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【◆◆以下の記事は、有料メルマガ10月9日号の一部を修正したものです】

    ロシア極東での大軍事演習と日本をとり巻く情勢

     ―アメリカを想定した軍事演習「ボストーク2014」―


【目次】
【序】 アベノミクスの岐路
【1】 ロシア極東での大軍事演習
    ―米国を想定―
【2】 プーチンは停戦を遵守するか
【3】 米国とロシアと中国のはざまで


    【序】 アベノミクスの岐路

今後の円安の進み具合がマスコミで心配されています。
日米の金融政策の違いを利用して円売りで大儲けをしようという動きは2013年に海外ヘッジファンドの間で何度もありました。今回は米国の利上げに現実味が非常に出てきたことから急テンポで円売り圧力が高まってきました。

このように心配される円売りの動きは充分に予想できたことで、アベノミクスに批判的な人達のなかでは、ほぼ共通した見方であったと思います。

今夏は外交・軍事系の米国誌サイト『ナショナル・インタレスト』や『ディプロマット』でも日本の財政と経済の悪化を取り上げていました。

「アベノミクスが岐路に立っている」このいま、今回の記事の<第3節>では極東アジアの中の日本の置かれた状況を、ロシア、米国、中国との関係から見てみました。


    【1】 ロシア極東での大軍事演習

ロシア軍は9月19〜25日の間、ロシア極東で今年最大規模の軍事演習「ボストーク2014」を実施しました。
「ロシアは最近、軍事演習を活発に行っている。極東では、北方領土と千島列島で8月中旬、千人以上が参加した演習を実施」(9月19日 朝日)。

このニュースはプーチン大統領の今秋の来日が取り沙汰されている最中であったので、北方領土を抱える私たちのなかにはロシアの目的について疑問を抱いた人も多かったのではないでしょうか。

「北極圏から極東ロシア沿岸地域に至る広大な地域」でのこの演習の詳細は、下記の防衛省のホームページにまとめられています。地理的な図や兵器の全容が参考になると思います。

大規模演習「ヴォストーク2014」について (防衛省)
http://www.mod.go.jp/j/approach/surround/pdf/rus_ex_boctok2014.pdf

この防衛省の資料では実施内容についての記載は詳細なのですが、この大規模演習の狙いや目的については書かれていません。強いてあげれば、「2014年に実施されてきた一連の演習・訓練の総決算的な位置づけ」とあるだけです。

この「今年最大規模の」ロシアの軍事演習については海外シンクタンクや軍事メディアが注目しています。

ジェームズタウン財団のパベル・フェルゲンハウアー氏は、「ボストーク2014」はもっぱら米国との戦争のために準備した軍事演習であったということです(「ほぼ間違いなく」と同氏は言っています)。

“Arguably, Vostok 2014 was exclusively a preparation for war with the US.”


高緯度地域にあるロシアに米国が攻撃をかける場合、ロシアの極東地域がその広い玄関口となるため、アナドゥイリ(アラスカ対岸)からカムチャッカ地方、サハリン州、ウラジオストクまでの沿岸と、東部軍管区内の地上・海上・空中の演習場20カ所以上が演習実施地域となるのです。

朝日新聞はこの軍事演習を「今年最大規模」としましたが、ロシアのショイグ国防相は、「ロシアの歴史の中で最も大きな軍事演習、冷戦時代の間のどの軍事演習よりも大規模である」と言ったそうです(ジェームズタウン財団前出記事)。

フェルゲンハウアー氏の記事によれば、「ボストーク2014」の作戦シナリオでは、千島列島をめぐる北方領土紛争のケースも想定し、日本の同盟軍であるアメリカ軍の攻撃と介入に備えています(報道によれば)。

この演習でロシア軍は、米国の空軍、海軍、そして北極からウラジオストックまでの沿岸からのアメリカ軍の上陸を想定しています。

9月17日に「ロシアの長距離爆撃機2機を含む軍用機6機がアラスカ付近の米国の防空識別圏(ADIZ)に入り、米国のF22戦闘機が発進していた」ことが明らかになり(9月20日の報道)、「18日にはロシアの長距離爆撃機2機がカナダの防空識別圏に入った」ことが北米航空宇宙防衛司令部から発表されています(軍用機は特に問題を起こすことなく同空域を出ています)。

ロシア軍機6機、米防空識別圏に入る カナダにも2機 (9/20-2014 AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3026515

AFPの記事では、この事件と「ボストーク2014」(9月19〜25日)との関係は不明としていますが、先ほど述べたように、フェルゲンハウアー氏は「ボストーク2014」はもっぱら米国との戦争のために準備した軍事演習であったと指摘しています。


    【2】 プーチンは停戦を遵守するか

「ボストーク2014」軍事演習の2週間ほど前、親ロシア派は9月5日にウクライナ政府と停戦に合意しています(この停戦は一時的なものでしょう)。

そして10月に入り、戦略上の要衝であるドネツクでは政府軍と親ロシア派の間で激しい砲撃戦などが起こり、「今後、戦闘が再び激化するのではないかという懸念が出ています」。

