ロシアの中東におけるオフショア戦略

【◆◆以下の記事は有料メルマガ5月14日号の一部です】
 
   【2】 ロシアの中東におけるオフショア戦略
 
中東におけるロシア、とくにロシアとイランの関係を考える時に重要なことを、戦略国際問題研究所(CSIS)のレポートが指摘しています。
 
The Great Powers in the New Middle East (3/06-2015 戦略国際問題研究所 PDF)
http://csis.org/publication/great-powers-new-middle-east
 
このレポートはジョン・マクラフリン氏が主筆し、7名の寄稿者から作成されています。ジョン・マクラフリン氏は元CIAの副長官(2000-2004)です。
 
マクラフリン氏は、「ロシア外交のなかで、イランとの関係ほど繊細で(精巧で)、難しく、複雑なものはない」と言います。そしてその例として、イランの核開発を取り上げて以下のように説明しています。
 
=========================================
1979年のイラン革命以降、ロシアはその国土の南部周辺―とくにアゼルバイジャン、タジキスタン、トルクメニスタンのようなイスラム系の中央アジア諸国―へのイランの影響を警戒してきた。
 
しかし、イランが核開発計画のなかでブーシェルでの原子炉建設のようないくつかの側面を実現するのを、ロシアは助けた。同時にロシアは、イランの核兵器の獲得を是認することをその一歩手前でやめておき(是認することまではせず)、イランへの制裁を支持する西側に加わった。
 
しかし、ロシアは米国が望むよりもより緩やかな(包括)制裁案を、常にいつでも(西側に)要求した。(PDF5ページ)
 
=========================================
 
このマクラフリン氏が挙げた例がよくロシアの中東政策を表していると思うのですが、ロシアの中東戦略というのは「オフショア・バランシング戦略」にとても近いものだと思うのです。
 
以下の抜粋は、海上自衛隊幹部学校の戦略研究室長の平山茂敏氏のオフショア・バランシング戦略についての解説記事ですが、文中の米国をロシアと置き換えてみると、イランを「バック・キャッチャー」にしたオフショア・バランシング戦略がロシアの行ってきた中東戦略と重なるのです。
 




オフショア・バランシング戦略において、米国が米州以外の他の地域で覇権的優位を追求することは、他の国々が連携して米国に対抗することを惹起するため否定される。

 
そして、米国の戦略的利益はユーラシアにおける覇権国の台頭をヘッジすることにあり、米国は大陸における闘争に直接関与することは極力回避し、これを同じ地域の他の大国によって抑止させるべきと主張する。
 
このため、優越(Primacy)戦略と異なり、オフショア・バランシング戦略は、米国が内部(EU、ドイツ、日本)や外部(中国、ロシア)に新たな大国が台頭することを許容する。許容しないのは、世界や地域でこれらの大国が覇権国家に成長することである。
 
2つのオフショア戦略 (2013/12/19 海上自衛隊幹部学校)
http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/col-049.html
 




 
■■ 中東とロシア:第2節関連記事
 
「イランと米国との共同統治」―米国の新しい中東包括戦略― (3/12-2015 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39335801.html
 
プーチンの地中海・中東戦略―中東から欧州へのシーレーン阻止を狙う―(2/12-2015 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39288711.html
 
プーチンは中東で戦争を仕掛けることができるか―盟友中国の存在― (5/14-2015 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39451557.html
 
ロシアとイスラエルの関係―ユダヤ系ロシア人・「S300」― (4/23-2015 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39428684.html