経済戦略と国際情勢

救国済民。来るべきこの国の大量経済難民を、どう救うか

2014年06月

プーチンのアジアへの旋回シフト

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アジアパイプライン研究会による『調査研究成果』の『北東アジアの天然ガスパイプラインの長期ビジョン』の中から(2004年)
http://home.hiroshima-u.ac.jp/er/Rene_T.html


<まえがき>

ロシアによるウクライナ情勢、6月に入り再び始まったイラク戦争の地政学的リスクについて、日銀の黒田総裁が発言しています。


原油高騰は物価上昇加速か需要下振れか、7月日銀会合で分析へ (6月26日 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0F10OT20140626?sp=true

(6月)23日、黒田総裁は都内での講演で、中国の過剰設備・債務問題などと並び「一部の国の地政学的リスクなどについても目が離せない」と、強めの表現で警戒感を示した。日本経済は「長期金利と原油価格の上昇にぜい弱」との見方が日銀内にはあり、影響を入念に検討しているようだ。

もっとも現時点の日銀内では、中国など新興国の景気減速を考慮すれば、原油価格が一方的に上昇すると決めつけるのは時期尚早との見通しが多いようだ。



この記事では「(日銀内では)原油価格が一方的に上昇すると決めつけるのは時期尚早との見通しが多い」としてますが、彼らはエコノミストであり、軍事や国際政治のアナリストではありません。彼らは何を情報源にしているのでしょう。

今後の中東とアフリカ諸国においての原油価格情勢と、それに対する米国の中東エネルギーへのスタンス、つまり米国が中東へ関与する態度についての記事を有料メルマガで6月26日に配信しています。よろしかったら是非読んでみてください。

原油価格情勢と米国の中東石油へのスタンス―第3次イラク戦争をめぐって―
http://www.mag2.com/m/0001627731.html

今日の記事は、その原油価格情勢とも深く関わっているロシアの、それとは別の動きです。
ロシアと中国というのは、中東で米国が手こずっている間にアジアや世界での戦略を着々と進め、米国のプレゼンスを後退させるのが今や常套手段として、誰の目にも明らかになっています。


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    プーチンのアジアへの旋回シフト

     ー中ロ同盟はアジア-太平洋の覇権を目指すー


2014年6月12日

【目次】
【1】 プーチンのアジアへの旋回シフト
【2】 中国とロシアの軍事同盟的な協力体制


   【1】 プーチンのアジアへの旋回シフト

「ロシアは太平洋へも旋回できる」
2012年9月のウラジオストックで開催されたAPECで、カーネギー・モスクワ・センターの所長はこう言ったそうです。

Tales of Different “Pivots” (2013-1/14 戦略国際問題研究所 )
http://csis.org/publication/comparative-connections-v14-n3-china-russia

米国のシンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)のユー・ビン氏による上記のレポートによれば、ロシアの東方への旋回(シフト)は、プーチン政権2期目(2004年〜2008年)の投資政策に見られるといいます。これは前ヒラリー・クリントン国務長官が彼女の論文「米国の(アジア)太平洋の世紀」で“pivot”(旋回・方向転換)を使った2011年よりもずっと前にあたります。

ユー・ビン氏によれば、プーチンのアジア-太平洋への「旋回」はロシアの壮大な戦略の一環であり、その大戦略は、ロシアをユーラシア大陸(アジア+ヨーロッパ)での強大なパワー(支配力)にするための、経済と(軍事)戦略の領域から構成されるといいます。

ロシアと中国は東シベリア油田の共同開発で協定を結んでおり、先月の5月21日にはロシアと中国はガスプロムによる中国への天然ガスの供給で合意し契約を済ませました。

現在、ウクライナ問題での制裁により欧米資本がロシアから撤退するのを、中国の投資資本がその穴を埋める格好となり、中国がロシアに対して優位に見えますが、戦略国際問題研究所(CSIS)のアンドリュー・クチンス氏によれば、将来的にロシアがエネルギー供給という点から中国に対して優位に立つことになりそうです。プーチンだけでなく中国共産党も当然これを承知してでの合意でしょう(クチンス氏はロシアとユーラシアが専門、シニア・フェロー)。クチンス氏はこう述べます。