ウクライナ 停戦が事実上破綻 戦闘激化懸念 (10/03-2014 NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141003/k10015082121000.html

ウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力の戦闘は、米国とロシアの代理戦争です。
プーチンはこの先、どのように動くのでしょうか。

戦略国際問題研究所のアンドリュー・クチンス氏ら(ロシアが専門)は、それが不透明であるとした上で、次のように述べています。


(抄訳開始)
ロシア政府はこの紛争で、ドネツク州とルガンスク州の特定地域に付与された「特別の地位」以上のものを目的にしている。ロシアはウクライナがNATOメンバーにならないという保証がほしい。

ロシアのより大きなプロジェクトは、「ノヴォロシア」と呼ばれる帝政時代の領土を再現することだ(※訳注-ノヴォロシア:18世紀末にロシア帝国が征服した黒海北岸部地域を差す地域名)。

「ノヴォロシア」にはドネツク州とルガンスク州ばかりでなく、ロシアが占領したクリミアやウクライナ南部や東部のほかの地域、係争中のモルドバ共和国のドニエストル地域などが含まれる。

プーチンは数多くの場で「ノヴォロシア」の復興をほのめかしてきた。「ノヴォロシア」の復興はまだ中途半端である。

プーチンは、国民に国家主義的な感情をかき立て、ウクライナへの介入の国内支持を集めるために「ノヴォロシア」のビジョン(構想)を使ってきたので、簡単には「ノヴォロシア」プロジェクトを降ろすことはできないだろう。

とくに、もしウクライナが欧州との統合をより深める方向へ進むとしたら、それはより難しくなる。
(抄訳終了)



9月25日、ウクライナのポロシェンコ大統領は記者会見で、「親ロシア派武装勢力との衝突は『最も危険な』山場を越えたという認識を示し、2020年に欧州連合(EU)へ加盟申請する」意欲を示しました。

ウクライナ大統領、2020年までのEU加盟申請に意欲 (9/26-2014 AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3027086

クチンス氏が指摘するように、EU加盟もプーチンが最も嫌がることであり、これは「ノヴォロシア」のプロジェクトや扇動に火をつけることになります。


    【3】 米国とロシアと中国のはざまで

ここからは視点を極東アジアへ転じて、日本の置かれた状況をロシアを中心にして、米国と中国との関係からも見てみます。

米国の軍事サイト『スターズ&ストライプ』は、オバマ政権の外交・軍事政策にも関与するシンクタンクである新アメリカ安全保障センター(CNAS)のHPにも時々掲載されるウェブサイトです。

その『スターズ&ストライプ』に、最近のロシア軍の日本周辺での活動の活発化について考察した記事がありました。

Russia's Pacific activity: A show of force or something more? (9/09-2014 Stars and Stripes)
http://www.stripes.com/news/russia-s-pacific-activity-a-show-of-force-or-something-more-1.301797

この記事は最初に、今年4〜7月の間の、ロシア軍用機の200回以上の日本領空への異常接近と、8月中旬に千島列島で千人以上が参加したロシアの軍事演習を問題にするところから始まります。

この中で、慶応大学の神保謙准教授がこう言っています(神保氏はキヤノングローバル戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員などを兼職)。

『頻繁なロシア軍機へのスクランブル発進の必要性が高まると、自衛隊の戦略的シフトが非常に困難になる。
中国がロシアのこの動きを大いに歓迎することは間違いがない。なぜなら、この動きは日本の焦点を確実に北へ向かわせるからだ。』

そして、ランド研究所の東アジア情勢の専門家スコット・ハロルド氏は、この記事の中で次のように言っています。

『ロシアの頻繁な領空接近はアメリカの利益にもなる。なぜならロシアの頻繁な領空接近は日本とロシアの関係を必ず緊張させ、日本政府をアメリカの国益に合致する方向で緊密に米国の方へ動かすからである。』

The flights also benefit the U.S., Harold said, because they are sure to strain relations between Japan and Russia and move Tokyo closer in line with U.S. interests.

集団的自衛権の容認については、アーミテージ・レポートや安保法制懇の報告書を見ても<ロシアの脅威>については書かれていません。その多くが基本的に中国と北朝鮮を想定して構想が作られています。

日本に対するロシアの脅威は、中国との関わりのなかで下記の私の記事にまとめてあります。

北海道を狙うプーチンと中ロの秘密同盟 (7/28-2014 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/38890251.html

「ボストーク2014」の大軍事演習では、ロシアは米国を相手に派手で大掛かりな演習で米国を威嚇しました。ロシアは中国同様、核兵器超大国です。このようなプーチンの流儀を前に、米国は果たして日本を守ってくれるでしょうか。


      (了)

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