①日本国債の暴落はいつ始まるか―IMFによる金融特別検査での予測―

        日本国債の売り崩しを狙うヘイマン・キャピタルのカイル・バス

目次

■ ○ 外交・国防と日本国債の暴落(はじめに)

■ ① IMFスタッフ・レポート

■ ② 邦銀は自己資本25%以上のダウン

■ 結:米大統領選挙後の米英ヘッジファンド

■ 外交・国防と日本国債の暴落

8月10日、韓国の李明博大統領は竹島へ上陸し、15日、香港の団体メンバー7名が尖閣諸島の魚釣島へ上陸した。日本ではいま、領土問題で動揺が起こっている。中国、韓国、そしてロシア。これらの国に対してどのような外交政策や国防政策で対処すればよいのかの議論が再び衆目を集めている。

この騒ぎの10日ほど前の8月1日、IMFはそのWebサイトで日本の金融システムと金融機関の安定性のリスクについての調査評価を公開した。そしてそのレポートに添えられた形で公開されたスタッフ・レポートでは、日本国債の利回りの急騰する時期についての警告がなされている。

「借金の累積が膨大なために低水準からの国債金利のわずかな上昇率でさえ、借金による影響が重大な悪化を招き、市場の信頼の土台を壊し、経済成長は低減し、デフレは悪化する」(同レポート)

日本国債の暴落を虎視眈々と狙っているのは何もヘッジファンドだけではない。

中国も、韓国も、ロシアも「その日」が近いと皆、待っている。国債暴落のあとの日本を餌食にしようと待っている。アメリカは「その日」が来るのをコントロールしようとさえしている。次期アメリカ大統領候補のロムニーは、日本は凋落した国家と放言している。

国防や外交の基礎を支える国家財政の崩落。

国の屋台骨が崩れ始めようとしているこのいま、国の安定期にしか機能しない外交・国防政策に留まるのではなく、非常事態おける政策を早急に考案すべきだ。そして、アメリカが世界の金融システムを約半世紀ぶりに変革しようとしているこの時期において、変革の必要性は国家の経済戦略においても全く同様である。

■ ① IMFスタッフレポート

8月1日、国際通貨基金(IMF)は金融セクター評価プログラム(FSAP)基づき行った、日本の金融システムと金融機関に関する最新のストレステストの評価の結果をそのWebサイトで公開した。

Japan: Financial Sector Stability Assessment Update (8月1日:PDF)

http://www.imf.org/external/pubs/cat/longres.aspx?sk=26137.0

IMFによるこのストレステストは今年1月6日付のウォール・ストリート・ジャーナル日本版で「日本国債が下落した場合に(日本国債を)大量保有している邦銀がどのような影響を受けるか試算するストレステスト(特別検査)」として伝えられ、IMF使節団が検査のため3月に来日すると報じられた。

「IMF、邦銀対象に特別検査実施へ―国債保有リスクを試算」(1月6日)

http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/587.html

IMFの上記レポートでは、主な特別検査は2011年11月28日から12月16日と2012年3月12日から同月23日の2回にかけて行われたとされている。評価分析と作成作業を経て完成したレポートの前文は7月10日付。この特別検査につてのレポートは他にも数種類がある。ストレステスト実施の対象は以下の銀行と保険会社。

3メガバンク(みずほ、三菱東京UFJ、三井住友)、全主要銀行と地銀(合計111行)、大手生命保険会社4社、大手損害保険会社5社

(※ゆうちょ銀行、かんぽ生命、大手証券は対象外。「全主要銀行と地銀(合計111行)」については「トップダウン・ストレステストが日銀の金融システムレポート(FSR)に用いられる枠組みを利用して行われた」〔※注1〕。特別検査の日程や対象となる金融機関については、前出のWSJなどの記事とは一部違ったものになった。)

6月13日のWJはこのストレステストの結果について国際通貨基金(IMF)の使節団団長として来日したリプトン筆頭副専務理事の発言を伝えている。

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リプトン氏はまた、邦銀にとっての朗報も明らかにした。日本の国債に対する需要が低下し、利回りが上昇し始めた場合、国債を保有する銀行で大きな評価損が計上されるのではないかという懸念が生じているが、IMFが最近実施したストレステストでは、邦銀には予測しうるショックに耐えるだけの体力があることが示されたという。

