2026年1月 国際情勢に関する米国世論の調査分析

2026年米国世論と国際情勢:分断、再編、そして「新たな現実主義」の台頭に関する包括的調査報告書(2026.1.10)

本レポートはGeminiのDeep Researchによって作成された。

目次

エグゼクティブサマリー

本報告書は、2026年1月時点における米国の国際情勢に対する国民意識、世論の傾向、および外交政策への選好に関する包括的かつ詳細な分析を提供するものである。ドナルド・トランプ大統領の第2期政権が本格始動し、国際秩序が流動化する中で、米国の世論はかつてないほどの複雑な様相を呈している。本調査は、シカゴ・グローバル評議会(Chicago Council on Global Affairs)、ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)、ギャラップ(Gallup)、レーガン国防フォーラム等の主要機関による2024年から2026年初頭にかけての膨大な定量的・定性的データを統合し、表面的な数値の背後にある構造的な変化を解明することを目的としている。

2026年の米国世論を特徴づける最大の要素は、「イデオロギー的孤立主義」と「実利的な関与主義」の衝突、そして深刻化する「党派的分極化の外交への投影」である。トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策が再燃する一方で、国民レベルではインフレと経済不安を背景とした「貿易への回帰」、対中政策における「敵対から管理された競争」への急激なシフト、そして若年層(ジェネレーションZ)における伝統的な「米国例外主義」の完全な拒絶といった、直感に反するトレンドが進行している。

特に注目すべきは、中国に対する敵対心の緩和である。長らく続いたタカ派的な対中感情は、経済的相互依存の現実と戦争回避への切実な願望により、2019年以来初めて「協力と関与」を支持する声が過半数を占めるに至った。一方で、ベネズエラのマドゥロ大統領拘束作戦に見られるような単独行動主義的な軍事介入に対しては、共和党支持層の熱狂的な支持と民主党支持層の冷ややかな拒絶という、かつてないほどの党派的亀裂が走っている。

本報告書では、これらの現象を単なる一時的な変動としてではなく、米国の外交アイデンティティの根本的な再定義プロセスとして捉え、以下の章構成で詳細に分析を行う。


第1章:2026年の戦略的文脈 — 「G-ZERO」世界と内向きの超大国

2026年の米国世論を理解するためには、まず米国が置かれている戦略的文脈と、国民が自身の置かれた世界をどのように認識しているかを把握する必要がある。ユーラシア・グループが警告する「G-ZERO(リーダー不在)」の世界において、米国民は自国の役割を縮小すべきか、それとも再構築すべきかという問いに直面している 1


1.1 「例外主義」の黄昏と新たな役割認識

かつて米国の外交世論を支えていた「不可欠な国家(Indispensable Nation)」としての自画像は、2026年現在、大きく揺らいでいる。ピュー・リサーチ・センターの調査によれば、米国民の過半数が「米国の国際的影響力は弱まっている」と感じており、その傾向は2024年から継続している 3

特筆すべきは、この「衰退」の認識が党派によって全く異なる意味付けをされている点である。


  • 共和党の視点(力の復活への期待): トランプ政権下において、共和党支持者は米国の影響力が「強まっている」と回答する割合が急増(2024年の10%から2025年には34%へ)した。彼らにとっての影響力とは、多国間協調ではなく、軍事力と経済的威圧による「単独の力」を意味している 3

  • 民主党の視点(道徳的権威の喪失): 対照的に、民主党支持者は影響力が「弱まっている」とする回答が67%に達し、過去最高水準となった。これは、国際協調や人権外交の後退に対する失望感を反映している 3

シカゴ・グローバル評議会のデータもこの傾向を裏付けており、米国民全体としては「国際社会への関与」を支持する声が依然として過半数(57%)を維持しているものの、その質は変化している 4。かつてのような「世界の警察官」としての役割や「民主主義の伝道師」としての使命感は薄れ、より取引的(Transactional)で、直接的な国益に結びつく関与のみが正当化される傾向が強まっている。


