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【◆◆以下の記事は有料メルマガ5月14日号の一部です】
 
   【3】 サウジはパキスタンに核の梯子をはずされるか
 

サウジアラビアへのパキスタンの核兵器での協力は、2014年11月のメルマガや今年3月12日号のメルマガでもお伝えしてきました。この両国の核兵器での協力は一般によく知られているのですが、4月21日にサウジがイエメンのシーア派武装組織フーシ派に対する空爆終了を宣言し、その直後もそれを続行させたという頃から、事態はどうもサウジにとって非常に不利な方向へと進み始めているようです。
1月下旬にアブドラ前国王が亡くなり、パキスタンからはナワズ・シャリフ首相や軍の首脳がリヤドを訪れ熱心な会談が行われていたようです。
前国王が亡くなった11日後の2月3日にはパキスタン軍統合参謀本部のラシッド・マフムード議長がサルマン国王と会談、3月4日にはナワズ・シャリフ首相が3日間の日程でリヤドを訪れ、サルマン国王と会談。

 
Nuclear Nuances of Saudi-Pakistan Meeting (2/03-2015 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/nuclear-nuances-of-saudi-pakistan-meeting
 
ブルッキング研究所の中東専門家であり、元CIAのアナリストであったブルース・リーデル氏は、この期間にサルマン国王がシャリフ首相から核兵器による協力の確約をとるための強い説得があったと推測していました。
 
As Bibi addresses Congress, the Saudis play a more subtle game on Iran (3/02-2015 アル・モニター)
http://www.brookings.edu/blogs/markaz/posts/2015/03/02-riedel-bibi-addresses-congress-saudi-king-salman-summoned-pakistan-nawaz-sharif-on-iran
 
サウジはイエメンでのパキスタンの援軍に非常に期待していたのですが、パキスタンは国内でのテロ組織との戦闘で手一杯で、サウジの申し出を断ってきました。これは3月の話です。
 
Pakistan declines to join Saudi Arabia’s anti-Iran alliance (3/15-2015 アル-モニター)
http://www.al-monitor.com/pulse/originals/2015/03/saudi-pakistan-yemen-taliban-iran-sunni-salman.html
 
4月23日にナワズ・シャリフ首相とラヒール・シャリフ陸軍参謀長がサウジへ再度訪れ、パキスタンがイエメンでの戦争に参加できない理由を説明しに来ました。この時のサウジによるパキスタンの部隊への要請は激しいものであったそうです。
 
この4月23日のパキスタンの首脳のリヤド訪問は、サウジがフーシ派に対する空爆終了を宣言し、そのあとそれを続行させた翌日のことです。
 
 
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実は、パキスタンにはサウジに部隊を派遣できない大きな理由がありました。パキスタンの大部隊をサウジのためではなく、中国のために使う必要があったのです。
 




中国、パキスタンのインフラ開発に5.5兆円 「経済回廊」整備へ (4/21-2015 AFP通信)
http://www.afpbb.com/articles/-/3045953

 
中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は20日、パキスタンを公式訪問し、ナワズ・シャリフ(Nawaz Sharif)首相と会談。中国が推進する「一帯一路(陸と海のシルクロード経済圏)」構想の実現に向けて、総額460億ドル(約5兆5000億円)をパキスタンに投資する計画を発表した。
 
 両国は、中国の新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)のカシュガル(Kashgar)とパキスタンのアラビア海(Arabian Sea)沿岸にあるグワダル(Gwadar)港を結ぶ「中国・パキスタン経済回廊(China-Pakistan Economic Corridor、CPEC)」で道路や鉄道、パイプラインなどのインフラ整備を進め、中東からの原油輸送ルートを大幅に短縮することを目指している。CPECを通じてパキスタンを地域経済のハブ(中心拠点)とし、新疆ウイグル自治区の発展につなげたい考えだ。(以下省略)
 




シャリフ首相らは、このパキスタンの巨大なインフラ整備に対し、イスラム過激派集団から中国人労働者を守るために、新しい特別師団をつくることを習近平国家主席に約束したのです。それゆえサウジに派遣する部隊の余裕はないわけです(※ 前出“The Pakistani Pivot from Saudi Arabia to China” ブルース・リーデル, 4/23 の記事より)。

 
特別警備師団は総数1万人からなる部隊で、その半数は精鋭のコマンド部隊から配置されるだろうとリーデル氏は言っています。
 
そして4月23日のリーデル氏のブルッキングス研究所の記事では、次のように結んでいます。
 
『シャリフ首相が方向転換をしたのは明らかだ。
そして、米国のように、パキスタンは中東から離れて東アジアへ移動したい』
 
また、パキスタンにはイランから自国へ天然ガスを送るパイプラインの建設計画があります。
 
中国、イラン・パキスタン間のガスパイプライン建設へ (4/09-2015 ウォールストリート・ジャーナル日本語版)
http://jp.wsj.com/articles/SB11340384235203263823104580569641940772972
 
こうなってくると、パキスタンはイランを想定した核兵器をサウジに供与することは難しくなります。おそらく中国の戦略家たちがパキスタンにストップをかけるでしょう。
なぜなら第2節のロシアの中東戦略で述べましたが、中東地域での中国、米国、ロシアのオフショア・バランシング戦略では、イランを「バック・キャッチャー」にしていると考えるからです。
 
パキスタンがサウジに対して核兵器の供与を方向転換すれば、中東ではスンニ派がシーア派に屈することになり、イランが断然優位になることになりますが、ひとつ思うのは、ロシアのプーチンがサウジに対してどのような動きをするかということです。