「ロシアの欧州と西側諸国に対する相対的に経済的な優位が、石油・天然ガスの供給を第一の理由としてきたのと全く同じように、アジアにおける戦略的統合はエネルギーによって左右されている。」

Russia and the CIS in 2013: Russia's Pivot to Asia(「ロシアのアジアへの旋回」)
(2014-1月 戦略国際問題研究所 )
http://csis.org/publication/russia-and-cis-2013?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+CSIS-Russia-And-Eurasia-Related-Publication+%28Russia+and+Eurasia+-+Related+Publication%29

つまりプーチンのアジア-太平洋への大戦略の経済的領域として、石油と天然ガスの大量供給で、中国と南シナ海までを含めた東アジアの国々を、欧州と全く同じようにかなりの部分ロシアに依存する仕組みを作ろうということです。

2013年のロシアのアジア・シフトをレポートした上記の記事では、ロシアが南シナ海での中国の覇権を妨げる(阻止する)ために、ベトナムに対して武器セールスと防衛協力だけでなく、エネルギー探査の支援を強めていることにもクチンス氏は触れています。現在、中国とベトナムは南シナ海でトラブルを起こしていますが、2013年3月から急接近を表明した中国とロシアが、南シナ海をめぐりどのような話し合いをしていくのか注目です。

極東も含めた2013年でのプーチンのアジアへの旋回の詳細は、クチンス氏の上記記事のリンク先にPDFファイルとして掲載されています。


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「安保屋」アーミテージの主導する集団的自衛権

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自民党の磯崎陽輔議員とアーミテージ 磯崎議員は安倍政権の国家安全保障担当内閣総理大臣補佐官 20138月)
Armitage International L.C.
 
 
【目次】
【1】 アーミテージと安倍政権
【2】 集団的自衛権の行使は小手先の構想に過ぎない
 
 
         【1 アーミテージと安倍政権
 
公益財団法人である日本国際問題研究所の記事によれば、米国のリチャード・アーミテージ(元国務副長官;20013月〜20052月)は、超党派の日米関係および外交・安全保障問題の専門家グループとともに「2000年版・アーミテージ報告」を日本政府へ向けて発表し、このなかで「日本側の集団的自衛権に関する制約を同盟関係の阻害要因として指摘し、これらの解決に向けて一層の努力をするよう、強く求めている」。
 
「アーミテージ報告」から読み解く日米同盟の今後 (2007-4/04 日本国際問題研究所)
 
私が目にした情報では(朝日新聞 2013年7月27日朝刊)、アーミテージは安倍首相と親しく、2013年の5,6月に都内で首相と面会している。「6月の首相官邸での会談では,参院選後の政策などについても意見交換したとみられる」。
また2013年7月の朝日新聞のインタビューに対して、「今後,日本では集団的自衛権の行使容認に向けての議論が大きなテーマとなるが,近隣諸国には警戒感も強い。この点について『日本が(戦争責任などの)歴史問題で修正主義をとらず,未来志向であるのとセットであれば大丈夫だろう』」との見方を示した。
 
アーミテージ元米国務副長官インタビュー (2013-7/28)
 
また政治評論家の板垣英憲氏は、「アーミテージ元国務副長官は、日本の保守政界のなかでも、とくに自民党派閥「清和会」(安倍晋三首相の祖父・岸信介元首相から派閥を受け継いだ福田赳夫元首相が設立、父の安倍晋太郎元外相も会長を務めた)との関係が深く、日本の政治に大きな影響力を及ぼしてきた一人である」と述べている。
 
板垣 英憲「マスコミに出ない政治経済の裏話」(2014-3/01 板垣英憲)
 
また、先月422日の毎日新聞によれば、「自民党の石破茂幹事長は22日、米国のアーミテージ元国務副長官と東京都内で会談し、安倍晋三首相の目指す集団的自衛権の行使容認などについて協議し」ている。
 
アーミテージ氏:「安倍政権は経済優先で」…石破氏と会談 (2014-4/22 毎日新聞) 
 
 
      【2 集団的自衛権の行使は小手先の構想に過ぎない
 
集団的自衛権の行使容認という持論を持つアーミテージ元国務副長官について、米ハドソン研究所の日高義樹氏は、日米安保条約をビジネスにしている「安保屋」が小手先の構想でビジネスの延命を図ろうとしていると非難している。そして、小手先の構想に過ぎない集団的自衛権の行使では、中国や北朝鮮を抱えるアジアの軍事情勢にはとても対応できないと述べている。
 
