【後編】 ソロスの空売りファンドが日本の年金積立金を食い尽くす

 ジョージ・ソロス (テレグラフ)
◆このブログ記事は5月8日に有料メルマガで配信された「ソロスの空売りファンドが日本の年金積立金を食い尽くす」の記事の、後半にあたるものです。
 

このブログ記事では、結語として『「日本売り」とヘッジファンド』を加筆しました。
 
前半は5月30日にブログで下記に掲載しています。

 
【前編】 ソロスの空売りファンドが日本の年金積立金を食い尽くす
 
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ソロスの空売りファンドが日本の年金積立金を食い尽くす
 
7~9月に活動開始 
 
 
【目次】
1 年金積立金とジョージ・ソロス
2 ソロスのアジア・ヘッジファンド
3 プレイアドの投資戦略
【結】「日本売り」とヘッジファンド
 
 
     【2 ソロスのアジア・ヘッジファンド
 
前出のロイターとブルームバーグの記事をもとに、主に日本と中国を標的とした、ソロスが新しく立ち上げるヘッジファンドの概要をまとめてみた。
 
ジョージ・ソロスの「ソロス・ファンド・マネージメント」のアジア・チームの元(もと)投資策定幹部(investment executives)であるケネス・リーとマイケル・ヨシノが、今年の第三四半期(7~9月)に、香港を拠点とするヘッジファンドを立ち上げる。ファンドの名称は「プレイアド・インベストメント・アドバイザーズ」(“Pleiad Investment Advisors”)。
 
4月21日のブルームバーグでは、「ソロス・ファンド」の中国と日本のスペシャリスト達によって設立された「プレイアド」が、アジア全域を対象としていると伝えているが、ロイターでは4月21日・24日の両記事で、「プレイアド」は中国と日本に(当然)焦点を合わせるだろうとしている(“is expected to”)。
  
「プレイアド」は「ソロス・ファンド・マネージメント」からスピンアウトしたヘッジファンド。つまり「ソロス・ファンド」の一部門であるアジア・チームを、外部からの資本導入により独立させて別会社にした(主にHSグループからの資本導入;後述)。
 
この「プレイアド」はジョージ・ソロスのヘッジファンドである。
 
ヘッジファンド業界で10万人以上のプロフェッショナルのネットワークを持つ「ヘッジファンド・グループ」(米国)のウェブサイトでは、「プレイアド」を「ソロスのアジア・ヘッジファンド」であるとし、「ソロス・ファンド・マネージメントは、香港を拠点にしたヘッジファンドを立ち上げている」と見出しで扱っている。
 
Pleiad Investment Advisors | Hedge Fund Group Association
 
初期資本金は1億5000万ドル(約154億円)を下らないとされ、今年のアジア地域でのヘッジファンドの立ち上げとしては最大規模の一つ。
潜在的な資産運用能力は15億-20億ドル。この潜在運用能力は、あくまでも「プレイアド」に大半の資金供給をしたHSグループの最高投資責任者(CIO)であるギャロウ氏が、ブルームバーグの電話インタビューで答えた数字だ。
 
HSグループは2013年にブラックストーン・グループ出身のマイケル・ギャロウ氏とゴールドマン・サックス・グループ出身のヨハネス・カプス氏が、アジアでの新興ヘッジファンドの立ち上げに長期資金を提供する目的で、2013年に設立した企業。
 
そしてロイターの4月24日の続報では、「プレイアド」は7月~9月の立ち上げ準備のために、ゴールドマン・サックスのプライム・ブローカレッジ業務の重役ビエン·チウを最高財務責任者(CFO)として雇ったと報じている(ビエン•チウは4月にゴールドマンを退職している)。
 
Pleiad Investment Advisors, a hedge fund spin-out from Soros Fund Management, has hired former Goldman Sachs prime brokerage executive Vien Chiu as its chief financial officer, as it prepares to launch in the third quarter of 2014.
 
