させた総選挙の前の2012年10月から急ピッチで始まりました。しかし2013年5月22日のバーナンキ元FRB議長のQE縮小示唆の発言以降、円安速度は鈍化し、2014年に入ると円安トレンドは止まり、2月からは102円前後で停滞しています。これはチャートを確認してもらえればわかると思います(2013年5月は長期金利が乱高下を起こした「5.23ショック」が起きています)。

カイル・バスたちの「日本売り」ヘッジファンドが狙っているのは、それ以上の大きな円安トレンドです。

IMFは4月8日の世界経済見通しで、これまでの日本経済に対する好意的な評価を改め、アベノミクスに警告を始めました。IMFのチーフエコノミスト、オリビエ・ブランシャール氏は、「日本の財政問題が現実的な問題になり、投資家の信頼はいずれ消え失せる可能性がある。これが日本国債の利回り急騰となって表れ、混乱が生じうる」と語りました。

IMF、今年の世界成長見通し下方修正―日本には警告(2014/04/09 ウォールストリート・ジャーナル)
http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304364704579489972053887530.html

ついにIMFのチーフエコノミストが日本国債の利回り急騰と混乱に言及し、カイル・バスの観測スタンスに近づいてきました。4月15日CNBC放送でのカイル・バスへのインタビューは、米国の金融・投資サイト『バリュー・ウォーク』でも取り上げられています。

Why Japanese bonds look ‘terrible’: Kyle Bass (2014/04/15 CNBC)
http://www.cnbc.com/id/101584588

Kyle Bass Notes Japan’s Debt Crisis Crash (2014/04/15 ValueWalk )
http://www.valuewalk.com/2014/04/kyle-bass-notes-japans-debt-crisis-crash/

米国の金融・投資専門チャンネルであるCNBC放送には、時々日本国債がらみでカイル・バスが出演しますが、CNBCはバスのことを「日本経済の最大の批評家の一人」と言っています。

この記事のなかでカイル・バスは日経株価の4月第2週の大幅な急落について、1,100円もの株価の急落に対して国債市場での利回りがほとんど動かなかったことに注目しています(先物国債144円80銭~145円10銭、長期金利6.0~6.5)。

これまでは株が買われると国債は売られ(利回りは上昇)、株が売られると国債は買われる(利回りは下落)のがパターンでした。カイル・バスは次のように言っています(私が一部を補い要約してあります)。

「4月第2週の大幅な株価急落では、国債市場での「質への逃避」(flight to quality)が起きなかった。国債市場は何も変化しなかった。1,100円という大きな急落を考え合わせると、日本国債はかなり酷い演じ方をした。この先、何かが起こる。」

… Kyle Bass noted Friday’s swan dive in the Japanese Nikkei did not produce a corresponding flight to quality in the Japanese bond market, as one might expect. Japanese bonds “are acting pretty terrible in light of their equity market,” Bass said in the interview. …Japanese bond market hasn’t gone anywhere,” Bass said, … So we’ll see what happens.”

バスの話は現物国債市場を左右する先物国債市場で考えると、よりわかりやすいと思います。バリュー・ウォーク誌の記事の執筆者の説明を加えて、バスの見方をまとめると次のようになります。

1,100円の株価の急落では、円は2円以上の円高になった(104円から101円60銭へ)。この<円高>が(先物)国債価格の下落を防ぐ「逃がし弁」(escape valve)になっている。問題は、この円が「逃がし弁」としての機能を(いつまで)果たせるかどうかだ(… whether the yen can serve as an “escape valve.” )。

金利と通貨ではどちらが最初に破裂するだろうか? 1国の通貨の動きは、債務危機での暴落の最初の明確な兆候になるだろう(V.W.執筆者)。「通貨の円が国債よりも前に動くだろうと私たちは考える」とカイル・バスは言った(※ 後注)。

この<円>という「逃がし弁」(escape valve)については、日銀の大規模緩和策が直接的に働いている現物国債よりも、先物国債で考えてみてから現物国債に当てはめてみるとわかりやすいと思います。

