サウジ老齢王室の政策決定と原油下落―その軍事的側面―

サウジのヌアイミ石油鉱物資源相
 
【◆◆以下の記事は有料メルマガ12月11日号の一部で、それに加筆したものです】
 
    【1】 サウジ老齢王室の政策決定と原油下落
 
          ―その軍事的側面―
 
11月に続いて12月も生活に密着している原油価格の下落が関心をよんでいます。この原油価格下落の主役はいうまでもなくサウジアラビアです。このサウジが米国のシェールオイル潰しを企てているのではないかという見方は、有料メルマガ11月27日号の『サウジの核武装と米シェール潰し』で取り上げました。
 
その記事で取り上げたサウジの動向に詳しいサイモン・ヘンダーソン氏が、シェールオイル潰しに加えて少し違った角度から状況を見ています。それは同氏の10月17日以降の記事からです。
ヘンダーソン氏は、サウジの原油の政策決定の現状について解説しています。
 
Falling Oil Prices and Saudi Decisionmaking (10/17-2014 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/falling-oil-prices-and-saudi-decisionmaking
 
ヘンダーソン氏は、サウジが米国のシェールオイル潰しを企てているのではないかというマスコミの見方も取り上げています。しかし、そのあとで、1973年の中東戦争の際に米国へ石油の輸出禁止を行ったような、米国への対決姿勢をサウジが実行した例は、過去において稀であると言い、現在の見方としては、サウジの行動は原油価格の支配・制御(controlling)というよりはむしろ状況反応的な(reactive)行動であると言います。
 
そしてそれを確信する理由の一つは、サウド王室の<老齢な指導力の状態>であると言います。
 
Yet that has rarely been Riyadh’s practice, and the current perception is that Saudi behavior is reactive rather than controlling.
One reason for this belief is the kingdom’s geriatric leadership situation.
 
この<老齢な指導力の状態>についての記述を抄訳します。
 
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アブドラ国王は今年91歳になるが、長年のヘビー・スモーキングに苦しんでおり、酸素ボンベが離せず、介助者なしでは歩けない。
また、アブドラ国王の後継者であり、異母弟であるサルマン皇太子は、78歳で、持病を抱えている。
 
理論上、サウジの石油政策は、国王、年長の王子たち、そして関係閣僚たちで構成された最高石油会議によって決定される。しかし最近は、この閣議でのどのような公の声明もなされていない。
 
その代わりに、これらの決定は長く石油大臣を務めているアリ・アル・ヌアイミ(ヌアイミ石油鉱物資源相)に任されているように見える。
 
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この記事のなかでヘンダーソン氏は、「高い輸送費にもかかわらず(※注-1)、サウジは地政学的な重要性のために米国への石油のトップ輸出国のままでありたいと望んでいる」と言っています。
 
(※注-1:米国への輸出は欧州などと比べて遠いので、サウジは引渡し地までの運送料、保険料を含む価格(CIF 価格)を負担して調整しているようです。下記参照)
 
石油市場の国際的な取引慣行に関わる基礎的調査 (財団法人 中東経済研究所)
https://jime.ieej.or.jp/htm/extra/2004/08/11/itaku02.pdf
 




サウジアラビアは4日、米国とアジア向けの1月積みの原油価格を大幅に引き下げると発表した。アナリストの間では価格を引き下げることで市場シェア拡大に向けた動きを加速させているとの見方も出ている。
 
サウジが米・アジア向け原油値下げ、シェア拡大へ動き加速か (12/04-2014 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jp_mideast/idJPKCN0JI25620141204
 




サウジは市場シェア維持、またはシェア拡大を最優先して価格下落を容認しているとの観測が一般的ですが、12月4日のロイター記事が伝えるように、<米国向け>原油価格を大幅に引き下げると発表しました(ロイター記事で、サウジがアジア向けの価格を大幅に引き下げるとあるのは、アジア地域が一番の経済成長地域でシェアを確保しておく必要があるからです)。
 
サウジが価格を大幅に引き下げてでも米国での石油シェアを確保したいというヘンダーソン氏の指摘は、「イスラム国」(ISIS)が引き起こしている現状の中東情勢で、サウジが米国にテロ戦争で安全保障を軍事的に求めている証拠かもしれません。
 
いまは気前のいい財政で、国民の機嫌をとっているサウジですが、米軍に対して形勢有利な「イスラム国」によって、サウジアラビアがイラクやシリアのように内戦状態に陥ることは否定できないからです。
 
いまのサウジの石油政策は、米シェール潰しであると同時に、サウジにとって米国が石油の第一のお客であってもらわねばならない軍事的な目的もあると考えます。
このサウジの石油政策の軍事的側面は、シェールオイルの増産がペルシャ湾岸の軍事情勢へもたらす影響と密接に関係してきます。
 
■ 関連リンク
 
サウジの核武装と米シェール潰し (11/27-2014 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39155494.html