ムンバイ同時テロは、アフガニスタン戦争での陽動作戦か


   ムンバイ同時テロは、アフガニスタン戦争での陽動作戦か

― ISI 関与説の否定 ―


ニューヨーク・タイムズに11月27日付けで、”India’s Suspicion of Pakistan Clouds U.S. Strategy”(パキスタンへのインドの疑惑は、アメリカの戦略を不透明にする)というコラム記事が掲載された。

http://www.nytimes.com/2008/11/28/world/asia/28diplo.html?bl&ex=1228021200&en=276ae1b71db73654&ei=5087%0A


「不透明」と訳したが、アフガニスタン、パキスタン、インドを包括したアメリカの軍事戦略が、ムンバイの同時テロにより戦略に狂いが生じたという意味だ。

アメリカはパキスタンとインドとの和平を促進させることによって、パキスタン軍の兵力を、インド国境からパキスタン北西部の部族地域へ大幅にシフトさせる戦略でいたが、11月26日に起きたムンバイ同時テロで、印パ関係が悪化する懸念が高まってしまったというのが記事の大意だ。


すでにアメリカの民間の分析機関「ストラトフォー」の報告は、


>>この事件が「2002年以来の印パ関係で、最悪の事態を招く可能性」を指摘し、すでにインド議会の関係者から、カシミール地方のインド軍守備兵力の増強を求める声が高まっているとしている。(11月29日 産経)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081129-00000525-san-int


つまりテロにより、インドでカシミール地方の軍事的緊張が高まれば、アメリカのアフガニスタン戦略は大きな打撃を受けることになる。


オバマ政権の南アジア・アドバイザーであるB.ライデルの著書 “The Search for Al Qaeda” によれば、犯行グループとして浮上しているイスラム過激派組織「ラシュカレトイバ」は、ビンラディンとパキスタン情報機関が、インドのカシミール支配に対抗するため1980年代後半に創設したとされる。


冒頭のNYタイムズの記事ではこの事を述べると同時に、パキスタンの三軍統合情報部(ISI)による関与の有無がこのテロの重要点であり、それ次第では2002年のような印パ危機が予想されるとの米当局者の見方を取り上げた。

この記事の表現としては、ISIの関与をほのめかしており、産経新聞などがNYタイムズのこの指摘をそのままに掲載している。


親米国家の方向へ歩みを進めているアフガニスタンと、先月10月の米印原子力協力協定の調印で明確に親米路線を打ち出したインドの2国に囲まれたパキスタンのISIには、インドへのテロを計画してもおかしくはない動機は十分にある。インド国内での過去における数々のテロ事件でもインドからその関与を指摘され、最近では7月にカブールのインド大使館前で外交官60人が犠牲となったテロ事件でISIの関与が疑われている。


しかし、9月中旬におきたアメリカ発の世界金融恐慌でパキスタンは経済財政破綻し、11月中旬にはIMFから支援される事が決まるような経済状態だ。今回の200人の死者を引き起こすようなテロをISIが計画し関与したとして、それが2002年のような印パ危機に発展することを想定した場合、財政破綻状態でのパキスタンの軍事的敗北は容易に予想される。


>>ニューヨーク・タイムズは29日に、「パキスタン政府の対応が遅れれば、インド軍がパキスタン国内にある武装勢力の拠点を攻撃する可能性もある」と報道している。(11月30日 産経)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081130-00000029-san-int


今後の捜査を待たなければならないが、結論を言えばムンバイ同時テロにおいて、ISIによる関与は、9月以降のパキスタンの経済恐慌の状況下で可能性は低く、むしろアメリカ軍とNATO軍によるアフガニスタンでの軍事行動に対する、アルカイダの陽動作戦と考える方が妥当ではないか。


冒頭のNYタイムズの記事の最後では、パキスタンのカラチ大学の Moonis Ahma 氏の、有効な対処策が取られない場合、インドとパキスタンとの間のアメリカの和平政策は失敗に終わるとの見方を述べ、「(ムンバイ同時テロは、インドとパキスタンの)2国間の関係を不安定にさせる、考え抜かれた陰謀だ」と Ahma 氏の言葉で締めくくっている。


「陰謀」の首謀者がアルカイダであるとすれば、確かに考え抜かれている。