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【◆◆下記の記事は有料メルマガ5月28日号「北東アジアでの中露の戦略的協力と日本の経済」の第1節~第3節です】
 
   北東アジアでの中露の戦略的協力と日本の経済
 
【目次】
【1】 北東アジアでの中露の戦略的協力始まる
【2】 中露のS400と尖閣諸島 +S500
【3】 中露による第1回 北東アジア防衛協議
【4】 IMFが日本のスタグフレーションに言及(別掲載)
 
   【1】 北東アジアでの中露の戦略的協力始まる
 
『ロシアが中国に対し、最先端の防空ミサイルシステムS400の供給に踏み切ったことが分かった。ロシアの国営兵器輸出会社「ロスオボロンエクスポルト」のイサイキン社長が、十三日付経済紙コメルサントのインタビューで、ロシアが中国とS400の輸出契約を結んだことを明らかにした。』(4/15-2015 東京新聞)
 
ロシア 欧米と対立深め 中国に最新ミサイル供与
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2015041502000107.html
 
このS400のロシアによる中国への譲渡の問題は、昨年でも専門家などの間で注目されています。日経によると「昨年11月、ロシア紙『ベドモスチ』が、中ロが売却で合意したと報道」したそうです(下記記事より)。
 
ロシア、「虎の子」兵器を中国に 日本にも暗雲 (4/24-2015 日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO86048560T20C15A4000000/
 
この日経の記事で編集委員の秋田浩之氏が、S400をめぐるロシアのプーチンの思惑や日本のロシアに対する外交などをいろいろ書いていますが、このS400譲渡の背景として進んでいる事態の核心を外しています。
 
北東アジアをめぐる情勢は、中ロによって巨大な形で進行しているようです。
 
現在のところ、中国と米国がにらみ合っている南シナ海情勢に注目が集まっていますが、中国は常に、領土の東西南北の多方向に戦略を着実に推進させています。
 
戦略国際問題研究所(CSIS)から年3回掲載される東アジアでの2国間関係のシリーズ“Comparative Connections”(「比較による関係」)で、今回5月に公開された中国とロシアの関係の報告を見てみました。
 
Comparative Connections v.17 n.1 – China-Russia: All Still Quiet in the East (5/15-2015 戦略国際問題研究所 PDF)
http://csis.org/publication/comparative-connections-v17-n1-china-russia
 
この報告書の一番最後の節に、中国とロシアの軍事的協力についての記述があります。北東アジアに関係した箇所を抜粋して訳します。
 




4月には、実用的なレベルでの防衛協議が<加速>していた。

 
4月16-17日、中国の常万全国防相は第4回モスクワ国際安全保障会議に出席し、セルゲイ・ショイグ国防相(ロシア)と会談した。(※ 訳注:この会談の3日前の13日、経済紙「コメルサント」が、ロシアが中国とS400の輸出契約を結んだことを報じている)
 
4月23日には、中国とロシアは北東アジア防衛における第1回の協議を上海で開いた。
劉建超外務次官補とイーゴリ・モルグロフ外務次官はその会議の共同議長を務めた。外交問題、国防、安全保障の各部門からの当局者たちがその会議に出席した。
 
北東アジア防衛のための中国とロシアの「協議」が開かれたのは、日本の安倍首相の1週間にわたる米国への訪問のちょうど3日前であった。
 

(PDF6-7ページ)




この記事の執筆者ユー・ビン氏はここで、北東アジアでの中国とロシアの軍事協力として「S400」譲渡の問題を取り上げています。

 
   【2】 中露のS400と尖閣諸島 +S500
 
ユー・ビン氏によれば、中国がS400を受け取るのは2017年と見られており、少なくとも6大隊のS400を約30億ドルで購入し、1大隊は8セットのミサイルシステムから構成されると見られています。
 
そしてこれが運用されれば、S400は尖閣諸島や台湾での標的に対して効果的に戦うだろうと言っています。
 
また、「S400」の譲渡について、米国サイトの『デェフェンス・ニュース』や『ディプロマット』の両誌は、モスクワの戦略技術分析センターの中国の防衛問題の専門家バシリー・カシン氏の見解を伝えています。
 
カシン氏によれば、「S400により中国は、東シナ海の日本によって管理された尖閣諸島の近くにまで防空識別圏(での影響力)を広げることもできるが、その防空識別圏を支配することはできないだろう」と言っています。
 
… the article added that that S-400 would “also allow China to extend, but not dominate, the air defense space closer to the disputed Japanese-controlled Senkaku Islands in the East China Sea.”
 
