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 目次

  ■ チャンドラー大将による大規模なシュミレーション訓練
  ■ ◆崚合エアシーバトル構想」
  ■ アジア・太平洋戦略における「グアムのハブ化」

  
10月19日、日経社と米国のCSIS(戦略国際問題研究所)が共同でシンポジウム「安保改定50周年、どうなる日米関係」が東京で開かれた。デニス・ブレア前米国家情報長官(前太平洋軍司令官)や米民主党系知日派のジョセフ・ナイなどが出席し、日米同盟の強化や日本の防衛予算の増額を提唱したようだ。
http://www.nikkei.com/news/special/related-article/g=96958A9C9381959FE3EAE2E1818DE3EBE3E2E0E2E3E29F9FE2E2E2E2;q=9694E0E6E2EBE0E2E3E2EAE1E0E2;p=9694E0E6E2EBE0E2E3E2EAE1E3EB;o=9694E0E6E2EBE0E2E3E2EAE1E3EA

ジョセフ・ナイ教授(ハーバード大)は、こう述べたそうだ。
「在日米軍の存在は日米安全保障条約の『究極の保証』といえる。日本が他国から攻撃を受けた際に米兵が命を落とせば、米国は自国への攻撃と見なし、対応するからだ」(日経10月21日)。

ジョセフ・ナイのこの言葉は、裏を返せば次のようにも解釈される。
「米兵達の命が危険にさらされている在日米軍が日本から撤退すれば、日米安全保障条約において日本は保証を失う。」

現在、北東アジアにおける在日米軍基地の軍事的プレゼンスは形骸化している。日米安保は歴史的に最終期に差し掛かっている。
これは、ワシントン在住のジャーナリスト日高義樹氏の見解だ。その根拠となる事実は、氏の著作レポート『オバマ外交で沈没する日本』(2009年6月)、『米中軍事同盟が始まる』(2010年1月)で説明されている。アメリカ海空軍に多くの人脈を持つ日高氏の、取材を基にしたレポートだ。

この2つのレポートで述べられる在日米軍基地の軍事的プレゼンスの形骸化について、要約すれば以下のようになる。


    ■ .船礇鵐疋蕁実臂による大規模なシュミレーション訓練

アジアでの戦争は、中国と北朝鮮の軍事的戦略の転換によりミサイル戦争が主体となっている。これは、この数年間の動きの変化だ。

中国は台湾対岸に3000発の中距離弾道ミサイルを配備しているが、その半分の約1500発は車両移動型で、衛星情報からでも攻撃が難しい。2008年10月頃行われたチャンドラー空軍大将による、太平洋軍始まって以来の大掛かりなシュミレーション訓練(ウォーゲーム)では、車両移動型ミサイルへの攻撃はほとんど不可能であった。このシュミレーション訓練では、台湾対岸からの中距離弾道ミサイルを中心としたミサイル攻撃で、日本全土のすべての在日米軍基地が簡単に破壊されてしまう。

さらに北朝鮮の攻撃体系がミサイル戦争主体となったのは、極端な経済悪化により通常兵器が老朽化し、戦車部隊や歩兵部隊が韓国軍よりも弱体化したことが理由だ。

日本国内では鳩山政権に入り、沖縄普天間基地などが持つ「抑止力」の再確認がされているが、在日米軍基地の「抑止力」は、ブッシュ政権後半以降から激減した。軍事情勢は一変し、数年前までの台湾や朝鮮半島での軍事的シナリオは崩れ、北東アジアにおける在日米軍基地の軍事的プレゼンスは形骸化している。

この大掛かりなシュミレーション訓練の目的は、新しい中国の軍事力の脅威に対してアメリカ空軍の太平洋戦略を決めるためのものであった。チャンドラー空軍大将は米太平洋軍の司令官であるが、このシュミレーション訓練の結果を基にチャンドラー大将は、「トライアングル戦略」(三角戦略)という構想をつくり上げた。「トライアングル戦略」とは、アメリカの在日空軍を日本全土から南へ下げ、グアムとハワイとアラスカの三つを拠点にした空軍体制を構築するというものだ。グアムとアラスカの空軍戦闘部隊は、ハワイのヒッカムにある米航空宇宙センターの指揮下で行動する。

この構想は「パシフィック・ビジョン」と題された報告書にまとめられ、アメリカ軍指導者へ送られた後、ゲーツ国防長官を経て最終的にはオバマ大統領へ提出された。


    ■ ◆崚合エアシーバトル構想」

以上のことは、前出書『オバマ外交で沈没する日本』に述べられているが、この著作は2009年6月末の発行なので、2009年春の時点で「パシフィック・ビジョン」はアメリカ軍指導者へ送られたと思われる。それから半年後の著作レポート『米中軍事同盟が始まる』(2010年1月刊)では、オバマ大統領がチャンドラー大将の「パシフィック・ビジョン」を採用したかどうかには触れていない。しかし、現在の中国と北朝鮮によるミサイル戦争主体の軍事情勢は変わっておらず、日高氏はチャンドラー大将の「トライアングル構想」がアメリカ軍の中で進んでいるとして話をしている。

さて、米国防総省が今年2月に発表した「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)には、新しく「統合エアシーバトル構想」という計画が盛り込まれている。詳細は明らかにされていないようだが、日本の防衛省からその短い要約的資料が出されている。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/shin-ampobouei2010/dai4/siryou2.pdf

