3月14日、プーチン大統領は、シリアから駐留ロシア軍の主要部隊を撤退するよう命じました。
このプーチンのシリア主要部隊の撤退については、海外のマスコミや専門家などによって、その目的と意図について推測がなされています。
シリア和平協議やウクライナ問題などでの外交的主導権などから論じる人たちもいますが、軍事的な側面からこの部分撤退の意味を指摘したものとして、アメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン氏の記事を紹介します。私の補足も交えます。
What the Russian ‘withdrawal’ from Syria really means (「ロシアのシリアからの『撤退』が本当に意味するもの」 アメリカン・エンタープライズ研究所 2016/03/16)
http://www.aei.org/publication/what-the-russian-withdrawal-from-syria-really-means/
ケーガン氏は中東の軍事問題の専門家で、ブッシュ政権のイラク戦争で成功した「サージ戦略」の立案者の一人です。この記事はフォックス・ニュースのサイトでも掲載されました。
ケーガン氏は、いまのロシアにとってシリアでの戦闘機や部隊を維持する<海外駐留は非常に出費のかかる>ことだと言います。そして燃料、弾薬、スペア部品などの供給物資の輸送をいったん止めて、多くの戦闘機・兵器の修理などのメンテナンスを、本国ロシアへ帰って行う方が都合がいいと言います。
本国へ戻ることはコストを削減できる、プーチンには浪費をする余裕がない。
Moving back to home base saves money, and Putin cannot afford to be profligate.
それゆえ、主要部隊の多くを<一時撤退>させたのですが、地中海沿岸のラタキアの空軍基地と海軍のタルトスの軍港では駐留を続ける方針です。さらにS-400や無人機などの防空システムもそのまま残し、臨戦態勢が短時間で復元できるような態勢をとっていると言います。
The only systems difficult to move rapidly back into Syria are those Putin is not moving—air defense systems like the S-400 and unmanned aerial vehicles (Defense Minister Shoigu said that Russia had 70 drones operating in Syria).
したがってこの「撤退」はデタラメであると指摘しています。
また、和平協議の枠外にあるイスラム国(IS)などは十分な戦力をいまだ維持しており、それらの武装組織がアサド政権を脅かすようなことになれば、撤退を即時解除し、空爆を開始すると示唆します。
そして最後にケーガン氏はこう述べます。
プーチンは、地中海沿岸の空と海の要塞(ラタキアとタルトス)を強化するだろう。
米国と西側は、プーチンの「撤退」という幻影よりも、そのような現実の戦略地政学的な結果・影響(地中海戦略)へ、はるかに多くの注意を払うべきだ。
中東専門サイト「アル・モニター」の1月12日付けの記事で、ブッシュ政権で国務省の上級アドバイザーを務めたポール・サンダース氏が、ロシアのシリア介入は泥沼化していると指摘していました。
Why Iran-Saudi fallout will be costly for Moscow (January 12, 2016 アル-モニター)
http://www.al-monitor.com/pulse/originals/2016/01/saudi-iran-dispute-russia-middle-east-foreign-policy.html
米国はイラク戦争では長期のイラク駐留を当たり前かのように続けていました。
ロシアの空爆は2015年の9月末から始まりました。ロシアは財政と国民生活が逼迫している状態が続いています。
ケーガン氏も指摘するように、参戦半年足らずでの主要部隊の撤退は、ロシアの財政的に非常に苦しい状況を表しています。
シリアのラタキアとタルトスを拠点とする、地中海でのプーチンの地政学的な戦略については、稿を改めて書きたいと思います。
■関連記事:
シリアはロシアにとってのベトナム戦争か (拙稿 2016/02/05)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39804497.html