経済戦略と国際情勢

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2015年05月

イエメン情勢 イラン5つの戦術

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【◆◆以下の記事は有料メルマガ4月23日号の一部です】


   【1】 イエメン情勢はどうなるのか
       ―イランの5つの戦術―

サウジアラビアは終了すると言ったイエメンでの空爆を、翌日また続行しています。
サウジ軍主導の連合軍は4月22日、隣国イエメンのシーア派武装組織フーシ派に対する空爆を<続行>しました(4月23日 ロイター)。

サウジの報道官は4月21日、記者会見し、フーシ派とサレハ前大統領支持派への空爆作戦を終了すると発表していました。

イエメン:空爆「終了」…連合軍、軍事行動継続も (4/22-2015 毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/news/20150422k0000e030169000c.html

この空爆の終了は<一応の終了>で、フーシ派の軍事行動のいかんによっては、「必要に応じて軍事行動を再開する」とサウジの報道官は言っていました。

3月26日にサウジが連合を組んでフーシ派を空爆したのを受けて、マスコミなどが、サウジとイランの代理戦争かなどと伝えました。サウジ主導の連合軍は空爆を一応終了しましたが、「地上戦準備の構えも崩していない」(前出記事)ようです。

22日のAFP通信によれば、「連合軍はこれまでに2000回以上空爆を実施し、イエメンの制空権を確保するとともの、フーシ派のインフラを壊滅させた」と発表したそうです。

しかし、サウジが支援するハディ暫定大統領はリヤドに逃れたままで、イエメン国内は依然としてシーア派のフーシが優勢です。このような状態でサウジは自らの空爆作戦を(苦し紛れに)自画自賛して、いったんは終了すると言ったのです。

ところがこの約4週間の間、イラン軍がなかなか一向に表立って出てきませんでした。また、いまも表立って出てきません。イランによる武器の供給などの情報はありますが、ウクライナでの親ロ派武装勢力に対するロシアの非常に強い支援のようなものは、イランの行動として特段報道されませんでした。

イランにとってのイエメンは、とくに優先順位の高いものではないのでしょうか。それとも、イランはイエメンに対する戦略を持っており、すでにその戦略を実行している過程にあるのでしょうか。

米共和党系シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ研究所に、J・マシュー・マキニスというイランの軍事問題の専門家がいます。
マキニス氏は中東の軍事問題の専門家で(イラン、イラクなど)、とくにイランの軍事問題を専門にしています。米国防総省の上席分析官(1998–2013)として、米中央軍の上席イラン分析官(2010–13)を務めた経歴をもつ人です。

マキニス氏はイエメンにおけるイランの戦略として<5つの重要な項目>を挙げています。

What does Iran really want in Yemen? (4/13-2015 アメリカン・エンタープライズ研究所)
http://www.aei.org/publication/what-does-iran-really-want-in-yemen/

その5つの重要な戦略とは次のようです。

スンニ派の連合を解体(分解)させる。
直接的な軍事的激化を避ける。
サウジの失敗を誘う(促進する)。
イランをより信頼できる大国のように演じる(表現する)。
交渉での解決を要求する。

スンニ派の連合を解体(分解)させる。

サウジを除くスンニ派連合11カ国の内、最もサウジが当てにし期待していたパキスタン、そしてトルコの2つの強軍は言葉だけの支援に終わりました。サウジは地上戦の準備もしているようですが、イランのザリフ外相は4月8日、パキスタンのアジズ首相顧問(国家安全保障・外交担当)と会談し、政治解決への賛同を求めています(4月9日 毎日)。また、イランのロウハニ大統領は4月7日、トルコのエルドアン大統領とテヘランで会談し、IS打倒で双方意見の一致をし、「中東安定のため、協力関係を深めることを確認しています(4月8日 朝日)。

とくに、パキスタンはイランから自国へ天然ガスを送るパイプラインの建設計画があります。

中国、イラン・パキスタン間のガスパイプライン建設へ (4/09-2015 ウォールストリート・ジャーナル日本語版)
http://jp.wsj.com/articles/SB11340384235203263823104580569641940772972

いわば、イランによる、パキスタンとトルコの二強への外交によって、スンニ派連合は完全に切り崩された格好になっています。

直接的な軍事的激化を避ける。
 
マキニス氏によれば、イランにはサウジと武力戦争を始める意思(欲望)はないと言います。そして、「戦争の激化は(今は後方支援をしている)米国の直接の関与をもたらし、この地域をイランに対して対立させる」だろうと言います。

