③日本国債の暴落はいつ始まるか―IMFによる金融特別検査での予測―

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http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/37110840.html

ところでFSAPチームはこれら公開された「3種類のストレスシナリオ」とは別に、ほかにもさらにシビアな条件で幾つかのストレステストをしたようだ。それらはFSAPのレポートに、「ストレステスト」とは呼ばずに「ネットワーク・シュミレーション」「ネットワーク分析」という語とともに記されている。

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現在のところは平穏に見えているが、海外からの日本金融への波及効果の潜在的な震源はアメリカと中核欧州諸国の銀行システムである。貸付けと資金調達のショックを想定したすべてのネットワーク・シュミレーションでは、邦銀にとって最大の損失を生じさせるエクスポージャーはアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの4カ国である事が示された。それらは全対外与信の約60%を占める。

以下の3つのケースを除けば、邦銀はこれら4カ国に影響を与える一定程度のショックに耐えることができるように思われる。

①アメリカ全体の経済もしくはイギリスの銀行部門が非常に悪化した場合。

②ドイツかフランスの銀行が、その両国での企業部門か国家部門とともに非常に悪化した場合。

③グローバルな資金調達市場で広範囲に及ぶ金融ショックがあった場合。それは海外の多くの銀行倒産を招き、結果として邦銀にとり大きな信用損失につながる。

この4カ国以外に、邦銀に自己資本(※注2)の25%以上の損失を起こさせる国はない。日本にとり、アジアで最大のリスクを持つエクスポージャーは中国、オーストラリア、シンガポールである。

(第Ⅱ章>”D. Financial Spillover Analysis” 「金融の波及効果の分析」)

※注2:”the tier 1 capital” 詳しくは終りの注釈を参照。

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これは第1節で紹介したラム氏による Box 4 の記事と非常に内容が共通している。

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しかし、もし欧州の危機がアメリカとイギリスの銀行へ大きな影響を与えたり、もしくは中核欧州諸国の非金融部門の与信を襲ったりした場合は、日本の金融システムのリスクはより深刻なものになるであろう。FSAPによるネットワーク分析の最新版に基づけば、ボーダーレスな銀行業務の与信において、貸付けや資金調達に大規模な混乱・ショックが起きたり(債務不履行による100%の損失や50%の債務カット)、国家当局の効果的な政策対応がない場合、日本の銀行は自己資本を大幅に損なう。日本とアメリカと欧州の間では、市場が欧州危機の高まる波及効果を受けた相互の間の政策を苦しめる。

(中略)

FSAPによるストレステストは、欧州危機の拡大が引き金となる世界的な景気後退のシナリオの影響も算定している。この特別検査では日本の銀行と保険会社は、深刻なグローバル・ショックと海外のエクスポージャーからの損失に耐えうる能力を、今後短期間で持つべきだとする提言をしている。銀行業務部門の支払能力の検査では、大きなエクスポージャーや中小企業への多様な支援策の対応への影響のリスクの責任を負えなかった。さらに加えて言うなら、ストレステストはその性質上部分的な分析であり、よりシビアーなテイル・リスク・シナリオでは、このテストで示された以上に金融の安定性を大きく損なうことになるだろう。

(Box 4. Potential Financial Spillovers from the European Debt Crisis )

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しかし、このシビアーなシュミレーション分析の結果は、公式用のFSAPレポートではわずかな紙面を割いた扱いになっており(グラフ入りではあるが)、次の「全体評価」へと続く。

ストレステストの全体評価の部分では、現実的には予測不可能な部分があるとしながらも、「日本の銀行と保険会社は、短期的には一定のストレスに耐える能力があると思われる」とし、そのあと地方銀行が日本の金融システムの中で最も脆弱な部分であることなどを述べ、終りは「概して安心が得られたが、ストレステストの結果はその中でされた警告や、分析の上での制限を含めて解釈される必要がある」という表現で終わっている。

FSAPチームによる(IMFの公式見解)ストレステストの結果の記述は、単純に通読した場合、誤解される印象を与える。6月12日にこれを踏まえたIMFのリプトン筆頭副専務理事が、「邦銀は(今後起こりうる金利の)大きなショックにも十分耐えうるだろう」と記者会見でコメントしたその背景は、ここまで述べてきたような説明になる。

