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世界の首脳のなかで最も中国を知っているといわれるバイデン米副大統領。
写真はホワイトハウス公式HPから。2011年8月、中国四川省成都の Jianjiang ホテルで。
http://www.whitehouse.gov/photos-and-video/photogallery/vice-president-joe-biden-visits-china

「習主席とバイデン氏の会談は昨年2月以来。バイデン氏は2011年に訪中した際、当時は国家副主席だった習氏と四川省成都で非公式な会談を開くなど、良好な関係を築いている」(2013/12/4 日経)

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中国の防空識別圏は、尖閣問題での法廷闘争を狙った“Lawfare”戦略での準備である


目次
 ■ 防空識別圏と Lawfare 戦略での準備
 ■ 無人島と同様な島での国際裁判所の見解
 ■ 結:尖閣問題での布石


12月3日、バイデン米副大統領は安倍首相による中国の防空識別圏の撤回の要求を拒否し、これにより防空識別圏は「既成事実化する懸念が強まっている」(共同通信)。
バイデンはこの日の会談で「米中関係は21世紀の進路に大きな影響を与える重要なものだ」と発言した。

オバマ政権の民主党を含む、米国のリベラル派の政治家の多くは中国派だ。

習近平が大スローガンとして掲げている米中の「新しい形の大国関係」は、2012年2月から習近平がハイレベルな米中の会合の声明のなかで強調しているもので、それ以降、毎年定期的に行われる米中戦略・経済対話では「新しい形の大国関係」に関連した議題が多く話し合われている。

習近平が構築する新米中関係は、日米安保の骨抜きを狙う― 米中の尖閣交渉 ―(2012/10/3 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/37179858.html


      ■ 防空識別圏と Lawfare 戦略での準備

中国の防空識別圏の設定については、2009年11月に当時空軍司令官であった許其亮氏(現中央軍事委員会副主席)が主張していた。防空識別圏の設定の目的については、東シナ海での支配権を強化することを狙ったものであるなどの解釈があるようであるが、専門家が実際における軍事面での目的についても考察を始めているようだ。

この目的についてアジアの軍事・外交問題を扱う『ディプロマット』の共同編集者ザカリー・ケック氏が、中国の防空識別圏は海上での主権論争に向けた、「より大きく巧妙な“Lawfare”戦略」の一環でもあることを指摘している。11月30日の記事では、特に尖閣問題に焦点を当ててそのことを説明している。ケック氏は『ナショナル・インタレスト』のコラムニストでもある。

With Air Defense Zone, China is Waging Lawfare (2013/11/30 The Diplomat)
http://thediplomat.com/2013/11/with-air-defense-zone-china-is-waging-lawfare/

Lawfare というのは law(法律・訴訟)と warfare (戦争・闘争)の合成語。ケック氏の記事によると国家間の戦争との関連で使われる “Lawfare” は、退役空軍のチャールズ・ダンラップ大将が「戦争兵器としての法律の使用」として2001年に定義したことで知られているそうだ。しかしダンラップ大将よりも前に人民解放軍の2人の将校が著した1999年の書物のなかでは、次のような定義があるという。

『“Lawfare” は戦略的目標を達成するための、国家による合法的国際機関の利用である』

東シナ海での中国の防空識別圏(ADIZ)は尖閣諸島の主権の主張を強化することを目的としている(ケック氏)。
中国は防空識別圏内での<武力による威嚇>を警告し、これによって米国国務省に民間航空機の飛行計画の提出を容認させた。この空域を通過する米国を含むその他の国の民間機による飛行計画の提出の積み重ねは、国際秩序のなかで中国の防空識別圏の存在を国際社会に容認させることになる。

防空識別圏内に尖閣諸島上空(韓国の離於島も)が含まれることから、防空識別圏は尖閣諸島の主権の主張を強化することを目的(強化するための布石)としているというのがザカリー・ケック氏の分析だ。ケック氏は国際司法裁判での、よく用いられる2つの見解を挙げて中国の行動を説明している。

日本と中国は尖閣諸島の主権をめぐって争っている。
今までは尖閣諸島上空は日本の防空識別圏であり、中国は尖閣上空に防空識別圏を設けていなかった。
国際法廷において領土の主権を勝ち獲るためには、「その領土主権に対する当事国の意思と国家機能の表示、そして権力・権限と国家機能の行使」がなされているという事実が裁判の結果を左右させる。そして中国が尖閣周辺の上空に防空識別圏を設けずにいるということは、国際的な慣例から見た場合、争いの対象であるはずの尖閣諸島の領空領土に対する管理的な大きな欠陥と見ることができ、見方によっては領空侵犯に備えるという国家の意思がないとも見なされる(※ 防空識別圏は国際法上確立した概念ではないが、防衛上の必要性から国際的に採用されている。防空識別圏は領空の外側)。