サウジの失敗を誘う(促進する)。

4月21日の記者会見で報道官は、「適切な計画と正確な攻撃で目標は達成された」と述べましたが、アメリカン・エンタープライズ研究所の毎月のイラン情勢のレポート(“IranTracker”)に掲載されたマキニス氏のこの記事では、「軍事標的を支援し、民間人の犠牲者を防ぐ正確なインテリジェンスがサウジにはない」としています。
冒頭の毎日新聞(4/22)では、「空爆による被害拡大や人道支援の遅延を巡っては、国際社会からサウジへの風当たりも強まっていた」と、空爆による被害拡大に対する国際的な非難も伝えています。

マキニス氏は、「イエメンでのイランの関与の全範囲はまだ不明である」としながらも、「サウジ主導の地上作戦がなければ、イランは隠れた活動を目立たなく続け、サウジが墓穴を掘るのを望むだろう」と述べています。

イランをより信頼できる大国のように演じる(表現する)。
この説明は省略します。

交渉での解決を要求する。
5番目の戦略的観点については以下に翻訳します。


イラクとシリアですでに忙しいイランは、イエメンの崩壊はイランの優先順位からすると優位ではない。それによるサウジへのダメージがどうであろうとも。
1月の反乱軍のクーデターを受けたフーシ派への直接の賞賛がイラン政府からなかったことは注目に値する。

交渉での解決はイランの望ましい選択肢のままである。
この地域での(イエメンとは)ほかのシリアやリビアで機先を制する行動をとることの方が(訳注:ISなど)、イエメンでのフーシ派の支配よりも、イランにとってより重要かもしれない。



この点に関して言うと、中東の軍事と政治が専門のブルッキングス研究所のケニス・ポラック氏が、「イエメンの内戦が何よりもまず何であるのかを説明する時に、イエメンでのイランの役割は非常に誇張されてきた」と3月の記事で指摘しています。

Moreover, the Iranian role has been greatly exaggerated in what is first and foremost a Yemeni civil war.

The dangers of the Arab intervention in Yemen (3/26-2015 ブルッキングス研究所)
http://www.brookings.edu/blogs/markaz/posts/2015/03/26-pollack-saudi-air-strikes-yemen

前出の4月13日のマキニス氏の記事の9日後、サウジの空爆終了宣言を受けてイランのザリフ外相はこれを歓迎、「問題解決には、人道支援と政治対話が緊急に必要だとの見解を示し」、サウジの今後は政治解決を重視する姿勢を評価しました。

対イエメン軍事作戦終了を歓迎、政治解決が必要=イラン外相 (4/22-2015 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jp_mideast/idJPKBN0ND12420150422



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イラン核合意後、サウジはイランにどう対抗するか

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           【イランの勢力範囲】


【◆◆この記事の第4節「サウジはイランにどう対抗するか」について】

以下に有料メルマガ4月9日号の『イラン核合意後、サウジはイランにどう対抗するか』を公開しました。

この記事の第4節「サウジはイランにどう対抗するか」の中での1つ目の予測に、「サウジは自らの核プログラムを開始し、イランが核合意で許容されるのとすべて同じだけのレベルへ核技術を構築する」というケニス・ポラック氏の予測があります。ところが、この予測がかなり揺らいできているようです。

これは4月後半に入ってから、サウジ-パキスタン関係がおかしくなってきたことがわかったためです。このサウジ-パキスタン関係の変化については、有料メルマガ5月14日号の中の『サウジはパキスタンに核の梯子をはずされるか』にまとめてあります。この記事のブログでの公開はもうしばらく後になります。


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    イラン核合意後、サウジはイランにどう対抗するか

【目次】
【1】 核合意後のサウジとイラン
【2】 ハメネイ師が核開発より優先させたもの
【3】 核合意後のイランの行動は
【4】 サウジはイランにどう対抗するか
【結語】 中東での米国の限界


【※ 第2節から第4節まではケニス・ポラック氏の論文の解説になります】


    【1】 核合意後のサウジとイラン


欧米など6カ国とイランは4月2日に、イラン核問題の包括解決に向けた枠組みに合意しました。最終合意は6月末を目指します。オバマ大統領は今回、イランの核兵器保有を阻止する「歴史的な」合意だと強調しています。

