④米国はQE継続で中国の金融危機に対処するー中国に関与される米国の出口戦略ー

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http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/38157799.html

■ Ⅴ 中国に関与される米国の出口戦略

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政府系投資ファンド中国投資有限責任公司(CIC)は、米QEの縮小が元安につながる可能性があると予測。これが国内の資産バブルの崩壊を引き起こす可能性があるため、長期的な金融市場の不安定などに備える準備が必要だと強調した。

(「東南アジア:「米QE縮小不安」に陥り、長期化の可能性も=中国メディア」 8月28日 財経新聞 記事提供元:フィスコ

http://www.zaikei.co.jp/article/20130828/148122.html

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9月18日のバーナンキ議長のQE縮小見送りの最大の理由はこれだろう(FOMCの委員はまちまちな事を言っているが)。7月の米中戦略・経済対話で「米中が金融安定化に向けた協力で合意」しておきながら、FRBが中国経済のバブル崩壊のボタンを押すわけにはいくまい。

このFOMC会合の結果の十日ほど前の9月6日、中国人民銀行の周小川総裁は、「QE縮小に踏み切っても、中国は起こり得る衝撃に対処できる。中国には十分な対応策がある」と述べている。ロイターはその「具体的な対応策には触れなかった」と伝えているが、A・フリードマン氏(第2節参照)が予見するように、その「十分な対応策」とは米国債の大量の売却を示唆したものである可能性は高い。なぜなら現況の中国の経済状態や金融・経済改革の進み具合から見て、それ以外に「十分な対応策」と呼べる策など見当たらないからだ。

この中国政府の「対応策」は、非公式にバーナンキ議長やオバマ大統領に伝えられたと推測する。もしこれが本当だとすればアメリカは事情迂闊としかいいようがないが、そもそもオバマ政権というのは歴代政権のなかでは政策能力は高い方ではない。

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中国、米QE縮小への対処可能=人民銀総裁 (9月6日)

http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPTJE98501U20130906

[北京 6日 ロイター]中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は、米連邦準備理事会(FRB)が金融緩和の縮小に踏み切っても、中国は起こり得る衝撃に対処できるとの考えを示した。

前日公表された論評のなかで述べた。

総裁は「中国には十分な対応策があり、最初から一定の準備をしてきた」と指摘。「国際金融市場において急激な変動が起きれば、中国も影響を免れない」と述べた。具体的な対応策には触れなかった。

中国、ブラジル、ロシア、インド、南アフリカ(BRICS)は前日、為替市場安定を目的に創設する外貨準備基金の規模を1000億ドル程度とすることで合意した。世界最大規模の外貨準備を保有する中国が同基金の大半を拠出する。

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米中戦略・経済対話(7月10‐11日)での「米中のせめぎ合い」のなかで、中国側の先鋒は元CIC会長の楼継偉財政相だったそうだ。1兆ドル以上の米国債を運用してきたこの元最高責任者が、バーナンキ議長の前言(6月19日)を撤回させる注文をつけたことは想像に難くない。

ちなみに産経はこの米中経済対話を、楼継偉財政相が米国側へ「(QE縮小の)影響は米国のみにとどまらず、十分注意すべきだと注文をつけた」と伝えているが、注文というよりも1兆2000億ドルの米国債保有を矛にして、迂闊な米国側を恫喝する場面すらあったかもしれない。

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米中戦略・経済対話では、経済分野で焦点の金融システムをめぐる米中のせめぎ合いがみられた。「影の銀行(シャドーバンキング)」問題が沈静化したと強調する中国に対し、米側は改革の継続を要請。逆に中国は米国の量的緩和の縮小について「時期尚早」とくぎを刺した。

(中略)だが、米側はこの問題を「戦略対話の主要議題」(政府高官)として狙いを定めていた。「シャドーバンキングに伴う問題を改善せよ」と迫るバイデン副大統領に押されたのか、中国の汪洋副首相も「米中は金融安定化に向けた協力で合意した」と表明せざるを得なかった。

(中略)中国側も米国発の金融リスクを突いた。米連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和の年内縮小を打ち出し、世界の金融市場が動揺する中、中国の楼継偉財政相は「高い失業率を考えれば時期尚早」と牽制(けんせい)し、「影響は米国のみにとどまらず、十分注意すべきだ」と注文をつけた。