1.2 外交政策の優先順位:安全と繁栄の二重奏

2026年の米国民が外交政策に求める優先順位は、極めて現実的かつ防衛的である。ギャラップの調査データに基づき、主要な外交目標に対する支持率を党派別に分析すると、以下のような明確な階層構造が見て取れる。


外交政策目標全体支持率(非常に重要)共和党民主党分析と洞察
テロリズムの防止84%極めて高い高い9.11以降、唯一超党派の合意が維持されている「聖域」。物理的安全への渇望は不変である。
核兵器の拡散防止83%極めて高い高い国際情勢の不安定化に伴い、実存的脅威への懸念が再燃している。
エネルギー供給の確保78%高い高いインフレとエネルギー価格の高騰が、経済安全保障をトッププライオリティに押し上げた。
自国の貿易利益の保護67%高い中程度トランプ政権の保護主義的レトリックが共和党層に浸透する一方、民主党層でも雇用保護の観点から支持がある。
同盟国の安全保障低い高い民主党にとっての核心的利益だが、共和党にとっては「条件付き」の課題へと後退している。
海外の民主主義促進低い極めて低い中程度「国家建設」への疲労感が著しい。他国の統治形態への介入は、もはや米国民の優先事項ではない。
気候変動対策脅威と見なさず最優先最大の分断点。民主党にとっては存亡の危機だが、共和党にとっては経済的足かせに過ぎない。

6

このデータから読み取れるのは、「マズローの欲求階層説」的な外交観である。物理的な安全(テロ・核)と生理的な基盤(エネルギー・経済)が満たされて初めて、同盟や価値観といった高次の目標が考慮される。2026年の米国世論は、まさにこの「生存と繁栄」の基盤部分に焦点が集中しており、高尚な理想主義が入り込む余地は狭まっている。


1.3 分極化の輸出(The Export of Polarization)

国内政治の分断が外交政策の嗜好を規定する現象は、2026年に極致に達している。もはや「党派を超えた国益」という概念は希薄化し、外交政策は国内の文化戦争(Culture War)の延長戦上にある。


  • 国際機関への態度: 民主党員の約90%が国連やNATOとの協力を不可欠と見なすのに対し、共和党員で同様の考えを持つのは約40%に過ぎない 6。これは単なる政策の違いではなく、国際秩序そのものに対する世界観の断絶を意味する。

  • 情報のサイロ化: シカゴ・グローバル評議会の分析によれば、Fox News等の保守系メディアを視聴する層と、MSNBCやSNSを情報源とする層では、世界認識が根本的に異なる 7。前者は「脅威に満ちた世界」に対抗する力を求め、後者は「相互依存の世界」における協力を求める。この認識ギャップは、事実認定のレベル(例:気候変動は存在するか、ウクライナ戦争の原因は何か)にまで及んでいる。

     

第2章:対中認識のパラダイムシフト — 「敵対」から「管理された競争」へ

本調査において最も驚くべき、かつ重要な発見の一つは、対中世論の劇的な変化である。数年間にわたり一貫して悪化の一途をたどっていた対中感情が、2025年後半から2026年初頭にかけて明確な「底打ち」と「反転」の兆候を見せている。


2.1 強硬論の限界と協力への転換

2025年のシカゴ・グローバル評議会の調査結果は、ワシントンの政策エリート層に衝撃を与えた。米国民の過半数(53%)が、中国に対して「積極的に力を制限する」政策ではなく、「友好的な協力と関与(Friendly Cooperation and Engagement)」を行うべきだと回答したのである 4

この数値は2019年以来初めて関与派が多数派となったことを示しており、以下の要因が複合的に作用した結果と考えられる。


  1. 経済的実利の優先: 長引くインフレと生活コストの上昇により、米国民は「デカップリング(切り離し)」に伴う経済的コスト(安価な消費財の不足、サプライチェーンの混乱)を許容できなくなっている。イデオロギー的な対立よりも、日々の生活の安定を求める「経済的リアリズム」が復活した。