イスラエルはこの枠組み合意を非難し、サウジのサルマン国王は「地域と世界の安全保障を強化するような(6月末の)最終合意を望む」と声明を出しました(4月3日 ロイター)。

枠組み合意の問題点や最終合意までの更なる困難さが、マスコミによって報道されていますが、この枠組みの最終合意は、中東、とくにスンニ派諸国に大きく影響を与える可能性があります。その中でもサウジアラビアが、この核合意にどのように対抗してくるのかを、本稿では見てみたいと思います。

ブルッキングス研究所の上席研究員であるケニス・ポラック氏は、この枠組み合意の1か月前に、合意後として予想されるイランとサウジの行動を予測しています。


ポラック氏は中東の政治と軍事の情勢の専門家で、とくにイラク、イラン、サウジとそのほかの湾岸諸国を重点的に研究しており、現在、ブルッキングス研究所の中東政策センターの上席研究員です。

米国の保守派などは、6月末の最終合意の履行確認後、経済制裁が解除された後のことを警戒しています。それは経済制裁が解除され、その資金力が回復すれば、イランは、中東地域でのテロ組織やスンニ派諸国での反政府活動を支援し、湾岸地域の政府を転覆させるといった行動を活発化させるという懸念です。また、サウジなどのライバル国を直接的に脅かすようになるということを言う保守派の意見もあるようです。

ポラック氏は、そのように核合意のあとのイランの攻撃性を危惧する右派の見方に対して、むしろサウジの出方の方が、中東地域の混乱と不安定化に及ぼす影響が強いと見ています。このことは今回の記事の後半の方で述べます。


    【2】 ハメネイ師が核開発より優先させたもの


今回の枠組み合意では、イランの最高指導者ハメネイ師がそれへの沈黙を守っていることが報道されています。
4月6日付のフィナンシャル・タイムズ紙は、ハメネイ師について、「自身の核開発計画の大半を放棄し、核協議で大幅に譲歩した」、「核抑止力の達成を最優先事項としていたイスラム政権の大幅な譲歩を隠すことはできない」、「6月の最終合意で、ハメネイ師はこれまでで最大の試練を迎える」と伝えています。

イラン核合意で最高指導者ハメネイ師に厳しい試練 (4/06-2015 フィナンシャル・タイムズ邦訳版)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43443

このハメネイ師の思惑については専門家たちも注目しています。
ポラック氏が推測するハメネイ師、そしてイラン強硬派などの上層部の戦略上の考えは、フィナンシャル・タイムズの記者が報道した内容とは、全く違った次元に立ったものでした。

ポラック氏によれば、ハメネイ師と強硬派が(ロウハニ大統領とザリフ外相も)核開発計画よりも最重視し、最優先させたのは、中東地域におけるイランの現状でのプレゼンスの維持であると言います。(ポラック氏は「プレゼンス」という言葉は使っていませんが、stake、positionを使って説明しています)
※ プレゼンス:軍事的、経済的に影響力をもつ存在であること

イランは中東地域のなかで、現在、イラク、シリア、レバノン、イエメンを影響力の下に置いていますが、このまま欧米と国連による経済制裁と原油の大幅下落で、経済の悪化と衰退が進めば、当然、イラク、シリア、レバノン、イエメンなどへのプレゼンスは低下し、それらの国々への「ポジション」は悪くなっていきます。

ハメネイ師とロウハニ政権はこれを恐れ、核開発計画よりも最優先させたというわけです。先ほど挙げたフィナンシャル・タイムズ紙の記者は、「イランは核開発を<最優先事項>としていたが大幅に譲歩した」と描写しましたが、長引く経済制裁の下でハメネイ師は、中東地域での覇権の獲得プロセスの方を<最優先させた>のです。そもそも核兵器はそのための手段でした。

Moreover, while I can’t prove it, I think there is strong circumstantial evidence that Khamene’i and the Iranian establishment believes it has far more at stake in Iraq and possibly Lebanon than it does in a nuclear deal. … Because of Syria’s relationship to both Iraq and Lebanon, it too might be more important to Tehran than a nuclear deal if the Iranian leadership were ever forced to choose between the two.