つまり中国は以前のまま尖閣上空に防空識別圏を設けずにいると、「領土主権に対する国家の意思と国家機能の表示、国家の権力・権限と国家機能の行使」が、主張する領空領土の外側になされていないという点で、国際司法裁判での法廷闘争に日本と比べて不利になる。それゆえ中国は防空識別圏を設定して、尖閣諸島を目的とした“Lawfare”戦略(法廷闘争の布石)を採ってきたと考えられる。中国の報道官がやたらと、国際法と国際的慣例に則った行動を中国は遵守していくと強調するのはその表れだろう。


      ■ 無人島と同様な島での国際裁判所の見解

広く引用された国際裁判所の見解によると(ケック氏の解説では)、無人であったり人がほとんど住んでいない地域やそのような小さな島については、人口の多い地域よりもほとんどの場合、(過去の)主権の実行に対する(有効性の)基準は緩いものである。つまり、<無人島と同様な>小さな島では、過去の主権の実行が判決にもたらす有効性は少ない。それよりも、現在の領土主権に対する当事国の意思と国家機能の表示、そして権力・権限と国家機能の行使がなされているという事実が裁判の結果を左右させる。

インドネシアとマレーシアのあいだの主権争いに判決を下した2002年の国際法廷では、人口密度が低かったり不安定な地方(土地)であるという文言が引用された。

以下にケック氏の記事のなかの、国際裁判所による見解を引用した箇所の一部を転載した。

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That same court continued:

“It is impossible to read the records of the decisions in cases as to territorial sovereignty without observing that in many cases the tribunal has been satisfied with very little in the way of the actual exercise of sovereign rights, provided that the other State could not make out a superior claim. This is particularly true in the case of claims to sovereignty over areas in thinly populated or unsettled countries.”

A 2002 court deciding a sovereignty dispute between Indonesia and Malaysia cited the above opinion before concluding itself: “In particular in the case of very small islands which are uninhabited or not permanently inhabited… which have been of little economic importance… effectivit�・s will indeed generally be scarce [i.e. standards for enforcing sovereignty over scarcely populated areas are not generally as strident as in heavily populated areas].”

With Air Defense Zone, China is Waging Lawfare (2013/11/30 The Diplomat)
http://thediplomat.com/2013/11/with-air-defense-zone-china-is-waging-lawfare/

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      ■ 結語: 尖閣問題での布石

現状においては、研究熱心な中国共産党の戦略家たちは、国際裁判において尖閣諸島のような無人島同然の島での過去における主権の実行は、判決へ与える有効性が少ないということをすでに知っていると見るべきだろう。

そのうえで尖閣諸島問題の外堀を埋めるように防空識別圏を設定してこれを既成事実化し、その圏内での権力権限の行使と国家機能の行使を行う。
そのような状態で両国が、尖閣諸島は我が国の領土であると一歩も引かない強硬な態度を維持する。

米シンクタンク・ジェイムズタウン財団のデイビッド・コーエン氏によれば、「このゾーンでの中国の正当性がたとえ認められないとしても、通常において中国と日本の軍事力がお互いの支配下に挑戦できる状況は、両国の立場が<同等>に向かう一つの段階を上がった状況になっている(訳注:尖閣問題に対して)」と分析している。

East China Sea Air Defense Moves: What for and Why Now? (2013/11/27 ジェイムズタウン財団)
http://www.jamestown.org/programs/chinabrief/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=41685&cHash=021923d6b929ba82d7cf6c2134cdaff0

この記事によると、11月9日〜12日に開かれた中国共産党の「3中総会」では、国際関係についての戦略的方針は提示されなかったという。コーエン氏は中国による11月23日の防空識別圏の設定と「3中総会」とのつながりは不明瞭であるとしているが、「3中総会」が終わったすぐ後なので、偶然の一致と考えるのは難しいと述べている。11月10日の共同通信では、「中央軍事委員会はすでに東シナ海での防空識別圏に同意していたとの情報がある」としていた。


■ 関連記事

米国はQE継続で中国の金融危機に対処する(2013/10/1 拙稿 )
http://www.asyura2.com/13/hasan82/msg/756.html






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