中国とロシアの軍事同盟的な協力体制

今日お伝えする記事は、有料メルマガで6月12日に配信した「プーチンのアジアへの旋回シフト」の第2節です。第1節は6月28日にブログで公開しました。第1節の続きにあたる内容になっていますので、併せてお読みください。
 
プーチンのアジアへの旋回シフト(第1節)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/38830237.html
【序文】 中国の防空識別圏とロシアの空軍戦力(7月5日)
 
「ロシアの情報によると、中国は間もなくロシアと第4世代戦闘機Su-35の購入契約を締結する。中国は第1陣として24機を購入する。早ければ来年から引き渡される予定。」(6/30-2014 新華社通信ネットジャパン)
 
中国がロシアからSu-35戦闘機を24機購入へ-中ロ同盟の飛躍的強化が進んでいる-(7/01-2014 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/38835753.html
 
「Su-35はロシア軍事技術の粋を集めた戦闘機で、アメリカの戦闘機を上回っているとも言われている」(日高義樹氏 2013-11/30)
 
戦略国際問題研究所(CSIS)の2013年12月の報告では、2013年の3月の時点ですでに「中国はロシアから高度な軍事兵器を大量に購入しており、」その中にはSu-35も含まれているとあります。2013年3月というのは中ロ関係が同盟へ向かい始めた転換点にあたる月で、今日掲載する記事にはその解説がしてあります。
 
中国が東シナ海に防空識別圏の設定を宣言したのは2013年の11月ですから、中国の防空識別圏はSu-35などのロシアの空軍戦力が導入され、それが基礎になった構想と言えます。
 




In March 2013, Russian and Chinese media reported that Beijing was acquiring significant quantities of advanced military equipment from Russia. Among the multi-billion dollar systems to be bought by the Chinese military are six Lada-class attack submarines and 35 SU-35 fighter jets. These acquisitions are significant because they are sophisticated systems and it has been more than a decade since China purchased any significant weapon systems from Moscow.

 

From Russia without Love: Russia Resumes Weapons Sales to China (CSIS 2013-12/12)
http://csis.org/publication/pacnet-89-russia-without-love-russia-resumes-weapons-sales-china




 

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   プーチンのアジアへの旋回シフト

ー中ロ同盟はアジア-太平洋の覇権を目指すー

2014年6月12日
 
【目次】
【1】 プーチンのアジアへの旋回シフト
【2】 中国とロシアの軍事同盟的な協力体制
  【2】 中国とロシアの軍事同盟的な協力体制
 
冒頭で紹介した戦略国際問題研究所の Tales of Different “Pivots” という2013年1月のレポートでは、中国とロシアの間で「もっとも重大な問題として、軍事技術の協力と軍事協力の問題」が議論されているとすでに報告していました。
 
“The most serious issues of military-technical cooperation and military cooperation were discussed,” commented Deputy Defense Minister Anatoliy Antonov, who attended the meeting.
 
今年5月20日の日経は、「中ロ首脳『戦略的関係、新段階に』 米国をけん制」と見出しを付けて報道しました。しかし、中国とロシアは2013年3月に習近平とプーチンのモスクワでの首脳会談で、両国間の強い協力関係を強調した共同声明を発表しています。その首脳会談でプーチンは「ロシアと中国の戦略的な同盟体制は、極めて重要である」と習近平に対して述べました。
 
この時の共同声明には初めて中国とロシアのあいだで「新しいタイプの大国関係」(“New Type Great Power Relations”)という言葉が使われました。この中ロ間で用いられた「新しいタイプの大国関係」については米国のシンクタンクであるジェームズタウン財団のウェブサイトに、これを考察した論文があります。中ロ間がエネルギー分野で連携し急接近を表明した今年5月の記事です。
 
Conceptualizing “New Type Great Power Relations”: The Sino-Russian Model (2014-5/07 ジェームズタウン財団)
http://www.jamestown.org/programs/chinabrief/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=42332&cHash=13148cfd7311153f1728b8fc16411b7b#.U5kubfl_uJl
 
この記事によると冷戦終結後、1995年に江沢民のスピーチのなかで使われた「新しいタイプの関係」(“New Type of Relations” (NTR))という言葉は、それよりも前から中国の専門家たちが使っていました。それから18年後の2013年3月の習近平・プーチン会談での共同声明で “Great Power” という二文字が採択され加えられ、「新しいタイプの大国関係」(“New Type Great Power Relations”)となったそうです。そしてそれは、オバマ大統領が米中両国について「新しいタイプの大国関係」という言葉を習近平との会談で使った3か月前のことです。
 
NTR remained in official Sino-Russian statements until “Great Power” was added and adopted by both China and Russia in March 2013 — three months before use by President Obama at Sunnylands (Xinhua, March 22, 2013; White House, June 8, 2013).(※訳注 Xinhua 新華社)
 
米国と中国の間で「新しいタイプの大国関係」という言葉が公式に使われたのは、2012年2月の習近平(副主席)の訪米での講演が初めてですが、日本のマスコミではこの米中間の「新型の大国関係」ということばかりしか取り上げていないようです。しかし、その米中会談のほぼ1年後に、中国とロシアは従来のお互いの関係を「新しいタイプの大国関係」として、大きく前進させようと公言しているのです。
 
この記事のなかでは、この中ロの「新しいタイプの大国関係」という概念が、1990年半ば以来の中ロ関係の歴史を経て改良され、よく発達を遂げた、首尾一貫した中国の外交政策の帰結であるとしています。
 
またこの「新しいタイプの大国関係」という概念は、中ロの関係を安定させ、<アメリカの行動様式と異なる「新しい国際秩序」を確立するための手段>であるとも述べています。
 
First, NTGPR is a well-developed, coherent outgrowth of Chinese foreign policy with a history of use and refinement in Sino-Russian relations since the mid-1990s.
Sino-Russian joint statements articulate the concept as a means to stabilize their relationship and establish a “new international order” to shape U.S. international behavior.
 
