プーチンのウクライナ侵攻の真の目的は、2024年の大統領選挙での再選

統一ロシアの支持率の推移
※ グラフの拡大図: http://img.asyura2.com/up/d14/524.jpg

(出典)2021年ロシア連邦下院選挙にみるプーチン政権の安定性と脆弱性
https://www.jiia.or.jp/research-report/russia-fy2021-05.html

 

プーチンのウクライナ侵攻の真の目的は、2024年の大統領選挙での再選-クリミア併合と酷似した行動パターン-

 

2年後の大統領再選のためのウクライナ侵攻。
現在、ロシア国内で日に日に増す反戦デモ。

2月25日、そして26日、EUでロシアを国際的な資金決済網(SWIFT)から排除する金融制裁案が再浮上してきた。

対ロシア制裁、決済網排除が再浮上 EUで支持広がる(日経 2022年2月26日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2616H0W2A220C2000000/?unlock=1

プーチンは振り上げた斧(おの)をどうするのか。
米欧がSWIFT排除を決定すれば、大統領再選へのプーチンの目論見は、誤算となるだろう。

戦略国際問題研究所(CSIS)のアンドリュー・クチンス氏は、プーチンの2014年のクリミア侵攻を「リスクの高い政治戦略」と呼びましたが、2年後の大統領選挙で当選するための手段として、今回も彼には「侵略」しか選択肢がなかったようです。

近年はプーチン政権やその与党「統一ロシア」に対する支持率が低下しています。新型コロナ感染拡大の影響を受け、プーチンの支持率は2020年5月に政権成立後初めて60%を下回りました。
またプーチン政権の与党「統一ロシア」の支持率は、2014年のクリミア併合後急上昇しましたが、その後再び低下し始め、新型コロナの感染拡大がロシア経済に打撃を与えると、2021年には同党の支持率は20%台にまで低下しています(下記記事一部を要約)。

2021年ロシア連邦下院選挙にみるプーチン政権の安定性と脆弱性 (日本国際問題研究所 2021-12-21)
https://www.jiia.or.jp/research-report/russia-fy2021-05.html

また、ロシアの今年1月のインフレ率は8・7%に達しており、国民の生活は苦しい状態が続いています。

プーチンには、ロシア経済停滞による支持率低下の状況下で、大統領選挙を迎える3~4年前になると、ウクライナへの侵略という選挙対策を使う行動パターンがあるようです。

2014年2月のクリミア侵攻時も経済が停滞していましたが、これは2018年3月の大統領選挙の4年前です。
2021年は原油価格上昇で一時的に経済成長率は上昇しましたが、ロシア中銀総裁は2022年から2023年にかけてロシアの景気はさらに減速すると見ており、今後インフレが加速することが予想されています。
今回のウクライナ侵攻は経済停滞下での軍事侵攻という点でクリミア侵攻時と似ています。
そして2021年4月にはプーチンはウクライナとの国境地帯に大規模部隊の集結を始めていますから、2024年3月の大統領選挙の3年前にプーチンはロシア軍の派兵を開始しているのです。

クリミア侵攻でも今回のウクライナ侵攻でも、大統領選挙を迎える3~4年前、経済停滞下の状況で、ウクライナへ侵攻しているのです。さらに侵攻前の与党「統一ロシア」の支持率が非常に下落している点も共通した特徴です。

ロシア中銀総裁はロシア経済の成長率は2023年にかけて減速すると見ている(ブルームバーグ 2022年2月19日)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-02-18/R7IE9FDWX2PS01

2021年4月5日にプーチンは改正大統領選挙法を成立させ、2036年まで自身の任期を可能にする布石を打っていますが、同月8日、ウクライナとの国境地帯に、クリミアを併合した2014年以降で「最大規模」のロシア軍部隊の集結が確認されています。

ロシア軍集結、ウクライナ国境が緊迫…米政権の対応試す狙いか(読売 2021/04/10)
https://www.yomiuri.co.jp/world/20210410-OYT1T50261/

