<「①米国による中東からアジアへの軍事力シフト―米国のオフショア戦略(4)― 」からの続き>
 http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/35759182.html

     ■ ② アジアでの米国の軍事力強化と米中関係

レーガン時代には500隻以上あった艦艇を現在280隻に減らしたことが、アメリカがアジアから撤退を始めた象徴のようによく言われるが、「統合エアシーバトル構想」では、国防総省がこれを200隻以下に減らすことを検討している(注-2011.4.日高)。

これは、アメリカ海軍が今までの海兵隊を中心にした敵前上陸作戦をアジア西太平洋で行う戦略体制を捨て、遠距離から攻撃する「統合エアシーバトル体制」へ移行しているために、海兵隊を乗せていた多くの護衛艦隊が必要なくなったことが大きな理由だ。

軍事力の総体とは質と量と効率(スピード)の関数である。

アジア領域における中国と北朝鮮に対する(「統合エアシーバトル構想」)の破壊力は、海軍力だけから見ても、これまでのアジア極東戦略と比べて10倍以上の破壊力を持ち、さらにそこへ空軍力が加わる(注-2011.4.日高:日高氏はその著作で「統合エアシーバトル構想」という言葉は用いていないが、2009年6月発行の著作からそれと同一の内容を掲載している)。

7月に就任したパネッタ国防長官は財政通であるが、9月15日に開かれた米豪外務・国防閣僚会議(2プラス2)で、アジアの平和と安定の重要性を確認し、安保外交で日米豪3カ国の連携を重視する姿勢を、クリントン国務長官とともに表明している。また「インド洋と太平洋における戦略的環境を発展させるという目的達成に向け、日米豪3カ国の連携の重要性を第一に挙げた」(9月16日 時事通信)。

「日本重視、3カ国連携強化=アジア安定で-米豪2プラス2」
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201109/2011091600276

「統合エアシーバトル構想」とは、中国の危険な射程圏の外から海空の総力攻撃をかける体制を構築するとともに、それによって生ずる国防費のコストダウンを狙うものであり、パネッタ国防長官は常々こう言っているそうだ。

「政府は財政規律と強固な国防の二者選択をする必要はない。国防支出を抑制しつつも、世界最強の軍事力を維持することは可能なのだ」 (8月17日 海国防衛ジャーナル)
http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50623987.html

                      ◆

私は2010年7月以降(ASEAN地域フォーラム)、対立が深まった南シナ海問題でCNASサイトのカプランが書いた記事を、同年9月頃まで時間が許す範囲で追ってみたが、中国を脅威であるとしても敵であるとは言っていない。先に挙げた今年8月15日の「 The South China Sea Is The Future Of Conflict 」の記事の中でも、中国との協調関係を保ちながら中国を軍事的に封じ込めるスタンスを述べている。

本稿では述べることができなかったが、私が知るアメリカ保守派のオフショア戦略でも、米民主党の「中国との協調関係を保ちながら中国を軍事的に封じ込める」というスタンスは共通している。

中国に対するオバマ政権全体のスタンスは後半の2年に入ってから変化し始めているようである。日高氏の著作レポートによると、アメリカが望むような形で中国と協力体制をとることは難しいとオバマ政権が理解し始めたのは、中国が中東全体を混乱に陥れているアラブの民族主義をけしかけていることが分かった2011年の初め頃からであるという。(注-2011.5.日高)

米中間では2010年10月に軍事交流が再開しているが、アメリカ国防総省の首脳は言行不一致な中国政府に強い不信感を抱くようになっており、アメリカ政府の首脳は、冷戦時代米ソ間で設けられた緊急時用のホットラインのシステムを中国との間で設置する努力を放棄してしまっているという。こうした中国の言行不一致な態度は、共産党の力が弱くなり軍部の発言力が増しているからである。(注-2011.5.日高)

     ■ 結語  国債暴落後の日本

以上、日本のマスコミやネットメディアでよく見られる、アジアにおける米国撤退やアジアにおける米国衰退論に、反対の立場から論拠を挙げて論じてきた。
アメリカが膨大な権益を有するアジアから撤退するわけがない。

東南・北東アジアの膨大なドル資産と人民元の台頭 (拙稿 2010年8月)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/33101586.html

しかし、パネッタやクリントンが言う「アジア重視」は、この先、「日本を除くアジア重視」になるだろうと私は考えている。

現在、日本国債は利回りが低位で安定しているが、この数年暴落説が叫ばれながらも日本国債の相場が堅調であったのは、リーマン・ショック後の景気の大幅な冷え込みで、国内の資金需要が極端に冷え込んでいたためであった。東日本大震災による東北地方の本格的復興はこれからで、待ったなしの復興需要が民間銀行を待ち受けている。この先は民間銀行が国債を買っている余裕は全くない。(注-1)

国債の入札が上手くいかずに未達になるその時を狙って、外資ヘッジファンドは持っている日本の資産を一斉に売ろうと待ち構えている(朝倉慶氏)。

欧米ヘッジファンドの日本短期国債市場への流入始まる (8月29日)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/35610327.html

アメリカは利用価値がないと踏めば、計算高くその国を見捨てる。これはアメリカの外交軍事の歴史を見れば理解できることだ。

現在、ユーロは崩壊するのかとメディアでしきりに取り上げられているが、海外からは「日本は大丈夫なのかと」と懸念する声が多く聞かれるという。オバマもパネッタもクリントンも、日本が近々破産沈没することはわかっているはずだ。
おそらく中国は日本国債の金利上昇過程で日本政府へ資金を投入し、日本政府を中国の傀儡政権にしておいてから潰す計画だろう。

私は、日本国債暴落後も日本が復活する方策は存在すると考えているが、現在の日本の緊急かつ最大の問題は、国債暴落後の日本をどうするかであり、それを、気づいた人達から考えていくことが重要であると思う。

■: 注
・2011.4.日高:『いまアメリカで起きている本当のこと』日高義樹著 PHP研究所 2011.4.1刊
・2011.5.日高:『世界の変化を知らない日本人』 日高義樹著 徳間書店 2011.5.31刊
・注-1:『2012年、日本経済は大崩壊する』 朝倉 慶著 幻冬舎 2011.7.10刊

■ 参照リンク
冒頭であげた米国の「オフショア戦略」と「統合エアシーバトル構想」を扱った拙稿の3つは、下記のリンクの中にそれらの「修正・加筆版」があります。

中国・日本・アジア
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/folder/1079647.html
米国の軍事・外交戦略
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/folder/1078878.html