これは米国の保守系シンクタンク、ハドソン研究所で長年、日米同盟を研究してきた実績と経験からの分析だ。
 
アーミテージは国務副長官を退任した2005年に、「アーミテージ・インターナショナル」という会社を設立している。冒頭の写真は20138月に自民党の磯崎陽輔議員とアーミテージが面会した時の写真で、「アーミテージ・インターナショナル」の写真ページに掲載されている。磯崎議員は国家安全保障担当内閣総理大臣補佐官で、粗雑な議論で集団的自衛権の行使容認を進める中心的人物の一人だ。
 
アーミテージ・インターナショナルのホームページには、ビジネス企業としての事業内容はほとんど掲載されていが、顧客についての次のような説明がある。

 


Armitage International serves clients that focus on international business development in industries such as aerospace, communications, consumer products, construction, defense, finance and financial services, high-technology electronics, information technology, and transportation. Our Clients include Fortune 100 companies, as well as mid-market firms.
 
Armitage International L.C.


 
これによればアーミテージの会社は、次のような業界で国際的に事業展開する企業を顧客とする。それらは、航空宇宙、通信、消費者向け製品、建設、防衛、市場調査及び金融サービス、ハイテク電子機器、情報技術、および輸送などの業界に及ぶ。アーミテージ・インターナショナルの顧客には、「フォーチュン」誌が発表する企業売上高ランキング100社に入る企業も含まれる。
 
今年2月に出版された日高氏の著作レポートのなかで、『アメリカの大変化を知らない日本人』の第3章「集団的自衛権は幻である」のなかから、一部を以下に要約して記した。
 


(要約開始)
アーミテージ元国務副長官は、安保条約をビジネスにしている、いわゆる「安保屋」と言われる人物だ。アメリカで、日本の安全保障問題をビジネスとして扱っている、いわゆる安保屋グループは、安保条約によって日本が米国に守られている状態を一日も長く続けたいと考えている。
 
米国議会の指導者たちはいまや、米軍の海外駐留にまで強く反対するようになっている。したがって、日米安保条約についても反対している。ハドソン研究所の研究会で、海兵隊出身の、米軍やペンタゴンからするとゴットファーザーとでも言うべき有力な上院軍事委員会の議員もこう言った。
「日米安保条約は、無駄な海外駐留の象徴だ」
 
米国の政治家たちがいっせいに日米安保条約に反対し始めたため、驚いた米国の安保屋たちが慌ててつくりだしたのが集団的自衛権構想である。
 
日本と米国という二つの大国が安全保障を共有するには、相互安全保障協定を結ぶ以外にない。
日本が独自の軍事力を持ち、国際社会の常識に従って米国と相互安全保障条約を結べば、日米安保条約は不必要になる。そうすれば米国における安保屋の仕事はなくなる。
 
アジアにおける情勢は大きく変わった。安全保障の体制も変えなくてはならなくなっている。集団的自衛権などという米国の安保屋が考え出した構想をもとに、小手先だけで変えようとしても、とても対応できるものではない。
 
日本と米国という二つの大国が安全保障を共有するには、相互安全保障協定を結ぶ以外にない。日本と米国が組んで、共同の安全保障体制をつくりあげるべきだ。安保屋などを介在させず、日本政府の首脳が米国政府の首脳と対等につき合って、国の安全を図るべきである。
(要約終了)


 
【後記】 日高氏の、米国と相互安全保障条約を結ぶという構想には大きな問題点がいくつかあると思いますが、それらの問題は、日本の置かれている状況も見ながら考えていき、記事にしたいと思います。
 
 
関連記事
日米安保第5条には「武力行使」の明記がないーNATO条約との大きな違いー(2014-6/15 拙稿
 
 
 
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日米安保第5条には「武力行使」の明記がないーNATO条約との大きな違いー

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冷戦期のヨーロッパ勢力図。青がNATO、赤がワルシャワ条約機構
  
