プーチンは中東で戦争を仕掛けることができるか―盟友中国の存在―

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【◆◆以下の記事は有料メルマガ5月14日号の一部です】

   【1】 プーチンは中東で戦争を仕掛けることができるか

        ―盟友中国の存在―      

原油価格の大幅な下落状態が続き、低迷を続けるロシア経済を眺める時に、もし中東で大きな戦争があればロシアは経済を復活できる、プーチンは中東での戦争を待つだけでなく、その仕掛けをつくることを考えているはずだ―国際情勢に関心を持つ比較的多くの人がこのように考えているかもしれません。

しかしこの考え方―つまりプーチンは中東での戦争を仕掛ける―、それは果たして可能でしょうか。

オスロ国際平和研究所の教授でブルッキングス研究所の非常駐シニア・フェローのパベル・バエフ氏は、この問題について回答しています。バエフ氏はロシアの軍事や安全保障政策、ロシアのエネルギー問題の専門家です。

Russia needs a Middle East crisis: Will delivering S-300s to Iran help? (4/22-2015 ブルッキングス研究所)
http://www.brookings.edu/blogs/order-from-chaos/posts/2015/04/22-russia-s300s-to-iran-baev?rssid=Order+from+Chaos

この記事の題名は「ロシアは中東危機を必要とする」です。
その副題は「イランへのS300の譲渡(荷渡し)は役に立つか」とあるように、記事の後半はロシアによる「S300のイランへの売却の背後には何があるのか」と問いを立てています。

「イランが欧米との核協議で画期的な枠組み合意に至ったことを受け」、プーチン大統領は4月13日、イランに対する高性能地対空ミサイルシステム「S300」の禁輸措置を解除したのです(※ 有料メルマガ4月23日号で解説しました)。

ロシア、イランへのS300ミサイル禁輸を解除 (4/14-2015 AFP通信)
http://www.afpbb.com/articles/-/3045299

バエフ氏によれば、ロシアは、中東から生じる自国にとっての非常に重大かつ緊急の問題―安い石油価格―に対処するために、ロシアの中東での中心的な役割を望んでいると言います。

6月末に向けてイランに対する核交渉で制裁が解除されれば、イランの原油と天然ガスは徐々に市場へ流れ、「原油価格を現在の最悪の悪夢の停滞状態よりもさらに押し下げる恐れがある」とバエフ氏は言い、次のように論を進めます。

「ロシアがこの落とし穴から脱出するただ一つのチャンスは、ペルシャ湾からの石油の流れを縮小させることのできる破壊的な(混乱させる)危機である」

ところが、バエフ氏は「S300の禁輸解除の決定は、プーチンに多くの満足を与えそうもない」と言って、ロシアの同盟国に近い中国の存在を挙げます。

S300のイランへの譲渡に理解を示した中国も、さらにもう一段階、中東で軍事的緊張を高めるような行動をロシアがおこした場合は、中国の怒りを買う危険(risk)があることをプーチンは理解していると述べています。

そして「どのようなオイルショックも防ぐと固く決意している大国(中国)がいるという事をプーチンは非常によく知っており、ロシアは中国の国益を害するわけにはいかない」と分析しています。

(※注: S300の禁輸解除はイランがその支払いをめぐる訴訟でロシアを脅し、核交渉の最終合意を待たずに解除させたという見方があります。S300の禁輸解除と引き換えに、イランはその訴訟を取り下げたそうです;下記記事より)

Moscow Is Ready to Supply Iran With Powerful S-300 Missiles (4/16-2015 ジェームズタウン財団)
http://www.jamestown.org/regions/russia/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=43800&tx_ttnews%5BbackPid%5D=653&cHash=702970272bb7a60ed9f065afda0d8ddf#.VTB0PyG8PRY

また「ロシアは、中東で大きな危機と混乱を引き起こす、ぶち壊し役を演ずることが必要であり、それにより利益があると考えているが、それができない」。つまり、プーチンが中東で石油ショックを仕掛けられないのは中国を重視しているからだと言っているのです。

混乱し不安定な中東情勢は刻々と変化していきます。

ロシアの軍事や安全保障問題を専門とするバエフ氏によれば、ロシアには中東において大きな失敗を犯すリスクがあると言います。その理由の一つは、ロシアの野心の遂行に使用可能である資力(resources)は、その野心と比べはるかに劣っていること。そしてもう一つは、プーチンを取り巻く部下の「狭い集団」(人材の幅が狭い)には、中東情勢に対処する専門的能力がないことをその理由として挙げています。

Moscow risks committing a major blunder, both because its ambitions are far higher than the resources available for their execution, and because the expertise on Middle East in the narrow circle of Putin’s courtiers is non-existent.

ロシアの中東地域での戦略性については、様々なロシアや中東を専門とする専門家たちが分析や論評をしていますが、ここではパベル・バエフ氏の記事を取り上げてみました。

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