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           【イランの勢力範囲】


【◆◆この記事の第4節「サウジはイランにどう対抗するか」について】

以下に有料メルマガ4月9日号の『イラン核合意後、サウジはイランにどう対抗するか』を公開しました。

この記事の第4節「サウジはイランにどう対抗するか」の中での1つ目の予測に、「サウジは自らの核プログラムを開始し、イランが核合意で許容されるのとすべて同じだけのレベルへ核技術を構築する」というケニス・ポラック氏の予測があります。ところが、この予測がかなり揺らいできているようです。

これは4月後半に入ってから、サウジ-パキスタン関係がおかしくなってきたことがわかったためです。このサウジ-パキスタン関係の変化については、有料メルマガ5月14日号の中の『サウジはパキスタンに核の梯子をはずされるか』にまとめてあります。この記事のブログでの公開はもうしばらく後になります。


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    イラン核合意後、サウジはイランにどう対抗するか

【目次】
【1】 核合意後のサウジとイラン
【2】 ハメネイ師が核開発より優先させたもの
【3】 核合意後のイランの行動は
【4】 サウジはイランにどう対抗するか
【結語】 中東での米国の限界


【※ 第2節から第4節まではケニス・ポラック氏の論文の解説になります】


    【1】 核合意後のサウジとイラン


欧米など6カ国とイランは4月2日に、イラン核問題の包括解決に向けた枠組みに合意しました。最終合意は6月末を目指します。オバマ大統領は今回、イランの核兵器保有を阻止する「歴史的な」合意だと強調しています。

イスラエルはこの枠組み合意を非難し、サウジのサルマン国王は「地域と世界の安全保障を強化するような(6月末の)最終合意を望む」と声明を出しました(4月3日 ロイター)。

枠組み合意の問題点や最終合意までの更なる困難さが、マスコミによって報道されていますが、この枠組みの最終合意は、中東、とくにスンニ派諸国に大きく影響を与える可能性があります。その中でもサウジアラビアが、この核合意にどのように対抗してくるのかを、本稿では見てみたいと思います。

ブルッキングス研究所の上席研究員であるケニス・ポラック氏は、この枠組み合意の1か月前に、合意後として予想されるイランとサウジの行動を予測しています。


ポラック氏は中東の政治と軍事の情勢の専門家で、とくにイラク、イラン、サウジとそのほかの湾岸諸国を重点的に研究しており、現在、ブルッキングス研究所の中東政策センターの上席研究員です。

米国の保守派などは、6月末の最終合意の履行確認後、経済制裁が解除された後のことを警戒しています。それは経済制裁が解除され、その資金力が回復すれば、イランは、中東地域でのテロ組織やスンニ派諸国での反政府活動を支援し、湾岸地域の政府を転覆させるといった行動を活発化させるという懸念です。また、サウジなどのライバル国を直接的に脅かすようになるということを言う保守派の意見もあるようです。

ポラック氏は、そのように核合意のあとのイランの攻撃性を危惧する右派の見方に対して、むしろサウジの出方の方が、中東地域の混乱と不安定化に及ぼす影響が強いと見ています。このことは今回の記事の後半の方で述べます。


    【2】 ハメネイ師が核開発より優先させたもの


今回の枠組み合意では、イランの最高指導者ハメネイ師がそれへの沈黙を守っていることが報道されています。
4月6日付のフィナンシャル・タイムズ紙は、ハメネイ師について、「自身の核開発計画の大半を放棄し、核協議で大幅に譲歩した」、「核抑止力の達成を最優先事項としていたイスラム政権の大幅な譲歩を隠すことはできない」、「6月の最終合意で、ハメネイ師はこれまでで最大の試練を迎える」と伝えています。

イラン核合意で最高指導者ハメネイ師に厳しい試練 (4/06-2015 フィナンシャル・タイムズ邦訳版)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43443

このハメネイ師の思惑については専門家たちも注目しています。
ポラック氏が推測するハメネイ師、そしてイラン強硬派などの上層部の戦略上の考えは、フィナンシャル・タイムズの記者が報道した内容とは、全く違った次元に立ったものでした。

ポラック氏によれば、ハメネイ師と強硬派が(ロウハニ大統領とザリフ外相も)核開発計画よりも最重視し、最優先させたのは、中東地域におけるイランの現状でのプレゼンスの維持であると言います。(ポラック氏は「プレゼンス」という言葉は使っていませんが、stake、positionを使って説明しています)
※ プレゼンス:軍事的、経済的に影響力をもつ存在であること

イランは中東地域のなかで、現在、イラク、シリア、レバノン、イエメンを影響力の下に置いていますが、このまま欧米と国連による経済制裁と原油の大幅下落で、経済の悪化と衰退が進めば、当然、イラク、シリア、レバノン、イエメンなどへのプレゼンスは低下し、それらの国々への「ポジション」は悪くなっていきます。

ハメネイ師とロウハニ政権はこれを恐れ、核開発計画よりも最優先させたというわけです。先ほど挙げたフィナンシャル・タイムズ紙の記者は、「イランは核開発を<最優先事項>としていたが大幅に譲歩した」と描写しましたが、長引く経済制裁の下でハメネイ師は、中東地域での覇権の獲得プロセスの方を<最優先させた>のです。そもそも核兵器はそのための手段でした。

Moreover, while I can’t prove it, I think there is strong circumstantial evidence that Khamene’i and the Iranian establishment believes it has far more at stake in Iraq and possibly Lebanon than it does in a nuclear deal. … Because of Syria’s relationship to both Iraq and Lebanon, it too might be more important to Tehran than a nuclear deal if the Iranian leadership were ever forced to choose between the two.