 
    日米安保第5条には「武力行使」の明記がない
 
【目次】
1】 NATO条約との決定的な違い
2】 「共通の危険に対処するように行動する」とは何を指すのか
 
 
今回の記事は、いまマスコミで騒がれている集団的自衛権に関してです。
自民党がいま、集団的自衛権を行使しようと非常に強引に進めているのは、1960年に調印された現行の日米安保条約の第5条に米国の「武力行使」の文言が明文化されていないことにあると考えています。このことが日本国内で、尖閣問題で中国と戦争になった時に、アメリカが本当に日本を守ってくれるのかという議論を招いているのです。
 
1949年に締結されたNATO条約と違い、日米安保条約の第5条に米国が「武力行使」の文言を入れなかったのは米国の深謀遠慮だと考えます。安保条約の第5条のもつ「曖昧さ」は、集団的自衛権の是非を考えるのに非常に深くかかわってくると思うので記事にしました。
 
私の立場から述べますと、私は自民党の集団的自衛権の行使には反対です。しかし、現在主張されているような集団的自衛権への反対論にも同意できません。私は現在のところ、現行の日米安保条約とは別の、新しい安全保障条約を米国と結ぶしかないと考えています。
 
 
   【1】 NATO条約との決定的な違い
        ―日米安保第5条には「武力行使」の明記がない―
 
ワシントンにある保守系シンクタンク、ハドソン研究所で日米同盟を長年研究してきた日高義樹氏は、今の日米の政治経済の環境下で、「尖閣諸島をめぐって戦争になった時、アメリカ軍が駆けつけてくれるなどということは、基本的にはあり得ないのだ」と強調して述べています。(『アメリカの大変化を知らない日本人』 246ページ, 20143月刊)
 
自民党が憲法解釈の変更により集団的自衛権を行使しようと非常に強引に進めているのは、日本が武力攻撃にさらされた場合、日米安保条約による米国の武力攻撃が実際に有効に機能しないのではないかという、強い危機感と焦りがあるからです。
 
日本のマスコミは外務省のHPの解説通りに、一様に日米安保第5条について「米国による対日防衛義務を定めたもの」としています。実際にはどうなのでしょう。政府やマスコミによる説明通りなのでしょうか。
 


この条約の第5条は日米両国の「共同対処」宣言を記述しており、第三国の武力攻撃に対して条約にもとづく集団的自衛権や積極的防衛義務を明記しているわけではない。このため第三国が日本国に武力攻撃を行う際、自動的に米国が武力等による対日防衛義務を負うわけではない。また在日米軍基地や在日米国施設等がなんらかの手段で武力攻撃を受けている際、日本は憲法の規定(の解釈)により、個別的自衛権の範囲でしか対処できない。ここから安保条約の実質において、日本国が武力攻撃にさらされた場合、有効に機能しないのではないかとの議論がある。
 
日米安保第5条共同対処宣言(義務)に関する解釈 (ウィキペディア)


 
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日米安保第5条原文(前段)
Each Party recognizes that an armed attack against either Party in the territories under the administration of Japan would be dangerous to its own peace and safety and declares that it would act to meet the common danger in accordance with its constitutional provisions and processes.
 
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宜言する。
 
【原文】 外務省資料: TREATY OF MUTUAL COOPERATION AND SECURITY BETWEEN JAPAN AND THE UNITED STATES OF AMERICA
 
翻訳:全条文:日米安全保障条約(東京大学東洋文化研究所データベース)
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オバマ大統領は今年4月24日の日米首脳会談後(東京)の記者会見で、「尖閣諸島も含めた日本の施政下の領域に日米安保第5条は適用される」と表明しました。日本のマスコミはこれを「米軍が防衛義務を負うことを明言した」と伝えました。
米シンクタンクで海軍アドバイザー等を務め、サンディエゴ在住の北村淳氏は、この「『防衛義務』という表現を無批判に使用するのは、嘘あるいはデタラメとまでは言えなくとも決して適正な報道姿勢とは言い難い」と述べています。
 
日米安保第5条は日本を守ってくれるのか?(2014-5/01 北村淳 JPpress
 
外務省の「日米安全保障条約(主要規定の解説)」では、「第5条は、米国の対日防衛義務を定めており、安保条約の中核的な規定である」と説明がされています。条文ではこの部分に該当するのは数行で、そこには「共通の危険に対処するように行動することを宜言する」(宣言する)とだけしか書かれていません。
 