Soros Asia hedge fund spin-out hires ex-Goldman exec as CFO 424 ロイター
 
 
     【3 プレイアドの投資戦略
 
424日の方のロイター記事では、「プレイアド」はロング・アンド・ショートの株式ヘッジファンドであろうと書かれている(※ ロングは買い、ショートは売り)。
 
Pleiad, …, is expected to launch a long/short equities hedge fund with a focus on China and Japan …
 
このことを更に説明した箇所が421日のブルームバーグの記事の方にあり、「プレイアド」は<空売り>を含めた「全天候型戦略」をとると、元ブラックストーンのギャロウ氏は説明している。
 






Pleiad will maintain a “moderate” net exposure, the difference between long and short investments, said Garrow, setting it apart from the typical long-biased Asian equities fund that makes most of its money in a rising market. Shorting involves selling borrowed stocks, betting on their prices to decline.
 
We think it’s an all-weather strategy,” Garrow said.
 
「プレイアドは「中程度」のネット・エクスポージャーを維持するだろう。ネット・エクスポージャーとはロングポジションとショートポジションの差額。プレイアドは、上昇相場でその大部分を儲ける標準的な買いに偏ったアジアの株式ファンドとは異なる。」とギャロウ氏は言った。ショーティング(売り)は、値下がりする株価に賭けるために借りた株式を売ることが含まれる(◆訳注これは「空売り」のことを指している)。
 
「私たちは、(プレイアドは)全天候型戦略をとると考えている。」とギャロウ氏は言った。
 
HS Group Backs Ex-Soros Specialists for New Asia Hedge Fund (421 ブルームバーグ)






 
今年に入り日経や一部週刊誌で、ソロスが日本株を売り仕掛けているといううわさ記事が掲載されたが、実際にその売却の一部が確認されている。
 
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「今年1月の日本株の急落場面では、『ソロス氏が売りに回った』といううわさが世界の金融市場を駆け巡ったが、米証券取引委員会に提出した20131012月期の報告書から、この期にソロス氏が日本株の売りに転じた事実が浮かぶ。」(下記記事の一部を要約)
 
「日本株を売ったソロス・ファンド、世界景気減速を先読み」(2014/02/20 日経)
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ソロスは、2013年4月の、日銀の黒田総裁による「異次元緩和」発表の直後、「円は雪崩のように下落するかもしれない」と米国メディアのインタビューで答えていた。あるブログで、「ソロスの予測は外れたじゃないか」という記事を読んだが、ソロスの予測が外れたのは、翌月522日のバーナンキ元FRB議長のQE縮小示唆の発言、それに続く秋の米国のデフォルト騒動、新興国の経済不安、ウクライナ情勢などの海外要因が大きく影響している。
 
 
     【結】 「日本売り」とヘッジファンド 
 
ギャロウ氏が短く答えた「全天候型戦略」ですが、この言葉は意味深長であり、ただ単に株式市場の下げ相場のなかで最大限の利益を獲得するという意味だけではないと考えます。
 
「国債先物売り+株先物買い」とその反対売買の「国債先物買い+株先物売り」は海外投機筋がよく使う方法で、彼らはそれらを交互に仕掛け、そしてそれに「円」の売り買いを組み合わせて攻めてくると予想します。
 
私が4月24日に有料メルマガで配信した記事「円の動きは国債暴落の最初の兆候になる」を、あとからブログで2回分にして掲載しています。
 
円の動きは国債暴落の最初の兆候になるーカイル・バスのインタビューから(米CNBC)ー
 
『国債市場は先物から崩れる』ーヘッジファンドの「日本売り」はいつ来るかー
 
これらの記事は、ジョージ・ソロスやカイル・バス、レイ・ダリオなどの「日本売り」ヘッジファンドが、どのように「池の中のクジラ」と呼ばれる黒田日銀に戦いを仕掛けてくるのかを、<円相場と国債>の角度から考えています。
 
いわゆる「日本売り」をソロスがどのように仕掛けてくるのかを考えるのに、ご参考になると思います。
 
        (了)