  2. 戦争回避への希求: 台湾有事や南シナ海での軍事衝突の可能性が現実味を帯びる中、国民の間に「大国間戦争」への忌避感が広がっている。対立のエスカレーションを望まない心理が、対話と協力を支持する土壌となっている。

  3. 感情の好転: 中国に対する感情温度計(0-100スケール)は、2024年8月から11ポイントも上昇し、パンデミック前の水準に回復した 4。これは、COVID-19パンデミックに起因する直接的な反中感情が時間の経過とともに希薄化したことを示唆している。

2.2 矛盾する世論:経済的依存と安全保障上の懸念

しかし、この「関与」へのシフトは、中国への無邪気な信頼を意味するものではない。米国民の対中認識は、協力への期待と根強い警戒感が同居する、極めて複雑で矛盾に満ちた状態にある。


A. 貿易と安全保障のジレンマ

米国民は、米中貿易が米国の国家安全保障に与える影響について深く分裂している。48%が「安全保障を弱体化させる」と考える一方、47%は「強化する」と回答しており、世論は真っ二つに割れている 4。これは、パンデミック期に支配的だった「貿易=脆弱性」という認識からの揺り戻しであり、経済的相互依存が平和の担保になると考える伝統的なリベラルな視点が一部で復権していることを示している。


B. 戦略物資と先端技術への警戒

「友好」を求めつつも、重要分野における中国への依存は許容されていない。レーガン国防調査によれば、国民の圧倒的多数が中国への依存に懸念を抱いている。


  • レアアース依存: 共和党員の86%、民主党員の78%が、中国産レアアースへの依存を懸念している 8

  • 技術覇権: AIや先端技術分野において中国にリードされることへの恐怖は根強い。ただし、ここでも世代間ギャップが存在し、ジェネレーションZは技術的優位性の維持を、ベビーブーマー世代ほど絶対的な優先事項とは見なしていない 9

C. 台湾有事へのコミットメント

「協力」を支持する一方で、中国による武力行使に対しては断固たる態度を支持する傾向が強まっている。台湾が侵攻された場合に米軍を派遣することへの支持は60%に達し、前年の48%から大幅に上昇した 10これは、「平和的な共存は望むが、力による現状変更は許容しない」という、米国民の抑止に対する直感的な理解を示している。つまり、国民が求めているのは「宥和」ではなく、「力による平和(Peace Through Strength)」を背景とした外交的関与である。


2.3 政策への含意:トランプ政権との乖離

この世論の動向は、対中強硬姿勢を崩さないトランプ政権の政策方向性と潜在的な摩擦を生む可能性がある。ジョージ・H・W・ブッシュ米中関係財団のデビッド・ファイヤースタインCEOが指摘するように、米国民は「現在のアプローチ(対立一辺倒)が機能していない」と認識し始めており、政府に対してより柔軟で実利的なアプローチへの転換を圧力をかける可能性がある 4。関税合戦や輸出規制の強化といった政策は、インフレ抑制という国民の最優先課題と矛盾する場合、強い反発を招くリスクを孕んでいる。


第3章:新たな介入主義とトランプ・ドクトリン — ベネズエラ、イラン、そして「ア・ラ・カルト」外交

2026年の米国外交世論において、地域紛争への介入に対する態度は、対象国と介入の手法によって劇的に異なる反応を示している。トランプ政権が展開する、一貫したドクトリンを持たない「ア・ラ・カルト(選り好み)」的な介入主義に対し、世論は党派的に激しく反応している。


3.1 ベネズエラ介入:党派的分断の試金石

2026年1月初旬に実行された、米軍特殊部隊によるベネズエラのマドゥロ大統領拘束(およびニューヨーク連邦裁判所への移送)作戦は、現代米国の外交世論の分断を象徴する出来事となった 11