この条文が本来極めて曖昧であることを、北村氏は北大西洋条約(NATO条約)第5条と比較して強調しています。集団的自衛権行使の是非を論じる時には、NATOの集団安保体制と日米安保は決定的と言えるほどの大きな違いがあることを充分に考慮すべきです。いくつかある両者の大きな違いの一つとして挙げられるのは、有事の際の「武力行使」がNATO条約では明文化されているのに対して、日米安保には「武力行使」の文言の記載がないということです。
 
NATO条約では“including the use of armed force”と武力行使が明記されているのに対して、日米安保条約では“it would act to meet the common dangermeet 対処する、対応する)−「共通の危険に対処するように行動する」−としか記載されていません。
 
翻訳:全条文 北大西洋条約(東京大学東洋文化研究所データベース)
 
原文:The North Atlantic Treaty (NATO
 
4月の日米首脳共同会見の模様をリポートしたウォールストリート・ジャーナル日本版では、会見中、オバマ大統領は「軍事力を行使するという直接的な言い方はしなかった」と伝えています。
 
日米首脳共同会見 ライブブログ 2014-4/24 WSJ日本版)
 
クリントン前国務長官をはじめ米国政府の閣僚などは、尖閣諸島への第5条適用の発言をたびたび繰り返していますが、「武力行使の選択肢」という言葉に至っては、いまだに4月のオバマ大統領の会見でも言及がされないままです。この最大の理由は、安保第5条が適用された時の「共通の危険に対処するように行動する」という条文の文言が、必ずしも「武力行使」を指すわけではないからです。つまり「第5条適用」の発言が何回繰り返されても「武力行使」の確約をとったことにはなりません。 
 
 
    【2】 「共通の危険に対処するように行動する」とは何を指すのか
 
前出の北村氏の記事によると、マサチューセッツ工科大学のテイラー・フラベル准教授は「もし尖閣問題で日中間に小規模な軍事衝突が勃発した場合、アメリカが偵察分野での援助をするのか、日本軍への補給活動を実施するのか、それとも軍事的支援はなにもしないのか、日米安保条約第5条の規定はあまりにも不明瞭である」と日米首脳共同会見についてコメントしているそうです。
 
ワシントンにある保守系シンクタンク、ハドソン研究所で長年、日米同盟を研究してきた日高義樹氏は、今の日米の政治経済の環境下で、「尖閣諸島をめぐって戦争になった時、アメリカ軍が駆けつけてくれるなどということは、基本的にはあり得ないのだ」と強調して述べています。(『アメリカの大変化を知らない日本人』 246ページ, 20143月刊 PHP研究所)
 
201212月に米国で可決された国防権限法には、尖閣諸島に対する米国の立場を明記した条項が新たに追加されましたが、そこでも「武力行使」という文言は使われず、日米安保条約第5条に基づいて日本政府への“commitment”(関与・責任)を再確認すると書かれているだけです。
 


(7) the United States reaffirms its commitment to the Government of Japan under Article V of the Treaty of Mutual Cooperation and Security that ‘‘[e]ach Party recognizes that an armed attack against either Party in the territories under the administration of Japan would be dangerous to its own peace and safety and declares that it would act to meet the common danger in accordance with its constitutional provisions and processes’’.
 
National Defense Authorization Act (国防権限法 2012-12/31 PDF)
(※ かなり長いものですが、“japan”でページ内検索すればこの部分が見つかります)


 
5月15日の安保法制懇による集団的自衛権の行使容認の報告書の提出を受けた、ウォールストリート・ジャーナルの記事のなかでも、4月の日米首脳会談のことを「オバマ大統領が、米国のコミットメントに尖閣諸島は含まれることを確認した」と伝え、ここでも“commitment” 以上の言葉を用いて報道していません。
 
Japan's Abe Takes Step to Enhance Military's Role 2014-5/15 ウォールストリート・ジャーナル)
 
北村氏やフラベル准教授が指摘するように、集団安全保障体制が確立されているNATO条約と比べ、「日米安保条約第5条の規定はあまりにも不明瞭である」のです。
 
北村氏はこのほかに2012年9月の JPpress の記事でも、米国の同盟国であるイギリスとアルゼンチンの間で行われたフォークランド紛争(1982年)での事例を挙げ、米国の支援が主に軍事情報の提供だけであったことを挙げています。
 
