ベトナム戦争が回避されるアフガニスタンは、「タリバン政権復活」へと向かう



         ― 不可解なマクリスタル報告書 ―





>>アフガニスタン駐留のマクリスタル国際治安支援部隊(ISAF)司令官(米陸軍大将)は(8月)31日オバマ政権が対テロ戦の主戦場とするアフガンについて、状況評価を盛り込んだ報告書を北大西洋条約機構(NATO)と米中央軍司令部に提出した。報告書は、「状況は深刻だが成功は可能」として、戦略の主軸を地元の部隊による治安維持に移すことを提言した。(9月1日 産経新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090901-00000580-san-int



>>マクリスタル司令官はガイドラインの中で、米軍や多国籍軍は「ゲスト」にすぎないとし、「駐留軍の任務は地域住民を守ることだ。戦闘の勝者を決めるのはアフガニスタン国民であり、われわれ(アフガニスタン政府と多国籍軍)は地域住民の支援に最善を尽くす。従来の考え方は捨てて、武装勢力の掃討ではなく住民の保護を重視すべきだ」と述べている。(8月28日 AFP通信)

http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2635184/4502105



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マクリスタルISAF司令官(大将)によるこの報告書は、オバマ政権に入りこの半年間で悪化の一途をたどっているアフガニスタン戦争において、アメリカ軍の方法論を180度転換したものだ。内容は非公表となっている。



8月10日付の「ウォールストリート・ジャーナル」紙の特集では、「タリバンは今や勝利しつつある」という見出しの記事で、マクリスタル司令官とのインタビューを掲載し、「アフガニスタンの現状はタリバンが優勢だ」とのコメントをセンセーショナルに引用したそうだ。



「オバマのアフガニスタン戦争はケネディのはじめたベトナム戦争に似てきた」

(8月30日 「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」)

http://www.melma.com/backnumber_45206_4593304/



アフガニスタン戦争のベトナム戦争化は、最近よく指摘されるようになっていた。ニューヨーク・タイムズ紙も「アフガンはオバマのベトナムになり得るか」(8月23日付)の記事を掲載した(ニューヨーク・タイムズのこの記事は、世論、政治レベルでの考察に終始し、アフガニスタン戦線での戦況分析とはなっていない)。

http://www.nytimes.com/2009/08/23/weekinreview/23baker.html



「アジア・タイムズ」では昨年9月の時点で、この戦争がベトナム戦争化するまでもなく、2009年1月には米軍が敗北し、タリバン政権が復活すると予測していた。

http://www.atimes.com/atimes/South_Asia/JI06Df02.html



ゲーツ長官は従来、駐留米軍の存在がアフガン国民に『占領軍』・『侵入者』と受け止められる恐れがあるとして、追加増派には慎重であった。



>>ゲーツ長官は一方で、アフガン国民の対米感情が悪化しつつあることに懸念を表明。「マクリスタル司令官がアフガン国民の保護と民間人被害の防止を重要視していることは注目に値する」と述べ、今後の改善に期待を示した。(CNN 9月4日)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090904-00000000-cnn-int



武装勢力の掃討を重視するのではなく、アフガン政府の治安機関の能力を高めてアフガニスタン国内を安定させるという今回の戦略転換―。

ゲーツ長官の、アフガン市民の市民感情に非常に配慮した多くの発言と、マクリスタル司令官の報告書、そしてマレン米統合参謀本部議長らアメリカ軍首脳の、今回のアフガニスタンでの米軍の戦略の転換には、ベトナム戦争(1965-1975)での教訓が強く働いている(「戦略の転換」というには余りにも成功率が低いと思われるが)。



今年6月に出されたハドソン研究所の日高義樹氏の著書によると、アフガニスタンでの戦争がベトナム戦争化すると考えられる最大の要因は、人口の42%を占めるパシュトゥン民族が、やがて米軍やNATO軍に対してゲリラ兵となって武装蜂起することが予測されるからだと言う。旧ソビエト軍のアフガニスタン侵攻(1979-1989)では、10年間に及ぶ戦争の末、ソビエト軍は敗退を余儀なくされアフガニスタンから撤退した。日高氏によるとパシュトゥン民族は外国の軍隊の占領下に置かれることを「極端に嫌う」歴史があるそうだ。



紀元前4世紀にはアレクサンダー大王に、第1次アングロ・アフガニスタン戦争(1839-1841)でも、アフガニスタンは一度は占領されるが、国内全土でゲリラ兵と化したパシュトゥン族が中心となった大反撃がおきて、アレクサンダー大王は現地で死亡し、イギリス軍は現地から撤退する中でほとんど全滅してしまった。



