在韓米軍の空洞化とアフガニスタンへの戦力シフト



          ― オバマ政権の北朝鮮政策 ―





ワシントンの日高義樹氏の『不幸を選択したアメリカ』という著作が2月に出された。以下はそのレポートの、オバマ政権の極東戦略に関する章の一部を要約的に記した。



2008年12月、アメリカ軍は韓国の李明博大統領との取り決めを破り、アパッチ・ヘリコプター1個大隊をアフガニスタンの山岳地帯へ移動させるために、韓国から引き揚げ始めさせた。オバマ政権への留任が決まったゲイツ国防長官のもとで行われた。共和党のゲイツは、民主党保守勢力から強い支持を受けている政治家だ。



アメリカの著名な軍事専門家ロバート・キーガン少将は、このアパッチ・ヘリコプター1個大隊の撤退により、「韓国の北朝鮮に対する防衛能力は著しく阻害されることになる」と述べている。このほかにも米国防総省は、ソウルの近くのキャンプ・ハンフリーから最新鋭のヘリコプター部隊を引き揚げさせており、戦車部隊の主力部隊も既にイラクへ移動、現在の在韓米軍の戦闘能力は空洞化しているという。今後もさらに、多数の第一線部隊がアフガニスタンへ移動する計画だそうだ。



現在2万8000人とされている在韓米軍の半分以上が、アメリカ本土とのローテーション形式の駐留であり常時駐留ではない。このローテーション駐留は、2008年4月のブッシュと李明博の米韓首脳会談のあと、大筋が決定された。



軍事専門家キーガン少将は米雑誌『ウイークリー・スタンダード』で、「オバマ大統領の戦略はアジアのアメリカ軍をできるだけ減らすことだ。アジアでは戦闘をしないという姿勢を北朝鮮や中国に示そうとしている」と述べているという。



在韓米軍をアフガニスタンへ大幅にシフトするという計画を、最も強く支持するアメリカ陸軍のピート・ゲーレン陸軍長官は、アフガニスタンでの戦闘強化のためには、アメリカの陸軍兵力として7万4000人の増派が必要だと報告している。彼は「早急にアフガニスタンのアメリカ軍を強化する場合には、在韓米軍を転用する以外にない」という意見であるが、国防総省、アメリカ軍上層部の戦略専門家もほぼ同じ考え方だそうだ。



ただ日高氏によれば、国防総省・アメリカ軍上層部がアフガニスタン・中東重視による「朝鮮半島切り捨て」の立場に立つのに対して、民主党の軍事専門家の多くは、北朝鮮には38度線を越えて韓国を攻撃する能力はないという見方をとっているのだという。



(日高氏の著作の要約はここまで)



現時点で、仮に北朝鮮には韓国へ侵入・攻撃する能力はないとしたところへ、在韓米軍の戦闘能力縮小を行えば北朝鮮が一転して有利に転ずる。2万8000人の頭数を揃えておけばいいという問題ではない。



イラク戦争によりアメリカの北朝鮮政策は後期ブッシュ政権で後退し、オバマ政権に入りアフガニスタン戦争のため在韓米軍の大幅な戦力縮小が始まっている。

オバマは、テロリスト(アフガニスタン戦争)以外とは「緩やかな制裁措置」を伴う対話路線の外交政策を推し進めるようだが、この政権の4年間で、



「イランと北朝鮮は核兵器と<核>弾道ミサイルの開発を大きく推進させ、世界を大混乱させることになるのは明らかだ。」(日高氏)









    ◆ 国務長官ヒラリーの外交的資質





次に国防総省、アメリカ軍の動きから目を転じて、国務省トップであるヒラリー・クリントンの資質について考えてみたい。



オバマ大統領は、北朝鮮の4月5日の「テポドン2号」と見られるミサイル発射を受けて、



「プラハ市内での演説で『違反は罰しなければならない』と述べ、強力な国際社会の対応が必要だと訴えた。大統領は、北朝鮮によるミサイル発射問題の安保理提起に向け、クリントン国務長官とライス国連大使を通じ、日韓両国や安保理メンバーとの協議に直ちに着手した。」(4月5日 時事通信)



オバマ大統領は2月下旬に、クリントン政権の国防次官補として1990年代前半の北朝鮮核危機や米朝枠組み合意に関与し、北朝鮮への先制攻撃論を唱えたこともあるアシュトン・カーター米ハーバード大教授を次期国防次官に指名している。カーターは、当時のクリントン政権で北朝鮮爆撃を検討し、作戦立案を指示した。



しかし、既に見てきたようにオバマ政権は後期ブッシュ政権の北朝鮮政策と同様、北朝鮮問題を優先度の低いものとして位置づけている。A.カーターの起用は形式的なものだろう。



クリントン元大統領・ヒラリー夫妻との人脈を持つ、「平和外交主義」のジミー・カーター元大統領(1977-1981)は、クリントン政権時に北朝鮮爆撃作戦に対して圧力をかけ、対話路線に切り替えてしまった。日高氏は前書で、



「それでもクリントン元大統領は、北朝鮮に対してシビアな見方を崩すことはなかったが、ヒラリー国務長官は北朝鮮に対して、カーター元大統領と同じ『融和的』な考え方をしている。彼女の発言からは北朝鮮が核ミサイルを持っても『仕方がない』と考えていることがうかがえる。」



との見方を述べている。



世界の混乱期での「平和外交主義」というのは、軍事力行使の選択肢を自ら封じているために、限界が生じ、「仕方がない」とか、カーター政権のように「努力してみましたが、駄目でした」という結果しか生まない。

外交では未経験者同然の国務長官ヒラリーが、カーター元大統領と同じく、北朝鮮とは対話路線オンリーで任期を終えるのは容易に想像される。







DOMOTO

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