  • 党派的両極化: ユーガブ(YouGov)およびロイター/イプソスの調査によれば、この軍事行動に対する評価は党派によって完全に二分されている。


    • 共和党支持者: 約74%が侵攻や政権転覆を含む軍事介入を支持している。彼らにとって、これは「強いアメリカ」の復活を象徴する断固たる行動として歓迎されている 13

    • 民主党支持者: 対照的に、支持率はわずか13%程度にとどまる。国際法違反の懸念や、他国の主権侵害に対するリベラル層の拒否反応が顕著である 13

  • 「旗の下への結集」の欠如: 通常、大統領が断固たる軍事行動を取った直後には、国民が党派を超えて大統領を支持する「旗の下への結集(Rally ‘round the flag)」効果が見られるが、今回の作戦においてはそれがほとんど見られなかった。全体的な支持率は33%、反対が34%と拮抗しており、軍事行動さえもが国内政治闘争の具と化している 15

  • 「泥沼化」への懸念: 作戦自体の是非とは別に、その後の関与(Nation Building)については、党派を超えた警戒感が存在する。ワシントン・ポスト等の調査では、米国がベネズエラの新政府樹立を主導することに対して45%が反対しており、あくまでベネズエラ国民が決めるべきだという意見が支配的である 16。これは、イラクやアフガニスタンの教訓が深く刻まれていることを示唆する。

3.2 イランへの強硬姿勢と反応

同様の傾向はイランに対しても見られる。2025年6月に実施されたとされるイラン核施設への爆撃に対しても、共和党員の74%が支持したのに対し、民主党員の支持は17%にとどまった 13。トランプ政権の「最大限の圧力」キャンペーンは、共和党支持基盤を固める効果はあるものの、国全体としての合意形成には失敗している。


3.3 トランプ・ドクトリンの受容:孤立主義か好戦的介入か

トランプ大統領の外交手法は、しばしば「孤立主義」と評されるが、2026年の現実はより複雑である。シカゴ・グローバル評議会の分析が指摘するように、彼のアプローチは「孤立主義」ではなく、「米国が利益を得られる限りにおいて関与する」という極めて取引的なものである 5


  • 戦争を終わらせるための介入には積極的。

  • 敵対国(イラン、ベネズエラ)への「懲罰的」な軍事力行使は辞さない。

  • 同盟国に対しては、防衛義務よりも武器売却や技術ブロックへの参加を重視する。

世論、特に共和党支持層は、この「長期的な責任を負わない短期的・懲罰的な介入」を支持している。一方で、民主党層や若年層は、一貫性と道徳性を欠いたこのアプローチを「無謀(Reckless)」と捉え、強い反発を示している 17


第4章:欧州戦線とNATOの結束 — 疲労の中の連帯

ロシアによるウクライナ侵攻から数年が経過した2026年においても、欧州戦線に対する米国の関心は持続しているが、その支援の在り方には変化が生じている。


4.1 ウクライナ支援:広範だが浅い支持

ウクライナ支援に対する世論は、「支援疲れ(Ukraine Fatigue)」と「ロシアへの警戒感」の間でバランスを取っている。


  • 支援の継続: 民主党、共和党双方の指導者層において、武器や物資の提供に対する支持は依然として高い水準にある。直接的な米軍の介入は拒否するものの、「ロシアを勝たせない」という点ではコンセンサスが存在する 18

  • 役割認識の党派差: しかし、現状の支援レベルに対する評価は割れている。ギャラップの2025年3月の調査では、46%の国民が「米国は十分な支援を行っていない」と回答したが、その多くは民主党員である。共和党員の間では、「やりすぎている」あるいは「十分だ」とする声が根強い 19

4.2 交渉による解決への傾斜

戦争の長期化に伴い、米国民の現実主義的な側面が強まっている。レーガン国防調査によれば、過半数の国民が戦争終結のための「交渉による解決」を支持し始めている 20。これは、無条件の勝利を追求するよりも、現実的な妥協による平和の回復を望む声が高まっていることを意味する。トランプ大統領が掲げる「戦争終結」への介入は、この世論の潮流と合致しており、一定の支持を得る可能性がある。