オバマ政権は2009年3月27日にアフガニスタンでの米国主導の新たな包括戦略を発表したが、翌月4月にパシュトゥン族との協力を試み、あえなく失敗に終わっている。



>>パシュトゥン族の人々は、余りにも厳しい宗教の戒律を求めるタリバンとあまり仲がよくない。この点に目をつけたオバマ政権は、2009年4月に現地でパシュトゥン族の指導者・長老二十数人を集め、莫大な量の贈り物をしたうえ、兵器の提供を約束してアルカイダと戦うことを求めたが、この会議は失敗に終わっている。

http://www.amazon.co.jp/%E3%82%AA%E3%83%90%E3%83%9E%E5%A4%96%E4%BA%A4%E3%81%A7%E6%B2%88%E6%B2%A1%E3%81%99%E3%82%8B%E6%97%A5%E6%9C%AC-%E6%97%A5%E9%AB%98-%E7%BE%A9%E6%A8%B9/dp/4198627525/ref=sr_1_3?ie=UTF8&s=books&qid=1251734965&sr=1-3



今回の戦略転換は、アフガニスタンの国民感情がアメリカ軍を支持しなければ、決してこの戦争には勝てないという、歴史から得た定理がもとになっている。



ベトナム戦争を開始したJ.F.ケネディは、「テロリストだけを相手に戦う。国民と戦うことはしない」と大統領就任時のオバマと全くそっくりなことを言ったが、2人の大統領のこの認識は、基本的な戦略論レベルで、敗北を決定的に意味していた。ベトナム戦争を経験した現在の軍人たちは、「テロリストだけとの戦争」など空論に過ぎない事を知っていた。



前出の日高氏の著書レポートによると、アメリカの軍部は、オバマ政権が軍事力を本格投入するアフガニスタン戦争について、当初から批判的立場を取っていた。

2009年2月8日のアフガニスタンについての米国防総省会議では、ミューレン統合参謀本部議長が、「ベトナム戦争と比較する考え方に同調する事をためらう」と述べたうえで、アフガニスタン戦争の問題が非常に難しいものである事を述べた。ペンタゴンの記者団が得ていた情報によると、「アメリカ軍の首脳は、アフガニスタンに侵攻することに『積極的に賛成しかねていた』」。



日高氏によれば、ベトナム戦争を経験しているアメリカ軍の首脳は、当初からこのアフガニスタン戦争でのアメリカ軍の勝利は不可能だと考えていたが、近年驚くほどサラリーマン化してしまっているアメリカ軍首脳は、辞表覚悟でオバマ大統領に反対意見を進言する気概がなくなってしまっている始末だと述べている。

折りしもブッシュのイラク戦争と2008年のリーマン・ショック以来、アメリカ国民は軍事・外交面で「孤立主義」を貫いている。石油資源のないアフガンの軍事作戦についての米国民の不支持率は、8月末のCNNの世論調査では過去最高の57%に達し、別の世論調査では米国民の半数以上が「戦う価値がない」とアフガン戦争を位置付けている。

また、CNNの世論調査では、



>>この作戦で勝利するだろうと考えている割合は約6割に達し、「負け戦」だと考えている米国人は少なかった。しかし、現在の状況を「勝利」と考えている割合は35%にとどまり、これまで費やした代償に見合う勝利が得られるかどうかについては懐疑的な意見が多かった。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090902-00000009-cnn-int



アメリカ陸軍は、イラク戦争開始時にも陸軍の兵力不足を理由に、開戦に反対してきたが、ネオコン勢力に押し切られた。アメリカ陸軍は、今度のアフガニスタン戦争でも開戦に対して批判的であり、イラク戦争よりも更にハードな戦争になると考えていた。



マクリスタル司令官の報告書提出を受け、今週時点で増派規模についての問題が上がってきているが、この問題についてゲーツ長官は、2009年1月の長官就任以来回答を避けてきた。

アフガニスタンでの駐留米軍は2009年末までに総兵力6万8000人規模になるが、タリバン武装勢力掃討の作戦を続けるためには、20万人規模の兵力増派ではカタがつかないといわれている。ベトナム戦争には50万人のアメリカ兵士が投入され、5万8000人が戦死したといわれるが、ゲーツが増派規模について就任以来明らかにしてこなかったのは、ベトナム戦争並みの兵力人数の公表は、世論の猛反対を受ける事を懸念するがためだろう。



<<続く>>

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/29460317.html