①米国次期政権が構想する「アジア版NATO」―冷戦型軍需経済の復活―

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(サムネイル写真左はAEI のダン・ブルーメンソール Dan Blumenthal )

目次

■ ① 2012年米大統領選挙とロムニーの「強い米国の復活」

■ ② アジア版NATO

■ ③ 米国の軍需経済復活と当事国である日本

■ 結語:米ソ冷戦との違いと構想の大きな問題点

※ 本稿は、「米国によるオフショア戦略」の第5回として書かれたものです。

■ ① 2012年米大統領選挙とロムニーの「強い米国の復活」

来年11月のアメリカの大統領選挙まであと1年余りとなった。

米国主要都市で拡大しているリベラル左派が主体の抗議デモの大統領選挙への影響は不透明であるが、リーマンショック後のアメリカ経済の衰退と荒廃をもたらしたオバマの再選は難しいだろう。オバマをホワイトハウスへ送り込んだウォール街は、現在猛烈にオバマをバックアップし、ふんだんな選挙資金を再び提供しているそうだ。またアメリカ東部のマスコミには、ウォール街の力がかなり及んでいるようだ(注-2011.10.日高)。

2012年の米大統領選に向けた共和党候補の指名争いで、主流派が支持を固めている有力候補ロムニーは、「強い米国の復活」を掲げ、中国に対する強い警戒感を表明している。ロムニーは10月6日の外交政策の演説で、オバマ政権が方針を示している国防予算の大幅削減の流れを反転させ、国防支出を増加させることを公約した。オバマ政権は10年間で1兆ドルの国防予算の大幅削減をする方針を打ち出している。

In foreign policy address, Romney stretches on Obama’s record (10月8日 ワシントンポスト)

http://www.washingtonpost.com/national/national-security/fact-check-in-foreign-policy-address-romney-stretches-on-obamas-record/2011/10/08/gIQA5zdjUL_story.html

「強い米国」の復活目指す―ロムニー氏が外交政策演説 (10月8日 世界日報)

http://www.worldtimes.co.jp/news/world/kiji/111008-160530.html

本稿と共通のテーマを扱った前編の4編では、オバマ民主党政権のもとで米国防総省が主体として進めている、「オフショア戦略」と「統合エアシーバトル構想」について述べてきた。

「米国による中東からアジアへの軍事力シフト―米国のオフショア戦略(4)―」 (9月24日)

http://www.asyura2.com/11/senkyo119/msg/775.html

今回はアメリカの政権交代が行われた際の、次期共和党政権での「米国によるオフショア戦略」について述べてみたい。

アメリカの次期共和党政権での対日政策は、平和ボケした日本にとって苛酷である。

それは戦後66年に及ぶ軍事的な米国依存から、前方戦略の前線へと立たされる当然とも言うべき責務を担わされる。もう、「ぶらさがり国家」ではいられなくなるのだ。

■ ② アジア版NATO

前ブッシュ政権を支えた保守系シンクタンク、アメリカンエンタープライズ研究所は、現在、穏健保守のハドソン研究所やヘリテージ財団とともにアメリカ保守派に大きな影響力を持つ(注-2011.4.日高)。

8月の終りに、アメリカンエンタープライズ研究所(AEI)のダン・ブルーメンソールは、軍事系シンクタンクProject 2049 Institute の4人のスタッフらとともに ” ASIAN ALLIANCES IN THE 21st CENTURY” (21世紀のアジア同盟)という論文を発表した。ダン・ブルーメンソールはブッシュ政権からの北東アジアを専門とする軍事専門家で、同政権で国防総省中国部長を務めた。これまでに多くの彼の記事がAEIのHP上で公開されている。

Project 2049 Institute は、アジア太平洋地域と中央アジアを研究対象とするシンクタンクで、2008年1月に設立された。CEOのランドール・シュライバーはブッシュ政権前半で国務次官補代理を務め、リチャード・アーミテージ国務副長官の政策スタッフの責任者であった。Project 2049 Instituteの研究アドバイザーとしては、クリントン政権とブッシュ政権からの多くの人材を有し、日本では岡崎研究所をアドバイザーとしている。

この論文(PDF39ページ)の終りの5人の執筆者の略歴を見ると、いずれも保守派に属し、アメリカンエンタープライズから二人の構成となっている。また東アジア、とくに北東アジアを全員が専門としていることが共通している。

