①習近平が構築する新米中関係は、日米安保の骨抜きを狙う― 米中の尖閣交渉 ―

ワシントンで会談するA.カーター国防副長官と蔡英挺副総参謀長

目次

■ Ⅰ 米中の「新しい形の大国関係の構築」

■ Ⅱ 米中の大国協調と安保第5条

■ 結語:現在のキッシンジャー路線と安保第5条

■ Ⅰ 米中の「新しい形の大国関係の構築」

戦争になるかならぬかは外交力で決まる。ただし、その外交力は自国による確かな軍事力に裏打ちされていなければならない。

習近平は2013年に起こるであろう、民衆の中国全土に広がる大規模な反政府暴動への対処策として、局地戦争の環境造りを整えていると考えておくべきだろう。

予測される世界不況の二番底による中国経済の大幅悪化で、中国国内で多発するであろう政府に対する大規模な暴動・抗議・不満の高まりへ対処するために、2012年~2013年にかけて局地戦争を起こす可能性が2011年にアメリカの軍事専門家などから予測されていた(※注1)。

この予測では主に台湾侵略が取り上げられたが、2012年1月の台湾での選挙で親中政権が発足したため、対外強硬派の軍事行動の標的は尖閣諸島を領有する日本と南シナ海の係争地域に絞られると見てよいだろう。現況では中国の世論の高まりは尖閣諸島の方へと大きく向けられている。

アメリカ軍を模倣した兵器体系の構築を目標としている中国の軍部や対外強硬派は、中国の軍事力が米国と比べ格段に劣っていることをよく自覚しているはずだ。中国メディアや中国資本が入った邦文サイトが発信する情報は、程度の差はあるが情報操作されており、中国の対外強硬派の米軍に対する強気な発言は鵜呑みにはできない。

中国の尖閣侵攻作戦では、アメリカが日米安保第5条により参戦しないことが絶対条件だ。そのために中国は米中の軍事交流、米中戦略経済対話で米国との交渉と話し合いを続けている。アメリカが参戦するかしないかは米中外交の動きをみれば、かなりの部分を予測できる。

米国のシンクタンクで、中国問題を専門の一つとするジェームズタウン財団が、日本政府による尖閣諸島の国有化宣言(11日)の数日前に次のような記事を公開している。以下でその記事の概要を示し、私見を加えた。

China’s Search for a “New Type of Great Power Relationship” (9月7日)

http://www.jamestown.org/single/?no_cache=1&tx_ttnews%5Btt_news%5D=39820&tx_ttnews%5BbackPid%5D=13&cHash=594d52e37385027b85b63e69526e385d

この記事は、8月24日の訪米した中国人民解放軍の蔡英挺副総参謀長とアシュトン・カーター米国防副長官の会談から中国の対米外交を考察したものだ。共同通信はこの会談を、蔡副総参謀長は「尖閣諸島(中国名・釣魚島)を日米安保条約の適用対象だとする米側の立場に強く反対した」と伝えたが、その他に蔡氏は「米中の軍と軍との新しい形の関係の構築」の重要性を強調している。これは以前から中国政府が「新しい形の大国関係の構築」(“Building new type of great power relationship”)という提案を米国にしてきたものを反映させたもので、2012年2月の習近平副主席の訪米以来、そのことを中国はハイレベルな公式声明で一貫して強調してきている。

ワシントンでの2月15日の演説で習近平は、「新しい形の大国関係の構築」のために、米国と中国は次の4つの領域での重要な共同努力を必要とすると述べた。

(1) Increasing mutual understanding and strategic trust;

(2) Respecting each side’s “core interests and major concerns;”

(3) Deepening mutually beneficial cooperation;

(4) Enhancing cooperation and coordination in international affairs and on global issues (Ministry of Foreign Affairs, February 15).

(1) 相互理解と戦略上の信頼を高めること

(2) お互いの「核心的利益と重要な関心事」を尊重すること

(3) 互恵的協力を深めること

(4) 国際情勢やグローバルな問題での協力と強調をいっそう高めること(中国外務省 2月15日)

この中で習近平は2つ目に「核心的利益と重要な関心事を尊重すること」をしっかりと要求に盛り込み、1、3、4つ目で、米国にとって非常に協調的・協力的な姿勢をアピールし交渉している。中国の要求した「核心的利益と重要な関心事」とは、釣魚島(尖閣諸島)、南シナ海、台湾、チベットのことである。

また胡錦濤国家主席も2012年5月の第4回米中戦略経済対話(北京)の演説で、「新しい形の大国関係の構築」の重要性を強調しており、中国はアメリカとの二国間関係を全外交政策の中で特別に重要なものと位置づけている。

2012年6月のG20でのオバマとの会談で胡錦濤は、①従来の貿易・投資、法的措置などの分野のほか、新興分野であるエネルギー、環境、インフラ整備などでも米中でウィンウィンの協力をいっそう深めること、②アジア太平洋地域での米中の「健全な相互関係」など4項目について提案をしている。

8月24日の蔡副総参謀長の訪米を受けた形で行われた9月18日のパネッタ米国防長官と梁光烈国防相の会談で、パネッタ長官は次のように発言している。

「中国と米国の強い軍事上の結びつきが両国の見込み違いを低下させることに役立つ」

「中国と米国の関係が世界で最も重要になりつつある」

(「米国防長官:米中の強い軍事上の結びつきが見込み違い減らす」 9月18日 ブルームバーグ)

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MAJ2O16JTSEP01.html

このパネッタ長官の「中国と米国の関係が世界で最も重要になりつつある」という認識は、これまで胡錦濤政権が大きく重要視し、力を注いで「新しい形の大国関係の構築」を実現するように米国へ働き続けてきた成果といえよう。

この記事を執筆したマイケル・チェイス研究員は、5月の第4回米中戦略経済対話でクリントン国務長官が「米中は歴史的に前例のない事を試みている」と発言したことを挙げたあとで、「新しい形の大国関係」は大部分が、米国が中国の要求を一方的に受ける関係になる可能性(疑念)があると分析している。

「米中冷戦」という言葉があるが、中国政府は「米ソ冷戦」とは違う、共存共栄的な「新しいタイプの大国関係」を米国と協調的に構築しようと努力している(A2AD戦略など、周りからはそう見えないかもしれないが。※ 後の結語を参照 )。これはごく当然とも言えることで、『13億の人口を抱える中国は、本来、石油や食糧、シーレーンの確保など、国家の安全保障が確保されていなければ生存していけない国だからだ』(日高義樹氏)。

◆① 2 :次ページへ

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/37179912.html

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