Lewis E. Lehrman
<「①共和党候補ケイン氏と金本位制コネクション」からの続き>http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/35937645.html
■ ② ヘリテージ財団と金本位制コネクション
前出の「ウィークリースタンダード」の記事によると、米シンクタンクのヘリテージ財団が10月上旬に通貨に関する会議を主催したが、その席でニューヨークの投資家 ルイス・レーマンと「フォーブズ」のCEOのスティーブ・フォーブズが、以前から主張する「金」に裏付けされたドルの採用を提唱した。このヘリテージ財団の会議には銀行関係者や学者が集まったそうだ(10月18日 フォーブス)。
会議を主催したヘリテージ財団は「アメリカの保守的な政治家たちの聖地」とも言われ、現在、ハドソン研究所やアメリカンエンタープライズ研究所とともにアメリカ共和党保守派に大きな影響力を持つ(注-2011.4-日高)。アメリカの金本位制のニュース記事を追っているとヘリテージ財団のことがよく出てくるが、ハドソン研究所の首席研究員である日高義樹氏によれば、「ヘリテージ財団は、金本位制を提唱するための基本的な研究を行っている」という(注-2011.10-日高)。前出の24日のワシントン・タイムズの記事もヘリテージ財団社長の執筆である。
この会議の中心になった投資家ルイス・レーマンと「フォーブズ」のCEOスティーブ・フォーブズは、ともに現在のアメリカの「金本位制プロジェクト」のキイ・パーソンである。英文ウィキぺディアによれば、レーマンは1980年代後半にモルガン・スタンレーの専務を務め、シンクタンクではアメリカン・エンタープライズ研究所やヘリテージ財団の理事、そして「Project for the New American Century」(「新アメリカの世紀プロジェクト」)の理事でもあった。
http://en.wikipedia.org/wiki/Lewis_E._Lehrman
「新アメリカの世紀プロジェクト」(PNAC)は1997年から2006年まで続いたネオコンのシンクタンクで、ブッシュ政権時のイラク戦争の推進で知られる。主だった元メンバーにはラムズフェルド元国防長官、アーミテージ元国務副長官、リチャード・パール国防政策委員長、ジョン・ボルトン国連大使がいるが、ロバート・ゼーリック世界銀行第11代総裁(2007-現在)、ポール・ウォルフォウィッツ世界銀行第10代総裁(2005-2007)も「新アメリカの世紀プロジェクト」のメンバーであった。
Project for the New American Century
http://en.wikipedia.org/wiki/Project_for_the_New_American_Century
ブッシュ政権で活動した「新アメリカの世紀プロジェクト」の理念と目的は、世界規模でのアメリカの指導的役割を推進することであった。レーマンはこの「新アメリカの世紀プロジェクト」の理事も務めたが、同じ組織のメンバーであったゼーリック世界銀行総裁は2010年11月に金本位制発言をして物議を醸した(韓国でのG20首脳会議の数日前)。このゼーリック世銀総裁とルイス・レーマン達の金本位制へ向けた活動の間に、共和党保守政治の上での大きなコネクションはないのだろうか。
「世銀総裁の「修正金本位制」発言 と 世界主要国の中央銀行の金への急速なシフト-」 (拙稿 2011年8月3日)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/35472860.html
ハーマン・ケイン氏と他の共和党候補者についてのアメリカのニュース記事では、レーガン政権時のことがたびたび持ち出される。
「1984年、レーガン大統領の再選にあたってアメリカ共和党は、党の綱領のひとつとして金本位制を復活させることを提案した。もっともこの時は、はっきりと金本位制という言葉は使ってはいなかった。」(注-2011.10.日高)
1970年代の高インフレ、前カーター政権(1977-1981)のスタグフレーション状態の経済を受け継いだ共和党は、レーガン政権(1981-1989)の2期目を迎え、党の綱領のひとつとして金本位制を復活させることを事実上提案した。レーガン政権の初年1981年にルイス・レーマンはロン・ポールとともに米国の金委員会のメンバーを務めている(Wikipedia)。レーガン政権時の金本位制政策立案に携わったスタッフが、現在「フォーブス」で金本位制復帰の文筆活動をしていることは第1節で触れた。
■ ③ ドルとユーロと金のリンク
今年の初めスティーブ・フォーブス氏は、「アメリカは今後5年以内に金本位制に復帰する」と予測したそうだ(10月20日 IBtimes)。