2008年10月頃行われたチャンドラー大将による大規模なシュミレーション訓練は、スケジュール的に見て、2010年2月1日に発表された「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)におけるアメリカの対東アジア戦略を策定するために行われたものだと思われる。

防衛省の資料によるとQDRの「統合エアシーバトル構想」では、新たな軍事的背景として中国、北朝鮮、イランのミサイル戦力の増強が挙げられ、これらとの戦争においては従来の空軍と陸軍が中心となる戦術から、空軍と海軍が中心となる戦術への転換が図られ、この新しい戦術においては空海軍一体の相乗効果を向上させようというのが基本的構想である事が読み取れる。

(「統合エアシーバトル構想」の検索では JPpress サイトの記事がヒットしたが参考には不適当で、他に文量のある適切な記事が邦文では見当たらなかった。)

イランはミサイル戦力の増強も著しいが、陸上でのテロ戦争へ発展するイランよりも「統合エアシーバトル構想」は、より多く中国と北朝鮮との戦争を想定していると思われる。つまり中国や北朝鮮との戦争は、従来の空軍と陸軍が中心となる戦術から空軍と海軍が中心となる戦術へ転換され、陸軍や海兵隊などによる陸上戦のウェイトは少ないということだ。日高氏は、これらの戦争は空海軍主体で、陸軍や海兵隊などによる陸上戦は犠牲者ばかりが出るので不必要になるとしている。

チャンドラー大将のシュミレーション訓練について日高氏が取材した内容を、「統合エアシーバトル構想」のこの短い資料に合わせみると明らかに、台湾や朝鮮半島での数年前までのアメリカ軍の軍事的シナリオは大きく変更された事が読み取れる。それは前項で述べたように、アジアでの戦争がミサイル戦争主体になっているためだ。

これに付け加えると、現在アメリカ軍が関与を深め始めた南シナ海全域が、台湾沿岸3000発配備の中国のミサイルの射程圏としてすっぽりと入っている。中国が配備しているモービル・ランチャー型(移動式)中距離弾道ミサイル1500発の発射地点への攻撃は、先に述べたように難しい。

チャンドラー大将の太平洋空軍の「トライアングル戦略」では、太平洋空軍を援ける形でアメリカ第七艦隊が共同して戦闘行動をとるが、中国など北東アジアでの有事に対するアメリカの太平洋戦略は空海軍主体であり、海兵隊などによる陸上戦争のウェイトは極少ない。


    ■ アジア・太平洋戦略における「グアムのハブ化」

向こう4年の方向を策定した今年のQDRでは、アジア・太平洋地域においては「グアムを地域における安全保障に係る活動のハブにする」とある。

これまで述べた事から見ると、現在の在日米空軍の配置体制は従来の軍事的プレゼンスを失い、グアム、ハワイ、アラスカを3拠点とする「トライアングル戦略」への配置の、過渡的な配置として既に変容していると考える。

またアメリカ海軍の配置体制については、米第七艦隊の母港とする横須賀基地はやがてグアムのアプラ軍港の補助基地に位置づけられ、その母港としての機能はアプラ軍港に移すことを余儀なくされるのではないか。空母に搭載する航空機の発着艦訓練についてはグアム周辺の海域の警備を強化するか、そうでなければ訓練エリアをグアムから南西へ向かったインドネシアに造るしかないだろう。横須賀基地の艦船の修繕能力がいくら高くても、中国の中距離ミサイルで「座ったアヒルのように」(日高氏)破壊されれば終りだ。

新しい辺野古基地は、上で見てきた事から北東アジア有事のためのものではなく、これもまたグアムの補助基地として、中東とアフガン、パキスタンなどの南アジアへの派遣を目的にしていると考える。この基地も有事の際は中国のミサイルで破壊されてしまうが、中国と非戦状態である通常は中東と南アジアへの軍事活動を継続できる。

世界の軍事的緊張地帯では盛んにアメリカの兵器セールスが行われるが、冒頭で挙げたように、尖閣問題で日中の軍事的緊張が起こったところへ「日本は防衛予算を増やすべきだ」と兵器のセールスマン達は日経社とCSISのシンポジウムにもやってきた。
北東アジアにおける在日米軍基地の軍事的プレゼンスは形骸化しているが、米太平洋軍の再編が完了するまでは今までの在日米軍基地は必要になる。シンポジウムで提唱された日米同盟の強化とは、その時までの有効期限付きのものになりつつある。

アメリカにとっての日米安全保障条約の中心的な機能は、アジアで初めて核保有国となり(1964年)大量破壊兵器を増産する中国を抑止するためのものであった。そのためにある程度離れた日本に在日米軍を配置して、北東アジアに戦略拠点の体制を敷いた。ところがこの数年で軍事情勢は一変し、在日米軍は中国のミサイル攻撃に対して脆弱なものとなり危険な環境に置かれる事になってしまった。

アメリカのアジア・太平洋戦略における米軍再編はブッシュ政権から始まっているが、中国の軍事力の進歩と拡大とともに在日米軍はグアムへシフトする。日本に米軍基地を置くこと自体が危険になってきているからだ。アメリカは日本から基地の提供を受ける代わりに日本の防衛の役割を担ってきたが、「在日米軍が日本から撤退すれば、日米安全保障条約において日本は保証を失う」。

日米安全保障条約は60年の歴史的役割を終えようとしている。 (日高義樹氏)


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