プーチンは地中海を支配しNATOを分裂させようと目論む(前編)

ロシアによる、NATOを分裂させようとする地中海での活動が進行しています。

シリア和平協議は1月末から断続的に続けられており、3月14日にはプーチン大統領が、シリアから駐留ロシア軍の主要部隊を撤退するよう命じました。
そして3月24日には米国のケリ―国務長官とロシアのプーチン大統領、ラブロフ外相がシリア和平でのプロセスをめぐりモスクワで会談しています。

そこでこのシリア問題の焦点であるアサド大統領の進退ですが、この和平協議ではロシアの主力部隊を撤退させたプーチンが、強力な戦略的圧力を米国にかけているという背景があるようです。プーチンは、ただおとなしくなっているのではありません。

アメリカン・エンタープライズ研究所といえば、米国共和党系の代表的なシンクタンクですが、そこのフレデリック・ケーガン氏が、プーチンの見事な、地中海を拠点とした対NATO戦略を説明しています。

The new Cold War in the Mediterranean (「地中海での新しい冷戦」 アメリカン・エンタープライズ研究所 February 17, 2016)
http://www.aei.org/publication/the-new-cold-war-in-the-mediterranean/

ケーガン氏は中東の軍事問題の専門家で、ブッシュ政権のイラク戦争で成功した「サージ戦略」の立案者の一人です。この記事はフォックス・ニュースのサイトでも掲載されました。

ケーガン氏の分析は以下のようになります。

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(抄訳開始)
ロシアはすでに地中海のシリア沿岸のラタキアの空軍基地とタルトスの海軍基地を、シリア内戦下で強化することによって、「地中海での新しい冷戦」に勝利しつつある。

ラタキアの空軍基地とタルトスの海軍基地を拠点としてのロシアの軍用機と軍艦の活動は、すでにNATOの同盟国トルコを脅かしている。ところがロシアのこの動きは、やがてほかのNATOの多くの同盟国をも脅かし、それのみならずNATOを弱体化させ、最終的にはNATO同盟を壊すプーチンのより大きな策略の一環なのである。そしてそれは地中海でのロシアの恒久的な役割を獲得させることになるだろう。

地中海は四半世紀以上の間、「NATOの湖」であったが、米国がこのロシアの動きに対抗して軍備を地中海に配備できないと、いっそう悪いシナリオが現れてくるだろう。

突如として歴史は過去に向かって動いている(訳注-ロシアのシリア参戦での活動によって)。

冷戦時代、ソビエトはシリア、エジプト、リビアの地中海沿岸国のさまざまな港や飛行場をとおして中東地域に影響力を行使した。ソビエトが崩壊してこれらの軍艦や軍用機はすべて撤退したが、ソビエトに替わり、米国とNATOがこの地中海をソビエトの軍事配備よりも大幅に少ない軍事力で活動することを、ロシアは放任していた。

ロシアにとってアサドの独裁政権を助けることは決して主要な目的ではなかった。
ロシアのより広い戦略は、その(NATOに対する)戦略ポジションを建て直すことであり、アサド独裁政権を助けるのはその一環としてであった。

伝えられるところによれば、ロシアはシリアに対し高性能の対艦巡航ミサイルを売却し、高度な防空システムを配備させた。これらのシステムはアサドが敵対者を打ち砕くのを助けるばかりでなく、NATOから地中海の東で自由に活動する能力を奪うことを目的としている。

350-seach-Mediterranean Tartus Latakia
プーチンはまた、NATOの南側の地域のすべてに沿って活動できる長距離型の制空戦闘機も配備しており、それらに高度偵察機も加え、高性能の長距離防空と精密照準爆撃の複合システムの中核を作りあげている(訳注-制空戦闘機は制空権の確保を主任務とする)。

NATOの関係筋によると、ロシアの北大西洋での潜水艦活動は冷戦時代のレヴェルに戻りつつある。その活動が地中海へ移動するのは時間の問題であり、ソビエト時代、その沿岸のタルトスの海軍基地は潜水艦にしっかりとしたメンテナンス設備を提供することができた。

ロシアの潜水艦隊の活動が地中海全体へと広がれば、NATOは安全ではなくなる。

このような海空域でのロシアの活動は、NATO同盟にとって「テロとの戦争」でも問題となるだろう。NATOは北アフリカ沿岸と中東の至る所のテロリストの標的を、地中海を拠点とした軍艦、潜水艦、戦闘機から攻撃する能力に長く頼ってきた。

<◆◆下記に続く>

後編 プーチンは地中海を支配しNATOを分裂させようと目論む
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