2013年3月の中ロの共同声明の話は、米国のハドソン研究所の首席研究員である日高義樹氏の著作『アメリカはいつまで日本を守るか』(2013年11月刊)の中にもあります。しかし、米国のマスコミは、この習近平とプーチンの共同声明を殆んど伝えなかったそうです。
 
それは米国の専門家の多くが、中国とロシアが軍事的協調や同盟体制をとるのは極めて難しい、または不可能だと考えていたのが、その共同声明が注目されなかった理由だと日高氏は説明しています。
 
これに対して日高氏は、欧米に対抗するために、過去からこれまで敵対関係が基本線であった中国とロシアの関係は変化しているとその著作で言っていました。そして中ロは、軍事的関わり合いを飛躍的に強化し、両国は同盟体制に走り始めていると分析していました。(Su35の中国への売り渡し、空母建造での中国への技術協力など)
 
もちろん日高氏は、両国が同盟体制をとることは不可能だとする考え方も取り上げ、米国や欧州と経済的に密接に結びついている中国とロシアが、欧米と対決するのは経済的に見て非常に難しいといった見方も紹介しています。
 
ただ、歴史的事実はその反対事象も示していると述べ、密接な経済的関係があったにも関わらず、当事国間で戦争が始まった事例を挙げています。そして経済的・文化的に密接な関係があったとしても、それを超える要因があれば、戦争や軍事対決は容易に始まるとも述べています。
 
「戦争」という言葉が出てきましたが、私は、核兵器を含む大量破壊兵器が地球上に氾濫し、グローバリゼーションで世界経済が密接にかみ合う21世紀において、IQの高い大国の首脳や政権・官僚がそうそう簡単に、アニメゲームのように大きな戦争を起こすことはないと常に考えています。
 
大国同士の戦争とは、今まで築き上げてきた国家基盤に計り知れない巨大な損失を被る行為です。これは多くの人々の認識でもあると思います。日高氏のいう歴史的事例とは別に、中国とロシアの軍事的・経済的協力関係は世界秩序と国際情勢において、もう少し戦争とは別の形で具現化されていくと考えています。
 
前述の日高氏の2013年11月の著作レポートでは、第6章の「中国とロシアは軍事同盟を結ぶのか」で、中国とロシアの軍事力の状況についても書かれています。以下に私が注目した箇所を一部要約してみました。
 




(要約開始)
アメリカ海軍は第4世代の潜水艦作戦である海底ネットワークの開発を進めている。これは太平洋や東シナ海での中国のA2AD戦略を無効化し消滅させるものだ(A2AD:Anti-Access Area-Denial 接近阻止・領域拒否)。それに対抗して、ロシアは急速に古い潜水艦を新しいものに変えており、太平洋における潜水艦の戦いは新しい時代に入ろうとしている。「やや時代遅れの中国の潜水艦を尻目に」、アメリカとロシアの最新鋭の潜水艦が太平洋で活発な行動を展開している。

 
ベーリング海は北極海の一部で、温暖化現象で北極海の氷が解け始めるようになってから注目されている。米国海軍の首脳は、「ベーリング海はこれからアジアからヨーロッパなどへの、マラッカ海峡に匹敵する重要な海上ルートの拠点になる」と言っている。
 

ロシアと中国の海軍は明らかに責任の分担を図っている。ロシアが北極海からベーリング海、そしてオホーツク海から日本海へと海軍力を強化する一方で、中国海軍は東シナ海と南シナ海、さらに西太平洋の広大な地域で、強力な海軍力を展開しようとしている。<ロシアと中国の軍事同盟の目標は>当面、ロシアと中国が協力して海軍力を行使し、アメリカ軍を追い出すことである。
(要約終了)




先ほど戦略国際問題研究所の Tales of Different “Pivots” という2013年1月のレポートで、中国とロシアの間で、「もっとも重大な問題として、軍事技術の協力と軍事協力の問題」がすでに議論されていることを述べました。

 
安倍総理「ロシアとは融和、中国へは批判」G7で強調 (2014-6/05 テレビ朝日)
http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000028275.html
 
6月4日にベルギーで開かれたG7首脳会議では、ウクライナ問題で制裁強化を求めるアメリカなどとは対照的に、安倍首相はロシアへの融和を訴えました。集団的自衛権の議論を聞いていてもそうですが、安倍政権と自民党は国防情勢や国際情勢に弱いと思います。中ロの軍事的・経済的な協力ということを、まるで想定していない。「アワ(泡)ノミクス」と同じです。
 
5月24日に中国機が自衛隊機へ異常接近し、6月11日には中国のSu-27戦闘機が自衛隊機に2回異常接近するという事態が起こっていますが、非常に強気な中国のこのような行動は、中国とロシアのこれまで述べてきたような同盟体制という背景から考えるべきでしょう。