②中国の金本位制へむけた準備-ノーベル経済学賞のマンデル教授が人民元を加えた金本位制を提唱―

<「①中国の金本位制へむけた準備-ノーベル経済学賞のマンデル教授が人民元を加えた金本位制を提唱―」からの続き>

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/36148686.html

■ ③ 中国と基軸通貨SDRをめぐる変化

SDRは中国・ロシア・ブラジルなどがドルに代わる基軸通貨の候補に挙げている(第1節冒頭参照)。

現在欧州債務問題では、欧州金融安定基金(EFSF)でカバーできない部分を国際通貨基金(IMF)によるSDRで補完するために、SDRの拡大を通じた財源強化案が検討されSDRが注目されている。

二国間融資やSDR通じたIMF財源強化、検討する用意ある=独財務相 (11月30日 ロイター)

http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPTJE7AT02120111130

マンデル教授が11月12日に「中国ゴールド・サミット・フォーラム」で、人民元をSDRの構成通貨へ加え金とリンクさせることを提唱する前の今年10月末、IMFは「理事会会合でSDRの構成通貨に中国人民元などを新規に加える案を検討したものの、結論には至らなかったことを明らかにした。」

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理由は、人民元が「自由に利用できる」通貨であるとIMFが定めるSDR構成通貨の要件を満たしていないこと。このため、IMF理事会はこの要件の変更を検討し、近々にその新基準を発表する見通し。

IMF高官筋は、「通貨バスケットをいずれ拡大する必要があり、新興市場国通貨の採用が最も理にかなっているとすでに考えられている」と語り、そのうえで「新基準の発表が自動的に追加・除外される通貨を示すわけではない」と説明した。

ただ理事会は、SDR構成通貨の数は、不必要なコストの発生やSDR利用の複雑化を防ぐため比較的少数にとどめるべきとの立場を示している。

(11月11日付ロイターの複数の記事を要約)

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――つまりIMF理事会は、中国人民元をSDRの構成通貨へ加え、その数を少数にとどめるために現状の4つの通貨からどれかを除外する方向で見直しを進めていると解釈できるだろう。イギリスと日本の出資額からみて(下記アドレス参照)、冒頭で示したマンデル教授の言うように、SDR型金本位制での構成通貨は米ドル・ユーロ・元に絞られ、ポンドと日本円は除外されるかもしれない。

IMF:http://en.wikipedia.org/wiki/Imf

(11月23日に IMFから日本経済についてのレポートが出たが、この中では少子高齢化の日本経済の長期的な低成長と停滞そして莫大な公的債務が強調され、経済衰退国と見なされている。第3章では、日本国債の突然の急速な金利上昇の可能性が警告されている。)

Japan Sustainability Report ( IMF 11月23日)

http://www.imf.org/external/np/country/2011/mapjapanpdf.pdf

マンデル教授は杭州でのサミット・フォーラムで、SDRによる通貨体制はアメリカを含む大国の支持を必要とすると述べたそうだ。アメリカは2011年1月の米中首脳会談の共同声明において、「中期的には人民元がSDRの構成通貨になることを支持する」としたが、オバマ政権の対中姿勢・政策は2011年に入って以降、変化している。

米国による中東からアジアへの軍事力シフト―米国のオフショア戦略(4)―(拙稿 9月24日)

http://www.asyura2.com/11/senkyo119/msg/775.html

またロシアはこれまでSDRへ自国通貨ルーブルを入れるように主張してきたが、2008年のリーマン・ショック以降は大規模な金の購入も行ってきた。

11月の「中国ゴールド・サミット・フォーラム」を受けたものだと思うが、ロシアの旧政府機関紙「プラウダ」は12月に入り、「第3の通貨戦争は世界を金本位制へ戻すためなのか」と題する記事を掲載し、金本位制を主張する米投資家のジェームズ・リカーズの言葉を借りてSDRをめぐる中国の動きを牽制している。

Third currency war to take world back to gold standard? (12月7日)

http://english.pravda.ru/business/finance/07-12-2011/119872-currency_wars-0/

■ 結語:世界経済の崩壊と金本位制

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金本位制支持者も純粋な金本位制への復帰が無理な事は百も承知。その上で、ドルを金の特定価格とリンクさせ、その水準からの価格変動に応じて、金融政策の引き締め、緩和を決定するという、金の保有量に縛られず、金に中央銀行へのチェック機能も果たさせる現実的な提案も出てきた。

