イランによる「ペルシャ湾封鎖」とアメリカのガソリン制裁

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2009年8月、イラン政府は、アメリカがイランに対し経済制裁措置をとった場合にはペルシャ湾を封鎖すると発表した。これ以降、アメリカ政府・議会内でイランへの経済制裁の内容をめぐり模索が行われたが、12月に入り強い動きが出てきた。

「米下院は15日、核問題で対立するイランにガソリンなど石油精製品を輸出した外国企業を経済制裁の対象とする法案を、412対12の賛成多数で可決した。上院での審議は年明けとみられ、当面はイランに、独自制裁の選択肢があることを警告する位置付けとなりそうだ。」(産経 12月16日)

http://sankei.jp.msn.com/world/america/091216/amr0912161153006-n1.htm

「オバマ政権はすでに、「イランは孤立の道を選んだ」として、来年1月上旬にも、ガソリンの禁輸など対イラン追加制裁を実現するため、国連安全保障理事会のメンバーに働きかけている。」(読売 12月19日)

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20091218-OYT1T01519.htm

国連によるガソリン制裁は中国が拒否権を使うと思われるが、アメリカによる独自のガソリン制裁へは「ペルシャ湾封鎖」の脅しがかかっている。

■ イランとオマーンの共同防衛協力会議

さて、ペルシャ湾の出入り口に臨むオマーンは、イランの「ペルシャ湾戦略」にとり重要な場所に位置する国だ。

ペルシャ湾からインド洋への出入り口になっているホルムズ海峡の航路は、オマーン領海内にある。宗教では国民の4分の3をイスラム教のイバード派が占め、残り4分の1がスンニー派。「イラク戦争やアメリカのアフガニスタン侵攻ではアメリカ軍に協力している。」(Wikipedia)

外交的には非同盟中立で、イランとGCCの関係改善にも尽力している。(外務省HP)

12月24日付の中国新華社が、イランとオマーンのペルシャ湾沿岸での合同軍事演習が行われたことを報じた。世界の他のメディアもこれを伝えている。但し、配信元のイランのファールス通信はこの軍事演習の日付と詳細を伝えていない。

http://news.xinhuanet.com/english/2009-12/24/content_12701132.htm

新華社によれば、1年ごとに行われるイランとオマーンの第8回共同防衛協力会議が12月の第2週に行われたそうだ。

2005年にイラン大統領に就任したアフマディネジャドは、早くからイランとオマーンは「共通の利益と敵」を持つと言っており、両国間のエネルギー分野での協力を深めている。

“Iran and Oman have developed the cooperation between the two states in the field of energy since President Mahmoud Ahmadinejad assumed presidency in 2005.

Ahmadinejad has said earlier that Tehran and Muscat have common interests and enemies, calling for expansion of ties and cooperation between the two countries.”

■ 「S-300」の譲渡延期と、ロシアとイスラエルの接近

米下院がアメリカ独自のガソリン制裁法案を可決する前々週12月4日に、AFPがプーチンが来年2010年にイスラエルを訪問しネタニエフ首相と会談することを伝えた。

モスクワに訪問中のイスラエルの外相リーバーマンとの会談で、プーチンがそう発言した。

http://www.google.com/hostednews/afp/article/ALeqM5j0rYOcGnXxNPcdy2OQC1OyulMQpw

11月に入り、ロシアからイランへの譲渡が延期になっている防空ミサイルシステム「S-300」をめぐり、イランとロシアの関係は冷え込みを見せている。イランのアフマド・ヤヒディ国防相は、「(S-300の)契約を果たし、シオニストの圧力に影響されてはならない」とロシアに呼びかけている。

Iranian Defence Minister Ahmad Vahidi last month called on Russia “to fulfil the contract and not be influenced by Zionist pressure.”

(プーチンのイスラエル訪問が決まり、米下院がアメリカ独自のガソリン制裁法案を可決した翌日16日に、イランはイスラエルを射程に収める最新型の中距離弾道ミサイル「セジル2」の試射を行っている。)

人口減少による兵力不足の悩みを抱えるロシアは、イスラエルからの無人偵察機の購入で軍事力の増強を図っている。2008年8月のグルジア紛争では、ロシアの無人偵察機の能力がイスラエルのそれと比べ格段に劣ることが証明され、ロシア軍の軍用情報通信システムにも欠陥があることが指摘されている。

http://www.spacewar.com/reports/Russia_Defense_Watch_UAVs_from_Israel_999.html

ガザ紛争やアフガニスタン戦争でも使われているイスラエルの無人偵察機の技術は、広大な領土を守り、旧ソビエト諸国に対して大きな影響力を維持したいロシアにとって非常に重要だ。

12月3日付のエルサレムポストは、11月下旬モスクワ近くでおきた列車テロ事件(チェチェンのイスラムテロ組織の疑い)の原因調査で、ロシアがイスラエルへ公共交通システムへの技術的支援を依頼したことを伝えた。

http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1259831456324&pagename=JPost%2FJPArticle%2FShowFull

イスラエルの軍事的技術を得たいロシアと、オバマ政権を頼りにできないイスラエルの結び付きは今後深まっていくと思われる。

■ 総 括

イランとロシアの関係が冷え込み始め、「S-300」の引渡しが延期となっているイランの軍事環境下で、アメリカによる新たなガソリン制裁が発動されようとしているが、この封じ込めに対してイランがペルシャ湾を封鎖しないという保証はどこにもない。

現在、ペルシャ湾経由でアメリカ運ばれる石油はアメリカの一日の石油消費量の10%前後と見られており、アメリカがこのところ最も多量の石油を輸入しているのは、アフリカのアンゴラで、サウジアラビアに取って代わっている。(『米中軍事同盟が始まる』 日高義樹著 2009年12月刊)

ペルシャ湾封鎖で、日本の石油消費量の80%がなくなってしまうと言われる。

2009年日本の政府債務残高のGDP比は219%。

ペルシャ湾封鎖で経済的被害を最も多く受けるのは、アメリカや中国よりも日本であり、そのとき日本経済は崩壊するとハドソン研究所の日高氏は警告している。

■ 関連リンク

イランへの「S-300」をめぐるロシアと米国の外交政策(2009年4月25日)

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/26289483.html

DOMOTO

http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/hunsou.index.html

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735