ポラック氏は、この数年ハメネイ師のいろいろな発言をもとに、「ハメネイ師の見方・態度は、核開発を完全に取引の道具としてみなしていると思われる」と指摘しています。これはハメネイ師やイラン強硬派が、何が何でも核開発を最優先目標として固執していると見る見方とは異なるものです。


    【3】 核合意後のイランの行動は


イラン核協議の枠組み合意の10日前にロイターの外人記者が書いたもので、次のような記事があります。

焦点:中東で「帝国」拡大を目論むイラン、核交渉を憂慮する周辺国 (3/23-2015 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0MK0DS20150324?sp=true

この記事の中では、「アラブ諸国の専門家や指導者が、イランが、イラク、レバノン、シリア、イエメンに至る中東地域で支配力を強めようとしていると懸念している」と伝え、邦題では「中東で「帝国」拡大を目論むイラン」とあります。

しかし、ポラック氏によれば、イランはこれらイラク、レバノン、シリア、イエメンへのイランの影響力の大きさの現状にかなり満足しており、その影響力が非常に自国のイランに有利なものであると見ています。イラク、レバノン、イエメンではシーア派の勢力が優勢です。それゆえ、核合意のあとに、格段、中東地域のどこかで攻撃的な行動をおこすとはないだろうと言います。

ポラック氏は、2、3の例外としてハメネイ師とイラン強硬派が現状打破のための攻撃的な行動をとることがあるかもしれないということは言っています。それは、イスラエル、バーレーン、イエメンに対するものです。
イエメンについては、3月2日にポラック氏の記事が掲載されて以後、フーシ派が政権転覆の混乱を起こしたので、事態の推移を注視していく必要があります。


    【4】 サウジはイランにどう対抗するか

このようなイランに対して、核合意後(最終合意後)のサウジは何らかの形で強い対抗手段をとってくると思われます。ポラック氏によれば、このようなイランよりも、むしろイラン核合意後の、これに対抗するサウジの行動の方が、中東地域の不安定化と混乱を高めると言います。

ポラック氏が、イラン核合意後に起きるであろうと予測するサウジの行動は2つあります。
一つは、サウジは(当然)自らの核プログラムを開始し、イランが核合意で許容されるのとすべて同じだけのレベルへ核技術を構築することを発表するという予測です。

つまり、『もし、イランが6500基の第一世代の遠心分離機の設置と純度3.5%の濃縮ウラン150キロの備蓄量を許されるのならば、サウジもそれとぴったりと合わせて全く同じことをすると決定する』のではないかという予想です。

この場合、西側諸国がイランに合意の履行を守らせることができないと、中東地域での更なる核兵器の拡散という事態を招くだろうポラック氏は警告します。

もう一つの、イラン核合意後にとられるとされるサウジの対抗的行動は、イランと同調する国と組織やイランの代理をなすものと戦っている、様々なスンニ派組織への支援を増大させるかもしれないという事態です。

イランの核協議の合意後は、米国がそのような事態へ介入する可能性が少なくなってくると思われるので、そうなると核合意が及ぼす最も大きい危険な状態になってくると言います。

『スンニ派の湾岸諸国は彼ら単独ではイランとの戦争で劣るため、もし、湾岸諸国がイランに対して挑発的な行動に出た場合(たとえそれがイランの攻撃を阻止しようとするものであったとしても)、容易にイランからの攻撃を引き起こしてしまう。』

The Gulf states are not strong enough to take on Iran alone, and if they act provocatively toward Iran, even if intended to deter Iranian aggression, they could easily provoke just such aggression.

最後にポラック氏は、そのような事態で、米国がスンニ派湾岸諸国を安心させてイランの行動を阻止しないようであれば、事態は非常に厄介で物騒なものになってくると警告しています。


    【結語】 中東での米国の限界


イエメン情勢を見てもサウジなど湾岸産油諸国に対しても、今年に入ってから、従来の中東への米国の関与が同盟国に対してだいぶ弱いものになってきているのがわかります。

以前、米国務省の政策立案スタッフのメンバーで、北アフリカとレバント(地中海東沿岸の地域)の政策を国務長官へ助言していたジェレミー・シャピロ氏(現在ブルッキングス研究所)は、次のように言っています。

『今日、シリア、イラク、リビア、イエメン、レバノン、そしてたぶん余り遠い未来ではないチュニジア、もしくは不安定さの中へと渦を巻いているサウジアラビア・・・。もしかすると、中東での米国の「重大な利益」という概念は、それらの国々を守る能力の限界を越えたところまで来てしまっているのではないかどうか。このことを考慮する時に、いま来ているかもしれない。』



■■ 関連リンク

「イランと米国との共同統治」―米国の新しい中東包括戦略― (2015/03/12 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39335801.html