実現には緻密な議論が必要だが、ドルや紙幣全体への不安が共有される中で、輝きを失わない金を利用しようとする動きは根強く広がっていきそうだ。

「無視できない金本位制回帰への動き」 (富田秀夫のグローバル・マーケッツ 6月5日/ 2011)

http://www.gci-klug.jp/tomita/2011/06/05/012915.php

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「ユーロの父」と呼ばれるマンデル教授は崩壊の進むユーロ通貨を救いたい。マンデル教授の「金」を組み入れたドルとユーロの合成通貨『 DOLLEURO 』の構想は中国を必要としているし、また中国もSDR型金本位制を必要としているはずだ。欧米資金の新興国からの引き上げ・流出などにより、中国経済は一段と深刻に悪化しつつあり不動産価格の下落が本格化している。インド経済も今年後半に入り景気減速が鮮明となっている。リーマン・ショックの数倍の不況が来ると言われるユーロの崩壊は、アジアの新興国を世界経済恐慌の谷底へ落としてしまう。そしてアメリカ経済も大変な影響を受けて「二番底」へと落ちるだろう。

ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、2009年の段階でリーマン・ショック以降の世界における国家破綻の連鎖を予測し、「過去、世界経済は何度も金融危機に見舞われたが、多くの場合、2,3年後あたりから、ソブリン・デフォルトの波が押し寄せた」と警告していた(注-2)。

ユーロ通貨を金本位制で救うのに、ユーロ圏との貿易や国債購入の面で関係が深い中国を取り込むというマンデル教授の構想を実現するためには、オバマ政権、FRBなどが今までに行ってきたような世界経済の破壊的作業が今後も必要とされるだろう。

新しく就任したマリオ・ドラギECB総裁(前イタリア中央銀行総裁)は、2002年~2006年までゴールドマン・サックスの欧州部門の副会長を務めており、ギリシャ粉飾決算のすべてを知っていたことは明白だ(注-3)。ドラギの動向は、今後のアメリカのシナリオを読むうえで重要なポイントとなるはずだ。

マリオ・ドラギ:

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%AE

12月9日に閉幕したEU首脳会議で、EUは来年3月までの「新財政協定」調印を目指すとし、ユーロ危機が先送りされたという言い方がされている。しかし、金本位制についてのアメリカ指導層の間でのコンセンサスや、米中ロなどの大国間での合意を得るためには、「先送り」をさせることによって経済の危機と混乱を深め、世界経済恐慌までもっていく必要があるという見方もある(朝倉慶氏など)。

形を変えての金本位制への復帰とその廃止の繰り返しは、経済の歴史から来る常識であるという考え方はネットでも見られるが、長期的レンジで柔軟に戦略を変化させることができるアメリカにとって、基礎的システムの変換は世界戦略を立案する上での伝統的な基本的作業だ。

■ 注:

注-1:特別引出権 (SDR) http://www.imf.org/external/np/exr/facts/jpn/sdrj.htm ( IMF )

注-2:『裏読み日本経済』 朝倉慶著 徳間書店 2010.2.28刊

注-3:『2012年、日本経済は大崩壊する』 朝倉慶著 幻冬舎 2011.7.10刊

■ 参考リンク:

The Works of Robert Mundell

http://robertmundell.net/

Robert Mundell (Wikipedia)

http://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Mundell

Mundell’s Dollar/Euro Fix Doesn’t Fix Our Currency Mess (合成通貨「DOLLEURO」について フォーブス 2011.6月5日)

http://www.forbes.com/sites/lawrencehunter/2011/06/05/mundells-dollareuro-fix-doesnt-fix-our-currency-mess/

基軸通貨ドルの代替候補SDRに「相応の配慮」を-三菱東京UFJ銀 (ブルームバーグ 2009.4月2日)

http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=newsarchive&sid=aL42Io0OJl34

石油産出国ロシアのSDR通貨構想 (拙稿 2010.7月3日)

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/32644855.html

DOMOTO

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735

http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/hunsou.index.html