<※ 前回 「始動する人民元の国際通貨化 ―南・東シナ海での中国の国家戦略②―」の続き>

  http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/33051240.html





7月26日、中国海軍は南シナ海で大規模な軍事演習を行った。7月23日にハノイで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラムで、クリントン米国務長官が、南シナ海での領有権をめぐる中国と東南アジア諸国間の係争への関与を強化する意向を表明した。中国の大規模軍事演習は、この米国への牽制が狙いだ。南シナ海と東シナ海での中国の覇権の問題は、日本はもちろん、米中の経済的・軍事的対立の問題を考える上で非常に大きなウエイトを持つ。



2005年以前からウォール街の専門家がアメリカ経済にとって重要視していた地域に、「DNA」( Dollar New Area=新ドル圏)と呼ばれたものがあった。サウジアラビア、クウェート、日本、台湾、韓国、タイ、マレーシアなどの諸国が、当時のウォール街の専門家によって、「DNA」(新ドル圏)と呼ばれ、借金経済を運営維持する重要なドル還流システムとして位置づけられていた(日高義樹著 『米中石油戦争がはじまった』 2006年2月刊)。



台湾と韓国が位置する東シナ海と並びタイ、マレーシアなどの南シナ海に臨む東南アジア諸国連合(ASEAN)は、その後も目覚しい経済発展を遂げ、10カ国が加盟する東南アジア諸国連合は今年1月、欧州連合、アメリカに次ぐ中国にとって3位の貿易相手となった(3月18日 ブルームバーグ)。その後日本の景気回復により、2010年上半期の統計で東南アジア諸国連合は中国にとって第4の貿易パートナーとなっている(7月28日 Record China)。

http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920021&sid=a_RsWqjcFL0I

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100728-00000021-rcdc-cn



アメリカの「DNA」(新ドル圏)に含まれる東南アジアは中国にとっての近隣南に位置し、シーレーンの航行地域というだけでなく経済的に非常に重要な意味をもつ地域だ。中国政府は、2009年7月、他国との貿易取引について元建てでの決済を真っ先に東南アジアで解禁している。



アメリカの政府関係者によれば、中国はアメリカに対し、世界人口の半数32億人が住むアジア市場の、中核になるだろうと予想される成長著しい東南アジアを、台湾、チベットと並ぶ「中核的利益」と見なしている事を明らかにしていたそうだ(8月4日 フィナンシャル・タイムズ、8月18日 毎日新聞)。

http://www.nikkei.com/biz/world/article/g=96958A9C9381959FE2E6E2E08B8DE2E6E2EAE0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;p=9694E3E7E2E0E0E2E3E2E6E1E0E2





    ■ 東南・東アジア地域の米国債保有残高と人民元の台頭 



米財務省が16日発表した6月末の米国債保有状況によると、「銀行や投資信託をはじめとする米投資家による米国債の保有割合は50.5%と、金融危機が始まった2007年8月以降で最大となった」が、「6月末の中国の米国債保有残高は、比較可能な昨年6月末以降で最低。ピークの昨年7月(9399億ドル)に比べ10.2%減となった。」「外貨建て資産の運用分散を狙って日本国債を買い増す一方、米国債の残高は減らす中国の姿勢が浮かび上がっている。」(8月16日 ブルームバーグ、8月17日 日経)

http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C9381959CE3E5E2E3938DE3E5E2EAE0E2E3E2E2E2E2E2E2E2



2008年11月の米下院の公聴会で、「豚の耳(住宅ローン担保証券)を絹の耳として売ることにお墨付きを与えたのは格付け会社だ」と言って、リーマン・ショックの元凶は格付け会社だとはっきり指摘したのは、世界最強と言われるヘッジファンド「ルネサンス・テクノロジー」のジェームズ・シモンズだ。



株式市場と異なり債券市場では、独占的機関である格付け会社を訴訟で倒産させれば市場は大混乱を起こすが、中国の格付け機関である大公国際資信評估は、私達の既成のマスコミ的常識をあっさりと転覆した。大公は、米国債を米英3社が「トリプルA」としていたものを「AA」へ格下げし、見通しは「ネガティブ(弱含み)」、中国国債の格付けは「AA+」、見通しは「ステーブル(安定的)」とした(7月20日 ブルームバーグ)。

http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=jp09_newsarchive&sid=avtEJv1czDeQ