バイデン米大統領もブリンケン国務長官も「プーチンはソビエトを再建したい」と言っていますが、現実主義者のプーチンがそのようなドン・キホーテ的な夢想家であるはずがなく、そのような回帰主義者の目で世界から見られることは、彼にとって逆に好都合です。それは大統領選で再選を果たし、2036年までの権力の座に君臨しようとする、権力の亡者としての自分の姿を覆い隠すからです。NATOの拡大阻止という彼の戦略的理想も二の次の話で、これは格好の口実になります。とにかく今は、ロシア経済が停滞するなかで、2年後の大統領再選のために功績を作り上げなければなりません。

以下の引用記事は、2014年11月に戦略国際問題研究所(CSIS)のHPで、ロシアが専門のアンドリュー・クチンス氏が、クリミア危機の当時、ロシア経済の停滞のなかでプーチンがどのように考えて侵略に至ったのか、その政治行動を分析した記事です。

題名の『プーチンのジレンマ』(Putin’s Dilemma)の「ジレンマ」は、(解決が困難な)難問、窮地、困難という意味です。

そこでは、経済の構造改革と経済成長を断念したプーチンが、得意な軍事力の行使を選んで国外への侵略を活路にし、権力の延命を図る姿が解説されています。

Putin’s Dilemma (「プーチンのジレンマ」 戦略国際問題研究所 (2014.11/13)  
http://csis.org/publication/putins-dilemma

記事の一部を抄訳します。

(抄訳開始)
プーチンは大統領に就任して以来、二期にわたって(2000~2008年)、年に約7%の経済の成長をなし遂げてきた。ロシアの石油と天然ガスの生産高を飛躍的に増やしたことが、高い経済成長を支えた。世界的な経済危機の後でさえ、2010年と2011年には4%以上にまで回復させた。

プーチンに対する一貫した政治的に高い評価の基盤は、ロシアの人々の、経済の見込みが絶えず良くなっていくという認識であった。

プーチンが2012年5月に大統領の職に戻った時、彼は難しい選択に直面した。その時、経済の停滞の兆候がすでに明らかになっていたからだ。彼は増えていた中産階級を、彼らの経済的不安に対処することによって吸収し、構造的な経済改革に着手するか、または、彼の「垂直なパワー」と呼ばれる政治的な基盤を弱体化させる危険を冒すかの、どちらかの選択に直面した。

プーチンのジレンマは、1980年代初期のソ連政治局を思い出させる。

石油による多くのドル収入にもかかわらず、ソ連経済は構造的に非常に非効率であったために成長率はゼロに近かった。
ソビエトの経済停滞が深い底にあった時、ブレジネフと彼の後継者たちは、構造経済改革は政治的に危険すぎると判断して、改革をせずにどうにか切り抜けようとした。

もし、原油価格が高いままであったなら、その動きはうまくいったかもしれない。そしてソ連は持ちこたえていただろう。
しかし言うまでもなく、原油価格は急落し(訳注:1981~1986年にかけて)、ソ連は改革を試み、ソ連崩壊は起こった。

プーチンは、クリミア併合とウクライナでの戦争の前でさえ、原油価格が歴史的に高かったにもかかわらず、(ソビエトの前任者たちのように)構造改革を避けてきて、ロシア経済は停滞を続けてきた。

それはプーチンが、政治的な人気と権力の基盤のための経済成長と繁栄を断念することを、すでに決心したように見えた。

このリスクの高い政治戦略は、彼の指導力を正当化する<新しい政治的な物語>を必要とする。経済成長と繁栄をもはや絶対必要なものではないとするならば(権力維持のために)、<新しい政治的な物語>を必要とする。

この新しい政治戦略(物語)は2012-2013年に形ができ始めた。それは「公式な愛国心」という19世紀のロシアの政策の中にある伝統的なロシアの価値観に重点を置くことを、(国民のあいだに)強化することとともに行なわれた。その「公式な愛国心」は独裁政治、正統性、ロシア人の愛国心の3つを中心に展開する。

ウクライナの危機は、この新しい政治的物語をさらに強化するための理想的な機会を提供した。
(抄訳終了)

※ この抄訳は、私のブログの下記の記事からのものです。

プーチンは経済成長を捨てて侵略する選択を―プーチンは何を考えて行動しているのか―(2015年01月11日)
https://domoto-world.com/archives/1960212.html