http://www.ibtimes.com/articles/234990/20111020/return-to-gold-standard-gaining-traction-with-presidential-candidates.htm
ワシントンでアメリカの金本位制への議論とその動きを追っている日高義樹氏によれば、現在アメリカでは「金本位制に最も近い考え方として、ユーロとドルを関連づけ、そこに金を組み合わせて通貨体系を構築すべきだという主張がある」そうだ。10月の新刊で日高氏は、ユーロ崩壊を論じると同時にこの通貨再構築の考え方に注目しているようだ。これ以上のドルの下落とユーロ崩壊による世界経済の混乱を食い止めるために、金への部分的リンクがアメリカで議論されている。
第1節で挙げた10月21日付のフィナンシャルタイムズの記事の中で、経済コラムニストであるジリアン・テット氏は、金本位制への復帰について米国と欧州の中央銀行総裁のグループの「陰謀」が存在するという推測を述べている。この記事はアメリカのケイン氏ら共和党候補者の間から来年の大統領選へ向けて、金本位制の発言が飛び出してきていることを受けた推測記事になっている。
Is there a shadowy plot behind gold?
http://www.ft.com/intl/cms/s/2/90effa18-faa3-11e0-8fe7-00144feab49a.html#axzz1bhnSOc6C
このジリアン・テット氏の、米欧の中央銀行総裁のグループの「陰謀」が存在するという推測記事を裏付けるかのようなデータがある。
下記のデータは、2011年5月現在の各国の中央銀行ほか公的部門が保有する金の保有量(トン)と外貨準備に占める金の比率である。資料は金の国際調査機関、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)のサイトのもの。これはIMF国際金融統計を使用している。7月版は5月時点の、10月版は8月時点の金保有量を表している。国名の左数字は世界順位を示す。
Latest World Official Gold Reserves
http://www.gold.org/government_affairs/gold_reserves/
July 2011 (2011.5月時、金保有量)
1 United States 8,133.5 74.7%
2 Germany 3,401.0 71.7%
4 Italy 2,451.8 71.4%
5 France 2,435.4 66.1%
14 Portugal 382.5 84.8%
19 Spain 281.6 40.7%
30 Greece 111.5 79.5%
October 2011(2011.8月時、金保有量)
1 United States 8,133.5 74.2%
2 Germany 3,401.0 74.7%
4 Italy 2,451.8 74.4%
5 France 2,435.4 71.5%
14 Portugal 382.5 89.1%
19 Spain 281.6 42.1%
31 Greece 111.5 82.1%
ドイツとフランスのみならず、ギリシャをはじめとするPIGS諸国4カ国はユーロ債務危機が深まる中でも、5月から8月まで1kg の金も売却してはいない。欧州各国は外貨準備に占める金準備の比率をこの数ヶ月でさらに高めている。
◆
アメリカ大統領選挙の民主・共和両党の大統領候補の指名は、2月から6月にかけて予備選挙と党員集会が行われ投票が行われるが、多くの場合、3月のスーパー・チューズデーによって党の大統領候補が事実上決定している。
大統領予備選挙まであと数ヶ月、「アメリカ経済の再建のためには、金本位制が必要である」と発言している共和党候補ハーマン・ケイン氏に注目したい。
■注:
・注-2011.10-日高:『アメリカの歴史的危機で円・ドルはどうなる』 日高義樹著 徳間書店 2011.10.8刊
・注-2011.4-日高: 『いまアメリカで起きている本当のこと』 日高義樹著 PHP研究所 2011年4.1刊
■参考サイト:
The Lehrman Institute
http://www.thegoldstandardnow.org/
ハーマン・ケイン(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B1%E3%82%A4%E3%83%B3
Forbes
http://www.forbes.com/
DOMOTO
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735
http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/hunsou.index.html