4.3 NATOへの信頼:トランプ後の世界でのアンカー

トランプ大統領のNATO軽視発言にもかかわらず、米国民のNATOに対する支持は驚くほど強固である。


  • 高い支持率: 国民全体の75%がNATO同盟の維持を支持している 6

  • 強度の差: ただし、その強度には差がある。民主党員の92%がNATOを熱烈に支持するのに対し、共和党員の支持は64%にとどまる 6。共和党員にとってのNATOは、「不可欠な同盟」から「条件付きの契約」へと変質している可能性があるが、それでも完全な撤退を望む声は少数派である。

     

第5章:中東におけるコンセンサスの崩壊 — イスラエル・ガザ紛争と世代間断絶

かつて米国外交の不動の柱であった親イスラエル政策は、2026年現在、世代と党派によって完全に引き裂かれている。


5.1 党派的亀裂の深化

イスラエル・ガザ紛争に対する態度は、もはや外交政策の議論ではなく、アイデンティティ政治の一部となっている。


  • 共和党の圧倒的支持: 共和党のオピニオンリーダーの70%は、ハマスの完全な根絶までイスラエルへの軍事支援を継続すべきだと考えている 18。彼らにとってイスラエル支援は、宗教的信念および対テロ戦争の文脈で正当化される。

  • 民主党の離反: 一方、民主党リーダー層での支持は29%に急落している。人道的懸念やイスラエルの軍事行動への批判が、党内の主流派意見となりつつある 18

5.2 「共感ギャップ」の縮小

一般国民レベルでも、イスラエルへの特別視は薄れつつある。ギャラップの2025年の調査では、イスラエルへの「共感(Sympathy)」を示す割合は46%で、パレスチナへの共感(33%)を依然上回っているものの、その差(13ポイント)は過去数十年で最小となった 21


5.3 ジェネレーションZの拒絶

最も深刻なのは、若年層(18-29歳)における変化である。カーネギー国際平和財団やピュー・リサーチ・センターの調査において、若年層はイスラエル支援に対して明確な「拒絶」を示している。


  • 優先順位の放棄: 若年層の48%が、イスラエル支援を外交政策の「優先順位なし(no priority)」としており、これは調査対象となった全外交目標の中で最もネガティブな反応であった 22

  • 積極的関与の否定: 彼らは、米国がこの紛争に外交的に関与すること自体にも消極的であり、むしろ距離を置くことを望んでいる。

この世代間の断絶は、将来の米中東政策の基盤が崩れつつあることを示唆している。現在の親イスラエル政策は高齢層の支持によって支えられているが、人口動態の変化とともに、その持続可能性は低下していくことが予測される。


第6章:経済安全保障と貿易のパラドックス — ネオ・マーカンタリズムの受容とインフレの影

経済政策と外交が融合する領域において、米国民の意識は「自由貿易の原則論」と「経済ナショナリズムの実利論」の間で複雑に揺れ動いている。


6.1 貿易支持の急回復:インフレへの処方箋として

トランプ政権が保護主義的な関税政策を推し進める中で、逆説的にも国民の「貿易」に対する評価は過去最高レベルに達している。


  • 機会としての貿易: 2025年のギャラップ調査において、81%の米国民が貿易を「経済成長の機会」と捉えており、これは2024年から20ポイントもの急上昇である 6

  • 共和党の転換: この数字を押し上げたのは、かつて懐疑的だった共和党支持層である。彼らはトランプ政権下であれば「米国が勝てる取引」が可能であると信じ、貿易への支持を78%まで回復させた 6。民主党支持層(86%支持)と合わせ、自由貿易への支持は超党派の数少ない合意点となっている。