IMFのこのような記述の仕方も表現上の操作であり、IMFが実際に最も懸念し最重要視したシナリオは、ラファエル・ラム氏が「スタッフ・レポート」で述べているような幾つかのシビア・シナリオのはずだ。ラム氏の「よりシビアーなテイル・リスク・シナリオ」とは、具体的には日本でも騒がれた今年6月17日のギリシャ再選挙の結果による、欧州危機を引き金とした世界経済の混乱などを指していると思われる。日本人がもつ欧州危機への危機感よりも、IMFやアメリカが抱く欧州危機への危機感は、はるかに強い。「テイル・リスク・シナリオ」(※確率は低いが、発生すると非常に巨大な損失をもたらすシナリオ)とラム氏は言うが、IMFや欧州、米国が2010年から最重要課題として取りくんでいるのは、まさにそのシナリオを回避するためのものだ。

■ 結:米大統領選挙後の米英ヘッジファンド

日本国債の利回り急騰は欧州債務危機だけが引き金となるのではなく、「スタッフ・レポート」でもこのほかにジャパンリスクとして中国のハードランディング、国内でのエネルギーコストの増加と電力不足、経済成長の長期低迷とデフレ圧力を挙げている(Appendix I. Japan: Risk Assessment Matrix 34ページ)。8月21日のロイターは、日銀の西村副総裁が「中国は『危険領域』に入りつつある」と警鐘を鳴らしたことを伝えた。

(※ 上記のマトリックスでは(7月10日時点)今後3年以内に起きる中国のハードランディングの可能性は「低」とされている。このマトリックスはリスクの可能性がそれぞれ単体で評価されており、今後3年以内に起きる可能性が「高または中」である欧州債務危機の金融混乱が起きた場合、中国のハードランディングが3年以内に起きる可能性は「高または中」と判断できる。)

「中国経済にハードランディングの兆し?」(8月20日 フィナンシャル・タイムズ)

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35927

さらにイスラエルによるイランの核施設攻撃という、中東での戦争が国債金利へ与えるリスクもある。

「ペルシャ湾での海上テロ戦争で、世界中の金利と日本国債の金利が急騰する」 (2012年1月19日 拙稿)

http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/684.html

そしてこのIMFの7月の日本レポートの作成終了後に、アメリカで懸念が高まり始めた2012年12月~13年1月にかけての「財政の崖」・米株価暴落という、新たな大きいリスクも浮上して来ている。

「『財政の崖』回避失敗なら想定以上の深刻な影響=CBO」(8月23日 ロイター)

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE87L00U20120823

「米議会予算局(CBO)は22日、減税失効(※「ブッシュ減税」-9年間の時限立法)や歳出の自動削減開始が重なる来年1月の「財政の崖」について、当局が解決策を講じられない場合、経済への影響は当初の想定以上に深刻なものになるとの認識を示した。エルメンドルフ局長は、議会が「財政の崖」回避に向けた策を講じられない場合、米国は「著しいリセッション(景気後退)」に陥り、約200万人の雇用が失われると述べた。米大統領選までに議会とホワイトハウスが歳出削減や減税措置の延長をめぐる意見の相違を解決できる公算は小さい(上記ロイター要約)。」

7月の時点でワシントンでの日高義樹氏によれば、11月6日の大統領選挙から新しい大統領が就任する1月20日までの間に、「在任中のオバマ大統領と民主党議員達が、無責任な赤字財政政策や減税失効による増税を行うことは、確実だと見られている」(※注3)。

8月31日、FRBのバーナンキ議長は追加緩和策に前向きな姿勢を強調したが、それに先立ちジム・ロジャーズは「フィスカル・タイムズ」や「マネー・モーニング」のインタビューで次のように述べている。

「アメリカ経済は大統領選後、クラッシュするかもしれない。米国の累積債務は大きな破局へ向かっている。歴史学や経済学を研究した者は、長期的に続ける紙幣の印刷はやがて機能しなくなる事を知っている。」

Jim Rogers on the Coming Fiscal ‘Catastrophe’(8月16日 The Fiscal Times)

http://www.thefiscaltimes.com/Articles/2012/08/16/Jim-Rogers-on-the-Coming-Fiscal-Catastrophe.aspx#page1

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