サウジは国内秩序動乱の入り口にいる―シェール革命の影響と米国の中東政策― (2014/12/25 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39207813.html

バグダディの呼びかけとサウジアラビア (2015/03/26 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39359046.html



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ブレジンスキー:ロシアの「最大の目的」と経済危機

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本記事と関連してくるかもしれませんが、ロシアによる、世界中でウランを買い占めようという組織的な動きが最近明らかになったそうです(4月30日 ロイター)。

コラム:原発外交でロシアが広げる「核の傘」
http://jp.reuters.com/article/jpRussia/idJPKBN0NM34R20150501?sp=true


【◆◆以下の記事は有料メルマガ3月26日号の一部です】


【目次】
【1】 ロシア各地の『突然の軍事演習』
【2】 ブレジンスキー:ロシアの「最大の目的」と経済危機

   (以下目次省略)


  【1】 ロシア各地の『突然の軍事演習』

ロシアでは、3月16日から21日の日程でロシアの広範囲に及ぶ各地で「突然の軍事演習」を行うことが発表され、そのさなかの18日にはクリミア半島に核兵器の搭載が可能な戦略爆撃機TU22M3(ツポレフ)10機が配備されると報じられました。核搭載の有無や配備の時期は不明です。

この「突然の軍事演習」は、北方艦隊を中心としたものでしたが、ロシアの国土のほとんどをカバーするもので、バルト地域、黒海とクリミア半島、極東地方、中央ロシアに及びました。

Putin Mobilizes Forces Preparing to Fight With NATO and US (3/19-2015 ジェームズタウン財団)
http://www.jamestown.org/regions/russia/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=43670&tx_ttnews%5BbackPid%5D=48&cHash=334a8f347daae94f44a249570251b860#.VQuRL46sUxM

この広範囲に及ぶ「突然の軍事演習」は、海外の多くの軍事系サイトが驚きをもって伝えています。これは対ロシア制裁を協議する、19日のブリュッセルでのEU首脳会議を強く牽制したもので、その前日に、核兵器が搭載可能なツポレフをクリミアに配備とロシア通信に報道させ、広範囲に及ぶ「突然の軍事演習」をEU首脳会議の直前に行うというやり方は、何とも露骨で派手なものだと思います。

前出のジェームズタウン財団の記事によれば、ロシアのメディアはロシア国防省筋の話として、次のように伝えたと言います。

『これらの『突然の軍事演習』は、ロシアは戦争の準備ができており、バルト地域、ルーマニア、ポーランド、ブルガリアへの米国やほかのNATOの戦力の配備に、ロシアが武力で対抗できるというメッセージをNATOに送ることを目的にしている』

ロシアの各メディアは西側を牽制するために、頻繁にこのような情報戦をおこないますが、一体、プーチンはますますロシア経済が危機へと悪化するなかで、何を最大の戦略目標として考え、行動しているのでしょうか。


 【2】 ブレジンスキー:ロシアの「最大の目的」と経済危機


国家安全保障会議のパトルシェフ書記(書記局トップ)は、ブレジンスキー(カーター米大統領の国家安全保障担当補佐官)を、ロシアを弱体化させ、破壊する戦略を開始した人物として非難していますが(2014年10月のメルマガ-※注-1)、そのブレジンスキーが、プーチンの最大の戦略目標などについてスピーチをしています。

America’s Strategic Dilemma: A Revisionist Russia in a Complex World (3/18-2015 戦略国際問題研究所)
http://csis.org/publication/transcript-americas-strategic-dilemma-revisionist-russia-complex-world

私はブレジンスキーのスピーチの記録を読んで、プーチンという指導者は、ソビエト生き残りとして、いまも世界での権力闘争、とくに欧州全域での権力闘争に復讐心を燃やして、勝利に向かって行動しようとしていることを、改めて感じます。

ブレジンスキーによれば、ロシアの(プーチンの)勝利とは「体制としての決定的な勝利」(triumph for a regime)が不可欠なものとして含まれると言います。

『「その体制」は、西側諸国、とくに大西洋同盟を敵として考えることを明確に示している。もし、ロシアの激しく愛国主義的なものの<最大の目的>が達成されるならば、敵は弱体化させられ、同盟は分裂させられる。』

This is a regime which proclaims in effect that it views the Western world – and particularly the Atlantic Alliance – as an enemy. An enemy that is to be undermined, an alliance that is to be split, if the maximum objectives of that intensely chauvinistic definition of Russia are to be achieved.

