②習近平が構築する新米中関係は、日米安保の骨抜きを狙う― 米中の尖閣交渉 ―

2012年2月に訪米した習近平とキッシンジャー (ワシントンポスト :”Vice President Xi Jinping of China visits the U.S.” Feb. 15, 2012)

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http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/37179858.html

■ Ⅱ 米中の大国協調と安保第5条

さて、8月24日の中国人民解放軍の蔡副総参謀長とA.カーター米国防副長官の会談を、産経は次のように伝えている。

新華社によると、蔡氏は、米国による台湾への武器売却や南シナ海と尖閣諸島をめぐる領有権争いなど「中国の重大で核心的な利益」に関する出来事について「(米国の関与に対する)強い懸念」を表明した。

(「米国の尖閣への安保適用方針に反対 中国軍幹部」 8月26日)

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120826/chn12082601100000-n1.htm

習近平政権が推し進めるであろう米中の「新しい形の大国関係の構築」が、今後どのように進展するかは、尖閣問題だけでなく日米同盟の根幹に関わってくることになる。仮にこの米中協力体制が良好に構築された中で、米国が中国の「核心的利益」の一つである尖閣諸島の侵攻を黙認し、中国が尖閣侵攻の軍事行動に出た場合、日米安保第5条の適用による米軍の介入はどの程度のものになるのか。

自民党の石波茂氏は、「日米同盟が尖閣の地域でどのように働くかというシュミレーションをしなければならない」とテレビ・インタビューで述べていたが、米中の「新しい形の大国関係」が構築されれば、今の日米同盟は骨抜きにされ、日本は今より米中に対していっそう従属的な国家となる。

米国が中国の「核心的利益」の一つである尖閣諸島の侵攻を黙認しても、尖閣諸島以外の日本全土を外敵から防衛するためにアメリカ軍は依然として必要とされる。それ以降も続くにちがいない中国とロシアの軍事的脅威と威嚇、北朝鮮のミサイル攻撃への対処、自衛隊の兵器はすべてアメリカ仕様で作られている。

米国に対する中国の外交力は、強大な軍事力と経済力を背景にした強力なものである。一方、日本はどうか。財政破綻寸前で大幅な防衛予算が組めない日本は、粟粒のようなものではないだろうか。日本は、財政破綻寸前の状況下で、いかにして超核大国の米中から自主独立を獲得したらよいのかを、徹底的に考え抜くべきだろう。

日米安保第5条の適用の問題については悲観的見方がある。

9月28日のJBpressで社会学者の北村淳氏は、米国の同盟国であるイギリスとアルゼンチンで行われたフォークランド紛争(1982年)での事例を挙げ、米国の支援が主に軍事情報の提供だけであったことを挙げている。この時の米国の軍事情報の提供は戦局を左右するものであり、中国との尖閣問題にそのまま当てはめて考えるのは適切ではないと思うが、事実だけをみれば米国は武力介入を行っていない。

そして元海上自衛官の中には、「(米国は)実際には交戦せず、情報提供や後方支援程度になるはず」と見る人もいる(中村秀樹氏 週刊文春10月4日号)。

7月16日付のウォール・ストリート・ジャーナルには気になる記事があった。

More broadly, the Pentagon is facing drastic cuts that will make it riskier to get involved in a conflict except for the most serious of issues, like an invasion of Taiwan.

「概してペンタゴン(米国防総省)は、台湾侵略のような極めて重大な問題を除き、紛争に巻き込まれて米国を危険にするであろう対象について、大幅な見直し削減(の必要性)に直面している。」

( Japan Fends Off a Bear and a Dragon )

http://online.wsj.com/article/SB10001424052702303754904577530552784892284.html

記事全体を読まないとこの文の意味合いが正しくは伝わらないが、記事の執筆者であるマイケル・オースリンは米保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)の日本研究の責任者で、ブッシュ政権時代からの日本の専門家である。オースリン氏は9月24日付のWSJ記事でも、米国が日中の戦争に巻き込まれることを非常に警戒した発言をしている。米マスコミで最保守といわれるウォール・ストリート・ジャーナルの誌上で、オースリン氏のこのような発言が今後たびたび掲載されることによる米世論への影響は無視できないものがある。

9月26日のJBpressでワシントン在住の産経の古森義久氏が、米下院外交委員会の公聴会で(9月12日)、尖閣問題について共和民主両党が、「熱を込めて日本を支持し、中国を糾弾する声ばかりであった」と伝えているが、大統領選挙前の盛んな中国批判は両党の恒例行事で、これを真に受けていて窮地に陥るのは日本だ。

■ 結語:現在のキッシンジャー路線と安保第5条

ネット批評家である田中宇氏などが、「米国の中国敵視策」(オバマ政権)という言葉を繰り返し強調して使っているようだ。

しかし民主党オバマ政権の中国包囲網はパワーバランスをとる以上のことをしておらず、米軍のオフショア戦略は現時点まででは受動的な態勢の域を超えておらず、ペンタゴンは「エア・シー・バトル」体制へ向けて整備を進めているが、軍事力の増強と高度化は米国にとっては恒常的なものである。

目先の事象の報道のみにとらわれていると誤解するのかもしれないが、オバマ政権は基本的には中国との共存を図り、中国を世界経済の拡大に取り入れようとするキッシンジャー派(穏健派)に属する。キャンベル国務次官補、ゲーツ前国防長官、ガイトナー財務長官、いずれもキッシンジャー・アソシエイツの出身だ。キッシンジャー派という点ではロムニー候補も同じだ(※ 注2)。本当の「米国の中国敵視策」(強硬派)というのは、中国共産党政府を滅ぼし、転覆させることを目的とする。

キッシンジャー派のオバマ政権にしても、ロムニーにしても、本稿で取り上げた中国の提案する「新しい形の大国関係の構築」へ米国が歩み寄る素地はあるわけである。

ワシントンの日高義樹氏によれば、2008年の米大統領選挙のあと米国では、オバマ陣営の選挙資金へ中国マネーがかなり流れていたという報道がされたという。今夏8月の集計でオバマの選挙資金が急激に増加しロムニーを逆転したが、私は、中国にとって「都合のいい相手」であるオバマへ再び中国マネーが大量に流れていると見ている。

このような米国の基本的な対中国政策の方針と第1節でみた中国のアメリカ最重視外交の情勢を踏まえて、政府と国民は尖閣問題と尖閣有事を考えなければ、超大国の米中のあいだで日本だけがただ、空振りの一人相撲を取っているのと同じことになる。

■ 注釈

注1:『帝国の終焉』 日高義樹著 2012.2.13刊

注2:『ロムニー大統領で日米新時代へ』に詳細。日高義樹著 2012.8.31刊

■ 資料

日米安全保障条約(主要規定の解説) 外務省

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku_k.html

DOMOTO

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735

http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/hunsou.index.html

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