この背景には、深刻なインフレがある。物価高に苦しむ国民は、安価な輸入品へのアクセスを維持することを、抽象的な「国内産業保護」よりも優先し始めている可能性がある。


6.2 関税政策へのアンビバレンス

しかし、具体的な手段としての「関税」に対する評価はシビアである。


  • コスト増への警戒: ギャラップの調査では、国民の70%が「関税は短期的には収入よりもコスト(物価上昇)を多くもたらす」と考えている 23。特に民主党員の92%が価格上昇を確実視している。

  • 長期的な期待の党派差: 共和党員の77%は、長期的には関税が米国経済にプラスになると信じているが、全体としては62%が長期的にもマイナスになると予測している 23

  • 政治的リスク: ケイトー研究所の分析が示すように、国民の63%が「大統領の政策が食料品価格の上昇を招いている」と認識しており、関税政策はインフレ対策の失敗として批判されるリスクを孕んでいる 24

6.3 USAID凍結と対外援助の是非

トランプ政権によるUSAID(米国国際開発庁)の活動凍結と予算削減は、米国の「ソフトパワー」に対する国民の態度を浮き彫りにした。


  • 人道的懸念: カイザー・ファミリー財団(KFF)等の調査では、国民の3分の2が、援助凍結が世界的な疾病や死の増加につながると懸念している 25

  • 財政規律: 一方で、約半数(特に共和党員)は、これが財政赤字削減や国内プログラムへの資金充当に役立つとして支持している 25

ここでも、「道徳的義務」と「自国の経済的利益」が天秤にかけられ、後者が優勢になりつつある現状が見て取れる。


第7章:内なる敵と民主主義の危機 — 脅威認識の逆転

2026年の米国人にとって、最大の脅威は中国でもロシアでもテロリストでもない。「自分たち自身」である。


7.1 国内脅威の優越

シカゴ・グローバル評議会のデータは、衝撃的な事実を明らかにしている。米国民の65%が「国内の民主主義の弱体化」を今後10年間の重大な脅威と見なしており、これは対外的な脅威を凌駕している 26


  • 民主党の危機感: 民主党員においては、この数値は82%に達し、彼らの世界観の中心には「国内ファシズムへの恐怖」が据えられている。

  • 共和党の視点: 共和党員にとっての民主主義の弱体化への懸念は49%と相対的に低いが、代わりに「移民・難民」を重大な脅威(68%)と見なしており、国内の人口動態変化を実存的脅威と捉えている 27

7.2 偽情報とサイバー空間

国内分断を加速させる要因として、「偽情報の拡散」は70%以上の国民によって重大な脅威と認識されている 28。サイバー攻撃や選挙干渉への懸念は党派を超えて共有されており、デジタル空間こそが現代の主戦場であるという認識が定着している。


7.3 外交への影響:民主主義支援の停滞

この強烈な内向きの危機感は、外交政策における「民主主義支援」の優先度を劇的に低下させている。自国の民主主義さえ守れないという自信の喪失(Democracy Fatigue)は、他国の政治体制に介入する正当性を掘り崩し、結果としてトランプ流の「価値観を問わないリアリズム外交」を受容する心理的土壌となっている。


第8章:世代間の断絶と将来の外交 — ジェネレーションZの異質な価値観

本報告書の分析において、最も長期的かつ不可逆的な変化を示唆しているのが、ジェネレーションZ(概ね1990年代後半〜2010年代初頭生まれ)の動向である。彼らの価値観は、ベビーブーマー世代やX世代とは根本的に異なっており、将来の米国外交の変容を予兆している。


8.1 「米国例外主義」の完全な拒絶

若年層は、米国が「世界で特別な役割を果たすべき」という前提自体を共有していない。


  • 積極的関与への無関心: ピュー・リサーチ・センターの調査で、米国が国際問題に積極的な役割を果たすことが「非常に重要」と答えた18-29歳層はわずか19%であった(65歳以上では43%) 29