S-400 Strengthens China’s Hand in the Skies (4/18-5015 デェフェンス・ニュース)
http://www.defensenews.com/story/defense/air-space/strike/2015/04/18/china-taiwan-russia-s400-air-defense-adiz-east-china-sea-yellow-sea/25810495/
 
Alarm Over China’s S-400 Acquisition Is Premature (4/22-2015 ディプロマット)
http://thediplomat.com/2015/04/alarm-over-chinas-s-400-acquisition-is-premature/
 
S400のロシアから中国への譲渡では、専門家の間ではとくに尖閣諸島、台湾、インドの防衛への影響が論じられています。
S400についてのステルス性への対処能力については余り調べてみなかったのですが、『ディプロマット』の元編集長のザカリー・ケック氏は2014年の4月に次のように言っています。
 
『日本は中国のS400と戦わねばならないだろう。S400は尖閣諸島をカバーする。日本が軍事力を誇示する能力へ向けられたS400の持つ影響力は、F-35戦闘機の調達によって若干軽減されるだろう。その統合打撃戦闘機は、高度な防空システムの環境の中で作戦行動するのに十分なステルス性をもってつくられている。』
 
Putin Approves Sale of S-400 to China (2014/04/11 ディプロマット)
http://thediplomat.com/2014/04/putin-approves-sale-of-s-400-to-china/
 
ここまでの話はS400のことについてですが、モスクワの戦略技術分析センターのカシン氏は前出の4月18日の「デェフェンス・ニュース」のなかで、さらに能力を強化した最新のS500について触れています。
 
『ロシアはいま、次世代のS500の開発に取り組んでいる。S500は2017年に連続生産に入る。おおよそそれと同じ時期に中国は最初のS400を受け取る。』
 
… and Russia is now working on the next-generation S-500. The S-500 is expected to enter serial production in 2017; roughly, the same time China receives its first S-400 delivery, Kashin said.
 
   【3】 中露による第1回 北東アジア防衛協議
 
戦略国際問題研究所(CSIS)のHP記事でユー・ビン氏が注目した中露による北東アジア防衛についての第1回目の協議(上海)ですが、中国外務省のHPをみると、その協議についての発表の記事がありました。
 
China and Russia Hold First Consultation on Northeast Asia Security (4/23-2015 中国外務省)
http://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/wjbxw/t1258822.shtml
 
詳細や具体的なことは書かれていませんが、最後に、「中露両国は・・・北東アジアでの安全保障(防衛)を合同で守るために、二国間での対等で包括的な戦略的協力の精神において、調整と協力をさらに強化する意志を表明した」とあります。
 
Both sides expressed their willingness to further strengthen dialogue and communication and enhance coordination and cooperation in the spirit of the comprehensive strategic partnership of coordination between the two countries, so as to jointly safeguard peace, stability and security in Northeast Asia.
 
いま、集団的自衛権を推し進める政策によって日米同盟が強化されていくとマスコミは伝えています。
 
(※ 黒田日銀総裁は目下議論が進められているバーゼル銀行監督委員会の、国債をリスク資産とみなすようにするというルール変更におびえていますが、何をいまさらでしょう。
 
長期金利が急上昇すれば、日本は戦さのまえに「すってんてん」です。「すってんてん」の日本が日米同盟で集団的自衛権の行使などできるでしょうか。そうなれば米国にしたって日米同盟など迷惑な話でしょう。)
 
「銀行、国債保有なら資本増強を」 バーゼル委、新たな規制案 (3/10-2015 日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC09H0I_Z00C15A3EE8000/
 
安部首相の訪米の3日前に、北東アジアでの安全保障(防衛)を合同で守るために、中国とロシアの関係閣僚が一堂に集まって開いた会議の目的は、(尖閣諸島と千島列島を想定して)日米同盟の強化に対抗して、この北東アジア地域で中国とロシアが戦略的協力関係を強化するのが狙いです。
 
■ 第3節での関連記事
 
北海道を狙うプーチンと中ロの秘密同盟 (2014/07/28 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/38890251.html?type=folderlist
 
◆◆第4節「IMFが日本のスタグフレーションに言及」につづく
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39461365.html