また、元海上自衛官の中には、「(米国は)実際には交戦せず、情報提供や後方支援程度になるはず」と見るOBもいます(中村秀樹氏 週刊文春 2012年10月4日号)。このフォークランド紛争と元海上自衛官の話が示す問題点は、私が2012年に大きめのコミュニティー・サイトで取り上げました。
 
習近平が構築する新米中関係は、日米安保の骨抜きを狙う―米中の尖閣交渉―(2012-10/03 拙稿 )
 (第2節 「米中の大国協調と安保第5条」を参照)
 
 
 
 


【後編】 ソロスの空売りファンドが日本の年金積立金を食い尽くす

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 ジョージ・ソロス (テレグラフ)
 
 
◆このブログ記事は5月8日に有料メルマガで配信された「ソロスの空売りファンドが日本の年金積立金を食い尽くす」の記事の、後半にあたるものです。
 
このブログ記事では、結語として『「日本売り」とヘッジファンド』を加筆しました。
 
前半は5月30日にブログで下記に掲載しています。
 
【前編】 ソロスの空売りファンドが日本の年金積立金を食い尽くす
 
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ソロスの空売りファンドが日本の年金積立金を食い尽くす
 
7〜9月に活動開始 
 
 
【目次】
1 年金積立金とジョージ・ソロス
2 ソロスのアジア・ヘッジファンド
3 プレイアドの投資戦略
【結】「日本売り」とヘッジファンド
 
 
     【2 ソロスのアジア・ヘッジファンド
 
前出のロイターとブルームバーグの記事をもとに、主に日本と中国を標的とした、ソロスが新しく立ち上げるヘッジファンドの概要をまとめてみた。
 
ジョージ・ソロスの「ソロス・ファンド・マネージメント」のアジア・チームの元(もと)投資策定幹部(investment executives)であるケネス・リーとマイケル・ヨシノが、今年の第三四半期(7〜9月)に、香港を拠点とするヘッジファンドを立ち上げる。ファンドの名称は「プレイアド・インベストメント・アドバイザーズ」(“Pleiad Investment Advisors”)。
 
4月21日のブルームバーグでは、「ソロス・ファンド」の中国と日本のスペシャリスト達によって設立された「プレイアド」が、アジア全域を対象としていると伝えているが、ロイターでは4月21日・24日の両記事で、「プレイアド」は中国と日本に(当然)焦点を合わせるだろうとしている(“is expected to”)。
  
「プレイアド」は「ソロス・ファンド・マネージメント」からスピンアウトしたヘッジファンド。つまり「ソロス・ファンド」の一部門であるアジア・チームを、外部からの資本導入により独立させて別会社にした(主にHSグループからの資本導入;後述)。
 
この「プレイアド」はジョージ・ソロスのヘッジファンドである。
 
ヘッジファンド業界で10万人以上のプロフェッショナルのネットワークを持つ「ヘッジファンド・グループ」(米国)のウェブサイトでは、「プレイアド」を「ソロスのアジア・ヘッジファンド」であるとし、「ソロス・ファンド・マネージメントは、香港を拠点にしたヘッジファンドを立ち上げている」と見出しで扱っている。
 
Pleiad Investment Advisors | Hedge Fund Group Association
 
初期資本金は1億5000万ドル(約154億円)を下らないとされ、今年のアジア地域でのヘッジファンドの立ち上げとしては最大規模の一つ。
潜在的な資産運用能力は15億−20億ドル。この潜在運用能力は、あくまでも「プレイアド」に大半の資金供給をしたHSグループの最高投資責任者(CIO)であるギャロウ氏が、ブルームバーグの電話インタビューで答えた数字だ。
 
HSグループは2013年にブラックストーン・グループ出身のマイケル・ギャロウ氏とゴールドマン・サックス・グループ出身のヨハネス・カプス氏が、アジアでの新興ヘッジファンドの立ち上げに長期資金を提供する目的で、2013年に設立した企業。
 
そしてロイターの4月24日の続報では、「プレイアド」は7月〜9月の立ち上げ準備のために、ゴールドマン・サックスのプライム・ブローカレッジ業務の重役ビエン·チウを最高財務責任者(CFO)として雇ったと報じている(ビエン•チウは4月にゴールドマンを退職している)。
 
Pleiad Investment Advisors, a hedge fund spin-out from Soros Fund Management, has hired former Goldman Sachs prime brokerage executive Vien Chiu as its chief financial officer, as it prepares to launch in the third quarter of 2014.
 
