プーチンは地中海を支配しNATOを分裂させようと目論む(前編)
前回:https://domoto-world.com/archives/1806837.html
このような海空域でのロシアの活動は、NATO同盟にとって「テロとの戦争」でも問題となるだろう。NATOは北アフリカ沿岸と中東の至る所のテロリストの標的を、地中海を拠点とした軍艦、潜水艦、戦闘機から攻撃する能力に長く頼ってきた。
我々は1991年以来(訳注-1991年 ソビエト連邦解体)、地中海での海空での戦闘について心配する必要がなくてやってきた。しかし、いま、そのそれを心配する必要が出てきた。
アメリカ軍はすでに(世界の安全保障に)過剰関与し予算縮小に直面しているので、地中海での軍備が必要であることはもっと多くの軍艦や軍用機を買うか、ほかの戦域を削ることを意味する。ほかの戦域とはペルシャ湾や西太平洋のことだ。アメリカ軍にはもう地中海での軍備に割くべきキャパシティーがない。
このようなプーチンの地中海での覇権獲得への戦略は、NATOに圧力をかけると同時におそらく<NATOを分裂させる>ことさえ狙っている。
プーチンはオバマ大統領と共和党の大統領候補者ドナルド・トランプにさえ、この戦略地政学的な敗北を受け入れるよう説得している。
He has persuaded President Obama and even a Republican presidential candidate, Donald Trump, to accept this geostrategic setback.
それは実に優れた戦略である。私たちはこの重大な危機的状況で、プーチンのこの手段について考え続けている。
(抄訳終了)
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やはり、プーチンの中東戦略は、明らかにNATOの分断と弱体化を主目的の一つとして狙ったものであることが、ケーガン氏の分析からもわかります。
私が読んだものの中でもロシアの世界戦略を明確に述べたものとして、国家安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記(書記局トップ)の次のような言葉があります。
「欧州を米国の支配から切り離すために、大西洋をはさんだ米欧の協力関係を弱体化させる」
Preparing for War Against the US on All Fronts—A Net Assessment of Russia’s Defense and Foreign Policy Since the Start of 2014
(10/16-2014 ジェームズタウン財団)
http://www.jamestown.org/regions/russia/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=42962&tx_ttnews%5BbackPid%5D=653&cHash=f45956f6e83db53aebfcbd29c406b25f#.VENN7PmsUxM
ロシアの戦略概観―パトルシェフ書記の見解―( 拙稿2014/10/23)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39089075.html
ケーガン氏が述べるように、NATOは「テロとの戦争」では地中海を拠点として攻撃する態勢となっています。その地中海はロシアの支配が強化されており、そのことはNATO同盟にとって「テロとの戦争」で障害となってきます。米国やNATOの兵力が手薄の地中海への軍事派遣は、米国全体での部隊の不足と軍事予算の関係から困難です。
(その点では、西太平洋の戦域で中国が米軍を手こずらせていますが、これは地中海でのロシアと南シナ海での中国の連携プレーでしょう。)
米国とNATOの地中海への軍事派遣ができなければ、2015年11月のパリ同時多発テロの後に、フランスとロシアが見せたような二国間協力の気運の高まりが、ISのテロ事件が起きるNATO諸国間に広がり、ロシアとの関係強化による<NATO諸国の分裂>が起きることが考えられます。3月22日にはベルギーの首都ブリュッセルで連続テロ事件が起きました。
下記は、2015年11月のパリ同時多発テロの後の報道です。
フランスのオランド大統領は来週、米ロの首脳とそれぞれ会談し、過激組織「イスラム国(IS)」を掃討するための「大同盟」を求める見通しだ。
フランス、ISとの戦いで米ロと共闘望む アサド氏処遇で亀裂 (2015/11/18 ウォールストリート・ジャーナル)
http://jp.wsj.com/articles/SB10589961604557044643904581362373335814968
(プーチンがフランスのオランド大統領と並んで「フランスとロシアの同盟」を嬉しそうに口にするのをテレビで見て覚えていますが、彼の頭には常にNATOを分裂させる目的があります。しかし、このたくらみはNATO加盟国のトルコがロシア戦闘機を撃墜したことでいったんぶち壊しになり、プーチンは怒り心頭に発したとのことです。)
NATOが抱える「テロとの戦争」で、地中海という戦略的エリアを支配しつつあるロシアの存在感と発言力が増せば、シリア問題の最大の焦点ともいえるアサド政権の処遇で、<アサド存続のゴール>へもっていくことができます。
このような戦略地政学的な今の状況が、断続的に続いているシリア和平協議でのロシアによる強力な戦略的圧力となっています。
プーチンは非公式に、「オバマ大統領と大統領候補ドナルド・トランプにさえ、この戦略地政学的な敗北を受け入れるよう説得している」とケーガン氏は言っていますが、この戦略地政学的な敗北を受け入れて、アサド政権存続の条件を呑めということでしょう。
■関連記事:
ロシアのシリア撤退はカモフラージュ(AEI)( 拙稿 2016/03/22)
https://domoto-world.com/archives/1805920.html