  • リーダーシップの否定: カーネギー国際平和財団の調査では、科学技術や宇宙開発における米国のリーダーシップ維持を「重要」と考える割合も、他世代に比べて著しく低い 9。彼らは多極化した世界を自然なものとして受け入れており、米国の覇権維持に固執していない。

8.2 優先課題の構造的相違

  • 気候変動: ジェネレーションZにとっては依然として重要課題であるが、経済的苦境(インフレ、住宅難)の影響を受け、その優先度は相対的に低下しつつある。それでも、共和党支持の若年層であっても、高齢の共和党員よりは気候変動対策に前向きである 9

  • 人権への敏感さと選択性: 彼らは人権問題に敏感だが、その関心は選択的である。パレスチナ人の権利には強い共感を示す一方で、ウクライナ支援や台湾防衛といった地政学的な文脈での人権擁護には冷淡である。

8.3 デジタルネイティブの影響

この世代の情報消費行動(TikTok、Instagram、YouTubeショート)は、既存の外交ナラティブを解体している。シカゴ・グローバル評議会の分析が示す通り、SNSを主たる情報源とする層は、伝統的なメディアが発信する「西側同盟の結束」や「自由世界vs権威主義」といったフレームワークに共鳴しにくい 7。彼らの世界観はより断片的で、視覚的で、そして反権威的である。


結論:パラドックスの中の航海 — 2026年以降の展望

2026年1月までのデータを総合すると、米国の世論と外交意識は、かつてないほどの「パラドックス(逆説)」の中にたゆたっていることが明らかになる。


  1. 好戦的な孤立主義: 国民は世界への深い関与や国家建設を拒絶しつつも(孤立主義的傾向)、特定の敵(ベネズエラ、イラン)に対する短期的かつ劇的な軍事力の行使は支持する(好戦的傾向)。

  2. 防衛的な関与主義: 中国との経済的デカップリングや戦争は望まないが(協力志向)、軍事的な抑止力や技術的優位性の維持には固執する(防衛志向)。

  3. 内向きのリアリズム: 国際秩序の維持よりも、国内の経済的繁栄(インフレ抑制、エネルギー確保)と民主主義の防衛が最優先される。

日本および同盟国への示唆:

米国の世論は、もはや「世界の警察官」としての役割に戻ることはない。しかし、完全に世界から撤退することもない。彼らが求めているのは、負担を分かち合い、米国の具体的な利益(経済、雇用、物理的安全)に貢献する「役に立つ同盟」である。

トランプ政権第2期における外交政策は、この世論の「実利志向」と「内向きの不安」を鏡のように映し出すものとなるだろう。同盟国には、価値観の共有だけでなく、具体的な利益の提供(Burden SharingからBenefit Sharingへ)を証明することが、かつてないほど強く求められることになる。

そして、その先にある2030年代を見据えた時、ジェネレーションZの台頭は、米国が「覇権国としてのアイデンティティ」を完全に脱ぎ捨てる可能性を示唆している。2026年の世論動向は、その巨大な地殻変動の始まりに過ぎないのかもしれない。


主要統計データ一覧(付録)

表1:外交政策目標の重要度ランキング(党派別・2025-2026年)

順位政策目標全体支持率共和党支持民主党支持
1テロ攻撃の防止84%90%超80%超
2核兵器の拡散防止83%
3エネルギー供給の確保78%
4NATO同盟の維持75%64%92%
5自国の貿易利益保護67%70%65%
気候変動対策分断13%66%以上
イスラエル支援分断70%29%

6


表2:対中世論の変遷(シカゴ・グローバル評議会)

項目2024年2025年傾向
中国との友好協力支持少数派53%協力派が過半数へ
中国の力制限支持多数派44%強硬論の後退
感情温度計(0-100)低水準+11pt上昇パンデミック前水準へ回復
台湾防衛への米軍派遣48%60%抑止への支持は拡大

表3:ベネズエラ軍事介入への支持(2026年1月直後)

グループ支持(侵攻・介入)反対
全体33%34%
共和党74%少数
民主党13%多数
無党派22%
 

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