サウジとイランの緊張激化はパキスタンがカギを握る

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    サウジとイランの緊張激化はパキスタンがカギを握る
元CIAアナリストでサウジと南アジアを専門とするブルース・リーデル氏(現在、米ブルッキングス研究所)が、サウジとイランの間でのパキスタンの立場について書いています。
Why do Saudi Arabia and Iran compete for Pakistani support? ( 1/11-2016 ブルッキングス研究所)
http://www.brookings.edu/blogs/markaz/posts/2016/01/11-saudi-arabia-iran-compete-for-pakistan-riedel
この記事の題名となっている「なぜサウジとイランはパキスタンの支援を得るために争うのか?」という問いの答えは、自明なことなので記事中では触れていませんが、これはサウジがイランの軍事力増強を非常に警戒し、パキスタンから核兵器を入手する準備を進めようとしている事を指します。
「パキスタンは何十年もの間、サウジとイランが競合する舞台であった」とリーデル氏は強調します。
パキスタンは人口の約8割がスンニ派で、約2割がシーア派ですが(正確には国全体の97%のイスラム人口のなかで)、リーデル氏によれば、パキスタンの責任のある政治家たちは、国内でこれ以上この2宗派間での対立を、さらに分裂させ、激しくさせることを避けたいと考えています。
そして、「パキスタンのシャリフ首相は、サウジへの(軍事)支援として穏やかな約束を申し出ており、イランとサウジ両方との強い対話をこれまで通り維持し、両国の間の仲裁への準備ができているというシグナルを送っている」という事です。
“Instead, Prime Minister Nawaz Sharif offers bland assurances of support for the Kingdom, maintains a robust dialogue with both Tehran and Riyadh, and signals readiness to mediate between the two.”
リーデル氏によると、パキスタンでの影響力を握るために、サウジとイランがそれぞれの宗派勢力を拡大しようと全国におよぶ宗教学校への資金援助に力を入れていることを一例として挙げていますが、このほかにも中国によってイランからパキスタンへ天然ガスを送るパイプラインを建設するプロジェクトなどもあります。
サウジはパキスタンに核の梯子をはずされるか ( 拙稿 2015/6/13)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39440118.html
リーデル氏は、「パキスタンは原則的には、サウジを中心とするスンニ派同盟の軍事協定を支援・支持する。しかし、具体的な軍事行動のどのようなものも、パキスタン自身の利益(merits)から判断されるだろう」と言っています。
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プーチン・ロシアの戦略については、ワシントン中東政策研究所のエフード・ヤアリ氏が、2015年10月にプーチンの中東戦略の中長期ビジョンとして的確かつまとまった記事を掲載していました。
Russia Pursues a New Baghdad Pact (2015/10/08 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/russia-pursues-a-new-baghdad-pact
ロシアは、シリアからもっと早くイラクへと勢力範囲を広げようとしていました。ヤアリ氏が指摘したプーチンの中東戦略の中長期ビジョンは、イランの保守派のそれとオーバーラップします。
その後、トルコによるロシア戦闘機の撃墜事件やサウジとイランの外交断絶などがあり、ロシアの中東戦略は変更を迫られています。
カール・マルクスは、国際政治などの上部構造は経済という下部構造に大きく影響を受けると言ったそうですが(逆方向の作用も)、米国FRBが進めようとしている金融政策の正常化(利上げ)、中国の金融・経済戦略の未知数の部分など、すでに不穏な動きが出ているように、今年は経済的にも多難な年になると思います。
今年は更新頻度を少し上げて、必要に応じて経済の方でも記事が増やせたらと思います。
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