「邦銀は堅調であり、米国と欧州の危機もうまく乗り越えてきただけでなく、(今後起こりうる)大きなショックにも十分耐えうるだろう」との見方をリプトン氏は示し、そのショックの一つとして超低水準にある金利の上昇を挙げた。

長期金利の代表的な指標である10年物国債の利回りは現在、わずか0.85%だ。邦銀は国債の最大保有者であり、発行済み国債の保有比率は41%に達している。

IMF,日本にデフレ対策の拡大を促す-WSJ日本版(6月13日)

http://jp.wsj.com/Economy/Global-Economy/node_459722?mod=WSJWhatsNews519/amr12051907490000-n1.htm

IMF: Japan Must Do More About Deflation .

http://online.wsj.com/article/SB10001424052702303768104577461901108678324.html

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(※ 第2段落、「金利の上昇」は誤訳。正しくは「金利の一定の上昇」。邦銀が低水準にある金利への上昇ショックに対して、無制限に耐えることは不可能。原文は ”adding that potential shocks could include a rise in currently low domestic rates”)

このリプトンの発言では、日本国債に対して強い危機感を抱いてきた人達や経済評論家は首をかしげる人が多いはずだ。8月1日の、このIMFレポート公開直後のブルームバーグの記事では、日本国債の安全性がある程度このストレステストで確かめられたという主旨になっており、フィナンシャル・タイムズ紙も楽観的な見方をしていた。

ところがこれとは別に、同じ日に公開されたIMFのスタッフチームの討議をまとめたレポートでは、かなり内容の色彩が異なるものが囲み記事として掲載されていた。

Japan: Staff Report for the 2012 Article IV Consultation (8月1日:PDF)

http://www.imf.org/external/pubs/cat/longres.aspx?sk=26135.0

このレポート内での討議は日本の財務省の官僚も交えて行われたが、6月12日に討議は終了し(前出リプトン使節団)、その一部をまとめた「スタッフ・レポート」も7月10日を作成終了日としている。これは日本での消費増税法成立の1ヶ月前だ。この「スタッフ・レポート」に対し、最初に挙げたレポートはIMFのFSAP(金融セクター評価プログラム)のチームがまとめたものである。

重要であるのはこの「スタッフ・レポート」の見解が、IMF理事会の見解を必ずしも示したものではなく、このスタッフチームの見解であると断り書きがされ、発言の自由度を高めたものであるということだ。私はこのレポートの2つの囲み記事に注目した。2つの記事はレポートの途中に掲載されている囲み記事なのだが、目次のページでは比較的目につきやすい場所に掲載されている。

Box 2. Risks from a Sharp Increase in Government Bond Yields (10ページ)

(日本国債の利回り急騰の危険性)

Box 4. Potential Financial Spillovers from the European Debt Crisis (23ページ)

(欧州債務危機による、潜在的な日本の金融への波及効果)

両方ともIMFスタッフチームのラファエル・ラム氏による記事で、内容的に見た2つの記事の関係は、「Box」(=囲み記事)の2の後半で世界的恐慌における日本国債の利回り急騰の可能性に言及し、別のスタッフの記事を挟み、Box 4 で欧州発の世界的恐慌による日本の金融システムの危機を説明している。

Box 2 の記事ではまず―

「財政強化プランの導入や執行が失敗したり不履行になったりした場合は、日本国債の格下げがされ国内の金融機関への同様な格下げの引き金となる(これは消費税法案を含んでいた)。そしてその後、国債市場における信頼は腐食(徐々に破壊)されていくだろう。」

記事後半では国債利回りの急激な上昇のシナリオとして―

「邦銀による日本国債の保有は大幅に増加しており、リーマンショック以前と比べ(わずか3年で)2倍以上の保有額に増加している。国債利回りの急激な上昇が世界的な恐慌と同時に起こった場合、金融の安定性は難しい局面に置かれる。」

(※ 「世界的恐慌」と訳を当てているが、原文では、global financial crisis, a broader growth shock, global growth shock 。記事内容から判断。)

◆①234:次のページへ

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/37110840.html