     【2】 国債市場は先物から崩れる

円の動きを2012年10月位から追ってみるとわかりますが、米国FRBの金融政策の予想、国際情勢や世界経済の動きによって円が「安全通貨」として買われ、円高傾向になる時期があります。そしてその時期は、2013年4月の「異次元緩和」の発表以降、意外に長い期間に及ぶのです。

2013年のFRBの金融政策の影響のほかに円高要因になった出来事を挙げると、同じ年の米国のデフォルト騒動(政治劇)、今年に入ってからの新興国経済の動揺、そしてロシアによるウクライナ危機が挙げられます(ロシアは2月26日には軍事演習を行っています)。

このように円が「安全通貨」「資金の逃避先」となる状況が、海外経済や国際情勢のなかで頻繁に起こってきたので、そのたびに円が円高方向へ振れ、それとセットで先物国債が買われてきたのです。

2013年4月4日に黒田日銀が決定しそして始めた大規模な金融緩和以降、この間の大きな円安トレンドの期間では先物国債が売られ、債券安のトレンドが円安トレンドと同時に起きています(大規模金融緩和以前は、必ずしもそうではありません)。

日本国債先物の推移:チャート(Investing.com)
http://www.investing.com/rates-bonds/japan-govt.-bond-advanced-chart
※注:「週足」(「W」)表示がわかりやすいと思います。

米ドル/円チャート(ブルームバーグ)
http://www.bloomberg.com/quote/USDJPY:CUR/chart

2013年5月の10~15日、そして5月23日の日本国債の現物債の金利(長期金利)の大きな乱高下(「5.23ショック」)は、海外投機筋の売買による先物国債が主導していました(下記記事参照)。

「23日の市場の動きと今後への不安」 (2013/05/25 久保田博幸-Yahoo!ニュース)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kubotahiroyuki/20130525-00025192/

円安の進行に合わせて海外投機筋が先物国債を売ろうとしていたところへ、海外経済と国際情勢の変化で「安全通貨」の円を買うことになり、それと一緒に先物国債は買われてきました。
つまり先物国債が売り込まれるのを、円が買われること(円高)で防いでいたのです。これがカイル・バスが言った「円が逃がし弁として機能している」という意味です。例えてみれば、心臓の「弁」が血液の逆流を防いでいるように、円が買い戻されることで先物国債の価格が下落するのを防いでいたのです。

東京証券取引所が公表する「投資部門別 国債先物取引状況」によれば、海外投資家による2014年3月の取引シェアは65.04%です。驚くべきことにこの数字は、前月の2月の47.96%から急速に上昇し、過去最高を記録しています。

国債先物取引・国債先物オプション取引(※ H26/05/23 大証サイトへデータ掲載が移動しています)
http://www.tse.or.jp/market/data/sector/index.html

心理的には円安がだいぶ進んだ感覚がしますが、数値で見れば日銀の昨年4月の大規模緩和から今日までの円の下落は3円程度で(99円→102円)、2012年10月を起点として大幅に進んだ円安の87%は、実は<期待で>急速に売られていた2013年4月の大規模緩和発表の以前に進んでいました(2012年10月~2013年3月まで)。
つまりカイル・バスたちにとって、2013年4月の大規模緩和以降の円安は、まだまだ下落幅が少ないのです。

(¥78 – 12/10/1, ¥99 – 13/4/4, ¥94 – 13/6/14, ¥100 – 13/11/12,
  ¥102 – 14/4/24 )

今後の日本の金融市場に影響を与える3つのイベント、

(1)2014年度の経常赤字、もしくは経常黒字の大幅縮減。
(2)GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の6月にも始まる
  株式運用比率の拡大の進展。
(3)早ければ7月とも見られている日銀による追加緩和

これらによって引き起こされる<円安>への大きな波をカイル・バスたちの「日本売り」ヘッジファンドは狙っています。

      (了)