Soros Asia hedge fund spin-out hires ex-Goldman exec as CFO 424 ロイター
 
 
     【3 プレイアドの投資戦略
 
424日の方のロイター記事では、「プレイアド」はロング・アンド・ショートの株式ヘッジファンドであろうと書かれている(※ ロングは買い、ショートは売り)。
 
Pleiad, …, is expected to launch a long/short equities hedge fund with a focus on China and Japan …
 
このことを更に説明した箇所が421日のブルームバーグの記事の方にあり、「プレイアド」は<空売り>を含めた「全天候型戦略」をとると、元ブラックストーンのギャロウ氏は説明している。
 


Pleiad will maintain a “moderate” net exposure, the difference between long and short investments, said Garrow, setting it apart from the typical long-biased Asian equities fund that makes most of its money in a rising market. Shorting involves selling borrowed stocks, betting on their prices to decline.
 
We think it’s an all-weather strategy,” Garrow said.
 
「プレイアドは「中程度」のネット・エクスポージャーを維持するだろう。ネット・エクスポージャーとはロングポジションとショートポジションの差額。プレイアドは、上昇相場でその大部分を儲ける標準的な買いに偏ったアジアの株式ファンドとは異なる。」とギャロウ氏は言った。ショーティング(売り)は、値下がりする株価に賭けるために借りた株式を売ることが含まれる(◆訳注-これは「空売り」のことを指している)。
 
「私たちは、(プレイアドは)全天候型戦略をとると考えている。」とギャロウ氏は言った。
 
HS Group Backs Ex-Soros Specialists for New Asia Hedge Fund (421 ブルームバーグ)


 
今年に入り日経や一部週刊誌で、ソロスが日本株を売り仕掛けているといううわさ記事が掲載されたが、実際にその売却の一部が確認されている。
 
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「今年1月の日本株の急落場面では、『ソロス氏が売りに回った』といううわさが世界の金融市場を駆け巡ったが、米証券取引委員会に提出した20131012月期の報告書から、この期にソロス氏が日本株の売りに転じた事実が浮かぶ。」(下記記事の一部を要約)
 
「日本株を売ったソロス・ファンド、世界景気減速を先読み」(2014/02/20 日経)
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ソロスは、2013年4月の、日銀の黒田総裁による「異次元緩和」発表の直後、「円は雪崩のように下落するかもしれない」と米国メディアのインタビューで答えていた。あるブログで、「ソロスの予測は外れたじゃないか」という記事を読んだが、ソロスの予測が外れたのは、翌月522日のバーナンキ元FRB議長のQE縮小示唆の発言、それに続く秋の米国のデフォルト騒動、新興国の経済不安、ウクライナ情勢などの海外要因が大きく影響している。
 
 
     【結】 「日本売り」とヘッジファンド 
 
ギャロウ氏が短く答えた「全天候型戦略」ですが、この言葉は意味深長であり、ただ単に株式市場の下げ相場のなかで最大限の利益を獲得するという意味だけではないと考えます。
 
「国債先物売り+株先物買い」とその反対売買の「国債先物買い+株先物売り」は海外投機筋がよく使う方法で、彼らはそれらを交互に仕掛け、そしてそれに「円」の売り買いを組み合わせて攻めてくると予想します。
 
私が4月24日に有料メルマガで配信した記事「円の動きは国債暴落の最初の兆候になる」を、あとからブログで2回分にして掲載しています。
 
円の動きは国債暴落の最初の兆候になるーカイル・バスのインタビューから(米CNBC)ー
 
『国債市場は先物から崩れる』ーヘッジファンドの「日本売り」はいつ来るかー
 
これらの記事は、ジョージ・ソロスやカイル・バス、レイ・ダリオなどの「日本売り」ヘッジファンドが、どのように「池の中のクジラ」と呼ばれる黒田日銀に戦いを仕掛けてくるのかを、<円相場と国債>の角度から考えています。
 
いわゆる「日本売り」をソロスがどのように仕掛けてくるのかを考えるのに、ご参考になると思います。
 
 
        (了)
  


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張 良

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執筆予定 2019.8.20 記
『国際情勢の英文サイトを 本業の片手間に読むテクニック』

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