(現在、消去法的理由で金利低下し、短期的スパンでのみ買われている日本国債は、自国通貨「AA-」、外貨「AA」で見通しは「否定的」。 7月13日 中央日報)

 http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=131116



共産党政府下に置かれている大公の格付けは操作性が含まれているが、W.ペセックが前出記事で述べているように、米国債に対する大公の格付けは「間違ったメッセンジャーからの正しいメッセージだ」。



前回ブログ、『始動する人民元の国際通貨化』で中国国内の債券市場へ他国が貿易決済で得た人民元資金を流入させる動きを開始するニュースを取り上げた。

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/33051240.html



中国人民銀行は8月17日、国内資本市場に他国が貿易決済で得た人民元資金の流入を促すため、海外の金融機関に、中国の銀行間債券市場での人民元資金の運用を認める試験プログラムを実施するとの声明を出した。

「人民銀が7月30日発表したところによると、中央政府や銀行、企業が発行した債券などを売買する銀行間債券市場の規模は6月現在、計14兆3000億元(約180兆円)。債券発行残高の総額に占める割合は97%に上る。」



(「中国、外銀による国内債券市場での元運用を解禁へ-試験プログラム」 8月17日 ブルームバーグ)

 http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=jp09_newsarchive&sid=avQbadJmgCxw



先ほど、2009年7月、中国が他国との貿易取引について元建てでの決済を真っ先に解禁したのは、東南アジア諸国連合(ASEAN)であっと述べたが、中国にとって欧州、米国に次ぐ第3位の貿易相手となった東南アジア諸国連合(ASEAN)は、将来的に中国の債券市場の有力な買い手となる。



下記アドレスでリンクされる数表は、アメリカ財務省(HP)による月次の米国債保有残高を表したものだ(8月16日更新)。



MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES

http://www.treas.gov/tic/mfh.txt



2010年6月の主要米国債保有国のうち、東シナ海に臨む韓国、台湾と南シナ海に臨む香港、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシアの米国債保有残高の合計は、4335億ドル。これに中国本土の8437億ドルを加えると、1兆2772億ドル。内訳は東シナ海に面した韓国と台湾の合計が1673億ドル、東南アジアの前出4ヵ国の合計が1252億ドル。米国債の海外勢全体の保有残高の総合計は4兆92億ドル。



この米国債保有残高を地域別に見るとアジア地域が圧倒的に多く、次いで欧州が多い。中国、日本、英国のトップスリーを別にすると、香港と台湾、韓国、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシアの6カ国の合計は、独仏など欧州11カ国の合計とほぼ同じで、中国の保有残高の半分以上を占める。香港とアジア前出6カ国の合計は、インドネシアを含む石油輸出国15カ国の合計に、ヘッジファンドなどが国籍を置くカリブ海域諸島の租税回避地の合計を加えた金額よりも453億ドル多い。



(※ 中国本土の8437億ドルには、米財務省の統計に現れないイギリスと香港などで中国政府が中国関連団体により米国債を購入している分が更に加算される。)

 http://www.asyura2.com/10/hasan67/msg/358.html



東シナ海に臨む韓国、台湾と南シナ海に臨む東南アジア諸国(ASEAN)は、「DNA」(新ドル圏)として、米国債などの莫大な「ドル資産」を保有しているが、中国は、この「ドル資産」を、徐々に「人民元資産」へと置き換えようとしている。人民元の国際通貨化を進め、格付け機関、大公が中国国債を米国債よりも優位と発表しているのはその動きの現れだ。



こういった、中国がアジア圏の「ドル資産」をそのまま「人民元資産」へと置き換えようとしているという見方は以前から言われていたことだが、中国の驚異的な軍事力増強のレポートを加えて具体的な記述で示してくれたのは、ワシントン在住の日高義樹氏だ。中国が人民元の国際通貨化によってアジアの経済圏から「ドル」を追い出す動きは、2006年2月に出された著作、『米中石油戦争がはじまった』に述べられているが、今回の私のブログはその予測の4年後の現在を追ってみた。7月26日、南シナ海で中国の大規模演習が行われ、日高氏の予測は軍事面でも経済面でも現実化している。





<「なぜ中国共産党はドル支配体制に挑戦せざるを得ないのか ―南・東シナ海での中国の国家戦略④―」へ続く>

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/33101807.html





DOMOTO

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