つまり、そのプーチンにとっての<最大の目的>は、現存の西側諸国、大西洋同盟(米国と欧州)、NATO(軍事)体制を弱体化させ、分裂させ、これに勝利することであるとブレジンスキーは言っています。これについてはパトルシェフ書記も「欧州を米国の支配から切り離すために、大西洋を挟んだ米欧の協力関係を弱体化させる」と言っています(2014年10月のメルマガ-※注-1)。

※注-1:ロシアの戦略概観―パトルシェフ書記の見解― (2014/10/23 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39089075.html

ただ、ブレジンスキーはスピーチ後半で、ウクライナ問題の解決策として、欧米諸国はロシアに向かって、ウクライナはEUに加盟しても、NATOには加盟しないということを表明し伝えるべきであると言っています。ウクライナの世論も考慮した、ロシアへのこの申し入れは試す価値があると。

私は、この方法によってウクライナはともかく、プーチンの中東欧における拡張主義的な動きが止まるとは思いません。なぜなら、「現存の西側諸国、大西洋同盟(米国と欧州)、NATO(軍事)体制を弱体化させ、分裂させ、これに勝利する」ことが、ロシアの<最大の目的>であるとブレジンスキー自身がスピーチの前半で言っているからです。

スピーチ前半では、現に「ウクライナでその目標を達成したら、次はバルト三国だろう」とも言っているのです。さらに、

『プーチンのソビエト連邦と帝政ロシアの再現という論理では、いずれはアゼルバイジャンやグルジアといったほかの国々(旧ソ連構成国)にも、その手は伸びるだろう、そうなれば当然、大西洋同盟は崩壊を引き起こす。』

And that could lead to other countries – whether Azerbaijan or Georgia – and of course it would involve the collapse of the Atlantic Alliance.

しかしそれらとは反対に、ブレジンスキーのスピーチのなかで、ロシアの経済的側面について触れた点を挙げると、ロシアが進めている経済共同体の構想では、ユーラシア連合もユーラシア経済連合も、まるでうまくいっていないという事を指摘しています。

それらの中核となるカザフスタンやベラルーシはこの構想と計画に対して消極的であり、それらの国々は強引なロシアによって半ば強要されているということです。とくに中央アジアの旧ソ連共和国の国々は、中国との関係の方がますます密接になってきているとも、ブレジンスキーは指摘しています。

ロシア主導の経済連合、原油安で困難に直面=カザフスタン大統領 (3/20-2015 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jpRussia/idJPKBN0MG0X020150320

ブレジンスキーは、ロシアはこれから<数年間の経済危機>になることが確実だと言っていますが、私は、経済構造改革を放棄して今のようなことを続けていれば、遠からぬうちに経済危機に陥ると思っています。

プーチンは経済成長を捨てて侵略する選択を (12/11-2014 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39183999.html

株のセールスをしている朝倉慶氏が次のような指摘をしています。


『外貨準備の減少は著しく昨年の4900億ドルから今年は3600億ドルとなり3割弱減少しています。恐ろしいほどの速度での減少です。(中略)国家の破たん確率を示すCDSは480ポイントと破たん確率はおよそ25%の水準です。ロシアの先行きは暗澹としているとしかいいようがありません。』

ロシア 消費者は可処分所得の半分が食費に (3/23-2015)
http://www.asakurakei.com/newsDetail.cfm?newsID=1661



プーチンには軍略の才はあっても経済構造改革はまるで苦手なようで、経済改革をサポートする優秀なパートナーや部下がいなければ、西側諸国が解決のための時間を引き延ばしていくうちに、ロシアが自滅する可能性は高いと思います。

コラム:危険水域のロシア経済、プーチン政権の「無策」露呈 (3/20-2015 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jpUkraine/idJPKBN0MG0SQ20150320

ただし、プーチンにとって神風が吹く可能性があります。それは多くの専門家やブロガーが指摘するように、原油価格が上昇する時です。
原油価格を左右する中東情勢はいま混乱を極めていますが、内戦に向かって進んでいるかに見えるイエメン情勢に対して、サウジの動揺が高まっています。

そして2014年11月には、「イスラム国」の指導者アブ・バクル・アル・バグダディが、サウジアラビアへ戦線を拡大することを音声で流し表明していました。

◆◆第3節「バグダディの呼びかけとサウジアラビア」へ続く
 http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39359046.html


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