米国上層部は中国経済を「危機的状況」とは見ていない

上のグラフは、2012から2016年(2016年は推定値)の春節(旧正月)期間中の中国人の旅行者数(国内外合計)を表すもので、旅行の数が左軸(延べ百万人回)、その増加率(前年比)が右軸になります。

このグラフは米国の米中経済安保調査委員会が毎月発行している、中国経済についての3月4日付けのレポートからのものですが、2012年以降、中国人の旅行への消費総額が年々増えている事が窺えます。

中国国家観光局は2016年の国内個人旅行の数が前年比で15.7%増加し、3億200万人回に達すると推定している。また春節期間中の国内旅行は、2012年以来2桁台で増加している。生活水準の向上と旅行者インフラがこの傾向を速めている。

MARCH 2016 ECONOMICS AND TRADE BULLETIN (米中経済安保調査委員会 March 4, 2016)
http://origin.www.uscc.gov/Research/march-2016-economics-and-trade-bulletin

このところ東京などでの中国人観光客の爆買いがよく報道されますが、こうした爆買いは、米中経済安保調査委員会などが指摘しているように、近年の中国人全体の生活水準の向上を反映しているものと言えるでしょう。爆買いの背景としては中国人の所得が増えていることもニュースなどで挙げられています。

以上のことは中国経済の状況の一例ですが、中国経済の現状をポジティブに評価する見方は、ドイツ銀行のそれなど最近のニュースでも少数派ですがあります(下記リンク記事)。

中国経済の先行きに明るさか、過度に悲観的な見方に修正の動き (財経新聞 2016年3月4日)
http://www.zaikei.co.jp/article/20160304/296575.html

中国経済の専門家スティーブン・ローチ氏は、1月26日付けの「中国についての誤った警報」と題する記事で、中国は、金融市場などでの失敗や問題を抱えながらも、第三次産業への構造転換や都市部での雇用創出で着実な成功を収めており、消費主導の経済モデルへの構造改革が進んでいると主張しています。

False Alarm on China (スティーブン・ローチ JAN 26, 2016)
http://www.project-syndicate.org/commentary/china-crisis-false-alarm-by-stephen-s–roach-2016-01

(ローチ氏は、元モルガンスタンレー・アジア会長。現エール大学ジャクソン研究所シニア・フェロー。)

ローチ氏は中国経済の現状について、「失敗や後退(setbacks)と危機(crises)は同じものではない」と指摘していますが、IMFも、そして米中経済安保調査委員会などや米国上層部の専門家なども、ローチ氏と同じように、中国経済は「失敗や後退が見られるが、危機的状況ではない」という認識のようです。

米国主導のIMFは、中国人民元をSDRの構成通貨と決定しましたが、その事がいま言ったのと同じような中国経済へのIMFの認識をよく表わしています

米国上層部に位置する人物で、中国の通貨問題について権威ある専門家が中国経済と人民元をどのように考えているかという事については、読みかけた文献があるので、近いうちに記事にしたいと思います(英文PDFで何十ページもあるので部分的に読む予定でいますが)。

■関連記事:
IMFは中国の構造改革にポジティブな評価をしている ( 拙稿 2015/9/9)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39592486.html