ASIAN ALLIANCES IN THE 21st CENTURY (2011年8月30日 公開)

http://project2049.net/documents/Asian_Alliances_21st_Century.pdf

この論文は、戦略国際問題研究所(CSIS)などと契約を結ぶ「The Diplomat」が9月8日付で取り上げ、日本ではワシントン駐在特別委員を兼務する古森義久氏が、9月30日の産経新聞サイトで紹介している。

http://the-diplomat.com/flashpoints-blog/2011/09/08/%E2%80%98counter-bismarckian%E2%80%99-diplomacy/

この論文の構想の最大の目的は、アジア・太平洋地域における集団安全保障体制の確立である。米ソ冷戦時代に、欧州にNATO(北大西洋条約機構)という米国と西欧に多国間軍事同盟を構築して、旧ソ連の脅威に対抗し封じ込めて成功したように、現在の中国に対して新しく「アジア集団同盟」を構築し打ち立てて、中国を封じ込めるのが目的だ。

つまり、「アジア版NATO」である。

NATOは北大西洋条約に基づいて結成されている。条約の根幹は「いずれの加盟国に対する攻撃も全加盟国に対する攻撃とみなし集団的自衛権を発動する」ことにある。

“ ASIAN ALLIANCES IN THE 21st CENTURY”の論文では、軍事力の主力として、米国、オーストラリア、日本、韓国の4カ国を挙げ、南シナ海での戦力ではインドを加えている。「アジア版NATO」では、日本の軍事力行使と軍備増強がとくに強調される。

論文後半では、東アジアにおける台湾、北朝鮮、南シナ海という3つの防衛ケースを挙げているが、このうち分量が最も多くウェイトが置かれているのが台湾防衛についてだ。

中国が台湾沿岸に配備している1500発以上の短距離弾道ミサイルと中距離弾道ミサイルをベースにしたA2AD戦略(接近阻止・領域拒否)で、有事の際はアメリカの空母が台湾防衛の活動を半ば阻止される状態になっている。国防政策委員のR.カプランによれば、アメリカは台湾の主権をこの先保障し続けることが不可能になってくると言う。

A power shift in Asia (9月23日 ワシントンポスト)

http://www.cnas.org/node/7042

カプランは、2009年のランド研究所の調査から、2020年にはアメリカのF22、空母打撃群による台湾防衛と、沖縄嘉手納基地へのアクセスが阻止されると述べているが、それから2年たった現在は2020年という時期が年々早まっている。

(※ アメリカが台湾にこだわる大きな理由の一つに、台湾が米国債保有で世界第5位の保有額を持っていることが挙げられる。台湾が中国に併合された場合、首位の中国と合計される米国債保有額は群を抜いたものとなり、米国は中国に牛耳られてしまう。)

現在ワシントンで共和党や保守派の軍事専門家によって、米軍のオセアニア・シフトにより生じる、東アジアでの前方配備の空洞化を埋めるため、様々な軍事戦略が検討されている(注-2011.5.日高)。

A2AD戦略(接近阻止・領域拒否)が脅威を及ぼす地域は、台湾のみならず既に日本列島全体に及んでいるが、この領域内に位置する日本を、米軍の前方戦略として最大限に活用しようという計画が、アメリカ保守派グループから出てきているのである。この計画での台湾の防衛はアメリカと日本の2ヶ国が主力となる。

実際の有事における「アジア版NATO」での戦闘行動は、アメリカとオーストラリアの海空軍が戦争地域へ向かうまでの時間を、前方戦略を担当する東アジアの同盟国の軍隊が戦う。米海軍はグアム、米空軍はグアム、ハワイ、アラスカを拠点とする。

ブルーメンソールのチームの戦略構想では、北東アジアにおいて米軍を支援するために、日本に対して、①沖縄諸島での軍備増強、②多くの空軍基地の建設、③東シナ海・フィリピン海における潜水艦部隊による防壁の強化、④中国による日本へのミサイル攻撃を抑止し報復攻撃を可能にするために、巡航ミサイルと弾道ミサイルを日本に地上配備するなどが必要であるとしている。

To help the United States participate in Taiwan’s defense, Japan needs to more heavily militarize the Ryukyu island chain, construct more airbases, harden the ones it already has and create an anti-submarine barrier to deny China access to the Pacific Ocean, where the PLA Navy would seek to interdict US forces.

Finally, Japan should consider deploying conventionally armed, ground-launched cruise and ballistic missiles of its own to retaliate in the event that China strikes the Japanese homeland.

<「②米国次期政権が構想する「アジア版NATO」―冷戦型軍需経済の復活―」へ続く>

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/35873322.html

DOMOTO

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735

http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/hunsou.index.html