ポラック氏は、この数年ハメネイ師のいろいろな発言をもとに、「ハメネイ師の見方・態度は、核開発を完全に取引の道具としてみなしていると思われる」と指摘しています。これはハメネイ師やイラン強硬派が、何が何でも核開発を最優先目標として固執していると見る見方とは異なるものです。


    【3】 核合意後のイランの行動は


イラン核協議の枠組み合意の10日前にロイターの外人記者が書いたもので、次のような記事があります。

焦点:中東で「帝国」拡大を目論むイラン、核交渉を憂慮する周辺国 (3/23-2015 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0MK0DS20150324?sp=true

この記事の中では、「アラブ諸国の専門家や指導者が、イランが、イラク、レバノン、シリア、イエメンに至る中東地域で支配力を強めようとしていると懸念している」と伝え、邦題では「中東で「帝国」拡大を目論むイラン」とあります。

しかし、ポラック氏によれば、イランはこれらイラク、レバノン、シリア、イエメンへのイランの影響力の大きさの現状にかなり満足しており、その影響力が非常に自国のイランに有利なものであると見ています。イラク、レバノン、イエメンではシーア派の勢力が優勢です。それゆえ、核合意のあとに、格段、中東地域のどこかで攻撃的な行動をおこすとはないだろうと言います。

ポラック氏は、2、3の例外としてハメネイ師とイラン強硬派が現状打破のための攻撃的な行動をとることがあるかもしれないということは言っています。それは、イスラエル、バーレーン、イエメンに対するものです。
イエメンについては、3月2日にポラック氏の記事が掲載されて以後、フーシ派が政権転覆の混乱を起こしたので、事態の推移を注視していく必要があります。


    【4】 サウジはイランにどう対抗するか

このようなイランに対して、核合意後(最終合意後)のサウジは何らかの形で強い対抗手段をとってくると思われます。ポラック氏によれば、このようなイランよりも、むしろイラン核合意後の、これに対抗するサウジの行動の方が、中東地域の不安定化と混乱を高めると言います。

ポラック氏が、イラン核合意後に起きるであろうと予測するサウジの行動は2つあります。
一つは、サウジは(当然)自らの核プログラムを開始し、イランが核合意で許容されるのとすべて同じだけのレベルへ核技術を構築することを発表するという予測です。

つまり、『もし、イランが6500基の第一世代の遠心分離機の設置と純度3.5%の濃縮ウラン150キロの備蓄量を許されるのならば、サウジもそれとぴったりと合わせて全く同じことをすると決定する』のではないかという予想です。

この場合、西側諸国がイランに合意の履行を守らせることができないと、中東地域での更なる核兵器の拡散という事態を招くだろうポラック氏は警告します。

もう一つの、イラン核合意後にとられるとされるサウジの対抗的行動は、イランと同調する国と組織やイランの代理をなすものと戦っている、様々なスンニ派組織への支援を増大させるかもしれないという事態です。

イランの核協議の合意後は、米国がそのような事態へ介入する可能性が少なくなってくると思われるので、そうなると核合意が及ぼす最も大きい危険な状態になってくると言います。

『スンニ派の湾岸諸国は彼ら単独ではイランとの戦争で劣るため、もし、湾岸諸国がイランに対して挑発的な行動に出た場合(たとえそれがイランの攻撃を阻止しようとするものであったとしても)、容易にイランからの攻撃を引き起こしてしまう。』

The Gulf states are not strong enough to take on Iran alone, and if they act provocatively toward Iran, even if intended to deter Iranian aggression, they could easily provoke just such aggression.

最後にポラック氏は、そのような事態で、米国がスンニ派湾岸諸国を安心させてイランの行動を阻止しないようであれば、事態は非常に厄介で物騒なものになってくると警告しています。


    【結語】 中東での米国の限界


イエメン情勢を見てもサウジなど湾岸産油諸国に対しても、今年に入ってから、従来の中東への米国の関与が同盟国に対してだいぶ弱いものになってきているのがわかります。

以前、米国務省の政策立案スタッフのメンバーで、北アフリカとレバント(地中海東沿岸の地域)の政策を国務長官へ助言していたジェレミー・シャピロ氏(現在ブルッキングス研究所)は、次のように言っています。

『今日、シリア、イラク、リビア、イエメン、レバノン、そしてたぶん余り遠い未来ではないチュニジア、もしくは不安定さの中へと渦を巻いているサウジアラビア・・・。もしかすると、中東での米国の「重大な利益」という概念は、それらの国々を守る能力の限界を越えたところまで来てしまっているのではないかどうか。このことを考慮する時に、いま来ているかもしれない。』



■■ 関連リンク

「イランと米国との共同統治」―米国の新しい中東包括戦略― (2015/03/12 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39335801.html

サウジは国内秩序動乱の入り口にいる―シェール革命の影響と米国の中東政策― (2014/12/25 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39207813.html

バグダディの呼びかけとサウジアラビア (2015/03/26 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39359046.html



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