②世銀総裁の「修正金本位制」発言 と 世界の中央銀行の金への急速なシフト

写真は次期ECB総裁のマリオ・ドラギ (現イタリア中央銀行総裁)

<下記リンク、

『①世銀総裁の「修正金本位制」発言 と 世界の中央銀行の金への急速なシフト』からの続き>

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/35472860.html

■ ③ 主要国は金準備増強へ

2011年5月現在の各国政府の金の保有量と外貨準備に占めるその比率を見ると、国別ではアメリカが圧倒的で8133トン-すべての国の30%、経済圏ではユーロ圏のトータルはすべての国の40%を占める。

United States    8,133.5   74.7%   29.7% (of All countries)

Euro Area      10,792.4   62.5%   39.4% (of All countries)

(incl. ECB)

アメリカの次の順位を見てみると、ドイツ、IMF、イタリア、フランス、中国と続く。ユーロ圏全体での金準備比率は62.5%。中国・日本を含めた北東アジアと東南アジアの準備比率は欧米諸国に比べ極端に低い。修正金本位制へ移行した場合、朝倉慶氏が「発展著しいアジア諸国は貧乏に、欧米諸国は平穏に」と言うのがうなずける。

また大国である中国、ロシア、インドが行なった大規模の金の買い付けについては、国家の生き残りをかけた「基本的な重要戦略」として捉えるべきだ。朝倉慶氏は2009年の4月時点のレポートでこの点を強調している。ここでは、大規模の金の買い付けを行った中国とロシアが、SDR本位制の実現という戦略目標を持って動いているという事を考え合わせることが重要だと思う。

石油産出国ロシアのSDR通貨構想 ( 拙稿 2010年7月 )

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/32644855.html

※ 以下、国名の左横の数字は世界順位、国名の右は金保有量(t)、金準備比率を表す。

6 China       1,054.1    1.6%

8 Russia        830.5    7.8%

11 India          557.7    8.7%

( 9 Japan         765.2    3.3% )

私はユーロ危機ではユーロ圏が崩壊するのは時間の問題と考えていたが、PIGS諸国の数字を見ると次のようになっている。

4 Italy        2,451.8   71.4%

14 Portugal       382.5   84.8%

19 Spain         281.6   40.7%

30 Greece        111.5   79.5%

74 Ireland          6.0   14.0%

ポルトガル、ギリシャ、スペインの金準備比率はいずれも高いが、深刻な財政難であるにも関わらず中央銀行は金の売却を行っていない(前出 Gold News 参照「ユーロ圏の中央銀行が金購入へ方向転換」)。

ゴールドマン・サックスが送り込んだマリオ・ドラギのイタリアは、金保有量第3位である(国別)。イタリア中央銀行総裁のマリオ・ドラギは次期ECB総裁(11月から)であるが、2002年~2006年までゴールドマン・サックスの欧州部門の副会長をやっており、ギリシャ粉飾決算のすべてを知っていたとされる。ドラギの動向は、今後のアメリカのシナリオを読むうえで重要ポイントとなるはずだ。

さて、朝倉氏は、メキシコの93トンの購入(2011年初め)をアメリカが主導する北米経済圏NAFTAの将来と関係づけているが、カナダを見ると現時点でも3トンほどの金しか保有していない。

32 Mexico        106.0    4.0%

78 Canada         3.4     0.3%

しかし、ゴールドマン・サックスの予想では、2050年頃のメキシコのGDPの順位は世界第5位になるとされている。(ちなみに同社の予想によると、1位アメリカ、2位中国、3位インド、4位ブラジル、5位メキシコ、6位ロシア、7位インドネシア、8位日本)-Wikipediaー

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%82%B3

50 Brazil          33.6    0.5%

38 Indonesia        73.1    3.2%

朝倉氏は、メキシコのGDPが日本の6分の1にしか過ぎないことを挙げ、一度に93トンという膨大な量の購入は「一中央銀行の独自の決定とは思えない」と述べ、これをアメリカによる修正金本位制移行への兆候だと言って問題視している。これについては別の見方もあるが、その見方はフェイントである可能性もある。

「メキシコ中央銀行は4月に5.9トンを購入し、ベラルーシは1.1トン購入している。メキシコ中央銀行の Agustin Carstens 氏は、国際通貨基金(IMF)次期総裁へ立候補している。そのメキシコ中央銀行が今年第一四半期に購入した金の量は、それまでの金備蓄量の12倍であった。」(6月14日 Gold News)

56 Korea          39.4   0.6% (2011年7月)

韓国は、主要国の中では最も金保有量が小規模な国の一つだ。世界で7番目の外貨準備高を持つ韓国は、現在そのあまりにドルに傾いたポートフォリオを見直すべく、6~7月には25トンの金を購入し、金準備の増強を始めた(8月2日 Gold News)。

ここまで第2節、第3節で見てきたように、ゼーリック世銀総裁の「修正金本位制」の発言があった2010年から、世界各国は金準備の増強を始めている。

■ 結び:米国の大学で拡大する「金本位制」論争

今年4月に出された日高義樹氏の著作レポート『いまアメリカで起きている本当のこと』では、米ゲインツビル州立大学のウイリアム・グリーン博士が主張している「アメリカは金本位制に戻るべきだ」という意見をめぐる論争が、いまアメリカの大学で爆発的に拡大しているという。

グリーン博士は進歩派の学者で、オバマ大統領の政治ネットワークを作り上げたことで知られている。グリーン博士の進歩派勢力に対する影響力は強く、それが金本位制の論争をアメリカの大学に爆発的に拡大させているといった格好のようだ。

グリーン博士の主張は、アメリカの憲法第1条第1項にある「アメリカ合衆国の各州は、負債の支払いに金か銀を使わねばならない」という条文に基づくもので、FRBの専門家は次のように指摘しているそうだ。

「この憲法論争の行方次第では、アメリカ人のドル離れが一挙に進み、金本位制に戻ろうという動きがアメリカ中に出てくる可能性がある」

第3節までは世界の各国の中央銀行の動きを追ってみたが、国民レベルでは、ドルを信用しなくなりだしたアメリカ人が盛んに金を買っている。

「一方、中国当局は急ピッチで、中国工商銀行などの4大銀行を使って国民・民間に金を保有させようと動いている」。国民・民間の保有量を増やし、国としての金の持ち高を大幅にふやそうというのはロシアやインドでも同様なようだ(朝倉前書)。

朝倉氏は、アメリカによる「修正」金本位制が、ドル、ユーロ、円から成る為替市場の破壊的な混乱状態を待った上で打ち出されてくると予測している。この「修正金本位制」をアメリカがどのような方法で世界に呑ませるかについてはさらに補足したいと思うが、それはまたの機会にしたいと思う。

■参考リンク(拙稿集)

アメリカの経済戦略

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/folder/1198627.html

中国・ロシアの経済戦略

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/folder/1204533.html

DOMOTO

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735

http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/hunsou.index.html