③米国はQE継続で中国の金融危機に対処するー構造改革の強気派 金融安定理事会(FSB)と中国のシャドーバンキングー

スティーブン・S・ローチ(Stephen S. Roach): 元モルガン・スタンレー・アジア会長 中国経済の専門家

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http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/38157695.html

比較的早く出た少数派の楽観的見方で、7月15日の日経のインタビュー記事も同じくUBSの投資責任者との取材によるものだ(UBS:スイスに本拠を置く世界有数の規模を持つユニバーサル・バンク)。

「中国発の金融危機は来るか 信用調整はむしろ健全」 (7月15日 日経)

UBSグローバル・アセット・マネジメントアジア太平洋地域最高責任者 カイ・ソトープ氏

http://www.nikkei.com/article/DGXDASDF09002_Z00C13A7NN1000/

今後の中国経済の展望として楽観的な見方をしているということは、いま世界が注目している構造改革を建設的なものとして捉え楽観的な見方をしているということである。ウォールストリート・ジャーナルによれば9月に入り米欧の経済アナリストで、中国の構造改革に対して楽観的な見方をする人たちが増えてきているそうだ。今回の投稿ではこれらの見方についての検討も含めるつもりであったが、時間上の制約などでまとめることができなかった。

9月6日、中国人民銀行の周小川総裁は、「FRBが金融緩和の縮小に踏み切っても、中国は起こり得る衝撃に対処できる」との考えを示し、「中国には十分な対応策があり、最初から一定の準備をしてきた」と述べた。

中国、米QE縮小への対処可能=人民銀総裁 (9月6日 ロイター)

http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPTJE98501U20130906

中国が米国の出口戦略の実施をにらみ、そのために周総裁が言うように「最初から一定の準備をしてきた」ことは構造改革の内容を見ていくとうなずける。中国の構造改革は理念的には、「不安定な高成長から持続可能な安定した成長へ」という経済成長モデルの根本的な転換であると同時に、米国の出口戦略が始まることで起きる世界経済の混乱と不安定化に備えるものである。

中国が米国の出口戦略の実施をにらみ、「最初から一定の準備をしてきた」と強く思わせるような主張を早くからしていたのが、元モルガン・スタンレー・アジア会長で中国経済の専門家でもあるスティーブン・S・ローチ氏だ。投資銀行モルガン・スタンレーと中国の政府系ファンドである中国投資(CIC)とは資金面で深いつながりを持っている(※注4)。(ローチ氏は現在、米エール大学ジャクソン国際情勢研究所の上級フェロー。)

ローチ氏は6月下旬の短期市場での金利混乱の直後に、グローバル経済のなかでの中国で始まった新しい経済・金融改革の歩みを力強く述べ、それに建設的で肯定的な高い評価を与えていた。また7月の記事では、「中国経済についての懐疑論者は、またしても中国の経済的バイタル・サイン(生命徴候)を読み違えている」といって懐疑論に反論していた。

Misreading Chinese Rebalancing (7月29日 プロジェクト・シンディケイト)

http://www.project-syndicate.org/commentary/the-mismeasure-of-china-s-rebalancing-by-stephen-s–roach

Breaking Bad Habits (6月27日 プロジェクト・シンディケイト)

http://www.project-syndicate.org/commentary/the-normalization-of-us-and-chinese-monetary-policy-by-stephen-s–roach

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【※注4】第Ⅰ節「中国の政府系ファンドとアメリカ経済」を参照。

■ Ⅳ 金融安定理事会(FSB)と中国のシャドーバンキング

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G20「影の銀行」の監視強化 中国念頭に合意へ (9月3日 共同通信)

http://www.47news.jp/CN/201309/CN2013090301002138.html

ロシアで5日から開かれる20カ国・地域(G20)首脳会合が、ヘッジファンドやノンバンクなど銀行を通さない金融取引である「影の銀行」の監視強化で合意する見通しであることが3日、分かった。

主要国が協調して影の銀行の実態を調査、金融不安の再発を防ぐ狙い。影の銀行を通じた取引の不良債権化が懸念される中国の金融問題への対処も念頭にあるとみられる。

新たに合意する監視強化策は、G20を含む25カ国・地域の金融監督当局でつくる金融安定理事会(FSB)の加盟国に対し、損失を吸収できるよう一定程度の資本を持つことを義務付けるなど業態ごとに必要な規制を定めるよう求める。

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この記事の終りにある金融安定理事会(FSB)は2010年のG20金融サミット(ソウル)において、国際的なシャドーバンキング・システムの規制と監督の強化についての提言の策定をG20から要請されている。今年「7月にモスクワで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議の共同声明では、中国を念頭に、影の銀行に対する『規制・監視強化を期待する』と明記された」(産経)。

世界経済を脅かす中国の金融危機への懸念に対して、国際的な枠組みで取り組みが始まろうとしている。金融安定理事会(FSB)と国際金融機関は今後、中国の金融システムの安定への取り組みに大きく乗り出す時が来るだろう。

なお日経ウェブサイトがまとめた9月6日のG20首脳宣言の要旨では、中国のシャドーバンキングは特に明記されなかったようだ。中国の金融システム問題について習近平主席は「制御可能な範囲」と主張し、議論が進まなかったそうだ(9月7日 日経)。マスコミはほぼ、シリア問題一色であった。

「金融安定理事会(FSB)は、金融安定化フォーラム(FSF)が発展して2009年に発足した組織。国際金融に関する規制、監督、措置、政策提言などの役割を担う。G20を含む25カ国・地域の金融監督当局のほかに、国際機関のメンバーとして国際決済銀行 (BIS)、国際通貨基金 (IMF)、経済協力開発機構 (OECD)、世界銀行、バーゼル銀行監督委員会 (BCBS)などで構成される。本部はスイスのバーゼルにある国際決済銀行内におかれている。」(Wikipedia)

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FSBは、国際的な金融規制・監督やその他の金融セクター政策の策定・実施促進を目的に、各国当局・基準設定主体の作業を国際レベルでコーディネートする役割を有する。また、国際機関との協働により、金融システムに影響を及ぼす脆弱性を特定し、対処する役割を担っている。

(中略)

FSBは、G20サミット(またはG20財務相・中央銀行総裁会合)の下、活動を行っている。FSBメンバー間で合意された提言や報告書はG20へと提出され、G20における合意や要請を受け、国際的な合意事項/コミットメントとして、各国・地域毎の法制化・実施へと移行される。

(「国際金融規制のコーディネーター: FSBの役割」 8月2日/ 2013年 大和総研)

http://www.dir.co.jp/research/report/capital-mkt/20130802_007505.pdf

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国際決済銀行 (BIS)、IMF、 OECD、世界銀行、バーゼル銀行監督委員会などとFSBとの協働関係のイメージは上に挙げた大和総研のレポート(6ページ)を参照されればと思う。

また「早期警戒取組」(EWE)では、国際通貨基金 (IMF)とFSBはその実施に協力する。

アメリカはFSBやIMFなど国際金融機関を使って、何としても中国の金融危機を食い止めようとするだろう。

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http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/38157834.html