経済でもせめぎ合い 「影の銀行」で応酬 (7月12日 産経)

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130712/fnc13071222090017-n1.htm

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米国が困難な出口戦略の実施を考えているこの今、中国が困難な金融改革を進めねばならないこの今、「米中が金融安定化に向けた協力で合意した」とおり、FRBと中国人民銀行は連携して動く必要性が生じている(CICはもちろん)。それは両者が米国債をもって一体化し、ファーガソン氏がいうチャイメリカ(Chimerica)の関係にあるためだ。しかしながら、FRBと中国人民銀行の連携の関係はこの場合、中国の都合中心に傾いたものになるかもしれない。

9月18日の会見でバーナンキ議長は、QE縮小を見送った理由として幾つもの理由を挙げた。その中の一つとして予算案をめぐる与野党対立によるデフォルトの恐れなどを挙げた。バーナンキ議長や連銀の総裁たちが、議会によって株価大暴落や世界恐慌の引き金が直接引かれるという、現実離れした「杞憂」に一応配慮したというのは一つの理由でもあるだろう( IMFは、米政府がたとえ一時的にでも債務返済に支障を来せば、米経済と世界経済に壊滅的な影響が及ぶと警告している-9月27日 WSJ)。

みずほ証券のエコノミストである上野泰也氏は、QE縮小見送りの理由としてこの議会対立の債務上限問題などの理由を過大視していると思うが、議会に対する配慮よりももっと大きな理由に中国の要因が考えられる。上野氏は「中央銀行当局者の発言がクリアカットでない場合、<政治関連の問題>が裏にある場合が少なくない」と述べているが、あの横柄で尊大な中国政府こそ、QE縮小に対して<政治的に>ただ黙っているわけがない。

コラム:米QE維持の背後に潜む「政治的事情」 (9月25日 ロイター)

http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPTYE98O04T20130925?sp=true

米国の出口戦略を考えるときに、それを米国の国内要因だけで説明しようという考え方は実情に適合しない。

上野氏とは対照的にロイターのアナリストである田巻一彦氏は、QE維持の最大の要因として「中国を含めた新興国の経済情勢に対するFRBの予想外に大きな懸念」があるという見方をしている。日本の多くのエコノミストとは違い、「シャドーバンキングという火薬庫」とFRBの出口戦略をきちんと結びつけて考えている。「FRBが量的緩和縮小を先送りしている間に、新興国が時間を稼いでマクロ状況を改善できればFRBにとっても望ましい」という部分は中国を念頭においているのだろう。

田巻氏はこの中国要因を含む背景からFRBの次期議長にハト派の起用を予想し、それによってQE縮小が大幅に先送りされる可能性を指摘している。

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コラム:米量的緩和縮小、年明けに大幅先送りの可能性も(田巻一彦 9月20日 ロイター)

http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE98J02J20130920?pageNumber=2&virtualBrandChannel=0&sp=true

一連の流れを見ていると、18日のバーナンキ議長の発言は、市場の一部で広がっている「縮小時期の小幅先送り」ではなく、大幅な先送りにつながる可能性がある。(中略)

FRBが金融政策の方向性をよりハト派的に修正しようとしている要因については、大きく2つあると考える。

1つは米経済の成長力に対する見方の修正だ。(中略)

さらに大きな要因は、中国を含めた新興国の経済情勢だと類推される。会見でバーナンキ議長は新興国に関連し「米国、また他の先進国の長期金利の変動が、新興国市場に一定の影響を及ぼし、一定の資本流出入につながるのは事実だ。特に、為替レートを固定しようとしている国がそうだ」と述べた。(中略)

新興国がつまずけば、世界経済全体に動揺を与え、米経済にも大きな下押し要因として働きかねない。特にシャドーバンキングという火薬庫を抱える中国の動向は、米政策当局にとっても無視できない要因であると思われる。

FRBが「量的緩和縮小」を先送りしている間に、新興国が時間を稼いでマクロ状況を改善させることができれば、それはFRBにとっても望ましい展開であるだろう。

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