中国の米国債売却をめぐってのアメリカの国益は、11月の中間選挙を目前にしたオバマ政権にとっては、優先順位ではセカンドになるだろう。

オバマ民主党政権は、米国内の労働組合や労働者層などを支持母体とする。米民主党は、保護貿易主義の傾向が強いので、対中貿易赤字には敏感である。



2月19日付のニューヨークタイムズで、Edward Wong氏 は、



Rift Grows as U.S. and China Seek Differing Goals

http://www.nytimes.com/2010/02/20/world/asia/20china.html



「景気低迷するアメリカ経済は、オバマ政権に中国への元切り上げや中国との自由貿易・市場開放を優先するよう政治的に迫っている。アメリカの政府当局者は、中国へ人民元切り上げの圧力をかけることと、中国市場でのアメリカ企業の大規模な進出を可能にすることが、今年11月の米中間選挙で勝利する(差し迫った)重要な政治的懸案だと意識している。」



と述べている。この記事の中で、ブルッキングス研究所(米民主党系)のKenneth G. Lieberthal氏(クリントン政権時、対中国政策担当)の今後の米中関係の見通しを引用し、「(2010年は)経済と貿易問題で、アメリカは非常に困難な年になる。アメリカの中間選挙までをめぐり、米中間での保護貿易主義の対立は深まる」と記している。



1月後半に入り浮上したグーグル問題を皮切りとする米中関係の緊張について、オックスフォード大学系の「Oxford Analytica」では、1月の下旬には、早くもアメリカのこの一連の行動が、オバマ政権の11月の中間選挙を見据えた布石であることを指摘していた。



しかしいち早く、今年1月5日付の Oxford Analytica の記事では、アメリカ政府寄りの国際コンサルタント企業「ユーラシア・グループ」が、2010年の国際情勢の10大リスクのトップに、米中関係の悪化を挙げ、通商政策で米中間の摩擦が増幅すると指摘。「中国から見て米国との経済関係は魅力が少なくなる」としていた。



http://www.sankeibiz.jp/macro/news/100105/mcb1001051137016-n1.htm

http://www.oxan.com/

http://www.sankeibiz.jp/story/topics/sty12383-t.htm



オバマ政権は大統領の就任前から2008年9月のリーマン・ショックの後始末のために、内政問題だけで手一杯に終わると予測されたが、政権1年間で何の成果も国民の前に出せなかった。政権2年目にあたり、秋の中間選挙が迫ったオバマ政権は、得点を得ることが難しい内政ではなく、外交面で得点アップを図り始めている。



外交・軍事分野では、台湾への武器売却、2月4日、14日と立て続けに明らかになったルーマニアとブルガリアへの東欧での米国のミサイル防衛システムの再度の配備計画、チベットでの人権問題ではダライ・ラマとのオバマの会談、環境問題支持層へは、昨年12月、デンマークで開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)での失敗を対中問題へリンク。揚げられる外交アドバルーンは、どんどん揚げている。



ルーマニアとブルガリアへの東欧でのミサイル防衛システムの再度の配備計画にいたっては、重要度の高いイラン問題で、政権1年目の外交成果で国連でのロシアの協力が期待できるまでになった米ロ関係を犠牲にしてでも、11月の中間選挙対策を優先している。



http://www.chunichi.co.jp/article/world/news/CK2010021502000135.html



オバマ民主党政権は、米国内の労働組合や労働者層などを支持母体とする。

今年11月のアメリカの中間選挙が終われば、オバマ政権にとってのその次の選挙は、大統領「再選」をかけた2年後の2012年のアメリカ大統領選挙だ。オバマ政権はこの先、経済の長期低迷が続き、景気回復なく高失業率が続くと思われる国内情勢をかんがみて、選挙対策のために対中国政策を強硬路線へ切り換えたと見た方が自然だろう。





    ■ 世界最大となるアジア市場での米中の対立



今後、最大の世界的経済成長が見込まれるアジア市場において、Oxford Analytica は以下の記事を掲載しているが、ゼロサムゲームのアジア市場において米中の対立は必然的である。



http://www.sankeibiz.jp/macro/news/100126/mcb1001260506008-n4.htm



「オバマ政権は同年(2009年)7月、「メコン下流域イニシアチブ」を発表。この政策構想は、メコン川上流の中国のダムによる経済上、環境上の影響を緩和しようとする、ベトナム、ラオス、タイへの支援を目的としている。中国高官は、この政策を取りやめるよう公然と米国に抗議している。

 クリントン米国務長官は今月(2月)12日、ハワイのホノルルで米国のアジア・太平洋政策に関する重要演説を行った。その中で、同国務長官は、米国が東アジア首脳会議(EAS)への参加を目指して、交渉を始めると発表した。中国は、EASへのロシアの参加を支持する一方、米国の参加には反対している。

 同国務長官はまた、「東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日・中・韓)」や上海協力機構(SCO)への積極的な参加を求めると発言し、中国を刺激した。中国はこれらの米国を排除した地域的枠組みで重要な位置を占めている。

 クリントン国務長官の部下は個人的な見解として、アジアの指導者に対し、アジアの地域的枠組みで比重を増す中国に対抗する目的を含んで、これらの枠組みで米国が一段と積極的な役割を追求していくと述べたといわれる。」



アメリカ保守論客のロバート・ケーガンは昨年11月10日のワシントンポストでの連名記事で、誕生したばかりの鳩山政権が掲げ、オバマ政権が参加の意欲を見せた東アジア経済共同体構想に関して、いち早く、アジアの経済市場は米中のゼロサムゲーム(=対立市場)になることを指摘している。



"Strategic Reassurance" That Isn't

http://www.aei.org/article/101292





    ■ 総 括



Oxford Analytica は、「(2011年に)米国の景気回復が軌道に乗れば、このムード(米中悪化)が改善される可能性もあるが、中国との良好な関係を重視する、米政策当局者の伝統的なコンセンサスは弱まりつつある」と分析しているが(1月26日)、私は今後の米国の景気回復は難しいと考えるので、米中関係の悪化は拡大方向へ向かうと考える。



http://www.sankeibiz.jp/macro/news/100126/mcb1001260506008-n5.htm



アメリカの広報役の政治家やマスコミの言った「米中G2体制」という世界の見方に簡単に乗った論説が、一時期ネット上に溢れた。それとは反対に、米紙タイムなどが賞賛するハーバード大学教授の著名な歴史学者(専門は経済・金融史)、ニーアル・ファーガソンは、中国とアメリカの利害対立が、今後20年にわたり拡大していくと言っているそうだ(『すでに世界は恐慌に突入した』 朝倉慶著 2009年12月刊)。



国際情勢を追っている者なら、この地球上で国家間の利害対立の大きな要因が存在する以上、表層的な外交に惑わされず、水面下での利害対立のエネルギーが増幅していたことを予測できたはずだ。



「米中2極体制」という、表層面での見方のナンセンス(2009年12月12日)

 http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/30625303.html





DOMOTO

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735

http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/hunsou.index.html