サウジの核武装と米シェール潰し

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サウジは2014年4月に行った軍事パレードで、核兵器搭載可能な中距離弾道ミサイルDF-3(中国製)を誇示した。
 
【◆◆以下の記事は、有料メルマガ11月27日号の一部です】
    【1】 サウジの核武装と米シェール潰し
まず、以下は2013年11月の報道です。
 




英BBC放送の報道番組「ニューズナイト」は(11月)8日までに、サウジアラビアがイランの核武装に備え、パキスタンから核兵器を入手する準備を進め、いつでも輸入できる状態にあると伝えた。

 
サウジ、パキスタン両政府は報道を否定しているが、現実となれば中東の軍事バランスを根底から揺るがす恐れがある。番組によると、北大西洋条約機構(NATO)幹部が情報機関の報告の存在を確認。
 
イスラエルの元軍情報責任者は「サウジは核爆弾の代金を支払い済みで、(必要になれば)1カ月もかからないだろう」と指摘した。(ロンドン、イスラマバード 共同)
 
「サウジ、パキスタンから核入手準備」(11/09-2013 共同通信)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/131109/mds13110914180005-n1.htm
 




これから1年後の今月11月24日、米英仏独中露の6か国とイランは、イラン核問題の包括解決を目指す交渉で最終合意を断念し、交渉を来年7月1日まで再延長することを決めました。包括解決への協議は今年2月から始まり、7月の期限が延長され、今回は再延長になります。

 
ワシントン中東政策研究所のサイモン・ヘンダーソン氏らによれば、この交渉の結果次第では、湾岸諸国とヨルダンで動いている核計画を加速させるだろう(may accelerate = 約50%)と警告しています。
 
Regional Nuclear Plans in the Aftermath of an Iran Deal (11/21-2014 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/regional-nuclear-plans-in-the-aftermath-of-an-iran-deal
 
ワシントン中東政策研究所は、米国の中東政策に影響を与えている(とくに保守派の中東政策に)と言われます。サイモン・ヘンダーソン氏は、以前から多くの貴重な論文があり著名な研究者です。
 
サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタール、ヨルダンなどは、原子力発電所の新設計画を進めており、特にサウジアラビアは導入に野心的だと言われています。
 
この中でもサウジアラビアは、明らかに原子力発電の核兵器への転用を目標にしています。
 
サイモン・ヘンダーソン氏らによれば、湾岸諸国の指導者たちが、イラン外交をどのように見ているのかを示す最も明確なシグナルの一つは、サウジが今年4月に行った軍事パレードで、核兵器搭載可能なミサイルを誇示したことでした。
 
One of the clearest signals of how Gulf leaders view Iran diplomacy was Saudi Arabia’s decision to show off two of its nuclear-capable missiles at a military parade in April.
 
ヘンダーソン氏の今年4月29日の記事によれば、この2基の中国製のミサイルDF-3は、イランへの外交的シグナルであると同時に、おそらく米国へのシグナルでもあると言います。DF-3は核弾頭が搭載可能な中距離弾道ミサイルです。
 
Saudi Arabia’s Missile Messaging (『サウジのミサイル・メッセージ』 4/29-2014 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/saudi-arabias-missile-messaging
 
これらのDF-3は1987年にサウジアラビアが中国から購入したものでしたが、リヤドの南方に保管されていました。
 
この軍事パレードの来賓にはパキスタンのシャリフ陸軍参謀長の姿がありました。昨年11月の報道で、サウジが契約した核兵器の入手先と見られる国の要人です。
 
『サウジのミサイル・メッセージ』と題したこの記事の中でヘンダーソン氏は、湾岸諸国にはイランがこのまま核兵器保有国になってしまうという懸念が支配的だと述べます。
 
ヘンダーソン氏はこの4月末の時点で、サウジによる核搭載可能なミサイルの誇示は、イランの増大する脅威への対抗の決意であるばかりでなく、<米国の意思に関係なく、独立して行動する準備ができている>ことを示すと指摘しています。
 
Amid the Persian Gulf’s prevailing diplomatic atmosphere — dominated by concern that ongoing international negotiations will leave Iran as a threshold nuclear weapon state — the missile display signals Saudi Arabia’s determination to counter Tehran’s growing strength, as well as its readiness to act independently of the United States.
原油価格(WTI)が6月中旬から急落を始めています。
 
これはサウジアラビアが米国のシェールオイルに価格競争を挑み、シェール潰しの挙に出ているからだと推測する人が多いようです。これに対しては異論もあるようですが、サウジが自身を守ってもらわなければならないイラン核問題を抱えながら、米国と石油でケンカを始めた強気は、まさに核武装を具体的に決断し、準備を始めているところから出てきているのではないでしょうか。
 
コラム:サウジの価格戦略は米シェール革命を阻むか (11/13-2014 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKCN0IX0I220141113?rpc=188&sp=true
 
今年3月2日、ロシア軍はクリミア半島を掌握しました。
米ハドソン研究所の首席研究員である日高義樹氏は、この侵略を次のように説明しています。
 
「オバマ大統領は、1994年のブダペスト条約に基づいてウクライナの安全を保障するという覚書による約束を破った」(※注-1)
 
「約束を破った」とは、米国が軍事介入しなかったことを指します。
ハドソン研究所の学者によると、サウジはこの「ウクライナ攻撃に強い衝撃を受けた」そうです。
 
11月26日の産経によれば、ニューヨーク・タイムズ紙に「米・サウジとロシア・イランの間で石油戦争が起きているのではないか」という記事が掲載されたそうです。
しかし、<米国が安全保障の約束を破るのを見たサウジが>、巨大な損失覚悟で米国と組んで、ロシア・イランとの石油価格戦争などというオメデタイことをするでしょうか。
 
繰り返しますが、サウジをはじめ湾岸諸国には、イランがこのまま核兵器保有国になってしまうという懸念が支配的だと言います。
 
共同通信によれば、「米情報機関によると、イランは現在も、その気になればわずか2カ月で核兵器1個分の高濃縮ウランを製造できる」そうです。
 
※注-1:『「オバマの嘘」を知らない日本人』 (日高義樹著 2014.7.4刊 PHP研究所)